銘柄紹介 第九弾 3712情報企画
第一弾から第八弾の銘柄紹介を読んで頂いていない読者は、先にそちらを順に読んで下さい。(お手数おかけして申し訳ありません)過去に紹介した内容を理解されていることを前提として、今回の銘柄紹介を始めます。銘柄紹介 第一弾 7509アイエー銘柄紹介 第二弾 9866マルキョウ銘柄紹介 第三弾 6060こころネット銘柄紹介 第四弾 7865ピープル銘柄紹介 第五弾 9994やまや銘柄紹介 第六弾 7820ニホンフラッシュ銘柄紹介 第七弾 4769インフォメーションクリエーティブ銘柄紹介 第八弾 2337いちごHD※皆さんご存知の通りですが、この銘柄紹介は買いを推奨しているものではありません。 それぞれ毎回テーマがあり、そのテーマに適した銘柄を紹介しています。 今回のテーマは自己株式取得です。企業はどのような時に自己株式取得をするべきなのでしょうか。よく自己株式取得そのものが良い材料だと勘違いしている人が居ます。株式売買の需給に変動があるということで短期的な投資家の思惑に影響することがあり、結果として株価が上昇することもあるからです。しかし自己株式取得は経営方針であって、それ自体が良い・悪い、というものではありません。企業が企業活動で得た資金を投資や内部留保に回さず、自己株式を購入するという使い方をするということです。企業活動の一環であり、方針でもあります。この方針により、企業がどのような未来を描いているのかを推し量る事が出来ます。逆が新株発行による増資です。ただ何も考えずに新株発行などの増資には批判的で、自己株式取得・償却には好意的、ではいけません。 情報企画は2015年に自己株式を取得しています。2015年の自己株式取得による自己資本低下、の影響をみてみましょう。発行済み株式数4,049,926株→3,349,926株B/S面では平成26年9月期→平成27年9月期現金及び預金1,773,511千円→1,023,200千円流動資産合計2,255,898千円→1,601,539千円資産合計3,526,340千円→3,228,347千円P/L面では売上高 1,829百万円→2,340百万円経常利益 479百万円→627百万円売上高純利益率 34.5%→38.2%で結果自己資本比率 75.0%→68.4%1株あたりの利益 70.29円→106.60円1株あたりの純資産 652.99円→659.24円ちなみに企業活動を通じた別の株主還元としては配当 25円/株→38円/株配当性向 35.6%→35.6%銘柄紹介シリーズを全部読んでいるという前提ですので、上記の変動に対する説明は省きます。それほど難しいことではありません。しかし、この株式取得による影響は結構大きいものですね。この利益成長があったからこその大幅自社株買いをしつつの配当性向維持とみるべきでしょう。しかし単純に考えるのは早計です。将来の企業運営の為の手元流動資金のかなり多くを使用しているのです。足元の業績だけが重要なのではありません。中期的な視野だけでなく、長期的な視点がかならず反映されているからです。実際に大規模な自社株買いをするという事を発表して、その後殆ど設定枠を使わなかった企業は枚挙に暇がありません。その企業は予定していた枠の自社株買いを何故しなかったのか。思ったほどの株価水準ではなかったのか別の思惑があったのかは分かりませんが、実行するかどうかで企業の腰の据わり方が分かります。市場で買うのかどうかに限らず、本気で取り組まないと大規模な自社株買いなど出来ません。企業が自ら発行している株式を株主から買い取るというのは、その規模が大きければ大きいほど、企業側に強い意思が必要になります。その意思はどのようなものかを読み解くことが重要です。株式発行数の変動としては、他にも株式分割があります。この会社は発行株式数を減らす前に株式分割で発行株式を急増させています。(平成25年10月に1株を100株にする株式分割を実施)発行株式数だけに着目すると、一気に100倍に急増したものがその後16%程度減少した、という事になります。しかし、この株式の急増と減少では本質的に違います。株式取得・償却が自己資本の変動を伴うのに対し、株式分割は伴いません。(※厳密には伴いますが説明をわかりやすくするため割愛します)株式分割による影響は1株あたりの数値のみです。例えば、1株あたりの純資産、1株あたりの利益、1株あたりの配当、など。それ以外は全く影響ありません。同じ発行株式数を変動させるものでも、株式の分割による影響と株式取得による影響、この2つは本質的に違います。自己株式取得→償却、は株主が保有する株式の価値を変動させます。大抵の場合は一株あたりの利益を増加させ、一株あたりの資産を減少させます。敢えて乱暴に言うと、企業運営に回さないで企業活動で得た利益を株主還元するという意味で本質的には配当と同じです。ただし配当は一時的な影響、自社株買いは長期的な影響、という違いがあります。(※2016/2/1追記 コメント欄に説明あり)かかる税金の影響がない分だけ自己株式取得の方がコストが少なくて済みます。上の例のように配当性向が同じで自己株式取得を行った場合、実際には増配していると言えます。合計が利益の額を超えている場合、考え方によってはいわゆる蛸足配当と似たものであると言えるでしょう。蛸足配当が悪いものだと考えているのにその期に得た利益以上の額の自己株式の取得は悪いものだと考えていない投資家が多いですが、両方とも本質的に同じでROEの増加に繋がるものです。その影響が一時的なもの(その時の株主が利益を受ける)か長期的なもの(それ以降の株主が利益を受ける)かの違いです。不要な自己資本(非効率な自己資本)を減らすことによる企業経営の有効化です。バリュー投資家には、備えあれば憂いなし、と使い道のない資本を溜め込み続ける企業を善しとしている投資家が多いので、この点は強調しておきたいと思います。もっとも、赤字企業や資本の有効化の見込みが立っていない企業が利益以上の配当や自己株式の取得をしてはいけません。ROEを増加させる経営は企業経営に自信がある場合にのみ行うべきで、またそうである為に強烈な投資家へのアピールになるべき行為です。 話を情報企画に戻します。この業種は人材不足に悩まされ続けています。今後労働人口が減少していく中、優秀な人材確保が今以上に困難な状況になっていきます。その中において、どのように人材を確保するのかが問われる社会が日本に必ず来るでしょう。情報企画の社員は2007年104人→現在121人。会社目標は『売上高営業利益率30%』と『従業員一人当たり売上高20百万円以上』ですので、優秀な人材を確保しないと企業の売上成長はありません。この企業は急激な成長をすることはないでしょう。緩やかな成長を続けていく。それがノウハウとなり暗黙知となり地力となります。緩やかな成長には良い面もあれば悪い面もあります。一つ間違えば、退屈な万年割安株です。低PER低PBR低ROE。そうならない為にはどうすれば良いか。一つの手段が配当による株主還元策であり、もう一つの手段が自社株買いによる株主還元策です。 急激な成長をしない企業が得た利益をどのように使うのか、この企業は一つの答えを出しています。過去に第四弾で紹介したピープルも同様。日本企業では珍しいですが、ROEを低下させない努力というのは資本主義社会の企業として当たり前のことです。