星の髪飾り

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• 風にふかれて・・・・

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　photo　by　kitakitune05-さん　　 素直になれなくて　　（HARD　TO　SAY　I　AM　SORRY）　　 長い夜　　 朝もやのふたり　　 愛ある別れ　　　　　（IF　YOU　LEAVE　ME　NOW）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 シカゴ譜面タイトルより　スコア（譜面）開き、しばし見惚れました。　ストーリーになっているよー・・綺麗。情景が浮かぶから悲しい。　　　　　　　　　　　　　　　 　～ＭＡＮＹ　ＴＨＡＮＫＳ～　　　日頃から、転びそうになる運転手（香乙）を支え応援して下さり心より感謝いたします。 そして見ず知らずのあなた・・扉を開いて頂き本当にありがとう。また今朝は、始発時より影で応援して下さる友へ「 ありがとう！ 」メッセージを送ります！　　　SOUさん・・・・３作までのカメラマン、誤字訂正ありがとう！　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２級建築士　女性。　　元同僚＆親友　　心子さん・・・・ブログアップを強くすすめてくれた恩人、感謝！　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ミス東京出場　現在永田町でバリバリ秘書。　同級生　TAKAKO姉・・・・教習所繋がり、　思い出の３１号車優しい姉貴　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「みきわめ」印を共に待った戦士。　愛読ありがとう！　　裕子ちゃん・・・レストラン「街路樹」の美人ウェートレス。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　熱い感想、いつも励みになります。　徳子さん・・・・Ｊダンス繋がり、　共に汗した２０年前。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　応援メールありがとう！　再会いよいよ・・嬉しい！　MOMOちゃん・・・かれこれ２５年、銀座ＯＬ繋がり　誇りの妹。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あの頃はパソコンなくて、英文タイプだったねー・・　　友＆瑞・・・・ふたりの幸せを誰よりも祈ってるよ～　尚子ちゃん・・・１４歳下の弟のお嫁ちゃん。　４人のママ！　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（少子高齢化に貢献！）　泣かないで読んでね～　三重子さん・・・４０年来の幼なじみ。　私を知り尽くしてるね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読んでくれてありがとう！　また昔話で大笑いしよ！　　　けっしてページに名前が出ないであろう影の応援団！　名前書き切れないけど、この場を借りて思い切り叫ぶぞ！「　あなたなくして、今の私はない！　」　　ありのまんま過ぎて、今だお世話になってましゅー・・・香乙

  2006/07/04

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• 「紫輝」　　初恋

  　良子の背中で大きな顔を覗かせた淳也が、庭で遊ぶ兄を見て喜んでいた。瑞々しい緑が大空に靡き、裏山から流れ込む自然の雫がちょろちょろと石垣から滴る。「行ってきます！」　　良子は洗濯物の間から、いくらか小さくなった黄色いランドセルを見届けた。とぎ澄まされた時の流れを感じながら多希子に手を振ると、遠くに聳えるアルプスが光った。　しかえしの後、寄り添った仲間達は冬の下駄スケート、春の遠足、理科の課外授業を経て校内でも評判の仲良しクラスになっていた。　紺色のブルマーを履いた姫達が校庭に散ると迷わず追いかける男子に負けじと鉄棒を掴んむ女子。「私が先だに！」　段々になった四つの鉄棒で逆上がりの練習を始める。「もうちっとだねー！　仁美ちゃん・・」　空に向かって足を蹴り上げ、鉄棒を掴んだ両手に力が入ると、広い校庭を心地よく眺める一瞬があった。　青空への一回転は、たまらなく癖になる。　そして多希子は鉄棒を放さない。「誰かーお尻をあげてくれん？・・」「尻が重たいせいじゃないぞ！　仁美、こうやって勢いつけるんな！　ほら！こう！」　それは、悪戯に入り込んで以前から発信されていた感情かもしれない。気になる女の子の気を引きたい。　ただただ自分を見て欲しい・・・・。　　笑顔の福沢がたくさんの宿題を言い渡し教室を去ると、突付き合いのダラけた掃除が始まった。「算数のドリル、一緒にやるけ？」「うん、帰ったら行くでね・・」「たっこちゃんは？　もうおらん（いない）ね！」「放課後はいつも直ぐいなくなるに・・・・」　この上なく澄んだ青空に、行ったり来たりのブランコの振幅が次第に大きくなった。「おーい！　そんなに扱ぐとぶっ飛ぶぞー！」「聞こえーん！・・・」　広隆はブランコの下で、ひろひら舞う多希子のスカートに時折目を背けながら立っていた。「空を飛んどるみたいだにー！　ヤッホー！・・・」　ガキ大将の広隆は、鉄棒の下に置き去りにされた黄色いランドセルを抱えて言った。「これー！　町で買ったランドセルだろう！　投げっ放しでー！・・」「何な！　雑巾詰めたくせに！　」「まだ覚えとる！　執念深いぞー！」　多希子の揺れが小さくなると、広隆が色黒の細い体で黄色いランドセルを背負った。「うん、なかなかいいぞー。　俺のは兄ちゃんのお下がりだからな！　だいぶ弱っとる」　体育と図工だけが得意な広隆。　渡り廊下の先に居座る中学校に兄が二人もいるというだけで威張っていた。　決闘と言っては校庭で仲間と相撲を取り、最後は大きな声で笑いながら皆を引きつれ帰って行く。　　　　決闘より興味を引いたその場所で、ブランコから降りてくる多希子を待っていた。「はいよ、これ・・」「うん、ランドセル・・・」「スカートからブルマーが見えたぞ！・・風のしわざだー」「そんな物、どうでもいい！　ブランコはね、空を飛べるで気持ちいいー！」　広隆は、息を弾ませ目を輝かせている多希子を見た。「どうする？　今日も一緒に帰るの？　途中まで・・」「帰ってやってもいい・・」「・・たっこは一人で帰れるでね！」「・・・・・」「一緒に帰ろうか？」　多希子は困ってうつむいたガキ大将を覗き込んだ。　しょげた大将を見たくない。「おう！　帰ろう！」　 　校舎を脇に追いやった広い広い校庭を、ふたりはゆっくり歩き出した。「・・また、手を繋ぐ・・・？」　振り返った広隆は、少女のあどけない瞳を見ていた。「・・・繋いでやってもいいぞ！・・・」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回「姪の本音」　木曜日）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　pc　シリーズ「風に吹かれて・・・」は明日。

  2006/07/03

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• 風に吹かれて・・・・・

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 舞姫の休憩室　　　　　　　　　　　　　　風に吹かれて　　　　　　　　　　　　　雨に打たれて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　陽に照らされて　　　　　　　　　　　 みんな咲いた・・　　　　　　　　　　　　窓から見える姫達は「仲間」　ｐｃ「紫輝」　初恋・・・は不機嫌なパソコンで消えたデーターを整理してらUPします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　未来線、運転手　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　銀河線、用心棒＆カメラマン

  2006/07/02

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• 「紫輝」　しかえし　（２）

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05さん　　石垣が見える台所の窓からは、わずかな採光が冬の朝を告げていた。「おばあちゃん、卵の殻とってあるらー？」　多希子は冴にそう言いながらランドセルを開けた。「ほれ・・たーんとあるに。（沢山あるよ）」「新聞に包むでね、ついでにご飯粒もすこーし貰っていくでね・・」「何に使うんずらか？・・」　良子が進二にお茶を入れながら呟いた。「タッコのすることは、わしにもわからんで・・？」　多希子はランドセルに秘密を詰めると、てっぺんにボンボンが付いた毛糸の帽子を被りパタパタと廊下を走って行った。「ほーい！　もう行くのー？・・・」「・・・行ってきまーす！　今日は女の秘密の日だでー！・・」　二時間目の授業の後は二十分の休み時間があった。男子の間で流行り始めた竹馬。　ただただ広い校庭に竹馬族が散らばっていく。「おいなー！　この隙だでね！」　恵子が姫たちに指令を出すと、多希子は練り合わせたご飯と卵の殻を新聞紙に包み直し、「いい？　三時間目の国語、七つの星のページだで！　間違えんようにね！」と言って教室を出て行った。　　蜂の巣のように規則正しく並んだ下駄箱から、乱暴に突っ込まれた臭い上履きを手早に出し、つま先の方に奇妙な仕掛けを塗り込んだ。　汚れた両手で、ついでに流れた鼻水を拭いた。　くじけぬ復習が、理解しがたい発想に転換する。　福沢は小脇に数冊の本を抱えて教室に入って来た。「男子は？・・」　隙間だらけの教室を見回すと、凛と姿勢を正した生徒の顔が輝く。　暫くして、上履きのかかとを踏みながら竹の子族が戻って来た。「なんなー！　許さんぞー！」　大将の広隆が不機嫌な顔で席に付いた。「どうしたの？！　三時間目は始まってるのよ！、上履きちゃんと履きなさい！」　つま先が・・殻が刺さる・・・悪戯が・・と文句の連打の後、福沢は毅然と言った。「何はともあれ、怪我は無いわね。　じゃあ、北斗七星のページを開いて・・」　多希子は転校以来受けた悪戯を束にして、この瞬間を待っていた。「何か入っとるぞー！」　誰かが言った。「俺も・・・白いシュルケン・・！」　「こんな所に、こんなもん入れやがってー！」　福沢は再びざわめく彼等に目を移すと、大きな腰を振りながら教壇から降りてきた。「折り紙じゃないの！・・出しなさーい！」　訳のわからぬ竹の子族はつま先の粘々を忘れ、教科書に挟まれたシュルケンを出した。「先生！　何か書いてあるに！」　恵子の一声が予定通り教室を突き抜けた。　福沢は教科書の中に現れた色とりどりの「とんがり」を摘まんで顔の前で眺めた。くねくね書かれた鉛筆の文字は、どれもこれも違っていた。　銀杏の木に集った比較的たおやかな姫の数人は、不安げに俯き、もぞもぞしている。　福沢は目を細めながら読み始めた。「僕は千鶴ちゃんと加代子ちゃんのスカートをまくりました。　正夫」「僕は京子ちゃんのくつをプールに隠しました。　太郎」「僕は・・・えーと、多希子ちゃんのランドセルにぞうきんを詰めました。　広隆」「浩二君にチビ、弱虫、貧乏！と言って裏山で泣かしました。　節規君と二人でやりました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浩一」「ふうー・・・ほら！出しなさい！隠したのを・・・」　福沢の声は次第に大きくなった。　銀杏の木の下で見た集いの仕業に気づきながら最後の一枚を読んだ。「何なに？　僕は・・多希子ちゃんの給食袋に蛙を三匹入れました・・あきれた！」「先生！　女の衆も上履きに悪戯したに！　これ！・・・卵の殻と糊が詰まっとって履けん！」「・・・授業の後、シュルケンを入れられた子は職員室に来るように！　今日の事は別の日に確認しまーす。　」　　放課後、職員室から出てきた竹の子族は、ランドセルを背負って下駄箱にやってきた。「靴下がきたねえ・・畜生！」　職員室で横一列に並んだ族は七人。　他の学年教師が頼もしい姫に喝采を送りながら福沢の言葉に調子を合わせた。　「見ろよ、広隆！・・・これ！」　下駄箱に貼られた画用紙を悪戯の常習犯達が見上げる。　「馬鹿か！・・・あいつ等！」しばらくすると、誰からともなく笑い出した。　笑いは職員室にも届いた。　木の葉が数枚のったスノコの上で、彼等は幼稚で突飛な姫達に降参した。　「　次は本物のシュルケン投げるでね！　飛ぶでね！　みくびらん方が身の為だに！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回　日曜日　「初恋　若すぎた恋人」）

  2006/06/29

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• 香乙発－－未来線～銀河線　　ブレイクタイム

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitaktitune05さん「紫輝」しかえし・・前のpageにあります。　　　　　　　　　　　　　音楽バトン　ＡＮＥさんより受け取りました。１．はじめて好きになったアーティストは？・・・ウィーン少年合唱団　（小学６年生位）２．はじめて買ったＣＤは？・・・・・・・・　SP、スタイリスティックス　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　好きだった♪「YOU　ARE　EVERYTHING」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 CD、長淵剛　「乾杯」３．今持っているＣＤの枚数・・・・・・・・３８枚４．今一番好きなアーティストは？・・・・・イーグルス， アーハー　（吐息でも○○○声でもないです）５．最近買ったＣＤは？・・・・・・・・・・８０’ｓ　ＮＡＶＩ６．普通言わないけれど実は好きなアーティストは？・・・・・堀内たかお　竹内まりや７．解散して残念だな～と思うアーティストは？・・・・・ザ、スパイダース　井上順、堺正章８．初めに思いつく一人のアーティストは？・・・・・マイケルジャクソン９．　　　　　　　二人のアーティストは？・・・・サイモン＆ガーファンクル１０．　　　　　　三人のアーティストは？・・・・ビージーズ　♪「ナイトフィーバー」関係１１．　　　　　　四人のアーティストは？・・・・アバ　　♪「ダンシング　クイーン」１２．　　　　　　五人のアーティストは？・・・・クールファイブ　♪「東京砂漠」好き１３．好きなサウンドトラックは？・・・卒業、　炎のランナー、　ミッションインポッシブル１４．最近一番聴いてる曲は？・・・・「ＷＩＴＨＯＵＴ　ＹＯＵ」 「ホテル　カリフォルニア」　「Take　on　me］１５．音楽聴く時使っているもの・・・・耳、　電気代、あと・・心の恋人の虚像１６．好きな名前のアルバムかシングルは？・　　「あなたが選んだベンチャーズ　BEST　HIT］　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「JAZZ　BEST　OMNIBUS」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「スクリーンミュージック」　カサブランカ♪好き１７．今一番気になるアーティストは・・「ｍａｃｏ」（ｃ）、　　「奏でる時に」の歓声ささやき１８．今までに一番聴いたアーティストは？・・・DANCE　HIT　SPECIAL１～７　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ダンス歴２０年、聴かざるを得ない１９．一番好きな曲は？・・・・・「　WITHOUT　YOU　」　ニルソンの曲♪　ぜひ一度！虚像には２０．バトンまわす音楽好きな５人　　　受け取ってくれる方、どなたでも・・　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　追伸：「しかえし」読みに入った方、カーソルこのまま下へどうぞ！

  2006/06/28

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• 「紫輝」　　しかえし　動員数十八名

  　黄金色に靡く稲、渋い黄赤に染まる木々、家々の庭先で秋を待ち続けた柿が日沈が早い村に可憐な色合いを放つ。　　空に向かう銀杏の木の下に、姫が一人二人とやって来た。「珍しい光景ですねー。　福沢先生のクラスの子達のようですが・・」　職員室の目が光る。　　　姫達は、学級委員の恵子に誘われて楽しそうにやってきた。仲良し姉妹の中で育った恵子。　優しい心から発信される嫌味のない面倒見の良さは　クラスの人気を集めた。　よって多希子への声かけや応援も惜しみない。　二人の「発揮」に集った姫がランドセルを置くと、多希子の「ひそひそ」に顔を乗り出した。「いい？　大事な作戦だでね。　シー！・・」　わらばんしにガリ版印刷された漢字のテストの裏に、妙な作戦のしくみが現れた。「こっちの子が・・これ・・」　名前から繋がった線を指で追った先を見るたおやかな姫達。「私は弘君？・・」　　「私・・紀夫君？」　　　恵子が多希子の給食袋を逆さに振ると、中から色とりどりのシュルケンが現れた。「何なー！　これ・・投げるの？」「投げんよ・・」　起用に折られたシュルケンは伊那町の退屈な入院生活での収穫だった。姫の頭が小さく固まっていくと、職員室の窓辺に立った数人の教師の興味が深まった。「普通の紙じゃ、いかんの？・・」　「いかん！、男には男の武器だで・・・」「黒板を使えばいいに・・」　「消されるで・・」　恵子が多希子の肩を叩くと、お下げの黒髪が少し揺れた。「あいつ等は今、竹馬に夢中だでね。　タッコちゃんの言う通り、二時間目の休み時間！しかえしは、その隙に！」「・・・ふーん、大丈夫ずらか・・」　　仁美が鼻水を啜りなら、しぶしぶシュルケンを持った。　後に続いて手にした武器にそれぞれが覚悟の唾をゴクリと飲んだ。　　暫くすると、ヒソヒソの輪にケラケラと笑いが散った。　好意が含まれる悪戯があることを少女達はまだ知らない。　そして、兵士は一人では何もできない。　解散した銀杏の木の下で、ふたりはランドセルを枕に小さな雲を眺めていた。　「鉄人２８号、狼少年ケン？　どっちが好き？」「ひょっこりひょうたん島！　あれがいい。　それからあの雲も・・」「雲に乗りたいねー・・乗ってどこかへ行きたい・・」「うん、タッコは東京に行きたい・・恵子ちゃんと東京へ行けたらいいね・・？」　　良子は蔵へ風呂敷包みを抱えて入って行った。多希子の帰宅を確認すると、少し慌てた様子で「遅かったじゃんけ・・」と言った。多希子は蔵をちらっと見た後、陰りのある良子の顔をじっと見た。　多希子が蔵で冬眠し続ける亡き父母のアルバムを開くのは、それから十五年も後のことだった。　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回木曜日　しかえし「実行」）

  2006/06/27

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• 香乙発--未来線～銀河線　

  　グリーン車　時代を開く女性達・・・・竹中ナミさん（プロック・ステーション理事長）　　　　　　　　　　　　　　｛　元不良の憂いより　｝　昔は、本当のワルとその手前には厳然と線が引かれていた。　麻薬、殺人、売春。この三つは境界線のあっち側、これを越えたらおわりだという自覚を持ちながら・・・　今の時代が怖いのは、この境界線がないこと。　日常社会にいる普通の小中学生にまで三悪が浸入し始めている。・・　「日本の現状にどっぷり浸かって議論しているだけでは、煮詰まっちゃう」７月CJF２００６国際会議 in　TOKYO開催。　　楽観主義（ポジティブに老いる）・・・・・・古川真人さん（　昭和女子大、大学院教授）　　　　　　　　のんきな楽観主義～「棚からぼた餅」をのぞむ。　　　　　　　　　　　　　　　　超拡大的楽観主義～「自分も世界もすべてが良い方向にいくと信じる」　　　　　　　　　　　　　　　　ポリアンナ的楽観主義～どんな不幸に襲われても楽観的に生き抜いていく。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　他３種位あるそう。　楽観主義を培う鍵・・・・・・・・・心理学者　コバサ　　　　　　　　強いストレスを感じるようなネガティブな状況に置かれた時　　　　　　１．コントロール　 ２．コミットメント（かかわり）　 ３．チャレンジ　今の人々は忙しすぎて「老い」の価値に目を向ける暇がない。時間を基準にした価値判断に偏り過ぎ？　時間という制約を除き、質の評価を加えれば・・高齢者の方が良い仕事が？　料理ひとつでも豊かな味わいがあり、何気ない一言でも重みがある。　「老い」のポジティブな側面を見て、積極的に生かす（自身と、家族や取り巻く人々） 精神的に健康な人は実際以上に自己を良きものと考える。　　　　　　　　　　　 リクライニングシート　[おすすめ著書]...　「スローライフ緩急自在のすすめ」　筑紫哲也さん 　ファーストな生活を見つめ、スローな価値を考える。　[おすすめ映画]...　「バルトの楽園」　　　（舞台）--第一次世界大戦の際、ドイツ兵捕虜を収容した徳島県鳴門市の収容所　　　　　[目撃者 奏ちゃん　 ]　　　　介護のお仕事についた彼女は、専用バスに乗っていました。　　　　運転手　「　おいおい、朝から勘弁してくれよー！　ハンドル取られるぜー！」　　　　乗客　「何？　何！」　窓の外を見ました。　　　　奏ちゃん　「わー！　朝から路上キッス！」　　　　よーく見ると、元職場「街路樹」の竜也君と沙織ちゃん（仲間）　　　　「絵になっていたー！　けど・・見てる方が恥ずかしかった！」　　　　　飲み会で盛り上がった話。　　　　　千尋さん（街路樹ヤングママ）　「恋ができるだけ、いいよねー？　裕子さん？！」　　　　裕子（ヤングでないママ） 「プラトニックなら、イケルっしょ！」　　　　奏ちゃん　「わー！　素敵。　早朝路上キッスより素敵！」　 メール「観客多し、覚悟の路上キス、ご苦労様！　事故の元！気をつけろ！」　　 「　えー！何で知ってんのー？！」　 「香乙さん、ぼちぼちいきましょう・・・」　「はーい・・」　　月曜　街路樹でランチデート　　　　　　　　　　　 火曜　ダンス♪　　　　　　　　　　 土曜　仕事　江東区　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　予定これだけ。のーんびり 　　　　　　　　　　次回火曜日　紫輝「しかえし」

