テーマ:☆詩を書きましょう☆(8514)
カテゴリ:詩
H氏の御霊に 窓をたたくのは誰ですか 風も出てきました 外は寒いですか センダードの空の上 あなたの星がひときわ光り そして静かに消えました つい今し方 あなたの訃報を聞いたばかりです いつもは陽気な富雄君の声が 電話の向こうでくぐもっていました そうでしたか やっぱりそうだったのですか あなたが喉の手術をしたと聴いたときから わたしはこの日がくることを 秘かに怖れていました 父の死も見ました 姉の死も見ました 祖父や祖母や伯父や伯母や 義母の死にも遭いました そしていま 血がつながっているわけではない あなたの死と向かいあっています 夕方 ひとしきり言い争った長男は 布団をかぶって寝てしまいました つい先程まで風の音を怖がっていた妻も 傍らで静かな寝息を立てています これからどこへ行きますか 西方浄土は遠いですか 風が窓をたたきます そこで泣いているのは誰ですか 1992.5.8 未刊詩集『日常』から H氏の訃報を聞いたのは沖縄から転勤した年の春、四国の松山でだった。電話で知らせてくれた富雄君は会計課の職員で、野球部の後輩だった。いつもは明るい彼の声が、とても沈んでいた。私はH氏の奥様に弔電を打ち、お悔やみを富雄君に立て替えてもらった。 H氏の自宅を訪ね、霊前に線香を手向けたのは、私が長い転勤暮らしを終えて故郷の仙台に帰ってから。この詩もワープロから打ち出して、氏の霊前に捧げた。氏が亡くなってから11年後のことだった。奥様はご健在だったが、脚が悪いため坂を登るのが辛いと話されていた。 詩の中の「センダード」は、宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』に出て来る地名で仙台のこと。因みに盛岡は「モリオール」だったと思う。多感な青年時代にH氏と出会えたことは、一生の宝だと思っている。この詩は沖縄で書いたものではないが、氏を偲び掲載させていただいた。合掌 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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