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2005/11/30
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カテゴリ:おバカな話
 寿司屋について語ろう。

 学生のころにバイトしていた寿司屋は、「栄寿司」という店で、おそらく今も太秦にある。
 高い店だった。
 マグロお造り2万円とかする店なのである。
 握りは、一貫800円。
 それでもって、お通しは1600円。
 座っただけで、1600円である。
 高い。

 値段をきくと、貧乏性が身についてしまって離れないおれは、「ぼったくりじゃねーのかそれ」と思ってしまうが、しかし値段に見合うものを出していたらしい。商社やら銀行やらのえらいさんとか、ちょっといきったような人が来ていた。 

 太秦という場所柄、映画関係者なども訪れているようで、知っているところでは松方弘樹が、
「みなさんにレミーさしあげて」などと店内の全員にレミーをおごったりしていた。近藤真彦やら見栄晴やら、おれが見た芸能人はどれも微妙なラインでちょっとアレだが、まぁいろいろ来ていた。
「料理の鉄人」から出演依頼が来るほどの人だったらしい。

 大将とおかみさん、バイトのおれという三人でやっていたのだが、おれはひたすら大根おろしたりアナゴ焼いたりしていたので、くわしいところは知らないのである。

 出前に行くときに、「この寿司は崩れんように気ぃつけてな」とやけに厳重に注意するなと思ったら、持っていった先を見たら異様に立派な門構えの邸宅で、
「組長かよ」
 と思ったことも、一度や二度ではない。
 そして、ピンポーンとするとやっぱりヤクザの組長だったわけだが、それはそれでチップはずんでもらえるのでよかったのである。

 バイトのあとに、晩飯なぞ食べて帰るのだが、鱧やら鯛やらでてきて、「おれのバイト代よりこの飯のほうが値段高いんじゃねーのか」と思い、やや複雑な気持ちになったりもした。

 その店で教わったことで、今も覚えていることは、水割りの飲み方である。
「益田クン、水割りのちゃんとした飲み方教えたるわ」
 といわれて、21才くらいでいっぱしののんだくれの気分のおれは、「どんなやろ」と興味津々なのである。
「こうやってな、ウイスキーをグラスに注ぐやろ」
 と大将がウイスキーを注いでくれる。
 グラスに氷をいれて、つとととととっとグラス全体の20%ほどに琥珀色の液体を注ぎ込む。
 氷にからんでウイスキーがゆらゆら揺れて、じつにいい感じ。
「で、水をいれんねん」
 と、水を足してくれる。
「いただきます」
 と、かきまぜてウイスキーを飲もうとすると、
「ちょい待ち」
 とストップかけられる。
 なんだなんだと思ってきくと、待つのだという。

 グラスの下のほうに沈むウイスキーと上から注ぎ足した水が、時間の経過とともに、じわじわとまざってゆき、
 やがてウイスキーが水面めざして昇ってゆき、
 それを見守り、まだかいなまだかいなと待ちながら、
 ウイスキーの琥珀と水の透明がやがて均等に混じってゆく。

 だんだんと混ざってゆき、まだらのマーブル模様がゆっくりと溶け合って、全体がセピアに混じってゆく、
 その、混じった瞬間に飲む。
 それが、正しいウイスキーの水割りの飲み方だというのだ。

 いいから早くのませんかい、と思いつつ、おれは待った。
 じりじり待つうちに、下のほうにたまったウイスキーが吸い寄せられるように水に溶け込んでいって、透明だった水がウイスキーの澄んだ茶色を取り込んで、古い写真のようなセピア色の液体が出来上がる。

 そのとき大将が、「よっしゃ、今や」
 おれはかっくらったのですよ。
 これは、うまかった。
 のどにウイスキーがしみわたり、あたまのてっぺんからつま先までうまかった。
 上質のミネラルウオーターをのむような澄んだ味で、のどにからむものはなにもない。
 ずっと入ってきて、しかし酔いの実感は確実に気持ちを心地よくほぐしてくれるような、絶妙な味だった。

「うまいっすね、これ」
 感動してそういうと、大将は、
「このウイスキー、一本30万やで」


 なんつーか、参った。





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最終更新日  2005/12/01 02:42:54 AM
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