  2006/06/25

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• 「紫輝」　　少女が乗った電車

  　にぎやかな夏の晩だった。縁側に並んだ半月のスイカに次々に手が伸びる。てんでに（それぞれ）足をぶらぶらさせ、下駄が散らばると、肘を突付き合いながら笑う。悲しみが僅かな風に吹き抜けて去っていく。　博文と武文が、牛乳瓶に蛍を入れて駆け寄ってきた。　露草につかまって、静かに光る蛍。　「なんで光るんだろうね・・」「蛍だからだに・・」　 　口に残ったスイカの種を器用に出しながら博文がそう言った。夏の夜を慎ましやかに、あるいは「ここにいるよ」と語りかけるように灯りをつける蛍。しばらくして、仲間がいる田んぼの中に瓶の蛍を放した愛香。　美佐子と亜由美が「ああ・・もったいないー！」と言って、追いかける。多希子は金魚の絵の入った浴衣に付いたスイカの種を掃いながら動かぬ月を見ていた。「うさぎがおるね、愛香姉ちゃんも見える？」「見えるよ。　二人でお餅を搗いてるのよ」「月は蛍と違って、遠くの人でも見れるでね。　学校で習ったに・・」「月は一つだからね」　　　愛香は朝顔の浴衣をひらひらさせながら、多希子の手を引いて林檎の果樹園の方へ歩いて行った。「ほら、ここは少し高いから月に近いのよ」「・・東京のおかあさんも見とるかなあ？・・同じ月・・」　散らばったスイカを片付け始めた志津が叫んだ。「ほーい！　皆、おいなー！　そろそろお風呂に入らんとー！」「嫌だ！　亜由美は浴衣脱がんで！風呂に入らんよ！」　亜由美が目を吊り上げた。「亜由美は、きかないねー・・」　叔母達がつくづく言い合う。　それでも志津は、戻ってきた姫と殿の尻を追いながら風呂に追い立てた。　大騒ぎが沈んだ後、ずらりと並んだ布団にで別の騒ぎが始まった。八人の子等は蕎麦殻の詰まった枕を投げ合い、大声で笑い、解けた寝巻きから膨れたおなかを出しながら、闇を蹴った。　　あくる日、裏山を下った天竜川で水遊び。　とうもろこしにがぶり付きながら岩場で騒いだ。　日が暮れるとアルプスが薄紫に輝き始めた。　引き出しが付いた長四角の座卓を大勢で囲み、かぼちゃの煮物や山菜の天ぷらに箸が行き交う。　「まるで、学校の給食だな・・」　花火の煙に子等の笑顔が移動すると、輪になった平和に星が微笑む。　　やがて昨夜と同じ騒ぎの後、オバケの話で夜が去った。　　夏休み、集った従姉弟や妹に会えた束の間の幸わせに浸った多希子。リュックに綾子の土産の蝶ちょが付いたのサンダルが入った。　志津と愛香は後ろで叫ぶ亜由美を振り切り、多希子と歩き出した。　「バカ野郎ー！！　おたんこなすー！！　お姉ちゃんを返せー！」「これがあるでね、会った後のこれが・・」　綾子は水飴を箸に巻きはじめた。「会わせんわけにもいかん、見果てぬ夢じゃないでね、いつかは一緒に暮らせるら・・」「アホんだらー！！　」　亜由美のキーキー声が轟く。　「まだ叫んどるにー・・！」　木の根っこの階段を踏みしめ、最後の元気を振り絞るように泣くセミの声が志津には沁みる。萎れた線路が脇に見えると、次第に無口になる多希子を思い、愛香が優しく声をかけた。「また、東京においでネ。　武蔵境の家に・・遊びに来ると良いわ・・」「・・・おかあさんとも会えるしね、東京へ行くと・・」　日に数本の飯田線の汽笛が聞こえると、志津は目を兎のように赤くして切符を渡した。「進二叔父さんが迎えに来とるで・・　また、おいな！（おいで）」「・・うん、帰らんと皆んな待っとるでね・・・」　再び妹と離れ離れになる現実と、多希子が暮らす別の家族の笑顔が宙で絡み会う。雑草が生えるホームに立つと、見送りに来た二人の涙がはっきり見えた。「・・・タッコは今、少ーしだけ悲しいでね！　切ないでね・・」　引きちぎれそうな少女の顔が、しなびた茶色の飯田線の窓にびったり張り付いていた。電車が容赦なく動き始めると、多希子の悲しみも加速を増した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（明日夜　未来線～銀河線）

  2006/06/24

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• 「紫輝」　林家のアイドル　亜由美

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05-san　茶毛の亜由美は、すっかり日焼けして後ろと前の区別がつかない。　果樹園の前に聳える山の上を指差して叫ぶ。「お姉ちゃん、来たに！　今、電車の音がした！・・」　大きな缶に沈んだ透明の宝石「水飴」は、夏ばて防止のおやつだった。　亜由美は、箸の先にくるくると水飴を巻いてもらい、片方の頬っぺたをこんもり膨らませて朝からはしゃいでいた。　克子は、亡くなった茂郷の会社を悦子と共に支えてきた志津の妹だった。二人は客用の布団を整理しながら、亜由美を見て微笑んだ。「姉さん、今日は賑やかになるねー」「ふうんとなー（本当ね）　タッコは一人で下って来れるでね、直に来るらー」　林家と大谷家は時折り、姉妹を会わせた。公明は、博文と武文に亜由美という妹ができたことを喜び、可愛がった。　ランニング姿の二人は背中に汗を滲ませながら、夏休みの宿題に追われるが、亜由美の騒ぎが気になってしかたない。　「うるさいぞー！」　亜由美は果樹園の真ん中を突き抜ける一本道に出た。「おかあちゃん！　克子おばさん！　聞こえた？　電車が止まったに・・」志津の前掛けの端を引っ張って亜由美が言った。「よかったじゃんけー、タッコちゃん来るに、東京の愛香ちゃんも利成君も、甲府の美佐子ちゃんも皆んな来るでね！」「亜由美の家に集まるんだに、皆んなが！・・ヤッホー！　」　　竹のように細い博文と、向日葵のように丸い武文の中で雑草のように育つ亜由美はこの辺りでも、やんちゃで評判だった。　伊那町で泣き虫だった少女が、泣かす側になっていた。　多希子は進二に乗せてもらった飯田線を降りると、じりじり照り付ける太陽に弱ったホームを歩いた。　「セミしかおらん（しかいない）、この駅は・・」　背中のリュックから、醤油の匂いがしている。　冴が拵えた佃煮の汁が出たらしい。「佃煮の汁、こぼれたかもしれん・・・まあいいでね、学校の意地悪より・・」　黄色いランドセルに雑巾を詰められた日を想い出す。　　退屈そうな駅を出て、山道を下り始めると木々の間から広がる果樹園が見えた。「亜由美ー！　やっほー！・・聞こえとるー！？・・」　多希子はそう叫ぶと、忍者になって林家目指して走り出した。　背中のリュックが上下に運動すると、佃煮が悲鳴をあげた。「おう、来たか！来たか！」　公明が両手を広げて果樹園から出てきた。　背中に桃が詰まった籠を背負っていた。多希子はハーハー言いながら額の汗を拭った。「この山は忍者部隊にもちょっと苦しい」「お姉ちゃーん！　こっち、こっち！　亜由美が先だにー！　一番だに！」　亜由美はそう言って、果樹園の中を翔けて来た。「亜由美ー！　元気でおった？」　「おったよ！　そいで（それで）今日が一番元気だに！」　二人が手を繋いで歩きだすと、博文と武文が頭を掻きながら庭先に出てきた。「井戸にスイカが冷えとるで！」　博文がそう言ってにんまり笑った。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回　土曜日　「少女が乗った電車」　）

  2006/06/22

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• 未来線～銀河線　指定席にて

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「紫輝」今日の分は、この前のページにあります。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　指定型バトン　ルール：　廻してくれた人から貰った【指定】を【　】に入れて答えること。　　　　　　また、廻す時も、その人に【指定】する事、だそうです。　kitakitune０５さんから受け取った【指定】は【小説】　１．最近思う【小説】　　　　　　　　　　　　「若者よ、メール打つより本めくれ！」　どこかで見た川柳より。　　　　　　　　　　　　　名作は静かに底流をゆく・・と思う。　　　　　　　　　　自分の書いてるものは「小説」に到達していないと思う。２．この【小説】に感動　　　　　　　　　　　「博士の愛した数式」　小川洋子　　　　「I　ａｍ　SAM　」　クリスティン・ジョンソン　（４年程前に映画化）　　　　　両書とも心身に障害を抱えるピュアーな主人公（でもある）、欲のない生き方。　　　　　透明な心が映し出される行間、取り巻く人間の「同情」と違う自然の愛が溢れる。３．直感的【小説】　　　　　　　　　　　　んー・・・・？？？、では直感で行こう！　　　　　本物の小説・・・「ｔｕｇｕｍｉ」吉本ばななさん書　　　　　数ページ読んで、つぐみちゃんが（始め嫌な女）作者自身であることを直感！　　　　　　　　　　　　　私の笑説・・「想像以上日記未満」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フィクション時々ノンフィクション。　仄々、ドキドキ、うるうるする未来がくる。　　　　　　「チャンスー！！」と思った時が書き時。　直感！　これを逃すと書けない。４．好きな【小説】　　　　　　　　　　三島由紀夫「潮騒」５．こんな【小説】は嫌だ　　　　どろどろ系。　　官能小説（？）。　後味悪ーい、重ーい小説。　　　　登場人物が多すぎて、脳が追いつかない小説。「この人、どんな関係者だっけ？」　　　　　　６．この世に【小説】が無かったら？（いなかったら）　　　　電車内で目のやり場に困る。　携帯いじる人が増える。　老化が進む。　　　　映画会社、テレビ局が困る。　本屋がつぶれる。　　　　　隠れた脚本家がどんどん出て来る（きて欲しい）　　　　　　　　私がブログを始めることは一生なかった。　日本列島に仲間が出来なかった。　　　　「会えぬ」からこそ、気になる心が色付く事はことはなかった。　　７．次に渡す人　ANEさん　　　　　廻す指定は【仲間】　という事でお願いしまっす！　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　次回　木曜日 カーソルをそのまま下へ．．．．どーぞ「紫輝」流行歌　高校三年生　　

  2006/06/19

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• 「紫輝」　流行歌♪　高校三年生

  　山を下った姫達は、お叱りのほとぼりが冷めた頃を見計らって移動した。小屋の周りに何本もの大木が茂る仁美の家。　横ずれした姫達は、ひやひやを甦らせた。「ここなら、見つからん！」「部隊は守られたでね！」　風を切り、山中を走り、時々青空を感じて躊躇から脱皮した姫達。主犯の少女の影の味方は、冴だった。「まめが一等！（元気が一番）・・」　多希子の順応性を超えた「はらはら」に、進二も良子も微妙な笑いで冴に頷く。迷いと苦悩に打ちひしがれた日々が、パノラマのように移り変わる。　その夜、蚊帳（かや）で見えなくなった畳の上で、良子が言った。「今夜からここで寝るで・・」「網のお家だにー！　黒い緑の網の中で？　皆んーなで寝るの？」　勝輝が裾で固まった網を潜ろうと悪戦苦闘し始めた。「蚊が入らんようにせにゃあ！　ほれ！さっさと入って出る時も直ぐ出にゃあ！」　良子の言葉で、蚊帳の役割がわかった多希子は、蚊帳を組み立てた進二を凄いと思った。　早々に寝巻きに着替えてやってきた二人は丸まった蚊帳の裾を捲り上げた。三つに満たない勝輝を、敷き詰められた布団に座らせ「基地のようだね・・」と言って大きな蚊帳の中を這い始めた。　　一暴れした後、山になった布団に乗って二人は汗を拭った。「いい？　勝輝！　これから音楽の学校ごっこするでね。　タッコが先生だに！」「・・・・うん・・」「♪赤ーいー夕日がー校舎を染めてー・・・・弾む声、あああああー高校三年生、僕等離れ離れになろうともークラス仲間はー何時までーもー・・♪　　ね？　こうだに！　わかった？」「・・わ　か　ら　ん・・・」「駄目なー！　へえ、この歌は村の衆が皆んな歌えるに！　覚えんと遊べんでね！」「・・わからんで・・」　勝輝は首を横に振ってから、落ちたきた涎を啜り上げた。大人達も、同じ山を登る中学生も、仲間も、口ずさんだ。　山道でも、あぜ道でも、川の辺でも、繰り返し歌われた流行歌は、やまびこよりも、村に平和を木霊した。　勝輝は蚊帳から非難して出て行った。進二が蚊帳に残った多希子を見ながら呟いた。「あの子は、令菜には似とらんなー。　あれは真麻の血だにー」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回　「林家のアイドル・亜由美」　　　　　　

  2006/06/19

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• 「紫輝」　忍者部隊月光

  　集団登校に黄色いランドセルが仲間入りして数日経っていた。教室では 「興味の的」を悪戯で迎える日もあったが、縦糸と横糸がぎゅっと覚悟の結び目をつくっていた。「タッコちゃん、この山道は冬は凍るんだに・・」「滑って困るんなー・・・」　六年生の茂子は先頭を歩きながらそう言って妹の手を引いた。「・・この細い坂が凍るの？　木と木を縄で結べばいいに」「それに、つかまるの？　」「男の衆だって、そんな事せんよー！　考えもせん・・」「遠回りだしね・・この道は・・どうもそんな気がするに、タッコ・・」　紀子は細くなったせせらぎを　「よいしょっ！」と言って跨いだ。「蟹だ！　蟹がおるよー！・・」　多希子はしゃがみ込んで、透明な水の底に手を入れた。「タッコちゃん、蟹に見惚れたったら学校遅れるで・・急がんと・・」　同級生の京子と仁美が涼しい顔で微笑んだ。　新入りの真新しい机に炭が積んであった。多希子は右手で一気に払いのけた。　机の煤を 「ふーっ！」と飛ばし、落ちた炭を足で蹴った。視線を向ける坊主頭の塊りを睨んだ後、静まり返った教室を見渡した。「あああ・・鼻が黒くなったで、洗ってこよ！　積んだ手はもっと汚れたに！ 気の毒！・・」　町の学校と違う国語の教科書に 「北斗七星」があった。　この村は星が近い。音楽、図工、体育と、村でしか味わえない授業の良さを発見する。「タッコちゃん、こっちの道は違うに・・」　仁美が黒い髪に負けない位、大きな黒目を開いて立ち止まった。「そうだに、寄り道はいかんのだに・・道も無い、こっちは・・」　優等生の京子も多希子の背中でそう言った。「歩いた所が道な。ここを下ると大谷の裏の竹薮に出る！　うんと早く！」「大丈夫だか？・・」　歪んだ顔で、渋々多希子の後ろを付いて来る二人は、次々と掻き分けられる木々の間をひたすら歩いた。「あったー！　天竜川だに！　見えるらー？」　多希子はそう言うと、いきなり走り出した。　「待っとってー！　タッコちゃーん、コケルにー滑るにー・・」「いい？歌うんだにー！　♪進み行く忍者、正義の味方、姿も見せずに現れ消えるー♪」「・・歌うで、もうちっと遅く遅く！・・」　多希子が振り向くと、息を切らせた二人が顔を上げた。 「ああー・・」　それから間も無く・・変身させられた「たおやかな姫」は、二人から五人になった。♪「・・弾丸の中も何のそのー・・・月光、月光、忍者部ー隊ー」♪投げられるイガイガのシュルケン、利用できる植物は輝く目の先には幾つもあった。　演出が高まると、多希子は言った。「　散れ！！・・敵はブラック団とマキウラ！」「おらんじゃん、敵？・・」　　「そうなー、敵がおらんにー！　つまらん・・」「蜂と蛇、かぶれる葉っぱと・・・それから、スカートめくる男だ！・・」　　数日後には額に折り紙が貼られた。　「満月、半月、三日月だでね！」　「貼らんと駄目？」．．．．「鍋をかぶってもいいに・・」。　おそらく鍋をかぶる姫はいない。　　良子は、聞こえいた子供達の声や、てんでに（各々）帰る愛くるしい姿が途切れたような日常に少しの不安を感じながら台所に立っていた。目の前の竹林がざわざわと音をたてると、良子は野菜が入ったザルを持ったまま窓の向こうを見た。そして仰天した。　竹林から、一人二人と出て来る少女は、左右のパンツのゴムにスカートの裾を挟み込み頭にツタを絡ませ、何とも恥じらいの無い恰好だった。「よいしょ！っと・・」　多希子が両手で土を掃いながら満足げに現れ、青空を見上げている。「あれー！　何ちゅう事かなー！　」　良子は、他の姫の親が仰天する様を浮かべると、しだいに固まっていった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（　次回月曜「流行歌♪　高校三年生」）

