遠山勝雄 いつの日もとなりに同じ寝息ある幸ひ満ちていつまでふたり ほか
遠山勝雄(とおやま・かつお)いつの日もとなりに同じ寝息ある幸ひ満ちていつまでふたり対岸に日傘を振れる妻見えてわれも手をふりペダル踏み込む妻とゆく手をとるほどの若さなく手をひくほどの老いにもあらず病む妻に茶を注ぐわれの手の少しぶれて笑み合ふ秋陽のなか添ひ遂げむ君と過ごしし春かぞふそれでももつと知りたき女ひとよ紅梅の色ます弥生わが孫の秘めたる恋も春雪のなかひとり行くこぶし満開の山の道忘れたきこと忘れるために晩秋の水霜あびし辛子菜を野うさぎとわれ朝あさ分け合ふ海神にわが村かくす防潮堤浦のすて船ひとつただよふ震災の海に育ちし岩牡蠣をひたすらむける陽のかぎるまで第一歌集『銀のちろり』(令和6年・2024)