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Atelier Mashenka

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2008.02.10
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カテゴリ:思索・読書

10年以上ぶりにSスタジオに来た。バレエのオープンクラスに参加するために。
周りの風景のあまりの変わりよう。
1つ1つ見ながら懐かしい道を辿る。


雪の降った翌日で、ひどく晴れて上着がいらないくらいあたたかかった。
緩んだ空気。
ところどころ残る雪の白、空の青。
晴れやかで静かな日曜の午後。

懐かしすぎて不思議な感じ。
なくなってしまったお気に入りのファストフードの店や、
新しくできた店、ビル、地下鉄の駅。


変わらないものもあった。作業服の店。昔ながらの喫茶店。
ダンスの公演本番前にみなでお参りした神社。
レッスン帰りに通った長い歩道橋。

会わなくなってしまった仲間のひとたち。
今も誰かが歩道橋を渡っていはしないかと思ってしまう。

いろんな思い出。
そして今私はまた別な位置にいる。
同じ新宿の街を歩いていても。


大通りを北上する。
ゆるやかに左にカーブを描く成子坂。
遠くの車がきらきら光って、ゆったりしたにぎわいを感じさせる。

北新宿の界隈は、再開発のため
以前のつつましい商店街と静かな住宅街の姿はない。
むき出しのだだっ広い空き地になっていて、
遠くのSスタジオの建物群を大通りから見渡せた。

掘り起こされた土が山になっている。
無秩序に生えている草。
有刺鉄線。
くたびれた古い建物、そして廃墟。

すぐ向こうには逆に真新しいマンションが突如そびえ立ち、
舗装された広いこぎれいな歩道は、
何か別世界へと続くエントランスのようでシュールでもある。


スタジオの周りには、独特の空気が流れている。
キャリーケースを転がしオーディションに向かう若者、
髪を結い上げた、バレエレッスン帰りの少女、
べたべた貼られた舞台のポスター、
芝居の稽古の休憩中なのか、稽古着のまま外で談笑する男の子たち。
相変わらず危なっかしいスタジオの外階段。
入り組み、複雑な大小さまざまなスタジオ。

目指すスタジオの重い扉を押し開けると、
中は広さもわからぬほど真っ暗だった。
事務所に尋ねると、私の出ようと思っていたレッスンは、
事情により、急に休講になったと告げられた。


ここまで来て残念だが、私はそれほど落胆はしていなかった。
それより、不思議だった。

なんのための時間だったのだろう。機会だったのだろう。

日差しはあいかわらず照りつけ、昨日の雪をほぼ溶かしつくし、
どこまでもこの午後が続くかのように思えた。
私は過去に身を置き、そしてまぎれもなく現在に身を置いていた。
不思議な感覚に打たれていた。


後悔はなく、徒労感もなく、来てよかったと思ったけれど、
それでも軽いめまいにも似た疲れを感じ、
夕方からの用事はあるが、いったん帰ることにした。
遠く旅してきたような錯覚を覚えた。


帰りの駅に立ち、電車を待っているとき、ふと思う。
行ったことのない場所へ、いろいろ行ってみよう、と。

別段旅行するとかではなく、ちょっとした興味やちょっとしたお誘いがあったら、
物怖じせず、なるべくいろんな街、いろんな駅に行ってみる。
些細なことだけれど、ついマンネリになりがちな私には、
それは改革を意味する。

マンネリは安心なのだ。
それを壊す。
そして思い込みや偏見をなるべく捨てて、物事を見る。取り組む。
そんな方針までわいてくる。


これまでどれほど狭い枠に自分をはめこんでいただろう。
そしてその枠から物事を人を見ていた。
時間をかけてこれまで徐々に自己の確立をしてきたのだから、
当然だし、それはそれでもいい。必要なことであっただろう。

しかし、これからしばらくは、
それを注意深くいったん外して、見てみる。考えてみる。
そうすると全く違ったものが見えるかもしれない。
可能性が広がるかもしれない。
発想ができるかもしれない。
何もこれまでの自分、築いてきたものに固執する必要はないのだ。


列車のシートに座り、そんなことを考えていると、
突然、フラッシュライトが私を襲う。
強烈な光の点滅の繰り返し。

このノートの白い紙面に影を落とす私自身の指。
ピンに一点とめられて標本にされている蛾のように
私の思考は感覚のピンにとめられ、細く細く身動きできなかった。
息をつめた。

それは動きだした電車の窓から差し込む午後の日差しが、
線路脇に立つ幾枚もの大看板に遮られ、
その隙間隙間から瞬間的に、より強烈に閃光を放っているのだった。


何かが私に啓示を与える。
焼き付けようとする。
私はなるべく自分を空(くう)にして、それを感じ、写し取ろうとする。

空(くう)という言葉が自然に出てしまった。
昨年から仏教や禅を学んでいることと、これもつながっている。

今日のことも、この先のどこかへつながっている。







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Last updated  2008.02.22 01:14:13
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