  2006/06/17

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• 「紫輝」　　姫達のお出迎え

  　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05－さん　 　多希子は、にわとり小屋に行く進二の後ろを目を擦りながら歩いて行った。新入りに警戒する隣の犬が吠え、にわとりがコッコ、コッコと騒ぎはじめる。「生んだ、こんなに生んどるよ！　おじさん！」　多希子は生暖かい卵を両手にのせ、「ひよこ」になれない卵に謝った。　進二はトマトを上手にもぎ取ると、多希子に「井戸で洗ってからだに・・」と言って渡した。　季節の小花を踏みながら井戸に走った多希子は、石垣の竹の皿にちょろちょろと流れ込む山からの水でトマトを洗った。　口の脇から汁が零れ、美味しい空気と水に触れたトマトを、息もつかずに食べてしまった。　「おばさーん！　タッコは着替えんと・・トマトで汚れた！　あの花籠の服着たい！」　真麻から届いたブラウスを箪笥から出すと、規則正しく折り重なった贅沢なレースと胸元の刺繍に触れた。　「綺麗！　花が籠にいっぱいだー、このブツブツは花の蕾だね・・」「それはダメだに、タッコ。　学校へは着んで、お出かけの時だに」　冴がそう言うと、良子も黙って味噌汁をよそり始めた。「何でなー！　タッコはこれ着たい！」「だーれも、そんなハイカラな服が着とらんでね。　持っとらんでね、ここの衆は・・」　冴の気配りにむくれたた多希子は、早速良子に救いを求めた。　良子も同じ顔をしていた。　「なーんだ・・東京の服・・・」　多希子は、色も形も見えない心を感じ取った後、ブラウスを箪笥にしまった。　やがて、石垣を上がった広い庭で大きな声がした。「多希子ちゃん！　学校行くにー！」「一、二、三、！　多希子ちゃーん！」　　コーラスを聞いた多希子は笑顔を取り戻した。「来た！　来てくれたに！　おばさん、ねっ？」　タッタッタタ！　という足音の連打が、大谷家の朝に加わった。　そっと玄関を開けると、青空の前に背丈が違う七人の姫達がずらりと横に並んでいた。「あっ！・・」　にんまり微笑み、もじもじする姫の列は気持ち良いほど真直ぐだった。池の鯉も、放された鶏も、臭い豚も、知らん顔のヤギも、いつもと違う光景に戸惑っていた。姫の集団に交じった少女は、にっこり笑って言った。「今、ランドセルを持ってくるでね。　待っとってね！」　　良子がつっかけ（サンダル）を履いて庭に出てきた。「お願いします・・頼むでね・・」「はーい！」　各々が、出掛けに母親に言われた言葉を心の真ん中に置いていた。「仲良くしにゃあいかんに！　新しいお友達だでね」　　冴は縁側で、赤に交じった黄色いランドセルが小さくなるまで手を振り続けた。　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回土曜日「忍者部隊月光」）

  2006/06/15

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• 未来線～銀河線　　再び

  進化バトン！（　義理と人情でお受けしました。）　　　　　　　　　　　　　　　 　即答でいきます！　こういうのは楽しく自然体で　 １．今一番欲しいものは？　　　　　　　　　　　タイムマシン、ドラえもんの「どこでもドアー」　　　　　　　２．幸せになれる食べ物は？　　　　　　　　　　　紫芋のモンブラン　桃　　オリジナル摘みの一品　 ３．今、夢中になってることは？　　　　　　　　　　　　ステージ控えたダンス♪　火曜はとにかく自分に戻れる　　　　　　　　　　　　４．自分の宝物は？　　　　　　　　　　　フリーページの「宝物」,　健康,　家族,　以上未満の関係　　　　　　　　　　　５．子供の頃なりたかった職業？　　　　　　　　　　　バックダンサー　　スチュワーデス？図々しい！　　６．ここだけの話、宝くじ３億当たっちゃったら？　　　　　　　　　　　披露する「ここだけの話」・・1億はある所に寄付させていただく。 　　　　　　　　　　　1億は身内に分けて、９９０万は我が家,旅（妹が住むロスか北海道一周、沖縄）　　　　　　　　　　　１００万は・・へそくりが足りなくて涙を飲んだ「共同出版」、過去に　　　　　　　　　　　引っ掛かった物を出版化。プロの方ごめんなさい。　　　　　　　　　　　一度は世に出したい 　７．あなたの変な癖は？　　　　　　　　　　　ついついストレッチを、特に首筋　　８．今回のワールドカップ、ズバリ優勝国は？　　　　　　　　　　　ドイツ、　「頑張れ、日本！」本音はここだけれど・・　９．次に渡す人５人　　　　　　　　　　　習太郎さん、 ｍａｋｏｂａｓｓさん　　　ずうじゃじじいさん　　　　　　　　　　　他、受けて下さる方。　　　　　　　　　　　漢字バトンで刺激得た方でもＯＫ　　　　　　　　　　めぐみ　かおと

  2006/06/14

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• 「紫輝」　第二部　　転校生は・・町からやって来た！

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05　澄みきった大空、燦々と照らす太陽、どんより曇った空が割れて顔を出す太陽。アルプスに撒き散らされた陽は、母を思う少女のエネルギーとなって反射する。　遠慮なく轟く鶏の声で目を覚ました多希子は、心構えを済ませたランドセルを持った。大谷家の真ん中を突き抜ける廊下は、黒く光っており、良子がせっせと拭いている。　湯気の立つ台所では小さい体の冴が背筋を伸ばし、ザルを持って畑と鶏小屋に向かう進二の後ろ姿もあった。　繰り返される大谷家の朝だった。　多希子はいくらか緊張した面持ちで、良子と家を出た。冴が縁側から手を振っている。「おばあちゃん！　大丈夫だでねー・・行ってきまーす！」　陽に光る木の葉が低い天井や高い天井をつくり、隙間を見つけて顔を出す太陽が二人にスポットライトを当てるようと頑張る。　川のせせらぎに沿って地面から現れた根っこの階段を登ると、もうそこは天国だった。　裏山を抜けると、限りなく空に近い学校が見えていた。「着いたー・・タッコの学校だー・・」　校門で大きな桜の木が多希子を出迎えると、負けじと並ぶ銀杏の列が見えた。何処からか聞こえる歌声が美しい。　音楽室がどこにあるのかキョロキョロしながら歩いた。「見てみー、ここは小学校と中学校が渡り廊下で繋がっとるんだに」　お粗末な屋根の下に、すのこが縦に並んだだけの廊下があった。「あっちが中学だー・・校舎が威張っとるでね・・」　校門の脇の高台に下がった木のブランコや滑り台を気にしながら、職員室に向かった。あまりにも広い校庭に仰天した多希子は、黒い校舎にメリハリが付いた白い格子の窓辺で足を止めた。　そしてまた外を見た。　遥か彼方に鉄棒が段をつくってお行儀良く立っていた。　「凄い・・村の学校だー・・」「福沢栄子先生・・」。　良子がそう言って担任になる福沢に深々と頭を下げた。　多希子はふんわりとした笑顔とクルクルのパーマを見た。　やがて柔らかな手と握手を交し、福沢の左右に動くお尻を見ながら、きしむ廊下を歩き出した。　　ガラガラと音を立てて扉が開くと、団子になった集団が慌てて散った。「転校生を紹介します！」　赤面した多希子を、背中の父が「ポン！」と押してくれた。「林　多希子です。　よろしくお願いします・・」　昨夜、布団の中で何度か繰り返した言葉だった。「わー！！」　「来たに！　来た！　とうとう来た！」「町の転校生だぞー」　教室は再び騒ぎとなった。坊主頭と坊ちゃん刈り、　おかっぱ頭と縄のような二本のおさげ・・たくさんの顔が飛んだり跳ねたりし始めた。「・・お友達になって下さい！！」　予定のない言葉と多希子の凄味は、そのざわめきに止めを刺した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（次回１５日　「姫達のお出迎え」　）

  2006/06/13

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• 車内案内ーー未来線～銀河線運転手より

  「紫輝」　第一部は終わりました。　前の前のページをご覧下さい（今日～ご訪問される方へ）　　｛漢字バトン」が恵の手に渡されました。　停車中ですが、運転席にて・・・・　１．好きな漢字を３つ　　　　　和・・・和み、平和、和合、大和魂が好き？　インテリアの「和」に凝っているから。　　　　微・・・微妙、微力、微笑。　自分自身だから　　　　惜・・・「惜しまれる人」に　　　　　　　　「自分で自分を惜しむ人」にはなりたくない。傲慢だそうです・・２．前の人が挙げた３番の漢字のもつイメージ　　？？ムズイぞ・・solyaさん！　　　　　　序・・・秩序・・じゃなくて、どちらかというと序文。　心構え！　　　　破・・・突破口、殻を破る、自分への挑戦！　　　　急・・・自分自身、　せっかち、　損、　だから落ち着け！３．次の人に回す漢字３つ　　　　粋、　義　、空４．大切にしたい漢字３つ　　　　感　、　心、　穏５．漢字をどう思うか？　　　　肝心な時に出て来てくれない意地悪な奴・・　　　　変換されるが為に・・助かる奴、　　　　　　一枚の絵のように、集結された芸術。　　　　　　　　漢字が存在しないと、小説は存在しない。　童話のみ。　　　　お経も無い。　名前も難。　だから、中国は偉い！　６．　好きな四文字熟語を４つ　　　　喜怒哀楽　　　　楽観主義　　　　報恩感謝　　　　桜花爛漫７．　次に渡す人７人と、その方のイメージを漢字で。　　　kitakitune05さん　　腕　　　ANEさん　　　　　　　爽　　　にゃんこのガリレオさん　　直　　　ツヨシさん　　郷　　　マサトさん　　巧　　　ｅｄ８０さん　　　深　　　KAZU０８７３さん　　感　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宜しくｍ（－－）ｍ　　めぐみ　かおと

  2006/06/11

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• 香乙発ーー未来線～銀河線

  　ご乗客の皆さん！　「紫輝」第一部を読んで頂きありがとうございました．　　また、数々のコメント、感想、写真応援頂き、とても感謝しております。　幅広い年齢層の方に読んでいただき、「出会い」が運ぶ感動や共感、和みや癒し、教えられる様々な事に日々感謝です。～・～・～・～・～・・ 二部で出会える風景（抜粋）～・～・～・～・～・～・～・　　　　　　　　転校生は「町からやってきた！」　　　　　　　　忍者部隊月光　　　　　　　　林家のアイドル・・・亜由美　　　　　　　 少女が乗った電車　　　　　　　　[しかえし] 動員数１８名・・・「見くびるなよ！！」　　　　　　　　初恋　「若すぎた恋人・９歳」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　他、お楽しみに～’～’～’～’～’～’～’　ブレイクタイム　　～’～’～’～’～’～’～’～’　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中谷彰宏氏　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　著書「お金と才能がないほど成功する５２の方法」より　　「　練習は裏切らない　」　　「　出来る事より、やりたい事をする　」　　「　成功する人は言い訳をしない　」　　　　　「　今しか出来ない事をしっかりやる　」　　「　努力だけでは前に進めない。　工夫すると前へ進む　」　　「　なんで？・・と疑うより、不思議・・と受け入れる　」　　「　期待に応えるより、応援に応えた人が勝つ　」　　「　何をやっても上手くいかない時代を持つ　」　　「　何もしてない・・と言う人ほど、何かしている　」　　「　いい子を演じない、嫌われることを恐れない　」　　「　頭でわかっている人は、体でわかっている人に勝てない　」 　「　悪玉やきもちより、善玉や気持ちを　」・・・・悪玉ー自分をダメにする。足を引っ張る　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 善玉ー向上する。工夫に注目する　 「　求められたことに全て応えなくてよい　」・・・相手の求めるものに無理して応えるより　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 自分の出来る事をサービスする。　 「　今ある物をいかす　」・・・・・・・［献立ありき］より［食材ありき］。 「アクションより、リアクションを　」・・・友達を広げられる人はリアクションがある. 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「凄い！」　「へー！」　「何で？」　「不思議ー！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「うん、うん、そうなんだー・・」　「本当に？！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「大丈夫？！」　等。　（聞き上手含む）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（次回２部「転校生は、町からやって来た！」１２日火曜）

  2006/06/10

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• 「紫耀」　第一部　終・・「雪占」

  　山肌におりなす雪占は、自然の息吹をたっぷりと吸い込んで柔らかく映える。　　冴が良子と五平餅を拵えながら囲炉裏の傍で話している。「わしの眼の黒いうちは、多希子を傍においとくでね・・・」良子が扱ぐすり鉢から山椒の香りがしている。　胡桃、味噌、調味料と和えながら冴の言葉に頷いた。　冴は串に、小判になったご飯を三つずつ刺しては行列を作っていた。「何しとるの？・・」　ふいに多希子が、突き抜ける煤の高い天井の下で展開される光景に足を止めた。「今日はタッコちゃのお祝いだでね。　ご馳走な！」「五平餅だに！　どいれー美味しいにー・・」「この炭の上で焼くの？　・・タッコも手伝いたい！」「ほんなら、ここに座りな・・」　冴は隣に多希子を座らせた。　良子は二歳になる勝輝に時折気を向けながら、すり鉢をヘラで混ぜ始めた。進二は仕事から帰るなり、ザルにたくさんの卵を入れて勝手口からやってくると「タッコ、今朝生んだ卵だにー！」とザルを斜めにして見せた。「へー！　鶏は偉いに・・豚は寝とるだけだし、山羊はタッコを見んし・・。　おかあさんは亜由美と亨を生んだでね、鶏より偉いに！」　香ばしい焼き色の小判に、塗られた味噌がじりじりと動く。和みの「歓迎会」は、大谷家のど真ん中に居座る囲炉裏で、山椒に負けない心の香辛料が多希子を暖めた。　さらに串にしがみ付いた歪な小判も、図々しく行列に加わり皆を暖めた。　進二と入った五右衛門風呂の底板との格闘に疲れたのか、はしゃぎ過ぎたのか・・多希子は冴の横に敷かれた布団に入った。　　暫くもじもじ、ぶつぶつ落ち着かなかったが、冴の心配も他所に、多希子は眠った。「へえ、明日からは学校だでね、頑張っていかにゃね」　進二は風呂で交わした会話と令菜の面影を暗闇で再生させていた。　「ランドセルがあるでね、タッコは大丈夫だに・・」　オルガンの下で眠る黄色いランドセルには、不安と好奇心と、父親がくれた勇気がたくさん詰まっていた。　　　それは多希子の新たな出発だった。　　　　　　　　　　　　　　　　　第一部　終わり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（明日夜　未来線～銀河線）

  2006/06/09

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• 「紫輝」　　離ればなれ

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitatitune05－san　　それは、真麻の二度目の決断だった。姉の死で義兄茂郷に嫁いだ真麻にとって、茂郷の死は途轍もない天からの放射能だった。　　安全地帯に逃げ込むなどと非難中傷が仮にあったとしても、誰がそれを止められようか・・心身ともに整理しなければ、生きていけない状態に追いやられた者を。 　真麻は東京に行く事を決めた。　幼い子を連れての都会での出発を引き止めた両家はそれぞれに「忘れ形見」をあずかることにした。　　　やがて、多希子の世話をしてきた悦子は親類の紹介で有線放送の仕事についた。幸之に会社を託し、製糸会社の頃から番頭として茂郷を支えた三沢は専務になった。　　　林家では働き者の志津が牛の世話から戻り、ぎっしり生えた睫毛の下で大きな瞳を潤ませ座敷にやってきた。　亜由美がハタキで二匹の猫とじゃれ合っている。「じきに向かえに来ます。　しっかり環境を整えて・・」　そう言って、真麻が畳に額をつけながら公明と志津に頭を下げた。　大谷家では、真麻とも亜由美や亨とも離れて暮らすことを自覚できる多希子が訊ねた。「東京は、遠いでね・・ずっとタッコを覚えておる？　おかあさん？・・」　冴と進二の傍で、やはり前掛けで涙を拭う良子がいた。「覚えとるに決まっとるでね。　おばあちゃがいるで安心していいでね！」 　冴は生きてきた中で最高の笑顔を繕ってそう言った。「アルプスの向こうだで、タッコを何時も見てるに。じきに迎えに来るし・・」　真麻はそう言って一度多希子を抱きしめると、すぐに立ち上がり、悲しみを振り払うように消えて行った。　　母親の只ならぬ決心を生命で感じ取った少女も母親以上の覚悟と決断を小さな胸に立てた。「タッコは、悲しくないでね！　大丈夫だでね・・」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回９日、金曜日　第一部　終「雪占」）

  2006/06/06

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• 「紫輝」　　東京のおばちゃん

  　亡き弟が残した三人の子どもと真麻。　林家の長女綾子は心を痛め、悲哀追放に頑張る真麻達を時々東京に呼んだ。　よく事情を知り、情の深い夫の常男は、真麻や子供達をいつも歓迎した。　その人柄は細面の涼しい顔に滲み出ており、実直な父親の姿は二人の子供の素直さや優しさに流れ込んでいた。　真麻は綾子に帰りたがらない多希子を頼み、下の二人を連れて数日後に長野へ帰った。緑がたくさん残る武蔵野の大地は、多希子が仰天した東京中心部の風景とは違っていた。　ビルの間の道は自動車が繋がり、密着した家々の中に遠慮がちに路地が角を幾つも作り、東京タワーが空に向かって巨大な都市を主張する、あらゆる光景がまるで別世界だった。　綾子の家は経済的にも裕福であった。多希子を引き止めた綾子の家は洋風で、畳の代わりに敷かれた絨毯の上には丸い大きなテーブルと椅子が品良く置かれ、テーブルから下がる白いレースのひらひらを多希子は何度か触れてみた。　皮の匂いがする応接間や、季節の花より引き立つハイカラな花瓶、入り込む風に靡くカーテンなど、長野に無いものがそこには存在していた。「タッコはシンデレラのような気がするでね！・・」　目をきらきら輝かせた多希子が言った。「夏休みじゅう、おればいいじゃん」　綾子の長女は、従姉弟の多希子を妹のように可愛がり、伊那にも時々遊びに来ていた。愛香はベッドがお気にめしたと思われる少女に微笑んで言った。「今日はこのベッドで寝ていいからね・・」標準語が何ともお洒落な外国語に聞こえると、多希子はやはりシンデレラになりたいと思うのだった。　「タッコが寝てる布団はねえ、赤や紫の大きなお花の絵があって、それで重いんだに」「田舎にはベッドがないけどね、お家やお庭は広いでしょう？　たくさん遊べるわね」　夕方になると、聞こえていた子供達のジャンケンや缶けりの声が散って行った。　愛香が、兄の買ってきた線香花火を持って部屋に戻ってくると、白地に赤の水玉模様のスカートを履いた多希子が、長い髪にネッカチーフをかぶり、愛香の人形を幾つか並べてベッドで眠っていた。　愛香は、揚げ物の匂いがする台所へ向かった。黒髪でよけいに白く見える愛香の口元はいつも優しい顔をつくっている。「ねえ、多希子・・・だけど・・」綾子が振り向くと、黄色のエプロンの端っこを掴んだ愛香がそっと言った。「多希子をうちで、引き取れんの？　駄目なの！？・・」綾子は暫くコロッケを揚げていたが、火を止めて大きなキャベツを手に取ると、そっとしゃがんで愛香の目をじっと見つめた。「うちで引き取ったら、真麻おばちゃんに疑いを持つでしょう？・・お母さんだって信じてるんだから。　大谷の家のおばあちゃんだってタッコを傍に・・と思ってるのよ。　なんと言っても忘れ形見だからねー・・」　　愛香はその後も、何度か綾子を困らせた。　　　多希子は、姫になったまま健やかに眠っていた。　「東京は空が白くて、星が小さいに・・」　夢の中で愛香に話した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（　次回６日　離れ離れ　）

