カテゴリ:芸術論
<早池峰岳神楽4>
さてさて180枚ほど写真を撮った仙台市歴史民俗資料館(れきみん)の秋祭りも、とうとう今日が最終回になりました。今日紹介する「早池峰岳神楽」(はやちねたけかぐら)は、岩手県の山間早池峰山の山麓にある早池峰神社に奉納される舞です。遠野市、宮古市、そして神楽を500年以上伝えて来た岳や大償(おおつぐない)のある花巻市の境界に近い、僻地の集落。きっと長い間この神楽を伝えて来たのは、現地の農民だったのでしょうね。 その見事な舞は、国の重要無形民俗文化財に指定されているだけでなく、ユネスコの無形文化遺産にも登録されるほど重要なもの。日本の誕生神話を思わせるような、とても神秘的な舞の連続でした。今日はその4つ目の演目である「天降り」(あまくだり)の続きの場面から始まります。なおこれまで書いて来たストーリーは全て私が考えたもので、演目の内容に関する説明は一切ありません。どうぞその辺をご理解くださるようお願いします。 「天降り」の舞も最終場面に近づきました。踊り手は既に被っていた面を外しています。 天つ神(天孫族)と国つ神(在来神)は共同して大八洲(おおやしま=我が国)の統治に成功し、祝いの舞を舞っています。 祝いの最高潮に達したところで、踊り手は剣を抜き、手に持って踊り始めます。いわゆる剣舞(けんばい)で、宮城県や岩手県にこの舞が様々な形で残されています。 剣舞は恐らく日本武尊(やまとたけるのみこと)の東征伝説と通じるものがあるように、私は感じました。 最後に踊り手たちは頭を深々と下げ、舞台から去って行きました。 いよいよ最後の演目である「権現舞」(ごんげんまい)の始まりです。 踊り手は面を被らず、初めから素面で舞い続けます。 舞はとても軽快で、明るい感じがするものです。 両手に持った扇子で、周囲を鎮めるような仕草をします。 そこに恭(うやうや)しく権現さまが登場します。 権現さまは仏の化身でかつ神の使いでもあります。 神楽ではこの獅子が権現さまのシンボルです。 これ、静まらんか皆の衆。大八洲(おおやしま)は神の島なるぞ。 そしてこのわしが早池峰の神じゃ。 突然まさかの展開。お酒とマイクを持った神職が舞台に登場し、祝いの酒が届けられたとの紹介をします。きっと現地の神社でも、神楽の最中にこのようなことが実際に行われているのでしょうね。良いことは直ちに神と観客に報告するようです。 早速権現さまにもお神酒が届けられたと報告されます。 良く聞けよ、皆の衆。これからも早池峰の神の恩を忘れるでないぞよ。 この後、供物(くもつ)は静々と下げられて行きました。 権現さまは最後の最後まで、威厳のある姿を崩しませんでした。 これで早池峰岳神楽の5つの演目は全て終了。最後に宮城県石巻市の「雄勝法印神楽」にエールが送られました。早池峰は過疎化で、雄勝は東日本大震災の津波被害で、共に苦しみながら国の重要無形民俗文化財を長年に亘って伝えて来たのです。きっとその苦労がお互いに良く分かるのでしょうね。 たまたま夏に資料館を訪れてこのイベントを知った私ですが、これらの優れた神楽を観ることが出来て本当に良かったです。東北の宝だけでなく、日本の宝。いや、きっと世界の宝なのでしょうね。 最後にこの日私が観た4つの舞を再度列挙し、このシリーズを終了させていただきます。演じられた演目は全部で13に及び、とても見応えがありました。長い間お付き合いいただき、心から感謝しています。 1.川前の剣舞(仙台市青葉区芋沢:宮城県指定無形民俗文化財) 2.生出森八幡神楽(仙台市太白区茂庭:仙台市指定無形民俗文化財) 3.雄勝法印神楽(石巻市雄勝町:国指定重要無形文化財) 4.早池峰岳神楽(岩手県花巻市大迫町:国指定重要無形文化財、ユネスコ無形文化財登録)<完> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[芸術論] カテゴリの最新記事
|
|