若山牧水 白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ
若山牧水(わかやま・ぼくすい)白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ歌集『路上』(明治44年・1911)註酒をこよなく愛した名匠のしみじみとした秀歌。係り結びでないにもかかわらず、文末「けり」が連用形に活用している初出の形。のちに作者自ら、文法的に正しく(無難に)「飲むベかりけり」と改作した模様だが、こちらの方に独特の情感があると見るのは私だけではないだろう。多少の文法的破格は、短歌表現では多数の例があり、詩的許容(ポエティック・ライセンス)の範囲内と思う。吉川宏志の現代短歌の秀作「旅なんて死んでからでも行けるなり鯖街道に赤い月出る」も、厳密にいえば文語と口語の混淆が文法的におかしく、物言いをつけられる余地はあるが、完全に許容されていると見るべきだろう。