  2006/06/04

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• 「紫輝」　　多希子の逆襲

  　雪が消え去った街で、子供達は太陽の行く方へ動いて遊ぶ。多希子が学校からから帰ると、中庭でシロがお義理で尻尾を数回振った。すると、ほうきのように地面の土が舞った。　　主が居なくなった後、シロも小屋のの傍で変化した辺りを眺めるばかりだった。　亜由美がまた泣いて帰ってきた。　膝が血で滲んで土が付いて痛々しい。真麻は亨を負ぶいながら、亜由美の足を拭いて赤チンを塗っている。　多希子はオルガンの傍の指定席にランドセルを座らせると、亜由美の泣き顔を見て言った。　「待っといなね！　亜由美！」　最近、母真麻の中に起きている「　何か辛いこと　」に多希子は気づいていた。真新しい冷蔵庫だけが浮く台所で、時折母親がすすり泣く姿を柱の影から見ていた。せめて、妹を守らなければ！、その自覚に立った時、たおやかな少女は変身する。　いつも亜由美をいじめる彼らとは、さっき擦れ違ったばかりだった。隣の男の子も何度か泣かされ、次第に外に出なくなったいた。　素手で立ち向かう相手は３人。　多希子は後先考える余裕もなく家を出て走った。　多希子に気づいた彼らは、尻を向け舌を出して逃げようとした。「許さんで！　またいじめたら！　」「ばーか！　へへーんだ！　捕まるもんかー」彼らを追う多希子が、学校帰りの友子の横を通り過ぎる。「タッコちゃーん！　どうしたのー！」足の速さは父親譲り、友子の声が遠くになると彼らの一人を捕まえた。「何な！　放せ！」「また亜由美を泣かしたらー！　」「あいつ、黒いからだよー！　頭もちりちりでなー！」「生まれつきなー！　どこがいかん？　弱い者いじめは男がする事じゃないで！・・」亡き父親の言葉を借りた。　つりあがった目、腕を握ったすさましい力、大きな声で、少年の下唇は次第に船底のようにあがり、泣き始めた。「よしなー！　和男！・・・その子は気の毒な子だでね・・・」垣根の脇から、白い割ぽう着を着たおばさんが出て来てそう言った。少年は多希子の腕を掃い、一目散に逃げ出した。　二人が消えた。　取り残された多希子は、風のように走って来た道を戻った。　そして、もう一度振り返って叫んだ。　「気の毒なのは、亜　由　美　だでねー！！　わかったとるのー！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回　明日「東京の叔母ちゃん」）

  2006/06/03

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• 「紫輝」　　町のうわさ

  　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05－san　脈打つ時間は、アルプスを薄紫から白へ変えながら過ぎていった。茂郷の逝った後、家の中は雪の降る辺りよりいっそう寒く静寂に満ちていた。　オルガンの下に座る黄色いランドセルに身をゆだね、多希子が静かに折り紙を折る。父親が早々に特注したランドセルを、多希子が背負う姿を見ることはなかったが、何時もランドセルに寄り添う姿を、この部屋の何処かで茂郷はきっと見ていると真麻は思った。　亜由美は丸いちゃぶ台でビスケットを食べ、亨は茶の間を元気に這いずり回り時々捕まり立ちをして、好奇心の先に手を伸ばしてはバランスを崩し、ひっくり返る。それでも、大きな目をパチパチしながらムクッと起き上がった。　真麻は渡り廊下で一人窓の外を見ていた。シロが残した足跡も消え、夏休みにラジオ体操をした会社の広場に薄っすらと白い絨毯が敷かれていた。　風が吹き込む窓辺で、友子の母の言葉を何度か想い出す。　「東京はいいに！　人の噂も聞こえんでね・・・自由に暮らす人の集まりだでね。真ーちゃも未だ若いんだで、考えるんなら今だに・・」　確かに聞こえてくる噂は、「林の上のお嬢さんは令菜さんの子」　「あそこは異母兄弟」「気の毒になー」　「後妻が女社長になるんずらー・・・」・・真麻は疲れ果てていた。地球が回るまま、陽の向くままに生きるしかなかった。　「どうした？　姉さん！・・」残務を終えた幸之が、数人の社員に手を振りながら渡り廊下を歩いて来た。　「窓なんか開けとったら風邪ひくよ・・」　「・・冬が終わったら、伊那にも春が来るでねー・・」　音も色もない冷たい夜に、ほりの深い整った顔立ちの真麻は白雪姫のようにあどけなく、時に雪女のように切なく映った。　そんな横顔を見つめながら幸之が言った。　そして、予期せぬ言葉は真麻の心を少しだけ暖めた。　「・・姉さん、・・俺が三人の父親になるよ！　・・・駄目か？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（　次回３日　「多希子の逆襲」　）

  2006/06/01

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• 香乙発ーー未来線～銀河線

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05－san　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～　車窓から見えた風景　～　　　　　　うららかな恋　　アルプス　　消えた天子（令菜２４歳）　　妹なおし　　真麻の決断　　　真空管からマイコンデンサーへ　　生きていた放射能　　令菜と共に永眠（茂郷３２歳）　だっこちゃん　　フラフープ　　ラジオ体操　　三種の神器　　力道山　　長嶋選手　　　　　　「弾ける多希子」「寂しい多希子」・・の横顔が見えましたか？　　　　　　　　　　　　　　～　ブレイクタイム　～　この時期、水蒸気の多い不透明な空に、赤味かかった満月が見られるそう　・・・・・・・・・ストロベリームーンて言うらしい。　素敵　好きな人　・・・野沢　尚（脚本家）　　　　　　　　　　　　宮本　輝（作家）　　　　　　　　　　上田　正樹（♪「悲しい色やね」）　 　鎌田敏夫（作家）　　　　　　　　　　稲本選手（サッカー）　　　　　　　　　　三谷幸喜　　　　　　　　　　　　　佐藤浩市（俳優）　　　　　　　　　　　　 坂本竜馬　　　　　　　　　　高倉　健　（俳優）　　　　　　　　　　　　 諸葛孔明　　　　　　　　　　山下智久（Ｊ）　　　　　　　　　　　　　　 木村尚三郎氏　　　　　　　　　　ジャンレノ　　　　　　　　　　　　　　　トムクルーズ　　　　　　　　　　向田邦子（作家）　　　　　　　　　　吉本ばなな（作家）　　　　　　　　　　　　　　　　天海祐希（女優）　　　　　　　　　　松雪泰子（女優）　　　　　　　　　　木村多江（女優）　　　　　　　　　　キャサリン　セダ　ジョーンズ　　特別ゲスト・・・・クロフネ、オレハマッテルゼ（オレ、ハマッテルゼではなくオレハ、・・）　　　　　　　　　　 　　ディープインパクト　（牡馬）　　　　　　　　　　 　　コイウタ（馬主、前川清）、ダンスインザムード（牝馬）　　　　タイプ（私的）・・・感性豊かな人（隠れた物に価値を見出せる人・・・）　　　　　　　　　　　話にセンスがある人　　　　　　　　　　　感動、感謝を忘れない人　　　　　　　　　　　人の幸せを喜べる人（特に女性・・）　　　　　　　　　　　配慮、労いの心がある人（特にリーダー）　　　　　　　　　　　生き方が粋な人（自分を持っている）　次作タイトル検討中（内容含む）・・・・・「連鎖反応」　「私　恋してます！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　「ブログ仲間の独り言」　「時計」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　「ときめき、きらめき、心意気」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　次は何書こう・・？　　　身近な友の「今」や「思い出」を日記以下秘密以上に織り込んだ小説　　「夢の中へ」　「あなたが素敵だった訳」　「社宅ときめき物語り」　 　これらは、人間関係、信頼関係・・本音の取材、厳守、などポイント。　　　　踊って、叩いて、書いて、観て、読んで、主婦して、夢みて、　　たまにときめいて（笑）・・・　　　ああ・・・やることいっぱい！　で、楽しい！　　そうだ！　花芽が出たか？　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　次回　６月１日「町のうわさ」

  2006/05/30

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• 「紫輝」　　父の消息

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Photo　by　kitakitune05ーsan　 多希子はこうして実父母を失った。　かみ合わぬ運命があるとすれば、悲嘆に暮れる人々は運命のシナリオを書き換えたい。　多希子が長い入院生活から戻ると、茂郷は黒い額縁の中にいた。活気を失った家や事務所に、中庭でシロと遊ぶ無邪気な亜由美の声だけが響いていた。「いつ帰るの？　おとうちゃん・・」「・・仕事で遠く行ったでね・・」「幸之おじちゃん、知らん？　いつも一緒にいたね？　遠くはどの辺？」「・・海のずっと向こうだで・・」　多希子は海を知らない。　ただ、二人の顔が明るく語っていなかった事で、海は限りなく遠く、薄暗く、地平線に太陽が乗っかるような絵で見る海は浮かんでこない。「この箱におるよ！」多希子がテレビに近づいて、そう言った。いつだったか茂郷に手を引かれ、入った事務所で自慢げに話す父を想った。緩んだ笑顔で多希子を抱き上げ、机に座らせると、傍にあるトランジスターラジオを持った。「声がするに？　この黒い箱・・」「そうだ、聞こえるか？　この中に人がおるんだぞ、凄いだろ？」「ここにタッコも入れる？」　茂郷は大きな両手で多希子のホホを揺らしながら笑った。　真麻は亨を抱きながら、幸之と顔を見合わせた。「ここは、隠れとっても、ちゃーんと見える箱だでね・・」と威張って見せた。　その晩、二人はテレビの電源を抜いた。泊りがけで真麻を手伝う悦子は、多希子に添い寝をしようと布団を敷いた。「おとうちゃんは、もう帰らんのだね？・・」眠ったとばかり思っていた多希子がポツリと言った。悦子は黙ったまま多希子の頭を撫でた。　すると、多希子の大きな瞳から、すずらんの蕾のような涙の滴がポロリと落ちた。　枕に滴が広がると、多希子は唇を噛み締め悦子に背を向けた。　　いずれ真麻が多希子の実母でない事を知る日も来るのだろうか・・と、悦子は胸を痛めた。　「桜の天井で、肩車してくれたんだにー。　会社の旅行の高遠原で・・」多希子は闇夜に向かってそう言うと、すずらんの蕾が後から後から繋がって零れた。長い長い夜は果てしない水平線のように続いた。　林家の裏山の自然の中でも絶景の高台に茂郷の墓があった。見上げればアルプス、見下ろせば天竜川。　済んだ空と綿雲が柔らかに戯れる。　やがて両家の深い思いで、亡き令菜を茂郷の墓に移した。二人はこうして、同じ墓の下で仲良く永遠の眠りについた。　　　　　　　　　　　　　　　林　茂郷　３２歳　　　　　　　　　　　　　　　　　　令菜　２４歳　続く（次回　３０日　未来線～銀河線）

  2006/05/28

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• 「紫輝」　　添う人へ

  　そんな周囲の思いとは裏腹に、病魔はのさばり、血流に乗って広く彷徨った。「兄さん・・いちじくが食べたいなあ・・」令菜が死の直前、生んだばかりの多希子を思って口にした言葉は「桃の汁」。　公明はさっそく街へ出た。あちこち歩き回り、やっと見つけた無花果（いちじく）を持って病室へ急いだ。「美味いよ・・兄さん・・」居合わせた誰の目にも、そうは思えなかった。　ただ、再び「生」への点火を促し、身体を蝕む病魔を追放したかった茂郷の思いが、「美味いよ・・」に代わったのだ。　すでに頭髪も無い茂郷は、まるで白い棒のように横たわり、辺りに充満する悲哀は原爆の凄まじさを甦らせる。　　兄嫁の志津が一人になった時だった。　窓からはわずかな光が差込んでいた。　雨上がり、雲間から時々遠慮がちに顔を出す陽が志津の背中にあたっていた。「姉さん・・・」か細い声に思わずだらりと垂れた手を取ると、茂郷は志津の腕を掴んだ。そして、まるで三人の子どもを託すかのようにぎゅっと力が込められた。「・・大丈夫だに！・・」　　病室への出入りが騒々しくなっていた。雨は再び強く地面を叩きつけ、窓ガラスにぶつかった雨は滝のように流れ落ちて行く。亜由美の手を引き、背中に亨を負ぶった真麻や、林家の皆が茂郷を囲んでいた。「タッコに会いたいなー・・・」息から漏れるようにして出た言葉は、雨の音に消えていった。　長い梅雨が明けようとしていた。念願だった亨の歩く姿をも見ることもなく、茂郷は静かに息をひきとった。　昭和３６年　７月１５日　　　　林　茂郷　　　永眠　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回２９日月曜日「父の消息」）

  2006/05/27

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• 「紫輝」　　放射能

  　降り続く雨は空も山々も灰色に落とし、色のない街に浮き建つ病院に茂郷は担ぎ込まれた。　白血病と診断が下されると、林家には嫁いだ姉妹が駆けつけた。弟の病で「広島の惨事」を甦らせた綾子は、足を震わせながら列車に乗り込んだ。　茂郷の被爆を証明するには、身内以外三名の証人の署名が必要とされる。・・が、既に駆逐艦に乗り合わせた仲間は同じ後遺症で亡くなっており、その証明は不可能となった。　目まぐるしく会社と病院を行き来する幸之と、幼い亨と亜由美の世話をしながら入院中の多希子の元へ走る真麻。　緊迫した事態は取り巻く人間の平穏を突然奪った。　そして、生きていた放射能に脅えた。　多希子は長い退屈に慣らされ、真麻が一日置きにしか来なくなった訳を知らない。事情を知りながら、ただただ懸命な笑顔で付き添う友子の祖母タエの胸は痛い。　真麻の背中で極端に元気な亨が、手足をバタバタさせながら周囲にある幾つもの「顔」を大きな瞳で励ます。　すると茂郷は亨に話し掛ける。「さーて、亨が歩くのが早いか・・俺の病気が治るのが早いか・・・競争だ・・」「・・・・・・」「そりゃー、お前が早く元気にならんとね！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（　明日・・）

  2006/05/26

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• 「紫輝」　悪魔の潜伏期間

  　高度経済成長の兆しが見え始めると、「働き蜂」と言われる日本人は、勤勉さと手先の器用さで様々な分野で技術革新を進めた。　　テレビ、冷蔵庫、洗濯機は「三種の神器」と呼ばれ、ライフスタイルに変化をもたらした。そして、茂郷の会社も元気になろうとしている日本の上昇気流に乗った。　亜由美は中庭でシロを相手に遊んでいた。赤毛で色黒の亜由美は、多希子と違って泣き虫だったが、泣く事で吹っ飛ぶモヤモヤはいつでも早い立ち直りを齎した。　　亜由美の足が治った頃、真麻は実質二人目を身ごもっていた。亜由美を事務員の悦子に頼み、その日も真麻は、多希子の入院先の病院へ向かった。　多希子の部屋は古い和室で、天井の木目がギザギザと模様を描いている。真麻は持ってきた折り紙と塗り絵を手提げ袋から出した。「これだけあればいいらー」　「うん、金色と銀色は入っとる？」多希子はさっそく折り紙を捲った。　すでに折られた鶴は様々な形で多希子の寝床で遊んでいた。　「もうじき注射だでね。　そろそろ布団に入らんと」トンネルになったままの掛け布団を見て真麻が言うと、多希子は覚えた注射を口にした。「ブドウ糖とペニシリンだに。　それをせんとタッコの腎臓は良くならんでね」「そうだに。　もうじき赤も生まれるでね。　タッコは二人のお姉ちゃんになるに」　そんな退屈が、すでに三ヶ月続いていた。日没が早い冬の病室に横たわる多希子の布団が胸に重く圧し掛かるのは、真麻が帰った後だった。　多希子は何度も左右に身体を捻りながら、寂しさと格闘した。折り紙や塗り絵、空想の童話を創る癖はこの長い長い入院生活の仕業だった。　やがて桜が散り、季節のシグナルは春の終わりを告げていた。真麻が多希子の病院へ行けない日は、悦子や友子の祖母が付き添った。　時々友子がやってくると、多希子はれんげ畑の絵を誇らしげに見せて言った。「これがタッコ、これが友ちゃ、これは蜂・・空はれんげで見えんの、わかった？」　６月に入り、待っていた長男が誕生した。亨（とおる）と名づけられた。　長男誕生に大喜びの茂郷は、丸い顔にどんぐり目の亨を見に、日に何度も渡り廊下をスタスタと歩いて来た。「おまえに何時か、野球を教えるでな。　野球はいいぞー！」野球好きの茂郷は、何度もその言葉を繰り返し、亨を抱いた。　「後は、タッコの退院だ。　来週は赤飯だな、真麻？」「亜由美のギブスも取れて、タッコもすっかり治ったでね。　亨の祝いもせにゃーね」「兄さん、亨は兄さんに似て野球が上手くなるに！　たくましい顔つきしとるな！」幸之も渡り廊下を歩いて来てそう言うと、亜由美を肩車して茶の間を回り始めた。　　束の間の幸福な風景に留めを刺すかのように、惨事は襲った。「おーい・・おーい・・・」か細い声をたどって行くと、亨が眠る部屋に続く廊下の隅で茂郷が倒れていた。　真麻は、鼻血が溢れ出し青白く蹲った茂郷に仰天し、叫んだ。「おとうさーん！　しっかり！　・・・」病院に担ぎ込まれた茂郷に動転する真麻。　幸之は真麻を支えなが目の前で悪魔が微笑むのを見た。そして、この事が多希子の退院をさらに引き伸ばした。　　茂郷が広島沖合いの駆逐艦で被爆してから、１３年の年月が経っていた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回２６日土曜日　「放射能」）

  2006/05/24

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• 香乙発ーー未来線～銀河線

  　　　　　　　　　　　　　　　　　ご乗客の皆さん！　　　　　　　　　　　お疲れ様でした。　当駅でしばらく停車致します。　　　　　　　　　連結した「ふるさと銀河線］の車両へはBookｍarks　　　　　　　　よくいくページから行けます。　車両を進むと、北の大地　　　　　　　北海道の素晴らしい自然に、きっと出会う事ができると思います。　－－－－－－－－－－－－－風鈴－－－－－－－－－－－　一昨年の夏、風鈴を買いました。素朴で懐かしいデザイン・・「和」に変わったインテリアにはピッタリと、帰宅後うきうきと箱を開けて、さっそく窓辺に。　街路樹での真夏の仕事は、かなりきつく、埼玉から千葉の自宅に戻ると一息入れないと夕飯の準備に取り掛かれない。　何せ５時間も厨房で立ちっ放し・・余力はダンスに残しておきたい！という欲ばりだから。　　ある晩、パートナーが風鈴を見て言いました。　「買って、だいぶ経つなー。　一度も鳴らないなあ。 網戸ごしに風もあるのに・・？」「不良品？　っていうかさー、あれ何かが足りない気がする。　風鈴ってああだっけ？」三人の視線が一点に集中。　見た目以上に値段はいいのだけれど・・「糸とタンザクが無い！」　「んじゃ、風鈴の意味ないし・・」　　　　　　　　　　　　　職人の腕を甘く見るな！　夜中にタンザクを作って付けたけれど　　　　　　　　　　　　計算し尽くされた微妙な大きさ、重さ、糸の長さ・不可能　　あの時、値札と一緒に切ってしまった「あれ」はもうゴミ収集車へ。　今年はパートナーが浅草で買って来てくれるそうです。　　　　　－－－－－－－－－－－－グラジオラス－－－－－－－－－－－－－－－－　　先日グラジオラスの球根を植えました。ご近所にお分けして残り５０球を丁寧に。　昨年は上下の見分けが付かず全て逆さに植え、グラジオラスは地球のマントルに向かって咲きました？　　今年は太陽と私に会いに来てくれるはずです。　根と芽の区別がついたからね。　 －－－－－－－－－小さな達成感と幸せを感じる瞬間－－－－－－－－ 　１．洗濯物を干し終えた瞬間。　２．化粧ののりが良かった朝。　３．家族と愛犬の平穏を確認した時。　４．仕上がった♪曲、ドラムを叩く時。　５．ダンスの選曲、振り付けが決まった時（小規模）　６．ブログ仲間との交信（最近、あちらこちらの天気予報が気になり始めた）　７．育てた花にシャッターを向ける時（アルバム行きと押し花行きに分かれる）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　次回２４日　「悪魔の潜伏期間」

