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2006/04/18
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カテゴリ:国語の勉強法
  11月28日に書いた「国語の答えはひとつだけ」という文章の続きを書きます。
 大学で文学をやった人ならはじめの頃に教わる「物語論」の最初のところですが、物語というのは基本的に成長する方向で作られます。
 少年なら青年へ、田舎から都会へ、ひとりからふたりへ、過去から未来へ、何かが成長する過程を書くのが物語です。
 たとえば有名な作品で漱石先生の「坊っちやん」という小説がありますが、あれも無鉄砲でケンカばかりしていた青年が、最後にはケンカには勝ったが社会的には負けて、辞表を出して東京へ帰り、その過程でもうケンカも終わりだな、と思う青年期の終わりを書いている(たぶん)のです。
 入試の問題文としてよく出される重松清や椎名誠などの作品も、登場人物が事件にでくわして、それを乗り越えたりやり過ごしたりして、今までの自分から少し変わって、成長する姿を書いているものが多い。
 日本には私小説という世界でも類を見ない伝統があり、梶井基次郎とか幸田文とか、車谷長吉とか佐伯一麦とか、そこらへんの作家の成長も何もなくて作者の身の回りのことを題材に書くスタイルがあるのですが、これは小説の形としては独特すぎるもので、だから入試にはほとんど出ない。
 国語の問題といえども、教育の一環として出題されるので、そんなダラダラした小説は出ない。
 だから、国語の問題に出てくる小説は、かなり限定したパターンで語ることができるのです。


 ここで、ぼくの実際の授業の進め方を例にとって話をしてみます。
 ぼくは授業のときは、○印と□印で文章を囲ませる、ということをよくやります。
 黒板には、横に一本線をひいて、上半分が、「つらい」、下半分が、「がんばった」
 小説の内容によってこれはいろいろと変わり、「さびしい」「仲間」とか「くるしい」「負けない」とか、いろいろです。
 本文を読みながら、生徒に手を挙げさせます。
「登場人物の気持ちに関する表現があったら、手を挙げろ。そして「つらい」気持ちなのか、「がんばる」気持ちなのか、どっちなのか教えてね」というわけ。
 すると、「首をすくめて、手で顔をおおった」なんていう文になると生徒の手が上がる。
「はーい、つらい気持ち」
「じゃあ手で顔をおおうってのは、どんな気持ち?」
「うーん」
「喜び?」
「ちがう」
「怒り?」
「ちがう」
「じゃあ何?」
「恐い」
 そこで、黒板に「手で顔をおおう」と書いて、そこに「恐怖」と書きます。生徒にはテキストに○で囲ませて、「恐怖」と書き込ませる。
 また本文を読んでいくと、「じいちゃんはあすかにほほえんだ」なんて文がある。
「はーい」
「ほほえむってのは、どんな気持ち?」
「嬉しい」
「うーん、ちょっとちがうかもしれない」
「うーん」
「これはね、あすかが弱ってるからじいちゃんがはげましてあげてるんだよ」
「そうか、じゃあ、はげます」
「誰がハゲやねん!」
「いやいや」
「ハゲ益とかいうから……(ノへT*) シクシク..」
 とかそんなことをやりつつ本文を読んでいくと、黒板にはつらい気持ち、がんばる気持ちで上下に別れて気持ち言葉がずらっと並ぶ。生徒のテキストには、○と□で印がつけられて、感情が書き込まれた状態になる。
 実は、この段階で記述の解答に必要な要素はほとんどピックアップできているのです。
「50字以内で答えなさい」なんて問題があったとしても、その問題の傍線部の前後の○や□で印をつけたところの言葉を組み合わせて、文字数におさめてやれば、ほぼ満点の解答になる。
 ぼくは、国語の授業でも「なんとなくここらへんが答えだってのはわかるだろ」なんていう言葉は言いません。
 国語の答えはデジタルで、法則さえ知っていれば迷わず正解にたどり着ける、というのがぼくの考えなので、「なんとなく」だとか「勘で」とか「本をたくさん読んでればわかる」だとかいう言葉は一切言いません。
 前に書いたことですが、小説で人物の気持ちを表現するパターンは五つしかありません。(ほんとはもっとあるけど、とりあえず5つで充分)
 だからそのパターンを知っていれば、「ここに気持ちが書いてあるから、それをつなぎあわせれば答えになるんだな」ってのは簡単にわかります。
 もう一度いいますが、「国語の読解力は、パターン認識のチカラ」なのです。
 これは、文学的な読解力とは別の話です。
 国語で求められている正解を導き出すのには、という話。
 国語の解答を見つけ出すには、単にパターンを知って、それを見分けて、当てはめるだけです。


