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2006/10/31
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カテゴリ:おバカな話
 学生時代は体育会系のクラブに所属していたので、大変だったのである。
 なにしろ、先輩には絶対服従だ。
 どんな理不尽な要求にも、「はい」の一言で従わなければならない。
 我々下級生は「京都駅つくまでに弁当6つ食え」とか「ビールと日本酒シェイクして一気のみ」とか「明日までに新人ふたり入部させろ」とか「柔道部の藤本に勝ってこい」とか「今からおれんち来い。電車ないけど」とか「腕立て伏せ、四時間」とか、無茶無体な要求を日々つきつけられる。しかし、すべての状況において返事は「はい」しか許されていない。
「ジュース買ってきて、ファンタササニシキ」「はい!」
「お前ホッチキスおでこにさせるよな?」「はい!」
「明日までにショートコント考えとけ。下級生対抗」「はい!」
 合宿の夜は詩吟に合格してからコントで上級生を笑わせて、それからクイズに全問正解しないと眠りにつくことは許されなかったのだった。


 なんでもかんでも、とりあえず「はい」
 中には「それは無理だ」という要求や、「いったいなぜ?」という要求もあるのだが、すべて「はい」
 そんな暮らしの中で私は、「七色のはい」という高等テクニックをマスターした。


1.賛成のはい
 はい、と元気よく発声する。声は大きすぎず、小さすぎず適切な音量で。この場合の適切な音量とは、50メートル先の相手に聞こえるくらいの声を意味する。
 先輩の出した要求がまっとうなものであり、それを進んで実行するときに用いる。


2.大賛成のはい
 はい! と声を張り上げて発声する。目を輝かせて、ときに大きくうなづきながら。
 先輩の出した要求が飯をおごるとか酒をおごるとか自分の利益に結びつくときに用いる。


3.否定のはい
 はい…… と腹痛か十二指腸潰瘍か自分の体をむしばむ病魔に負けそうになりつつ、絞り出すように発声する。ひたいには自然と脂汗がにじみ出る。
 先輩の出した要求が実現不可能なものであったり、法に触れるんじゃねーのかというときに用いる。


4.疑問のはい
 はい? と疑問を投げかけながら、言葉の底にはかない否定の色を見せる。しかしその思惑が達成されることはないことを知りつつ、諦めの表情を浮かばせて哀れみを誘いながら発声する。
 先輩の出した要求がありえないものであったり意図のわからないものであったときに用いる。


5.とまどいのはい
 はい? 疑問形だがそこに否定の色合いはない。「おっしゃっている言葉の意味がよくわかりません」とはじめてテレビを見たマサイ族の顔で発声する。
 先輩の要求に対して、とりあえず時間を引き延ばしたいときなどに用いる。


6.驚愕のはい
 は、は、はいぃぃぃ と顔面をひきつらせながら、陸揚げされたマグロのように全身を痙攣させつつ発声する。
 先輩の怒りをかったときなど、謝ればますます相手は怒りをつのらせるので、謝罪の言葉を驚きにかえて説教と罰練習は必至の状況を、別のステージに移行させる効果がある。


7.逆ギレのはい
 はいぃぃ! 憮然として、全身に気魄をみなぎらせながら発声する。
 先輩の怒りがMAXに達し罰練習が決行されるときに、自分は気合に満ちていてどんな練習でもやりきってみせます、とアピールするために用いる。練習の終盤に、限界を迎えて精神がぶち切れたふりを装い、「今日はここらへんにしとくか」という雰囲気をもたらすためにも有効。


 体育会で下級生生活を送る方に、ぜひ活用して欲しいテクニックなのであった。





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最終更新日  2006/10/31 08:58:41 AM
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