  2006/05/21

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• 「紫輝」　　銭湯「えびす湯」

  　夏の終わりに、妹の亜由美が足を脱臼した。　松本市まで通院する真麻と、ギブスをした亜由美が痛々しい。　　庭では、シロが犬小屋の前で置き去りにされたフラフープを噛んで遊びはじめた。幼稚園のお遊戯会の練習に勤しむ多希子は、そんなシロをチラッと見ながら廊下を通り過ぎた。　お遊戯会には茂郷も真麻も来れないことを確認すると、多希子は長い廊下を戻った。「シロ！・・おとうちゃんも仕事で来れんし、この頃、からだが痛いって言うしね・・おかあちゃんも、亜由美を抱っこだから・・お姫様は誰も見れんね・・」　そんな多希子を見ていた悦子が、事務所の窓から顔を出して言った。「タッコちゃ、今日はお銭湯へ行かん？」　小石が散らばる真直ぐな小道を歩く二人。日が沈みかけると、多希子が通う幼稚園の白く尖った屋根が、山間から頭を出す。「悦子おばさんが、お遊戯会に行くでね！　写真も撮るでね」多希子は、目も口元も細めながら優しく笑う悦子が好きだった。　「来てくれるの？」それでも遠慮がちに訊ねる多希子の手を引いて、銭湯ののれんを潜った。　えびす湯へ入ると、脱衣所の大きな籠に脱いだ服が次々と入れられた。悦子を見ながら潔く素っ裸になり、大きな鏡の前で弾けた多希子は、曇り扉の向こうの白い世界に早く行きたくてしかたない。「ここは、皆のお風呂だでね。　ちゃーんとしとらんとね・・」　重いガラス戸がガラガラと音を立てながら開けられた。白い煙の中で裸とやまびこが戯れていた。　石鹸の臭いと蒸気の中へ入り込んだ多希子は湯船の後ろに張り付いた大きな山の絵を見つけた。「タッコちゃ、さあ、かけ湯をするに」悦子の言葉を後ろに、多希子は長い裾を広げた山が海に浮かび松の木の傍を急ぎ足で通るちょんまげのおじさん達が、刀でなく弁当を腰にぶら下げている様に出会った。　「この衆はお家へ急いどるね。刀のチャンバラじゃないで・・悲しい映画じゃないに」　独り言を言って納得した多希子にかけ湯をし、二人は大きな湯船につかった。　多希子は大勢の白くて大福のようにやわらかそうな女達の乳房を見ていた。縁のなかった二つの出っ張りは、多希子に別の興味を湧かせる。「亜由美はね、あの乳を吸っとるんだに」多希子はそう言って両肩をひょいっ！と上げた。　そして、ツンと威張った悦子の乳房を見て笑った。　　　悦子は母乳を知らない少女の言葉に、亡き令菜を湯気に浮かべた。　大谷家に嫁いだ姉の良子が、妹の死に沈む夫進二の日々を静かに話していたものだ。　悦子は混布のように長くて黒い髪を洗い終えると、器用に手ぬぐいで包んだ。「タッコちゃ、そろそろ、あがるに－！」　多希子はまた富士の絵を見ていたが、悦子の声が高く轟いたので、タイルの上をパタパタと歩いて悦子の方へ来た。　先に出た者と同じように悦子が木桶を積むと、多希子はもう一度後ろを振り返った。「アッホー！　・・・やまびこ・・」「タッコちゃ、やまびこはヤッホーだに。人に向かってあっほーって言っちゃいかん」　　帰り道、多希子の幼稚園の友達の家の前に差し掛かった頃、多希子が言った。「さっきねえ、えびすのお便所でね、タッコは黒いおしっこが出たにー」「！・・黒かったの？」「お醤油の色だったでね。　オ、シ、ス、（寿司）を付けるあれ・・」　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回日曜日「未来線～銀河線」）

  2006/05/19

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• 「紫輝」　　ちんどんやの通る道

  　家から表通りに出る小路を行くと、途中にれんげ畑の姉友子の家がある。垣根の向こうで、手ぬぐいを頭にかぶった友子の母親が庭の水撒きをしている。盆地の夏はとにかく暑い。　友子を誘って表通りにやって来た多希子は、右手に握り締めたアイスの棒を持って店に入った。「ちょうだいなー！？　おばちゃーん！・・」「はいよー！」「友ちゃ、あと一本ヒットが出ると、もう一本貰えるでね！」友子は多希子が右手を開いて、既に確保したヒットと書かれた棒を見た。二人はアイスを買い、棒から現れる文字にウキウキしながら食べた。「ホームランだ！　私の・・！」　友子は多希子に棒を見せると、多希子も慌てて残りを食べた。　「あー・・何も書いてないに・・ハズレだ・・」　二人はやって来る史上最小のパレード「ちんどんや」を今か今かと沿道で待っていた。　友子は当たったアイスの残りの半分を多希子にあげると、多希子は満足そうに溶けかかるアイスを口に突っ込んだ。　商店街やイベントの宣伝の為に、独特の衣装を纏い、派手な化粧をして彼等は歩く。らっぱ、太鼓、鐘の音が目の前を通り過ぎると、愛想のいい彼等に微笑み返しをし、見物人の中から抜け出して、後ろを付いて歩く子供達に二人も雑じった。小心者の友子は数メートルもすると、列から離れていった。「タッコちゃ、帰ろう！・・」賑わいの中に友子の声が隠れる。　　暫くすると、多希子は辺りが見知らぬ景色に変わり、自分に迫って来るのを感じた。パレードの一番後ろで、チャンバラ映画に出て来るおじさんが女に変身したような顔で多希子に手を振って次第に離れて行く。「ここは・・？」違う空気と違う臭い、そして違う顔と違う声の中へ仕方なく避難したが、知っている子供達の姿はない。　「お嬢ちゃん？・・」白髪交じりのおばあさんに肩を叩かれ振り向いた多希子は言った。「迷子になったでね・・どうしたもんかね・・タッコは」八百屋からまたまた見知らぬ男が出て来た。　そして、腰を曲げたおばあさんに微笑み、少し言葉を交わした後で男が優しく言った。「迷子かい？」「この辺じゃ見んでね・・お名前は？」「タッコ！」「蛸・・？　魚屋の子かねー？」「れんげと蜂がいる傍のタッコだに。　オリンパスが見えるタッコ・・」「ああ、オリンパス！　」「林さんちの娘じゃないかねー、そうだにー」　オリンパス工場をこの町で知らない者はいない。　野菜のくずを踏みながら店の奥に向かって男が言った。「おーい！　迷子の子を家に連れてくで！」黒くて長い前掛けを外した男に、多希子が腰を曲げて気弱に呟いた。「ありがとう・・世話をかけちゃいかんね・・」　　そのころ林家に駆け込んだ友子は泣きながら真麻と茂郷になだめられていた。「友ちゃは悪くないでねー・・もう泣かんでいいに」「直に帰って来るらー。　いつもの事だでね・・」真麻はドロップの入った缶とバナナを一本袋に入れると、友子に手渡した。　「誰に似たんだ、タッコは！？」茂郷がそう言いながら、事務所に戻って行った。真麻は大きな声で、その背中に向かって言った。「父親だでね！　決まっとるわ！・・」　やがて、多希子は愛想のいい八百屋のおじさんに手を引かれて帰ってきた。「ただいまー！　迷子が世話になったでね・・」　多希子が元気に真麻に言った。　　　　　　　　　　一見幸福な少女の後ろに静かな黒い影がそっとそっと近づいて来ていた・・　　　　　　　　　　　　　　　続く（明日　銭湯「えびす湯」）

  2006/05/18

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• 「紫輝」　　ごほうび　２　　豪華版

  　「お腹すいたねー」　真麻が多希子の手をとって言うと、映画館を出てすっかり夜空が降って来た街に不思議な時差を感じた多希子が応えた。「うん、さっきの人達もごはんに帰ったようだでね」　真麻は「さっきの人達？・・」と聞きながら、ひらひら垂れたのれんを潜った。　 寿司屋のカウンターに少女がちょこんと顔を出すと、威勢の良い板前が「よっ！　お嬢ちゃん」と声をかけた。真麻は茂郷の行き着けの店を避けたが、令菜の通夜に来ていた店の主人を見て丁寧な挨拶を交わした後、隣の多希子をしみじみ見る主人と話始めた。　　多希子は小皿に並んだ卵の行列に海苔巻があるのを歓んだ。「おいしい？」「・・お、し、す、・・おいしい！」「お寿司だにー。　お、し、す、・・じゃないにー」　多希子は、真麻が見てきたばかりの映画の話を楽しそうにしながら、赤や黄色や銀色の寿司をたくさん食べるのを感心してみていた。「冷たいご飯は酸いねー・・」　帰り道、ずっと何かを考えていた真麻が言った。「おとうさんはね・・」「・・・」多希子が顔を上に上げた。「今日はお寿司を食べとらんでね。　お寿司を食べて来たって言わん方がいいで」「うん、言わん・・」すると多希子は思い出した契約を口にした。「お、し、すの事は言わん代わりに、あの丸ーい輪っかを買わんとね？」　店を出る時真麻が「お寿司は映画をおりこうで見ておった御褒美だでね」と言ったが多希子にはお寿司がごほうびとは思えなかった。ごほうびを口にしたことでフラフープを思い出させてしまっただけでは済まなかった。　茂郷が茶の間にやって来た。「楽しかった？　タッコ？」「うん、チャンバラ見た」「・・チャンバラ？　それは大人の映画だな。　おかあさん孝行したな・・」真麻は苦笑いをしながらハンドバックを置いた。「あのね、タッコは・・お、し、す、なんか食べとらんでね」　少しの沈黙の後、真麻と茂郷は多希子を真ん中に、突然笑い出した。「そうか、そうか！　タッコはお寿司を食べてきたのかー！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（１８日　チンドンヤの通る道）

  2006/05/16

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• 「紫輝」　　ごほうび

  　　　　　　　　　　　 (写真　お台場スポット）　多希子の部屋にオルガンが置かれた。柱には黒んぼの抱っこチャンがしがみ付き、大きな目で始終多希子を見張っている。多希子は、いつものように箸の先にくるくる巻いてもらった水あめを持って事務所と繋がる長い渡り廊下にやって来くると、庭でシロが尻尾を振って待っていた。多希子が中庭に出ると、シロは箸の先っぽにある黄色がかった光る物体を狙っていた。「シロ、覚えとる？　これはタッコのエサだにー・・・」多希子は水あめをペロペロなめながら言った。　シロは首を傾げ、多希子のエサを切なそうに見つめていた。　その日、真麻は仕事に追われる茂郷に簡単な了解をもらい、事務員の悦子に亜由美を頼んだ。　息抜きは自分へのごほうびと言い聞かせ、封鎖された青春をこういう形で楽しむことを意識した。　真麻がここに来た経緯も状況も良く理解していた周囲の協力体制は万全だった。特に悦子は、大谷家の長男進二の妻良子の妹だった為、茂郷の従兄弟にあたる幸之と同じ位ここの家族への思いは深い。　多希子は髪を黒と白の水玉模様のネッカチーフで上手に縛った真麻に手を引かれ町の中心へ出かけた。　多希子の赤い靴の甲のベルトの部分には大きなリボンがあり、お気に入りの靴を履かされたことで、多希子は「お出かけ、お出かけ！」とはしゃいで回った。　　揺れる夕闇を歩く途中、フラフープを器用に回す若者の姿があちこちにあった。「あの丸い輪っかを回すと偉くなる？」「ならんよ。　ただ目が回るだけだに」「・・・れんげの畑に入らん代わりに、あの輪っかが欲しい！」好奇心旺盛な少女は、丸い輪の真ん中で身体をくねくね捻らせている嬉しそうな顔がとても目を回して困っているふうには思えなかった。　自動車や人が流れる大通りから少し入った所に、大げさな宣伝画が付いた映画館があった。　真麻に手を引かれ、その暗闇に入った多希子は言った。「映画は暗いの？　見えんにー」「これから始まるの。　おりこうに出来る？　」「うん。　ごほうびはあの輪っかだでねー！」勝手に「ごほうびの契約」を済ませると、辺りがもっと暗くなりブザーと共に周囲が静まり返った。　真麻も大勢の人と同じように気持ちと整えた。　時代劇は大川はしぞう、美空ひばり、丘さとみ・・多希子は時代のヒーロー達の名前を自然に覚えた。　刀を振り回したり、綺麗な着物の二人が抱き合ったり、別世界を見る多希子は足をフラフラさせながら退屈を励ました。　　多希子は、ハンドバックから白いハンカチを出して涙を拭く真麻の顔を覗き込んだ。そして小さな声で言った。「チャンバラは悲しいでね・・・もう見ん方がいいよ、おかあちゃん！？」　　　　　　　　　　　　続く（明日、ごほうび豪華版）

  2006/05/15

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• 「紫輝」　れんげ畑

  　　　　　　 （写真　きいちのぬり絵）　自然が四季折々に景色を着替えるように、人々も移り行く状況下でわずかな光を頼りに心を着替えて生きる。　川が流れを止めないように、時も流れ続ける。　日本のスイスと言われる長野県は養蚕、製糸の他に精密機械でも有名だった。茂郷（しげさと）は、将来性の薄い製糸会社に見切りをつけていた。時代の流れと共に、ラジオ、テレビは真空管からトランジスターへ移行していた。その際必要なマイザーコンデンサーをつくる会社を新たに立ちあげる事になったのだ。 信和誘電株式会社。　電子部品機械会社の走りである。　けっして偉ぶることのない茂郷の人徳は、一流と言われた興亜電工（KOA）、信英通信工業（ルビコン）、旭座映画館のリーダー達が協力、応援してくれた事で茂郷は大きく飛躍の一歩を踏み出すことが出来たのだ。　仕事熱心で仕付けに厳しい父と、亡き姉の後青春を多希子に捧げた「勇敢な母」真麻（まあさ）との暮らしが始まっていた。家の横に広がる桃色のじゅうたんは可憐なれんげ草が隙間無くそよ風に靡いており、そこは三歳過ぎた多希子のお気に入りの遊び場であった。「入っちゃ駄目だに！」真麻が口癖のように言い聞かす。妹の亜由美の育児に追われる母真麻の目を盗み、れんげに埋もれ、飛び回る多希子。れんげはいつも麗らかな顔で、元気な多希子を待っていた。　摘まれたれんげを器用に編み込んで作った花輪を、多希子の頭にのせる近所の姉さんは、酒屋の娘で時折多希子に誘われ、手を引っ張られながらそこにやって来た。　「冠だね、可愛いじゃん・・」「お姫様だ、私！」おかっぱ頭に大きな瞳、小ぶりな口元、多希子は花輪の下で得意げに言う。はしゃぐ多希子のゴムの入ったスカートは、風で落下傘のように膨らんでいる。「多希子ちゃん！　蜂が飛んどるにー！」友子が大きな声で、多希子の周りを飛ぶミツバチを指さして言った。「ひぇー！　隠れろー・・」二人はどてん！とれんげの上にうつ伏せに倒れ込んだ。　「いい臭いだー」　友子がそう言うと多希子はそのままゴロゴロと転がり始めた。　真麻が亜由美を負ぶって家から出てきた。「多希子ー！　いつまで遊んどるのー？　日が暮れるにー」二人はくすくす笑い始めた。「シー！　友ちゃ、顔を出しちゃ駄目だに・・！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（次回１５日　「ごほうび」）

  2006/05/11

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• 「紫輝」　　決断

  　静夜にひっそり空にいる月を令菜とするなら、妹の真麻は青い山をあらゆる色に照らし染める太陽のような女性だった。　真麻は自転車のペダルを軽々と踏みながら、仲間達と華やかに青春を走り、風に舞う。　　その日、座敷で進二と父母が幼い多希子を抱いた幸の話に耳を傾けていた。縁側の大窓をいっぱいに開け、赤石連峰を東に仰ぐ天竜川からの僅かなそよ風で涼を取った。　「それが、この子の為だでね・・」「茂郷さんだって、へえ直ぐには再婚はせんからね。　どいれー辛くておるで」　令菜の亡き後、多希子を誰が育てるかという現実が待っていた。林家では、悲哀が充満する部屋から抜け殻のように飯田線が走る山の上を見つめる茂郷の姿があった。　父茂秀の考えも、公明夫婦同様「妹なおし」であった。それは、けっして珍しくない「しきたり」のようなもので、妹が姉の代わりを努めるという意味なのだ。　　令菜の忘れ形見となった多希子は、少し黄ばんだ団扇で扇がれながらぼんやり見える叔母の幸に顔を歪ませている。　時々笑うような歪み方もして、それが可愛いと言うより不憫でならない。　「他人（継母）にこの子を育てさせるなんて、できんに」「真麻が・・・」　進二が大きな溜息の後呟いた。　そして、襖の向こうから突然真麻が顔を出した。「義兄（にいさん）の所に嫁ぐなんて、できん！」　真麻が目を丸くしてそう言うと幸が真麻にここに座るようにと、左手で畳を数回叩いた。「おまえの気持ちもわからんわけじゃあないでね。　ただ・・」長女の幸はふと冴に目を移した。　娘の死に目にも立ち会えなかった母の姿が痛くて切ない。　それから進二に同意を求めるかのように話を続けた。「母さんが心労で又倒れたらどうするー？　頼むで、頼むなあ真麻！」「・・・」母さんと言われ、真麻は言葉を失った。　その時大きな声に反応したのか、おとなしかった多希子が突然泣き出した。　「この子を守らんと、令菜が悲しがるにー。　真麻・・」「真麻、おらの具合が良くなるまででいいに。おらは元気になるで！　なる！」冴の言葉に夫の悟も進二も幸も唖然とした。　何よりこんな大きな声が出るのかと思ったと同時にまた血圧が上がるのではないかと案じた。　真麻はゆっくり立ち上がり、部屋から出て行った。外に出た真麻は、暑い日差しを溜め込んだ石垣に寄り掛かるようにして立っていた。見上げる青空に目を細めると、その目から一粒の涙がこぼれた。　　　　　　　　　　　　　　　続く　（　次回１１日　「れんげ畑」）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

