テーマ:☆詩を書きましょう☆(8514)
カテゴリ:詩
詩を書く 真夜中にふと目が覚めて 詩を書くなどということは 二十歳以来のことなのだ そのころ 父は既に死に 貧乏と不安とが唯一の友だった 家はこれも貧しい叔父の家 部屋は天井のない粗壁で 冬には隙間から雪が入り込み 朝になったら頭に雪が積っているそんな部屋 アルバイトの帰り道 バスの終点から歩くのだが 一人消え二人消えして 最後まで歩くのはいつも俺 冬の夜は誰もいない雪の道を 月明かりを頼りに歩くのだ すべての音は雪に吸い込まれ 静まり返った空に響くものといったら 悲しげな犬の遠吠えだけ 遠くに瞬く家々の光がやけに懐かしかった 小川の土手のネコヤナギ 夏には鬱蒼と ゴボウの葉が繁る畑 道端の肥溜(こえだめ) 冬はそういったものを 銀色に覆いつくす透明な季節 家に着いた俺は 寒さとひもじさとで寝つかれず 手を擦り擦り詩を書くほかはなかった あれからかなりの月日が流れ くたびれた俺は今 ワープロで詩を書いている 1991.9.8 第二詩集『透明な手紙』から 沖縄勤務の3年目。妻と次男は長女が進学した大学のある四国の町に引っ越し、私と当時高校3年の長男が沖縄に残った。サラリーマンは辛い立場。初めて管理職になった私は仕事に加えて、育ち盛りの長男を飢えさせないよう、必死で食事を作る毎日だった。その苦しみの中で、思い出すのは若かりし頃の日々。きっとその精神的に追い込まれた状況が、再び私の詩心を目覚めさせたのだと思う。 私は昨日70歳の誕生日を迎えた。古稀の今でも、なお心配の種は尽きない。きっとそのせいだと思うのだが、こうして真夜中に目覚めて、ブログを更新している。貧乏の中で真夜中に手を擦りながら詩を書いていた高校時代。そして妻や長女や次男と別れて暮らした淋しさから、真夜中にワープロで詩を書いていた沖縄勤務の3年目。70歳を過ぎた今も、真夜中にパソコンに向かってブログを更新する自分がいる。思えば何だかとても不思議な気がする。<続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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