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<家族はつらいよ2> かつての名画『東京物語』に着想を得た『東京家族』→『家族はつらいよ』も今回が第2作となった。「寅さんシリーズ」の山田洋次が自ら原作を書き、しかも監督する次作が果たしてどんな趣向を凝らすのか。それが今回の興味の的だった。せいぜい前作の焼き直し程度ではないのか。そんな疑念を払拭するようなストーリー。良い意味で期待を外された私だった。 横浜の郊外に住む3世代同居の家族。それに3人の兄弟夫婦がからむホームコメディ。話の主人公は70台半ばの夫婦(橋爪功、吉行和子)で、兄弟役は前回と全く変わってない。頑固な爺さんがもたらす大騒動は今回も健在で、高齢ドライバー問題が話題の中心だった。それに加えて老いらくの恋や、高校時代の同級生の没落や離婚問題がクローズアップされる。現代日本の家族問題の典型とも言えようか。 老夫婦の心理描写もごく自然で、3兄弟とその連れ合いが置かれている社会的な位置なども興味深い。映画は現実社会を切り取り、見事に描き切っている。だからこそドタバタ喜劇の面白さと同時に、人間の本質から来る哀しみをも味わうことが出来るのだろう。だがその哀しみも決して暗いものではない。どこにでも転がっている身近なエピソードの積み重ねだからこそ現実味があり、安心して笑えるのだろう。 3兄弟とその連れ合い、そして孫たちの今後の成長が楽しみだ。出演者は他に西村雅彦、夏川結衣(長男夫婦)、中島朋子、林家正蔵(長女夫妻)、妻夫木聡、蒼井優(次男夫婦)、小林稔侍、風吹ジュン、劇団ひとり他。このシリーズが果たして何作続くのか、楽しみにしていよう。なお橋爪功の長男で俳優の遼が薬物使用の疑いで逮捕され、父の橋爪功は謹慎し当分活動を休止するみたいで残念だ。<花戦さ> 世は天下を統一した秀吉が太閤となった時代。千利休は茶道の師匠として秀吉に仕えた。ところが京の都には花を以て仏に仕える僧達がいた。これが花僧である。時代は信長の時代に戻る。六角堂の花僧である池坊専好は推薦されて岐阜城に赴き、信長のために花を生ける。それは信長の野望を称える雄大なものなのだが、結果は大失敗。それを救ったのが「サル」と呼ばれた秀吉だった。 信長亡き後天下を取った秀吉は横暴を極め、自分を馬鹿にした町人すら許さない。茶の師匠である千利休すら秀吉の怒りを買って切腹させられた。これを諫めようとしたのが一介の花僧である池坊専好。彼の命がけの諫めは果たして聞き入れられたのだろうか。この生け花を以ってした無言の抗議が、タイトルの「花戦さ」となった。 原作は鬼場忠の小説で、とある伝説を下敷きにしたものとか。出演者は野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐藤浩市、佐々木蔵之介、高橋克実、吉田栄作、竹下景子ら錚々たるメンバー。日本の華道界を牽引する池坊の祖となった人のエピソードで、歴史的な裏付けはともかく、軽快でコミカルな内容だった。 人々の衆目を集めるため金の茶室を建てた秀吉。だが茶の本質から外れるとして、秀吉が嫌った黒い茶碗をその茶会で用いた利休。その緊迫感がたまらない。なぜ利休はたかが茶碗一つのために、自らの命を投げ出したのだろう。 利休と聞いて思い出す人が一人いる。静岡文化芸術大学前学長の熊倉功氏だ。先生とはつくばのT大学で一緒だったが、何の専門かその時は知らなかった。千利休研究の第一人者と知ったのはその15年後。ある国立博物館で再び一緒に勤務した時だ。歴史家と言うより、千利休の精神についてメスを入れた人との認識が植え付けられた。先生の名は時々テレビや映画(時代考証)で見かける。 私は歴史が好きだ。長年日本古代史に魅かれていたのだが、その後は幕末や明治維新などを含めて、日本史全体への関心へと広がった。この作品からも歴史を学び、乏しい知見を広げることも出来る。今回は華道の元となった花僧の存在を知った。池坊宗主の「専」は、琉球王朝時代の武士の「名乗り頭」(代々名に同じ漢字を使う)と同じ思想だろう。2つの作品共に、音楽担当が久石譲だったのが愉快。