  2006/05/09

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• 「香乙発ーーー未来線～銀河線

  　　　　　　　　　　　　　　　ワイン「紫輝」を飲むグラスが届きました。　　　　　　　　　　　　　　　（　カメラマン　kitakitune05さん）　・・・・・・・・・・・・香乙（カオトと読みます。カメって読まれ・・）のＧＷ・・・・・・・・・５月１日　　メーデーの夫を送り出し、掃除、洗濯、草取り、ダンスの振り付け。　５月２日　　早朝５時に釣りに行く夫にお弁当を持たせ、カレーを作り、 　　　　　　「天使の梯子」のバンドマンとお台場へ。１９歳の誕生日。 　　　　　　　夫は雷と雨の中、釣り中止. 　　　　　　（魚屋の行列に並んでたりして・・笑）帰宅。息子とカレーを。　５月３日　　実家にて私達の結婚２５年のお祝い。　　　　　　　　「銀婚式」らしかった。　kitakituneさんに教えて頂くまでボーっと。　　　　　５月４日　　小平市の緑を散歩。大根の花が綺麗で・・。　午後帰宅、掃除洗濯夕飯作り。　５月５日　　「紫輝」のベース作り、骨組みのみ。　グラジオラスを植える準備。石灰を　　　　　　　撒き土を耕す。　夜、キミ麿のTVで中高年を自覚（大笑いして疲れる）　・・・・・・・・・・・・・中央アルプス「山ぶどうの里」・・・・・・・・・・・・・・・・・・　信州みやだ　山葡萄ワイン「紫輝」～このワインは宮田村の栽培農家１３件が丹誠込めて作った、ヤマソービニオン種を醸造しました。　　（本坊酒造株式会社信州工場）　私は宮田村生まれではありませんが・・、いずれ小説の中のワンシーンでこのワインとの出逢いに触れます。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　林　茂郷　　　広島原爆を受けるが後遺症も無く、８年目に結婚。製糸会社を始める。　　　　　　　　長女、「多希子」誕生の直後、妻の令菜を亡くす。　林　令菜　　　隣村の茂郷と見合い結婚。　甘く幸せな日々は短く、生んだ多希子を　　　　　　　　案じながら急性肝臓萎縮症で亡くなる。　昭和３０年８月９日　２４歳。　林　多希子　　０歳。　母死す。　林　公明　　　茂郷の兄。　林家の長男で農園経営者。　　　　　志津　　　公明の妻。　林家の嫁として仕える。　　　　　綾　　　　林家の長女。結婚　東京武蔵野にて暮らす。　　　　琴美　　　茂郷の妹。　結婚　甲府市。　林　幸之　　　林家の別家の長男　茂郷の会社で働く。　　大谷進二　　　令菜の兄。　大谷家の長男　（昭和の後半「松川の夜」作曲、ヒット）　　　　良子　　　進二の妻。　　　　真麻　　　令菜の妹。　１８歳。　　　　　幸　　　　大谷家の長女。　結婚　同県駒ヶ根市。　大谷　冴　　　令菜の母。　　高血圧で床につく日々。娘令菜との最後の別れも・・。　　高峯英治　　　長崎原爆・・後に。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（次回５月９日火曜日　「決断」）

  2006/05/06

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• 「紫輝」　　暗がりの扉

  　真夏の活気は街を行く人ばかりか、取り巻く自然も弾ませているようだった。桃は熟し、セミは鳴き、半ズボンを履いた子供達が木陰に逃げ込みながら元気な声をあげている。　元気な多希子と裏腹に、様子を見に来る家族が不安を募らせていた令菜の病状について医師はこう言った。「急性肝臓萎縮症です・・」難しそうな顔を周囲に向けた事で、令菜に対する不安がいっそう強まった。「治るんだねえ？　妹は・・」　茂郷は昼前に医師から直にその事を聞いていた。　長い廊下にぽつんと置かれた皮の切れた長椅子に腰掛け、暫く俯いていた彼は多希子のいる新生児室の方へ歩き出した。茂郷の姿を目にした看護婦は直ぐに彼のの後ろを歩き出した。多希子は純白の衣に包まれて静かに眠っている。　「よくミルクを飲むんですよ、この子・・・」「俺に似てるなー・・いや、母親似かな？」冷静な言葉に秘められた思いが、ぐっと握り締められた両手から沁み出ていた。　進二は相変わらず高い血圧で床に伏せる母に優しく話す姉の幸を見ていた。「ちょっと、産後の日立ちが良くないだけだでね・・案じることはないでね」そんな言葉がいつまで通用するのか・・妹の真麻が大きな瞳で進二を見上げた。　茂郷は多希子を何度か抱いて令菜と言葉を交わした日がずっと遠くに感じられ令菜の最後の笑顔を何度も目の前に甦らせようと試みたが、次第に衰弱していく令菜が横たわる病室で囁く悪魔が邪魔をする。　　病室の出入りは看護婦や医者だけでなく、林家と大谷家の不安な顔が幾度となくその扉を開けた。　多希子にミルクを飲ませる者、令菜の身の回りの洗物をする者、茂郷のいない会社を守る者、そして二人の留守の家を守る者。　周囲は協力し合い、茂郷の仕事場で働く事務員も自分にも何かできないかと緊迫した面持ちで言った。　令菜は枕元で、いつも優しい眼差しを持つ進二の姿を確かめると、細い声で言った。「兄さん・・赤に桃の汁を飲ませてやってくれん？・・」進二は令菜が自分の乳を飲ませる事ができない切なさを受け止めたが、果たして令菜は正気なのか？・・意識もおぼろげになってしまったのか？と追い討ちをかける不安に正直戸惑った。　「赤はちゃんとミルクを飲んでるでね、大丈夫だに。　桃の汁もたんとやるでな・・」　時間はどんどん過ぎていった。真夏の夕立が盆地に鳴り響き、稲妻は容赦なく空を割る。公明と妻の志津、進二と二人の姉妹も、まゆのような白い令菜の肌が黄色く染まっているのを辛そうに見ていた。　「赤はどうしでおるかなあ・・」天井を見つめるだけになった令菜の頬を茂郷がその大きな両手でそっと撫でると、令菜の目から黄色い涙がこぼれた。　　昭和三十年八月九日。林　令菜は、治療の甲斐もなく、２４歳というあまりに短い人生に幕を閉じた。暗がりの扉から、真っ白な天使がすーっと消えて行った。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（明日　「香乙発ー未来線～銀河線」）

  2006/05/05

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• 「紫輝」　　桃の実

  　自然と融和して生きる人々も、時に景色を着替えて行く。出産予定日が近づくと、大谷家では高血圧の母冴をこの家で一番日当たりの良い十畳の和室に寝かせた。　時折、隣町から主治医を呼び腕を取る医者の顔を見ると、冴は安心するのか幾らか落ち着いた。　進二は父や姉妹と共に安堵の溜息を漏らす。　二間続きの和室に沿って長い縁側がある。　一面ずらりと並んだ吐き出し窓を数枚開けると、流れ行く天竜川の広大なざわめきを感じる事ができる。　大海へ流れ込む底流に母の思いがあるとすれば、その法則に逆らう全ての物に、母はきっと立ち向かうのだろう。　　天竜川まで続いた眺めの良い田んぼ一面、緑の風が戯れ、あぜ道を行く人の声が冴の耳にも心地よく入ってくる。「そろそろ桃の季節だに・・」気持ちを反らすように冴が行った。　その言葉にまだ十八を過ぎた真麻が頷く。「そうだに。　もうじき食べれるで嬉しいよう・・ねえ、姉さん？」「今年はいい実が付くらー」駒ヶ根町に嫁いだ姉の幸が冴に言った。　冴が寝返りを打って遠くに方に目をやった。　昭和三十年七月半ば、予定日より数日送れて令菜は無事女児を出産した。「多くの希望を叶えられるように」「多くの人に希望を与えれる子に育ちますように・・」名前は「多希子」とつけられた。「おい！　めでたいなー！」林家でも大谷家でも、多希子の誕生に喜びの声を挙げていた。桃の実が、赤ん坊の握りこぶし位に膨らみかけていた。　果樹園の真ん中を一本の細い道が気持ちいい位真直ぐに伸びている。　その先にでんと構える大きな平屋の林家があった。　公明の育てる多くの果実はこの辺りでは有名だった。林家の裏山を下ると、やはり天竜川が、照りつける陽に白く光って流れを止めない。大きな牛小屋と井戸の間の石段を数段下ると、別家の林　幸之が住む家があった。　屋号は「なかや」と言われ、庭には本家と同じ位の池があった。　所狭しと泳ぐ鯉は水面に遊ぶ雲を映しながら、くねくねと水をかき分けている。　両家の前にでんと居座る山の上からは、飯田線が通る音が日に幾度か聞こえてくる。風情のある「ガタンゴトーンーガタンゴトーン・・」と言う音は、時に時刻を知らせる手段にもなった。「ほい！　令ちゃ、生まれたって？」　なかやの衆が朝から本家に走ってきた。「おがけでねー！」　志津が嬉しそうに台所から顔を出して応えると、皆は自然と土間に草履を脱ぎ捨て、囲炉裏の周りを囲うように座った。公明が一升瓶に、朝絞りたての山羊の乳を詰めて持ってくると、志津が並べた湯のみ茶碗にそそぎ始めた。「茂郷さ、どいれー喜んどるらー」　夏も活躍の場を失わない囲炉裏での賑わいは、のどかに暮らすこの村の小さな縮図のように平和だった。　盆地ならではの厳しい気候の中、村に暮らす人々は家畜を飼い作物や花を育て、大地と四季を愛した。　　それは迫り来る山の谷間に、強い真夏の太陽が痛い程照りつけるある日の事だった。「ほい！　令ちゃと赤は、未だ退院せんのかなー？・・・」多希子が生まれて九日が経っていた。　素朴な疑問がだだっ広い土間で響いた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回５月５日　暗がりの扉）

  2006/05/02

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• 「紫輝」　　揺らめく影

  　ふたりは天竜川に添う町で暮らし始めた。　伊那町は飯田線辰野駅から豊橋に向かって季節の盆地を走る駅の中でも、比較的栄えた町だった。　　そして養蚕が盛んなこの地域で、茂郷は製糸会社を始めていた。　番頭の三沢輝夫、林家の別家の長男にあたる林　幸之（よしゆき）等が戦力となり会社の発展に努め、特に幸之は茂郷の片腕となって働き従兄弟である彼を「兄さん、兄さん！」と慕った。　幸之は笑顔の涼しい好青年で、茂郷も彼を可愛がっていた。　元志願兵の上、埼玉県熊谷市での数年の修行の経験も生かされ、何より努力と大胆な行動が常だった茂郷の気質が会社を時の波に素早く乗せた。　　茂郷の愛情を浴びて暮らす令菜も、なかなかの働き者であった。里が若葉色に染まり、辺りにやわらかな陽が遊ぶ田植えの季節を迎えると、早速田植えを手伝う為に林家に出向いた令菜を家族は喜んだ。　特に父親の秀茂は「良い嫁がきた・・」と顔を誇らす。　ちょうどその頃、公明の妻志津が二人目を身ごもっていた為、志津を立てながら慣れぬ手つきで田植えに精を出す令菜を公明も労わった。　　土にぬかった令菜の足は繭のように白く、日除けの麦藁帽子の後ろに令菜が付けた桃色の布がひらひらと風に揺れている。　令菜の小さな足にできた豆を見つけた公明は土間を歩きながらこう言った。「令ちゃ、こっちにおいでな・・どれ、これを塗りな・・」古い木箱の中から公明はヨードチンキを取り出すと、早速粗治療をする。　赤く塗られたヨードチンキに込められた義兄の優しさに美しい令菜の顔がほころんだ。　二人は多忙な新婚生活の中で幸せの絶頂にいた。　　大谷進二は、高血圧に悩まされる母の冴と共に令菜の身体を案じていた。令菜の妊娠を知ってから、その身を案ずる母の不安げな表情に嫁の良子も気をもんだ。令菜は身体も小さく元々丈夫な方ではなかった上、会社を切り盛りする夫を支える多忙な日々に暮らしが変わったことで家族に不安を募らせた。　しなやかな令菜のお腹が膨れ始めると、着ている割ぽう着の上から茂郷は優しくお腹をさすった。令菜は夫の手の上に自分の手を重ねて言った。「もうじきだでねー」時折不調で寝込むこともあったが、何より茂郷の労わりとお腹の子が令菜を元気つけた。　林家でも大谷家でも生まれてくる二人の子を、令菜の身体を気遣いながらも楽しみに待っていた。　　　昭和３０年、純白だった嶺々が薄紫色に変わり、山間からの風がざわざわと囁き始めた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（次回５月２日　桃の実）

  2006/04/30

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• 「紫輝」　　紬　つむぎ

  　原爆の惨事から８年が過ぎた。林　茂郷は、兄の公明（きみあき）に何度か言った。「俺は運が良いのかな・・それとも・・・」当時、駆逐艦に乗り合わせた仲間達は５年のうちに放射能の後遺症で次々に死んでいった。　つまり茂郷は仲間ばかりか、当時駆逐艦に乗っていたことを証明する者を全て失っていた。　日本の屋根と言われる長野県。　諏訪湖から流れる天竜川の清流に沿って開ける伊那盆地は南アルプス、中央アルプスの気高き父に見守られ、小さな町や村が慎ましやかに佇んでいる。山間から吹く風は季節の訪れを告げ、色づく木々を通り抜ける幸の風だった。　原爆の後遺症に診回れることもなく、茂郷は家族と共に農園を経営する家で暮していた。スポーツマンで野球好きの彼は全国大会に出場したこともあり、ひっそりとした村でひときわ目立っていた。　長身で美男子の彼は村の女衆の憧れの的となった。　ある時、寺の「お大黒様」が父親を通して見合いの話を持ってきた。「いい娘がおるで、どうかな？」　隣村の大谷令菜（れいな）は茂郷とは対称的な小柄で色白の娘だった。その淑やかさと少女のような可憐さ、畦道に咲く小花さえ喜んで摘むような優しさが滲みでていた。　茂郷はそんな令菜に一目惚れし、次は二人で会いたいと心を強く固めていた。大谷家の住む村は天竜川に沿うように民家が点在しており、高台にある大谷家からは眼前に広がる嶺々を背景に天竜川を望める素晴らしい景色を眺めることができる。当時の大谷家は土と向かい合う傍ら、蚕を育てていた。　桑の葉を食べる蚕がやがて繭（まゆ）になり、繭は紡がれて糸になる。　そして糸で織られた布は、優しく、やわらかく時に儚い。　　茂郷は自分が求めていた女性が目の前に凛と存在する事に喜び、真直ぐな気持ちを正直に表した。　令菜の方といえば、自分のような者に眩しい茂郷が相応しいのか・・そして兄の級友が思いを寄せている事を聞いていた為、兄の手前、迷う日が続いた。令菜はそういう女性だった。　　　そんな中、茂郷の強い誘いに令菜は頬を赤く染めながら再び茂郷に会う決心をしたのだ。二度目、三度目、令菜は包み込まれるような眼差しを浴びながら、胸の高鳴りが次第に大きくなっていくのを悟られまいとした。　・・がそんな健気な努力はとても愚かで、綿のようにふわっと膨らんだ。　言葉少ない令菜が長身の茂郷を見て言った。「そんなにじーっと見ないでね・・」　茂郷にも令菜の家族にも明らかに令菜の心が読み取れた。　令菜は日増しに美しく咲いた。透き通るような青空にくっきりと浮かぶ雲のように、二人の姿は誰の目にも晴れやかに映った。　昭和２８年。　林　茂郷　２６歳　　　　　　　　　　　大谷令菜　２３歳　　　二人は愛でたく結婚した。　紡がれた二人は、展開される風景を「幸せ」以外の言葉で感じる事はできなかった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(次回４月３０日　日曜日）

  2006/04/28

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• 「紫輝」　　暗号・　原爆投下可能

  　１９４５年８月６日、アメリカの偵察機は他の２機と共に広島上空に到達した。この日の広島は不運にも晴れていた。　７時０９分偵察機からエノラ・ゲイ号に「暗号」が送られた。その暗号に積まれた戦略は日本降伏とその後の対ソ連戦略にあったと言ってよい。　　人々は晴天の下、いつもと変わらぬ朝を迎えていた。やがて「暗号」が襲った。　８時１５分１７秒ウラン２３５原爆リトルボーイが投下されたのだ。４３秒後、広島上空高度５８０メートルの所でリトルボーイは爆発。　この一瞬の後広島市は壊滅した。　原爆による爆風、熱風、衝撃波の凄まじさ、人的被害は例をみない。　死者およそ１４万人。その後、放射能の後遺症などで死者は２４万７千人に達した。原爆直後の写真撮影を目的とする投下は、「実験」というたった二文字に終結された残酷極まりない歴史上の真実である。　戦争ほど悲惨なものはない。　　林　茂郷は、この日広島から１０キロ離れた海の上にいた。志願兵となり、軍港の兵隊として駆逐艦に乗っていた茂郷は１０センチあまり積もった灰を目の当たりにした。　茂郷の正義感は生まれ故郷の長野県を遠ざけ、過酷な運命の波に乗ってしまった。　そして３日後の８月９日、もう一つの悲劇が起きた。午前１１時０２分、長崎に２発目の原爆が投下されたのだ。　プルトニウム型の原爆は最初の目的地小倉が曇天の為、急遽長崎に変更された。　そして原爆フォット・マンも８万人の生命を奪った。福岡県北九州市で生まれた高峯英治は、不運にも２発目の被爆者となった。　　生涯逢う事がない運命の二人が、後に相川多希子の人生に大きく関わることになる。　一秒間に百万単位の大虐殺が可能となった原爆の威力を前に、日本は戦意を喪失。１９４５年９月２日、第二次世界大戦は凄惨な爪あとを残して終わりを告げた。　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（　次回２８日金曜日　）

  2006/04/26

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• 香乙発ー未来線　＝　連結　

  　未来線は銀河線と連結いたしました。　北海道で廃止された銀河線のボディには９９９（スリーナイン）のイラストが描かれ、夢が溢れる列車である事から、未来線と仲良く走る事になりました。　尚、車両移動はご自由にどうぞ。　運転手も車窓も一緒ですからご安心下さい。「天使の梯子」　雄二君より　「誰もが平等に、その人にとって特別な人となる人に廻り逢えるように世界はできている」この言葉、俺が一番好きな言葉なんだー・・・・「香乙の心に響いた言葉」　「聞き上手という才能は他の才能よりはるかに得がたいもののようである」　　　　　　 アイザーク　マッカ-ソン　「作者が人間を好きでないなら、世間の人もまたその人の作品を好まない」　　　　　　　　NY　コリヤーズ誌編集長　　　　　　　　　　　 ～　街路樹こぼれ話　～　（奏ちゃんからのメール）　「裕子さん！　今日、更衣室でおっぱい見たことは極秘にしておきますね（笑）」今日は身も心も軽いぞ！・・仕事を終え、更衣室で汗まみれのコックコートを早く着替えたい・・と思ったその時、気付いた「ノーブラ」　「やだ！、どうもこの辺がすっきりしてると思ったらー！　してくるの忘れた・・」　（JAPAN　CUP）－－－（競馬）　家の愛犬は「オグリキャプ」と名づけられた。　北海道で過ごすオグリキャップを見た息子。動物病院でも、わかる人は笑う。　ある日、西田チーフに代わって竹沢チーフが街路樹にやって来た。「どっかで見た事あるんだよなー」　竜也君。　　「うん、誰かに似てるー」居合わせた人。「武　豊！　似てない？　」　裕子。　「よく言われるんです・・・似てないと思うけどなー」　チーフ。「チーフ駄目ですよ！　こんな所にいたら午後のレース間に合わないですよ！府中に行かないと」中山に行かないと！と言われた日も何度か・・「そういえばさあ、さっき休憩室で裕子さんが紙に書いて皆に聞いてたのって・・」「なんですか？　僕聞かれてないですよ」「馬の名前でしょ？　リンカーン、アルカセット、ストーミーカフェ・・・」「そうよ。　一人一つね、気に入った言葉を選んでもらっただけ」「未成年もいるのに、何て事を・・」「チーフ、お金は収集してません。私が１００円ずつ買って、当たったら選んだ人におごる！」「馬の名前を覚えるのは早いけど、ここのレシピ覚えるのは遅いね」　もちろん竜也。　そして時は過ぎ・・ある晩・・「明日、ディープインパクト走る？」　携帯の着信音はいつもより大きく聞こえ、この一言に興奮と期待が込めれていた。　　　　　　　　　　次回は・・「紫輝」　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （ 暗号・原爆投下可能 ）　　４月２６日　水曜日　

