カテゴリ:健康
<病院の梯子 その2>
2時30分。名前が呼ばれて頭部のMRI 撮影に入った。装置の中に体が入り切ると、やがて金属的な音が鳴り出す。カンカンカン。ジージージー。ゴンゴンゴン。キーンキーンなど様々な機械音。きっと閉所恐怖症の人なら耐えられないはずだ。でも私は3度目なので平気。20分ほど耐えて無事終了。暫くして再び診察室へ呼ばれた。果たしてどんな裁定が下るのか。 ドクターはシャウカステンに挟んだ写真を私にも見せた。左右、上下は反対になっている。脳の左側(実際は右脳)は正常なのに、右側(実際は左脳)の方にはあるべき「ひだ」がなく、どんよりとした感じ。そして頭蓋骨との間に、液体が満ち溢れていた。それが血液などだと言う。私は2つの医学図書館で勤務したことがあり、脳内の写真なども見慣れていたため驚くことはない。 「転んだことはありませんか」。午前中にもあった質問をまた受けた。4月のお花見の帰りに転倒して右肩を打ちましたが、頭部は大丈夫でした」。私は答えた。指を1本立て、「何本に見えますか」。ドクターは聞いた。「1本、いや2本です」。私の眼は左右で焦点距離が違うため、物が二重に見えるのだ。「目を瞑って片足で立ってください」。だが数秒も立ってられない。これも昔から苦手だったのだが。 ドクターはそれを見て、どこかへ電話をかけた。そして緊急入院と手術を依頼したようだ。「これからS病院の救急外来へ行ってください。自転車は絶対ダメ。タクシーで行くように」。私の病名は「慢性硬膜下血腫」で、直ちに手術をする必要がある由。予想外の展開に私は動転した。自転車がないと困るんだけどなあ。でもドクターの厳命なら仕方ない。私は受付に自転車の保管を頼んで外へ出た。付き添った看護師さんがタクシーを停めてくれた。 運転手さんに行き先を告げると思いがけないコースを通った。なるほどこれが一番近いのか。名前は知ってても、一度も行ったことのない病院だ。それにしてもなぜこんな事態になったのか、私の頭は混乱していた。病院に着き、救急外来の入り口でブザーを鳴らした。名前を告げると直ぐ職員の人が迎えに来てくれ、受付にドクターから預かった紹介状とMRIの写真を渡した。そして必要書類を記入。完全なパニック状態だった。 いよいよ診察が始まった。ドクターは紹介状と写真を観て、直ぐに合点したようだ。そして名前、生年月日、今日の日付、自分の病名を聞いた。私がよどみなく答えると、「良いですね。助かりますよ。ところで転んだことはありませんか?」。ないと答えると、「原因が分からない場合もありますからね」どドクター。あくまでも優しい人だ。最短で3日、最長で5日の入院。抜糸は外来でも可能とのこと。 私はドクターに尋ねた。「一旦家に帰って来て良いですか。何も入院の準備をしてないもので」。OKが出た。事務の人が入院の手続き等の書類を持って来た。「9時ごろでも良いですか」。「それはちょっと」職員は口ごもった。これは大変。入院の準備に夕食。そしてブログにも緊急入院のことを書かないとねえ。私は焦った。何せ手術は翌朝の9時からなのだ。 家に帰ると朝干したままの布団がベランダの手すりにあった。お向かいのKさんに事情を話し、入院することを告げた。彼も布団がそのままだったので心配していたのだ。<続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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