 そんな簡単なものじゃないだろう、馬鹿いってんじゃないよ、という人もいると思いますが、実際そうなんです。
 今までの小説の枠を破壊したまったく新しい小説を書こう、なんて決意して書き始めても、それはむずかしい。知らず知らずのうちに、今まで読んだ何かの物語に似てきてしまうものです。そしてそれは、正しいことなのです。物語にはパターンがあり、それが約束事がからです。
 もちろん、ピンチョンとかバースとかバーセルミとか高橋源一郎とか、物語のパターンを壊して書く人もいるけど、そんな小説は国語の問題には出ない。高橋源一郎の「さようなら、ギャングたち」は名作ですが、国語の問題には出ない。誓って出ない。


 今度の日曜にテストがあるので、勉強をするとしよう。
 算数だったら、今までにやった問題の解き方を繰り返して、式の立て方を学ぶのは良い学習法でしょう。
 理科、社会だったら、用語を覚えて、すらすら出てくるまで繰り返すのが良いかもしれない。
 じゃあ、国語はどうなのか。
 たとえば、学校で「走れメロス」をやっているとしよう。
 テストのために「走れメロス」を読んで、メロスの心情を理解したり、比喩表現の対応をみたり、そんなことをやっても、不安になる。
 だって、テストで出るのは「走れメロス」じゃないかもしれないし、おそらくは別のお話なのだから。
 それで、とりあえず漢字の練習とかことわざの復習とかをして、テストを迎える。
 テストでは重松清「エビスくん」なんかが出てきて、
「メロスの気持ちしか、おれはわからーん!」
 なんてことを思うのである。


 小説の授業でも、「登場人物の気持ちになって考えよう」とか「このとき主人公はどう思ったか考えよう」とか、そんな指導はいらない。
「走れメロス」はどういう話かというと、『つらかったけど、がんばった』話なのだ。
 走れメロスだろうと何だろうと、作者は『つらかったけど、がんばった』話を書きたいだけなのだ。
 そのためにつらい状況を作り出して、がんばる状況を作り出す。
 だから、「何がつらいのか」「何をがんばったのか」ということをパターンにはめて考えるだけだ。


「走れメロス」なら、
『つらい』    → 王様わがまま 友人が人質 走るのつかれた
『がんばった』 → 王様悔い改めた 友人救った つかれたけど負けなかった
 という、これだけの話であり、
「エビスくん」でも、
『つらい』    → エビスくんいじめる うそついた 妹病気 
『がんばった』 → エビスくんありがとう 母ちゃんごめん 妹がんばれ
 だいたいこんな話です。
 しかも記述の問題でも、ここに書いたことをちゃんと押さえていれば問題なく書ける。
 50字だったら50字の中に、「つらいけど、がんばった」というニュアンスをちゃんと出してやれば、マルもらえるんです。少なくともバツってことはない。


 もちろん、こんな断言口調でバリバリ言ってますが、そこにはあてはまらない問題があるのも事実。
 でも、国語の問題を解くのにこの考え方を知っておいたほうがいいというのは、これは自信を持って言い切ります。
 これはつまりは、 読者の立場ではなく、作者の立場から読む、ということでもあります。
 ぼくは二千册くらい小説を読んで、二十くらい小説を書いた立場なので、そういうふうに小説を見ますが、小説を書かないとしても、その視点を技術として手にすることは、益こそあれ害ではないと思います。
 まだ自分の考えを整然とはまとめられていないのですが、また今度書いてみたいと思います。





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最終更新日  2006/04/19 05:35:38 AM
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