  2006/04/23

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• 香乙発ーー未来線

  　　ご乗客の皆さん！　長旅大変お疲れ様でした。　　「天使の梯子」は３番車庫に入りました。　　　　　　　　１番車庫「夏色のときめきを」　　　　　　　　２番車庫「奏でる時に」　４番ホームから発車の列車は、山間を走る為、点検に入ります。　タイムマシーンにも助けてもらいますので、もう暫くお待ち下さい。　　　次作のタイトル「紫輝」は、長野県の宮田村役場産業課の方々のご承諾とご協力を戴きつけたものです。　携わって下さった多くの皆様に大変感謝しております。　　　　　　紫に揺らめくワインに反射したライトはアルプスの陰影と重なり,　赤紫の神秘の液体は　ほんのり甘酸っぱく、さっぱりした飲み心地で、グラスと何度もキスを交わさせてくれた。　　切なく懐かしい幼少の日々が思い出される・・・・。　　ボトルに書かれた言葉にひとつひとつが、ワインと共に心に沁みこむ。　麦わら帽子、　半ズボン、　向日葵、　セミの声・・・・　アルプスの絶景に見守られながら、人々は四季の花々や果実を愛し、山葡萄のように　健気に慎ましやかに暮らす。　移り行く季節を贅沢に浴びながら自然が奏でる味わい。　「紫輝」と名づけられたそのワインを文の中で味わい、口で味わい、心で味わって下さい。　　　　　　　　　　　　～香乙が忘れられない川柳～　「ぐれてやる！・・・、それなら俺はボケてやる！」　でした。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（次回２３日、日曜日夕方）

  2006/04/18

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• 「天使の梯子」　最終章　　ライブ・フィナーレ

  　最終章　　ライブ・フィナーレ　前に歩いて来た倉田は、ぽつんと一つ空いていた席に腰を下ろした。 ライブと言えども立ち見でないスケールの大きさに、まずは驚く。　そして安心する。矢沢は街路樹を去った倉田の姿に気づいたが、ダイヤモンドヘッドのスタンバイを終えた。倉田は曲と共に身を乗り出した。　都会的で粋な名曲は今尚廃らない。　今も尚、音楽を愛し、変わらぬパワーで世界を架ける姿は裕子や倉田、秀明、高倉里美にはたまらない。「メンバーの世代の差と選曲はストリーと、いいコラボレーションを醸し出している」「はい」　「君、あの子、押えて・・」　プロの目は竜也を捕える。　この曲の為に苦労する裕子に、竜也からアレンジされた楽譜が与えられた。厨房のバケツの蓋は右足、ダンボールの破片は左足で裕子に踏まれ、菜箸はスティックに変わり、包丁の音には不思議なリズムが付いた。　小林は笑いを堪えていたが、新しいチーフの竹沢は「この人、大丈夫だろうかー？・・」と何度か首を傾げた。竜也に何度も「焦るな、フットドラムが大きい！」などと叱咤激励されながら叩き続けて来た曲に「裕子の乱」も歴史に残る事なく、今、奏でられようとしている。カウンターでは真帆がキーボードの鍵盤を追い、奏はトイレで声を発し、矢沢は豆を庇いながら黙々と働いた。　　そして力を入れた努力の成果は出た。　若者が１９６０年代の曲を奏で始めると客席からおうー！と言う声援が沸いた。　倉田はリズムを取り、高倉の仲間は見知らぬ隣の人に誇らしげに囁く。「あの人私の友達なんです！」昨日の敵は今日の友・という新しいコトワザが生まれた。ゼネレーションの面々は体に染み付いた名曲を楽しむ。裕子は開き直りダンスステージでは味わえなかった一体感を満喫する。　それは仲間達のエールと、殺気だった練習と、一年間の団結意識の結晶だった。　ムードメーカーの竜也の魔法の指は弦を遊んだ。チラリと笑顔で裕子に暗号を送る竜也。「落ち着いて胸を張っていい音を出す・・次は俺のギターのサビ！シンバルの一発は思い切り打て！・・・」「大丈夫だよ竜也・・」様にならないウインクと聞こえない会話が交わされる。「開き直ると度胸が付くんだわ・・」裕子のスティックは裕子の腕の延長線上にいた。「奴等、なかなかやるなー」倉田が呟いた。街路樹で不器用な裕子の両手が器用に動く。　三曲が終わると、竜也は奏に合図をした。　池杉奏はゆっくり前に出た。奏はマイクを握り、　裕子と矢沢、真帆は静かに祈った。「では、皆さん！　最後に奏が捧げます。　曲はアメ-ジンググレイス・・・」奏は少し緊張した面持ちで歌い始めた。プログラムに無いこの歌はライブのイメージからかけ離れた色で空気を新鮮に果てしなく、そして空に近づけた。前日、メンバーの思い付きで決まった奏の歌。客席はダイヤモンドヘッドとのギャップと才能を開花させる美しい奏に騒然とした。　魂のソロは終わった。大きな拍手の後、奏の母親と祖母は午後の便で北海道から駆けつけた叔父の恒明と同じ思いを寄せ合った。「叔父ちゃん、私、歌うよ！あの歌・・」奏は父が好きだった歌を歌うと声を弾ませた。喝采の中で恒明は奏に亡き弟の面影を見た。　　　「世代」による演奏が終わった。「君、あのギターの子、うちで貰おうか・・いい目をしている」「了解しました」このまま埋もれさせるには惜しい、音楽事務所はこういう所に潜む才能にアンテナを張る。竜也をマークする男の存在をメンバーは気づいてない。「あのう・・良かったですよ！　うちの母も何かやればいいのに！」そう言って去った理奈と裕子は「過去と未来」に秀明を共有していることを知らない。「母」とは秀明が裕子から心を移した晴美である事も、その二人がこの歓声の中にいる事も・・　倉田は早々にホールから去った。　爽快感を味わった倉田の足取りは軽い。階段付近から姿を出した竜也に沙織がしがみついた。　余韻冷めやらぬ奏は瞳に涙をいっぱい溜めながら、家族の所に走った。菜月達の和に溶け込む真帆の頬はピンク色に染まっていた。「倉田さん来たのよ、裕子さん！」千尋はそう言うと、矢沢が「自分、気づきました」と言った。裕子は出口いる高倉里美とサークルのメンバーに高く手を上げながら千尋の言葉に喜んだ。　高倉は両手で大きく丸を作って去って行った。初めての心使いだった。「ダンスのリズム感が活躍したわね、彼女・・」塾脱出からライブに移動した息子を持つ一人が言った。夜風は冷たかったが、数時間で上がった体温は簡単には冷めなかった。　　あゆみはメインのデートに向かい、雄二と瑞希は人混みの向こうにいる裕子を暫く見ていたが、ロビーのざわめきは裕子に辿り付く事ができそうもない。「どうする？　雄二・・」瑞希は雄二に寄り添ったまま裕子を見ていた。暫くして、裕子は出口から去って行く二人の後姿に気づいた。　瑞希は長い髪をコートの襟から拭い出し、雄二に肩を抱かれて霧のように消えていった。　竜也が熱く語った「達成感」を津波のように全身に浴びながら、去った倉田、高倉にありがとうを言った。矢沢はそんな裕子を見つめながら言った。「大成功・・来年もぜひ！」そういって矢沢は右手を出した。裕子も荒れた右手を出し二人は握手をした。矢沢の綺麗な手の平は汗で濡れていた。無冠の英雄への思いに力がこめられた。　「ありがとう！」「こちらこそ・・」　矢沢の声と涼しい顔立ちが裕子は好きだった。真夏の街路樹で、キレた裕子を裏口から追ってきた矢沢。　「待ってるから・・」　その言葉で、今裕子はここにいることを噛み締める。　　「あああー、明日からまた現実がやって来るー」「現実」確かなる言葉を今は言って欲しくなかったと裕子は苛立った。その空気は一変した。矢沢は笑いながら竜也の肩を叩いた。台無しにされた感動の余韻　確かに明日からの舞台は「街路樹」だった。　失って拾った物、去って見つけた物、それらは分離された世代の融合によって動く事はない。「裕子さん！　気分いいっしょ？　街路樹に来てちょっと人生変わったんじゃないの？」「・・・人生！竜也に言われたくない！」竜也は目じりの小じわにしがみ付いた一粒の涙を見た。落ちそうで落ちない涙の滴は「・・・この人そのものだー」と思った。　　１２月２５日　日曜日　やはり地球は回ってしまった。　昨夜は夢を見ていたのか、燃え尽き症候群の裕子は浮腫んだ瞼と足が重い。「いらっしゃいませー！」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フロアーで元気な声がした。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完　数年後、雄二と瑞希は裕子の手がけたその空間で結婚披露宴を。一階のロビーのスクリーンには、プロデヴューを果たした大沢竜也が映っていた。　由多歌　２１歳。　本名：大沢竜也

  2006/04/16

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• 「天使の梯子」　　ライブ　ー発信ー

  　　シーズン　３３　　　ライブ　　－発信ー　１２月２４日　土曜日　PM５時　倉田友蔵は一週間置き去りにされ、途中一度はゴミ箱の底にいたチケットを手にした。「やってやれるか！」と捨て台詞を吐いたが、裕子の添えた一行が日ごと繰り返された。「義務教育を終え、直ぐにオバサン、オジサンになる人はいないですよね」・・・・間に抜けている空間を青春とするならば、乾いた砂漠に滲み出る水に触れてみたい。　引きつける文に、少し苛立ったが、昨年乳がんで死んだ妻のいない広い和室の片隅に置かれたギターを見た後、「私も同じです・・」と言っているように思える「誘い」のチケットをポケットに入れた。　グループサウンズからフォークソングに移り行く時代、夢中になった音楽。　「どれ、後ろから奴等を見学してやるか！」　イブに予定などない倉田は立った。迷いの暗雲が晴れた。　関口菜月は街路樹のヤングママ数人と小学生の娘や息子を連れて賑やかにホールへ入った。「この子はね、プリプリなんて言ったら私より上手く歌うのよ」「踊るし、歌うし・・・今の子は何でも掴むの早いよー」　裕子の招待状は「探り」と好奇心をそそいだ。　高倉里美はイブには家にいない息子を確認すると、数人のサークルのメンバーと前列の席を分捕っていた。「・・・でねー来るハメになっちゃったのよー！」　弾んだ声は未知の世界と、塾から音楽に走った事を嘆いていた仲間の心境の変化か・・・裕子アレルギーは、魅力たっぷりのチケットによって回復に向かった・・と高倉は苦笑した。　舞台裏では、互いに軽い挨拶を交わす若者の姿があった。ステージへの思いや遥かなる夢は、彼等のエネルギーとなって爆発するのだ。　伝導してくる熱気は裕子の体温を上げた。「ことなかれ主義」「皆と一緒主義」「その場が楽しきゃいいじゃん主義」に思えた彼等が「仲間を裏切らない主義」「自分の可能性を閉ざさない主義」に今の裕子には感じられる。違う景色に見える彼等に、自分のモチベーションを高める。　「晩春」と笑っていた自分が「青春」のスティックを今握る。　迸る若さの視線とスポットライトを浴びながら舞台は嵐の前の静寂を迎えた。　そしてライブは、心臓にドスンと響くような爆音で始まった。　その音は、観客席からホール全体に広がって言った。　ライトが色出を始めると心構えをした舞台と客席の分離が、みるみるうちに融合していった。　倉田は扉を開けた。　ジーンズのポケットからシワシワのチケットを出した時は何とも言えない照れ臭さがあったが、後ろに立った倉田は呟いた。「来てやったよ。　エールは送るつもりはないよ・・」　不安げな裕子に「頑張って下さい！」と言った若者は、「塾脱出」に成功したサークルの　メンバーの息子だった。　彼はそう言ってギターを持ち、さっそうと舞台へ向かった。　「なかなかいい仕事してるわ。ここの照明！」　あゆみが雄二と瑞希の隣でそう言った。　「ゼネレーション」がいよいよスタンバイを済ませた。ポルノの出だしはシンバル１６個間、「静かに、静かに、リズムを乱さないでー。そっと・・」裕子は竜也の言葉が体に染み付き、矢沢の「楽しくやりましょうよ」を心で何度も繰り返す。白川真帆のキーボードと、池杉奏の透明感のある声が見事なハーモニーを響かせた。竜也の音楽への閃きと柔軟性と大胆な発想は並はずれた効果を作りあげた。吐き気が出る程聞いた曲。ＣＤと楽譜にストライキを起こした裕子の思い出の一曲目が終わった。　二曲目に入る前に竜也のバンドメンバーと曲の紹介があった。場慣れした陽気な竜也に泉沙織の目は釘付けだった。　「彼は私の彼なの！」心が叫ぶ。　メンバー紹介。裕子からズレてドラムに当てられたスポットライトは、裕子の策略だった。「あれは、脅しですよ！」照明担当の若者が言った。　経験と年齢の迫力は威圧感を与えたのか、彼等は裕子の言いなりになった。「怖いオバサンだったよー」「よくやった！」　裕子は顔を掠めただけのライトにほっとした。　　ライトがズレた為に確信に至らなかった裕子の姿を、秀明は身を乗り出して眺めていた。「・・まさかなー」　隣に座る晴美は娘の理奈の出番を心待ちしている様子だ。　秀明は一瞬よぎった思い込みをリセットさせた。「別れた妻であるわけがな・・」　　奏の歌は聴くものを魅了した。　腹式呼吸や基本がしっかりできている歌には声量があり、応用が自在で安心して聞ける。　奏は歌うことが大好きだった。　心の澄んだ奏は歌に魂を閉じ込める。　魂を感じることのできる人には、やはり魂がある。夫を失った奏の母親が、祖母を連れてこの会場にいることを知っていた奏は「ありがとう」の思いを込めて全身で歌った。　　やがて倉田が前方に歩きはじめた。　 　　　　　　続く　（明日、最終章　）

  2006/04/15

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• 「天使の梯子」　　ヒーロー

  　シーズン　３２　　ヒーロー　日暮れが早い日々は慌ただしく過ぎていった。　上空の雲がみるみる流れ去るように夏が過ぎると時は焦る。家々の庭先にはパンジーやジュリアンが今が使命と、巧みに彩色を奏でながら咲き誇る。目立たない小さな花が慎ましく咲いているとすれば、それは野口瑞希のように可憐で繊細な風情なのだ。そんな健気な花を見つけたのは、雄二だった。　　雄二から野口瑞希の存在を聞いたのは、クリスマスも近い冷えた午後のことだった。先に着いた裕子は店内に流れるリズムに反射的に足が動いていた。両手は交差され、エイトビートのバリエーションを刻む。まだまだ体の一部になってくれないドラムと一体化したいと裕子は励む。　「ごめん、裕子さん！」　雄二の声で腕が戻された。「あの道、工事中だったでしょう？」雄二は頷いたが、それを理由にすることはない。「ごめん」と言う程、時間が経っていない。それでも雄二は「ごめん」「ありがとう」を必ず言葉にする。　　雄二は裕子のファッションの変化に気づく。　それは裕子が街路樹の仲間に囲まれ影響を受けながら自由にステージを満喫しているという証しだった。胸元に下がった銀色のペンダントにイニシャルと音符が彫ってあった。　雄二は瑞希との出会いから、幾つか年上だということ、細身でしなやかなで目が美しく睫毛が長く、・・・多くを語らない雄二が珍しく沢山の言葉を並べた。こんなに雄二をトリコにする女性は幸せだと思いながら、初めて聞き役に徹した。「でねー、最初あった時、裕子さんと同じ臭いを感じたー」　それがどういう臭いなのか、何を感じ取ったのか、雄二にしかわからない。わかっている事は、麗らかな春に触れた雄二の指の感触も夏の風を感じながら人の去った海で聞いた雄二の声も巧みなハンドル捌きも、裕子から次第に離れて行くという事。　そして瑞希のオーラと重なって二人は確実に恋から愛への道を手を繋いで歩いて行く。　「よかったね、雄二」「うん。今年のイヴは裕子さんのライブに二人で行くよ」「・・惚れ直すよ」「・・かもね・・」あり得ない言葉を二人は言った。若さへの嫉妬が裕子の心に顔出した。　街路樹の休憩室の薄板には「２４日、PM６時　イヴライブ」のチケットがマグネットで貼られた。テーブルで従食を食べた後、去っていった倉田とダンスサークルのリーダー高倉里美に招待状に添える手紙を書いていた。　（　・・お世話になりました。大変失礼かと思いましたが・・ご多忙とは思いますが）「裕子さん！　今夜もう一度通してやるよ！　体力ある？」「余ってる位だよ！」　「ただねー、」　裕子は採光にも役立たない曇りガラスの方を見た。「何っすか？」　矢沢が心配そうに裕子を見た。「ライトはドラムにあたらないようにしてくれない？」「どうして？、裕子さん」　奏が目をパチクリしながら近づいて来た。「年がねー浮くよね、かなり・・」真帆が裕子の前に座って、ほう杖をついていた。真帆の癖だ。白く小さな顔が可愛い。「大丈夫よ」「まあ、ドラムは後ろの端っこだし」　竜也がそう言った後に更衣室で着替えをはじめた矢沢が扉の向こうから顔を出して言った。「問題じゃないっすよ！　楽しくやりましょうよ！」裕子の躊躇いは次第に消えた。そして表情で仲間達にやる気を見せた。「裕子さんでも、萎縮するんだねー。でさあ・・」　竜也が楽譜を持って来て言った。「ここのサビの部分でドラムが早くなるんだよね。焦らないで一つ一つの音を大事にネー」「了解！　このあたりからもうすぐ来るぞ！って力入って緊張してくるんだよ。気をつける」素直な裕子に、竜也は頭を掻きながらもリーダー振りを発揮した。　「倉田さん、来るかなー」テーブルの上の招待状を見ていた奏が静かに言った。「来ないと思うよ。っていうか何で呼ぶわけ？」素朴な疑問を暫く無視した裕子を見て竜也が、オジサンは来ないと思うと決め付けた。「馬鹿ねー！　今はね、昔音楽やってた中年の人がバンド組んで復活してるんだよ！」「ハーレーに乗ったグループとか野球の監督とか、渋いじゃないねえ！」「クラプトン、はっきり言っておじさんでしょ？　けどマジ渋いっすよ」矢沢が言う。「ちなみに裕子さんはカッコいい年の取り方してると思う？」「あのねー、そういう問題じゃなくてやらないで後悔するのは嫌なんだよ！やって後悔する事はまず無いしね。　竜也さあ、オジサン、オバサンって言うけど、これからはねー・・・・私達や団塊世代って言われる人達があなた達にカツガレルんじゃないんだよ！日本をカツイデ行くんだからね！　わかった？」　当然１８歳竜也にはピンと来ない。でかい話になったなあーと竜也は退屈そうに欠伸をした。　　泉沙織は、竜也の難関「告白」により、モテル竜也から全ての女の子を追っ払った。「むしょうに会いたい！　今すぐ会いたい！」竜也の告白はその言葉だった。　恋愛に臆病な竜也は壁を打ち破り、DNAを脱皮させた。　恋愛経験の浅い少女のような泉沙織は日増しに女らしくなった。　フロアーの仲間達の話題は沙織の変貌ぶりに声が高くなった。　時折見せた竜也の寂しげな眼差しも大きな溜息もなくなった。竜也は気づいていない。沙織は竜也のギターと恋のテクニックの魔法にかかった。裕子に届く互いからのメール。「不安」「悩み」という文面も「惚気と報告」に感じられた。それは懐かしく甘酸っぱく、裕子の乾いた心を潤す滴になった。　　「世代のヒーローはね！」何を思ったのか裕子が突然教壇に立ったように熱く言った。「ここにいる皆なだよ！　いい！　環境を変えていくんだよ！　」母子家庭、父子家庭で育った若者で結成されたと言っていいバンド仲間の苦労を裕子は知っている。時には落ち込み、怒り、泣いた。子供と亡くした裕子は母親にはなれなかったが彼等の母親に・・・・・「なれるものなら、なりたい！」と思った。　「違うよ！」　竜也が立った。「ヒーローは俺等と違う時代を生きた裕子さんじゃん！？」冷やかしにも茶化しにも聞こえなかった。一瞬休憩室が静まり返った。　「明日は、嵐だー」裕子はそう言って竜也に軽くウインクをした。（シワが増えるよ！　そのウインク！）　と竜也は言わなかった。　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（次回１５日土曜日「ライブ　送信」）

