290021 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Atelier Mashenka

Atelier Mashenka

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
2007.11.01
XML
カテゴリ:アート

10月25日、北海道旅行3日目。
神威岬のあとは、地元の温泉で、紅葉の山を眺めながら露天風呂を楽しみ、
その後木田金次郎美術館へ。

積丹半島の西側の根元にある岩内(いわない)の町は、道も広く、低い建物ばかりで、
どこか開放的で穏やかで、派手ではないけれど文化的な感じがした。

港のすぐそばにある木田金次郎美術館に着いたのは夕方だった。




有島武郎の小説「生れ出づる悩み」が10代の頃から好きだったけれど、
そこに出てくる、芸術と漁師の生活との間で悩める画家に、
実在のモデルがいるとは考えてもみなかった。

この小説のモデルとなった画家、木田金次郎とその美術館のことを知ったのは、
北海道旅行を決めてガイドブックを読んでからだった。
心臓がぎゅっとなって、この美術館に行こう!と決めた。
小説の中でしか知りえなかった漁夫である青年画家の
荒々しい絵を実際に見ることができるなんて。

断ち切られたラストシーンのあと、さらに言えば有島武郎の自殺のあとも
青年の画家の人生は続いていて、今このように美術館まであり、その作品に出会う機会が、
この小説に接して20年もしてから現実に私の前に立ち現れてくるとは、
非常に不思議な気がする。



木田金次郎美術館は、こぢんまりとしたきれいな美術館だった。
何角形になるだろう?ほぼ円形に近い建物で、中庭を囲んでいる。
他にお客さんもいなくてほとんど貸切状態で、1階と2階の展示室をじっくり見て回った。


「春の落陽」
あたたかい、懐かしい、黄土色の光のうねり。
美しく、自分もそこに溶け入ってしまいそうな、
荒々しくもやわらかで密度のつまった風景。
じっと見つめていると、目の奥までじんわりとあたたまってくるような光の色。


「海」
先ほど積丹半島の岬で見てきた海の色がそこに息づいていた。
輝く波頭。宝石のように貴重な海の色の輝き。日差しの色。
黄、オレンジ、碧、水色。


「菜の花畑」
みずみずしい花の黄、くきや葉の緑。
輝く色彩、特に黄色を見ていると、はじらいがちな心やときめき、
ささいなものへの愛着、などを感じる。
まぶしい気持ちで花を見つめる金次郎の目を感じられる。
驚くほど繊細な人なのだろうと思った。


「波」
命のうねりを感じる。もだえ、つややかに流動する波。
白、青緑、大赦色。
心の流れ、命の流れ。走る走る、ひきつれ、もんどり打つ波。

その波間の群青の影は、竜のひげのようであったり、飛び魚の羽のようであったり、
水牛の姿のようにも、魚群のようにも見える。
すべてを抱き込み、画面の左へ左へ押し寄せる波のエネルギー。


「秋のテレビ塔」
札幌の大通り公園の情景だが、まるでパリみたいだ。
荒いタッチですばやく描かれているが、生き生きとした喜びにあふれた画面。
ハイカラな空気が流れている。
みずみずしい青とすみれ色の空。
音楽が流れているよう。
ごてごてした花、木々、草。わき返るように踊り、息づいている。



1Fのカフェでお茶をしながら、参考資料や本をながめる。
しんとして、暮れかかる岩内の空が窓から見えている。
昔から好きだった小説の主人公のモデルが実在の人物と知り、ようやくここまで来た。
東京から千歳空港に降り立ち、車で札幌、小樽、積丹半島を回って、
こんなしんとした静かな小さな港町まで。
その一端に触れ、作品に感銘を受け、さらにその人の言葉を読む。
満ち足りた気持ちになり、心はさらに遠くへ運ばれる。


この夏には美術番組の「美の巨人たち」で、木田金次郎とこの美術館のことが紹介され、
普段は静かなこの施設に、問い合わせの電話が殺到したという。
そして夏の訪問客は増えたということだが、それは2割増とパンフに書かれていた。
たった2割増と知って、なんとも言えず、遠くまで来たなあと実感した。
テレビ番組で放映されて問い合わせが殺到したなら、ある程度の街だったら
もっともっと人は押し寄せるだろうに・・

そんな北のはずれで、木田金次郎は生涯を貫いたということも感慨深い。

生活と、芸術と。
有島の自殺後、悩みぬいた末に、漁業を捨て、画業に専念した。
有島の助言どおりに、都会へ出ることなく岩内の自然に向かい続けた。

60歳過ぎてからほとんどの作品を大火事で焼失してしまい、
「これまでの画業は手習いだった、これからが本当の仕事だ」と
一から出発するその精神力。
死ぬ直前まで自分の絵を探求しつづけた。

風景の具象的表現から、抽象表現へと昇華していくことを目指していた点も
共感できる。


今の私にも声のない励ましと叱咤とを投げかけてくる。
私はそれに打たれるために北海道まで来たのかもしれない。
彼の存在、彼の作品に、私は自分自身を問われる。




北海道旅行のおまけショット・・


北海道の紅葉は本当にきれいでした。



3泊4日の北海道旅行は、長く短く、本当に不思議な充実した時間でした。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2017.02.14 21:50:49
コメント(0) | コメントを書く
[アート] カテゴリの最新記事


PR

Profile

mashenka

mashenka

Recent Posts

Favorite Blog

美しい春画 -北斎… 一村雨さん

ブログは移動しまし… コヨーテ3377さん
happy-happy happy-tamachanさん
take it easy!! 【masashi】さん
松峰な世界 松峰さん
ロルファーサイトウ… M Saitoさん
reichel!の美味しい… reichel!さん
地方暮らしが変える1… かじけいこさん
お気楽! 幸せの種… れおなるど21さん
クサノタヨリ すもも5970さん

Comments

mashenka@ Re[1]:生誕120年 棟方志功展(11/12) 一村雨さんへ お久しぶりです! 私もうな…
一村雨@ Re:生誕120年 棟方志功展(11/12) お久しぶりです。 この展覧会、棟方志功の…
mashenka@ Re[1]:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 一村雨さんへ 素晴らしい障壁画でしたね…
一村雨@ Re:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 安部龍太郎の「等伯」を読んで、この親子…
mashenka@ Re[1]:横山操「ウォール街」(10/31) 一村雨さんへ 横山操の手にかかるとNYの…

Freepage List

Calendar

Archives

2024.11
2024.10
2024.09
2024.08
2024.07

© Rakuten Group, Inc.
X