カテゴリ:アート
渋谷Bunkamuarに「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」を見に行った。 もちろん、「オフィーリア」を見に行ったのだが、 ミレイと言えば愛らしい少女などを描いたファンシー・ピクチャーも楽しみにしていた。 ところが意外にも後期の風景画が非常によくて 私にとっては、ミレイのまた違う魅力を教えてくれた展覧会だった。 「両親の家のキリスト」 羊が窓から押し合いへし合い、窓から家の中を見ているのが 何とも言えず、ユーモラスでかわいい。 本来は人物たちの写実的な表現と、主題の表現方法の新しさが 注目すべき作品のようだけど、かわいい羊にばかり目が行ってしまう・・・(^^;) 「マリアナ」 小さな作品。青衣がまぶしいほど美しい。 腰のベルトの緻密な点描がロイヤルブルーをより引き立てる。 腰に手を当て、のびをするように上体をねじっているポーズに やるせない感じが漂う。 「オフィーリア」 この作品をこんな間近で見られるなんて感激。 水を含んだドレスのすその淡いもろい柔らかさ。 水面に差し出している両手をふちどる水の、白い繊細な光の粒。 生死のあわいを漂うオフィーリアの白い顔と 対照的に生き生きとした周囲の緑の色。 緑や草木はオフィーリアをのぞきこむように周りに配置されており、 まるで川がそのまま棺であって、遺体に花があしらってあり、 草木たちはそれを囲む葬儀の参列者のようにも見える。 彼女の虚ろな目には何が映っているのだろう。 もう現世ではなく、死の情景だろうか。 ハムレットや家族のことだろうか。 短い人生の記憶の断片だろうか。 哀れだけれど、自然に抱かれている図にも見える。 植物は、決して背景ではない役割を果たしている。 「しゃべってくれ!」 一瞬の幻影を見てしまった男の、必死さと哀しさ。 もの言えぬ亡霊の女の美しさ、もの言いたげな唇、 諦念を浮かべたまなざしが印象的。 「初めての説教」「二度目の説教」 教会で牧師の話を聞きながら眠ってしまう子供の姿が本当に愛くるしい。 ふせたまつげ、ぶらんと脱力した足、口角が落ちた口元、ぷっくりした頬。 背景や服装の色が格調高く重々しく、かえって子供の幼さ、やわらかさが引き立つ。 2枚組みとなっているこの作品の、子供をユーモアたっぷりに 生き生き描く手法は、後のノーマン・ロックウェルを思わせる。 ロックウェルは影響を受けていたのだろうか? 最後のコーナーにはスコットランドの風景画が数点。 「吹きすさぶ風に立ちはだかる力の塔」 こんな風景を見たことあるような気になってしまう。 雲った空、グレイの海、かなたの夕映え。 そんな空にシルエットとなっている孤独な塔。 遠い夕刻、思わず神にすがりつきたくなるような心細さ。 何かが胸にたぎってくるような気持ち。 「露にぬれたハリエニシダ」 エニシダのスモーキーな緑色に、露をあらわす白い点描が印象深い。 淡いオレンジ色の不思議な光にもやめく森。 柔らかく潤湿な空気。 森の向こうへ吸い込まれていきそうな不思議な感覚。 あの向こうに何があるのだろうか。 雰囲気はだいぶ異なるが、横山操の絶筆作品と同じ死出の旅を思わせる。 ミレイのほうはずいぶん明るくあたたかさを帯びたいざないの情景だけれど。 「穏やかな天気」 明るく落ち着いた美しい風景画。 湖水に映る秋の風景、紅葉、手前の枝にちょこんととまっているカワセミ。 「寒さの後の小春日和を、嵐の後の凪をお待ちなさい」というシェイクスピアの ヘンリー4世からの引用文が添えられている。 タイトルを決めることにとても労力を払っていることがキャプションに書かれていたが、 そんなところに妙に共感したりする。 「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」は10月26日まで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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