  2006/04/13

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• 「天使の梯子」　　バンド名　　世代（ゼネレーション）

  　シーズン　３１　　　バンド名　世代（ゼネレーション）　街路樹では新しいチーフを向かえ、徐々に活気を取り戻していた。竹沢誠一は従業員の評判が良く、３０分前には着替え,仲間達に気持ちの良い挨拶をする。　相手の目を見て交わす挨拶は両方が気持ち良い。繰り返される「あいさつ」と笑顔は人間性豊かな両親の存在を感じさせた。　厨房が気持ちを着替えた。 「今日の中華スープね、ゴマ油を入れるの忘れて」　裕子が言うと「菜月ちゃんが気づいたからオープンに間に合った！さすが！」「スープの確認、ベテランの余裕よね」　と仲間が言った。千尋から出る言葉は人を誉め、不自然な空気と表情を作るお世辞やおだてとは違って自然で暖かい。　会話が速くせっかちで思わぬミスをする裕子と千尋は親近感を覚え、二人の会話は入る隙間を与えない。 　更衣室から出てきた竜也が、休憩にきた白川真帆と池杉奏に「ねえ！」と声をかけた。　突然の「ねえ・・」に二人は戸惑った。そして、話は急速に進んだ。　「俺等さあ、　バンド組まない？」　竜也が真顔で言うと二人は色気のない大きなテーブルの椅子を引いた。　矢沢慎也とは昨夜話を済ませたらしい。　「待って！　確かに奏も私も矢沢君も音楽やってるけどー。なんで急に？」「うん、よくわかんない！　なんか仲間内だから調和がいいかもーって思った」「忙しいから、月一位なら時間取れるかもしれない」　「んじゃ、やろう！　俺がギター、矢沢兄貴がベース、それでー」「キーボードが私でボーカルが奏。　ばっちり！」　軽い乗りで真帆は言った。「私、ライブとかは未経験。　いつかはライブ目指すんでしょ？　自信ない」「大丈夫じゃん、だから練習するんだよ。　ちなみにー・・・・ライブはイブだよ。　早いっしょ！　目標を定めないと崩れるからね」「クリスマス？」経験者の言葉は十代でも重みがある。　真帆が運ばれた従食を口に運びながら、本気を見せた竜也と断り下手な奏の為に意志を固めた。「肝心のドラムがいないよ・・」　真帆が思い付いたように竜也を見た。「いるじゃん、ここに。　２５年前の青春が！」　竜也は持っていたスティックで黙々とパスタを食べる裕子を指した。　「何？　ん！　２５年前がどうした？」事の運びを説明された裕子は、奏と真帆に再三断ったが、竜也の顔を見て勢い良く「やるよ！」　と応えてしまった。（２５年前の青春？今に見てろよ！）　竜也のシナリオは上手く運んだ。　（のせられたオバサン） 　数日後、竜也と選んだドラムセットが、裕子のマンションで組み立てられた。竜也と口喧嘩をしながら、現れた相棒は一人になった裕子に存在を見せ付けていた。　体で覚えたことは体が甦らせてくれる。楽譜を拡大コピーして、竜也の使っていたスティックを貰った裕子に新たなアクセスが始まった。平均年齢を上げている裕子には「練習」しかない。　週一回のドラム教室も欠かせなかった。  　メンバーは竜也が押えた公民館へ入った。　秋は使用者が多く竜也は苦労した。　「ゼネレーション」の一回目の練習は三階のお粗末な部屋で行われた。苦労してとった練習場に文句は言えない。　「ポルノ」と言ってエロ本のタイトルと勘違いした裕子が楽譜を手に 平然とこの場にいることが竜也には可笑しかった。初めての練習は五人の収集が付かず焦点が飛び散った。　股関節が痛くなる程叩き踏んだ手足の甲斐も無く、裕子のドラムは・・・「ツツタツ、ツツタツ、ドン、シャン、コン！」で終わった。 　翌日、矢沢の提案書が貼られた。　「最低、月一度の練習。年一度のライブ実現。バンド内恋愛禁止。」「但し裕子さんは問題外！」　　「何、これ！・・」　竜也が加えた一言にムキになるエネルギーをスティックに充電しよう！裕子はにっこり笑って厨房に向かった。 　　　　　　　　　　　　　　　　　続く（明日、「ヒーロー」） 

  2006/04/12

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• 「天使の梯子」　　離婚届け

  　シーズン　３０　　離婚届け　秀明は晴美と理奈の三人で、新宿のデパートから出てきた。大きな紙袋には、理奈がイブのライブで着る洋服が入っていた。　途中、二人にわからぬようにポストに入れた一通の封筒は明日には裕子の元に届くのだろうと少し心を痛めたが、三人はビルの間を仲良く歩いた。　ビルの見える青空に向かって理奈が大きく伸びをしている。　上着とジーンズの間に白い素肌が見えていた。 「ああ！　気持ちいいー！」　　これからも生活を共にする二人を見ながら、きっとそれは覚悟でも責任でも、情でもない、自分の意志だと秀明は「けじめ」の封筒を思い出した。「　ねえ、　ライブ二人で来てよね。　絶対よ！」理奈が晴美の腕を取ってそういうと、晴美は秀明に確認するかのように視線を流した。晴美は目に少しだけ瞼の皮膚がかぶさっていたが、秀明と出会った頃の晴美は愛くるしく、裕子にはない「あなたがいないと駄目なの」　と言う自然な可愛さがあった。　そして亡くした子供とだぶった理奈の存在も大きく、噛みあわない歯車を必死に合わせる事さえ無くした裕子との別居に踏み切った。　気持ちの離れた女と暮らす事を選べなかった。　ホットドールズと呼ばれる理奈のバンド、当日は６組がライブに出ると言う。一グループ３０分弱の持ち時間があり、理奈はボーカルで出演すると誇らしげに話した。 　　裕子が　「けじめ」　に添えられた秀明の最初で最後の手紙をひろげ、静かに見つめた。こんなにしなやかで美しい字を書くのか．．．そして文面から、マンションが売れ、父親の遺産が幾らか入ってその日を迎える事が出来たという知らせとすまない．．と言う気持ちが伝わってきた。　言葉という形は見当たらなかったが、裕子にはわかった。　（義理の父の死さえもらえなかったー）　　裕子は待っていたはずの一枚のけじめが今、自分の心と反して、あるいは心の期待を裏切ってやってきたように複雑な気持ちの渦に沈んだ。　　あゆみに会いたい！と裕子は思った。　　雄二ではなくあゆみ．．． 　　暫くして秀明から、まとまった送金があった。　　それが遺産の半分か否か、もうどうでもよかった。　これで二人は他人になり、香川裕子は「暮林裕子」に戻った。　スイッチを切り替える事は新たな自分と向かい合う為には必要不可欠で、前を向いて歩く為には、やはりあゆみや江川心子、泉ももこ、雄二のような存在が背中をポン！と押してくれないと中々出来ない事を裕子は知っていた。　　裕子の空間デザイナー最後の仕事となった「風華」でのクレーム、そして秀明の背中に感じた女性の影、裕子は今再び、涙する。 　　あゆみは父親と二人暮らしをはじめて５年が経っていた。　まだ元気な父親を大事に思う心は、苦労知らずで恵まれた環境と家柄で育ったとは思えない.　　そんな裕子の偏見は、あゆみと雄二から覆された。　経済的に裕福で、両親が揃って愛情を注いだ家庭にほのぼのと育ち、健康も害す事なく、優れた教育を受け．．．裕子の偏見は、ダンスサークルの仲間に差別と偏見は醜いんだよ！と啖呵を切った偏見と違わない。　人に厳しく、自分に甘い「偏見」はない事に気づくのも遅い。　何かが遠ざかって「気付く」　ズレが多々あることに裕子は最近考えらせられていた。 　　街路樹では西田チーフの移動があった。　それは日暮れが早い１１月の終わりだった。　　日が短くなると、夏に邪魔だった太陽が恋しくなり、貴重な時間はあっという間に過ぎてしまう。　　いくつかの店をローテーションで回る新しいチーフは、誠実さが表情と言葉の端々に出る竹沢誠一という好青年だった。西田の後を追うように街路樹がら去った倉田は、他店を見てきたキャリアと腕は確かだった。だからこそ気づく多くの事、それを不器用な表現と譲れない何かが倉田の味だったのだろう。「損」をしながら回りを「成長」させる役者の存在も又、去ってからじわじわと皆の心に染みてくる。　　　緊張感が消え、ひっそりとした厨房で、いつものスタンバイがいつものように行われていた。　バックヤードで言葉を無くした裕子を、静かなベテラン小林太郎はそうやって何年も何人の仲間を見送って来た事で感じた同じ物を今、裕子が感じていることを知っていた。空気は呼吸するだけの空気に変わり、ウォッシャーの音、ファンの音、チキンを焼く音全てが大きく聞こえる。　　フロアーのメンバーの声も広く高い天井に響いた。　　「スープチェンジ、お願いしまーす！」 　　　　　　　　　　　　　　　　続く　（　次回は１２日水曜日。　「バンド名　世代」　）

  2006/04/10

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• 「天使の梯子」　　甘酸っぱい忘れ物

  　シーズン　２９　　甘酸っぱい忘れ物　　昭和３０年代の街並みを再現したフロアーは、年配者はもちろん若者でも溢れていた。銭湯に描かれた富士山、床屋のシンボルマ-ク、駅のアナウンス、存在感のあるどでんと立った真赤なポスト、抱っこちゃん人形、流れる歌声、どれも当時を鮮明に蘇らせていた。 　「この時代は良かった？」　竜也は、情景を楽しむ裕子に聞いた。「うん、　懐かしいよ。　見てごらん！　昔はこう言う煙草吸っていたんだよ。　竜也のお母さんやお婆ちゃんはもっと懐かしがるね」その他大勢の中で、開けっぴろげの竜也はラムネを飲みながら次の言葉を捜していた。 裕子が足を止めたのは、茶の間の風景だった。　懐かしいテレビ、丸いテーブル、引き違い扉の食器入れ、美空ひばりのカレンダー、トランジスターラジオ、土間や障子から昔の暮らしの臭いがしていた。　白い割ぽう着を着て、頭に細かいパーマをかけた母親が今にも顔を出しそうだ。　スクーターに興味を示す竜也は暫く裕子に話かけまいと思った。「この時代の家具や小物に囲まれた暮らしを、もう一度してみたい！って思ってる人がいるはずよ」竜也が裕子に付き合う形で時間は過ぎていった。 　夕方になると、年齢層が入れ替わり若者が増えてきた。　竜也があっけに取られて見ていた先には、ゲームに夢中の裕子がいた。「絶対にゲットしてやる！」　「掴んでも、上手く移動させないと縫ぐるみは取れないよ、ってか下手糞！」「両替してきて、はい！っこれ」　１０００円札を渡した裕子は「UFOキャッチャー」と格闘した。　興奮が治まり、歩き始めた裕子の手には大きな縫いぐるみが二つあった。「恥ずかしいから袋に入れたら？」　　その後、指定された音符を太鼓でリズムを打ち、点数で勝敗がわかるゲーム、ハンドル捌きが見せ所のレーサー気分のゲーム、次から次へと闘志を燃やす裕子に余裕で付き合う竜也は、やはり何処でボランティア精神を発揮するしかなかった。　（自分で言って、自分で怒って、自分で実証しているよ、この人） 　夜も深けると、二人はアベックのいる砂浜を歩いた。　「以前はもっと広かったんだよ、ここ」「ねえ、海だよね！　ここはダートじゃん！　ほら、ダートだよ」「競馬じゃなんだから、そういうムードのない表現ってありー？」「そうかー　、馬はこんな足場の沈む中を走らされているんだー」「話、聞いてなくない？　っていうか、馬に同情しながら、馬券勝って楽しんでるじゃん！」　二人はイチャツキ、次第に固まっていくアベックを横目で見ながら再び歩きはじめた。確かに夜景は綺麗だった。　神戸や小樽の夜景を未だ知らない竜也にはデートスポットの夜景はそれだけで十分だった。　 　竜也がいい店があると言うと、裕子は磁石のように付いて入った。「ここ、、前から一度入りたいと思っていたんだー」「いい感じね、入ろう！」高そうだよと竜也が言ったが裕子が既に店に足を踏み入れていた。「お二人様でございますか？」「はい」　竜也は照れ臭そうに裕子の後に続いた。窓は巨大な夜景のスクリーン、そこに向かって配置された小さなテーブルとふかふかの椅子。食事を取ると言うより、ゆっくり夜景をつまみにワインを飲むというインテリアに裕子はまたも感動した。　そして違和感のあるカップルに最高の席が偶然用意された。　「ラッキーだよ、香川さん！　ここはこの店で一番席かも」「うん、普段の行いが出るんだよ。　街路樹の裏方で頑張る私に感謝しなさい！」「感謝できない。　ただ、一年近く辞めない事に感心はしてあげる」　「あっ、そう！」　二人は赤紫に輝くワインで乾杯をすると、前に広がる夜景にしばし見惚れた。竜也は沙織を想い、裕子は何故か雄二を想った。　互いに隣にいるのが「・・・だったらなー」と考えたのだろうか、傍のアベックがピザを食べながら二人を見てコソコソ話しては笑っていた。　ワイングラスを顔の前に持って来て夜景を背景に映した時、「綺麗！最高！」と裕子が言った。　「うん、かなり綺麗だね。　俺、バイト代貯めてここに彼女を連れて来よう！」「うん、今度ここに座るのは沙織ちゃんだよ。　きっとそうなるよ」 　竜也のホホがほんのり赤く染まった。　「俺、．．酔ったかもー、ってか俺って未成年なんだよね」「そうかー！　忘れてたー、　この際大人の男って事でいこう！」「行こう！って何処に？　まさかホテルじゃないよね？　」「何、その化学反応！　じゃなくて条件反射じゃなくて、意味わかんない」「香川さんの方が意味わかんない！　」「私達がホテルに行ったら、それは犯罪かもー」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く  

  2006/04/09

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• 「天使の梯子」　　デートの下見

  　シーズン　２８　　デートの下見　太陽にモザイクを掛けたくなるような夏が終わろうとしていた。夜になると街路樹は道端の街灯と店の植木に忍ばせたライトアップが相俟って美しい外観を浮き出していた。　幻想的な建物は店の名前を知らぬ者も呼び込む事もあった。店内が明治時代を思い出す和の空間であることは、入店しないとわからない所がお洒落だ。 　サーモンピンクの傘は、先日突然の雨で非難したデパートでしかたなく買った物だった。色と値段で急いで買った傘を、外に出て開いてびっくりした裕子は「えっ！何？．．．」と見あげ、暫く一歩も出せないでいた。それでも傘なしで歩ける状態ではなかったので,そのヒトデのようにも星のようにも見える個性的な傘をさして歩き始めた。今ではすっかり気に入ってしまったギザギザの傘から雨は漏れるが、何と言っても人がさしていないから目立つ。裕子は時々傘を見上げながらウキウキしては立ち止まり、傘をくるくる回しながら駅に向かった。　車は車検で明後日までない。　歩くと見えて来る風景、感じる街の臭いも空気も嫌いではなかった。  　明くる朝、昨夜の雨が嘘のように晴れ渡っていた。「よーし、今日はデート日よりだ」　　裕子はジーンズを履き準備をした。　化粧は薄く．．．　。 　「今時、お台場に行った事がない?天然記念物だー,俺、連れてってあげる！」「んー？、竜也が行きたいって正直に言えば？！」裕子はクスっと笑った。「なんで？」　竜也は従食を食べる裕子にきいた。「どうせ、ボランティアかデートの下見でしょ？」竜也の顔がオバサンとデートする魂胆を正直に言っていた。　それでも裕子は昭和３０年代の街並みを再現した人気のスポットがとてもいい！とあゆみから聞いていたので、タイミングとしては悪くない。　新しいアンテナの先には、吸収する感動や景色で得られる物が意外にある。 　時々、メールで沙織に竜也の話に触れながら、その中に竜也の魅力を閉じ込めていた裕子は、二人が交際に至る日がそう遠くない事に自信を持っていた。　これぞ熟女だ。家庭が多少複雑な竜也は音楽に気持ちを向け、仲間から可愛がられる奴で、何でも許してしまいたくなる愛嬌の良さと、時々見せる寂しげな眼差しは母性本能を擽る。全く運のいい子だと裕子は感心さえしてしまうのだ。  　待ち合わせの時間より必ず早く着いている竜也は、裕子の姿を確認するとホームの向こうから走り寄った裕子に言った。「そんなに急がなくてもいいんじゃん？　年だから息切れしてるね」「一言多いなー、こんな公衆の場で！」　　隣にいた中年の男性が含み笑いをしていた。竜也の素材は、博愛と自信だと裕子は思った。「能ある鷹は爪を出す！」　竜也は音楽に関してはかなりの自信があり、またそれを裏付ける才能の持ち主だった。「あいつ、でかい男になるよ！」　と言った矢沢に頷けるのは裕子だけではなかった。電車に乗り込んだ二人は沙織の話題でお台場まで一気に「行った！」小柄で古風でもの静かな立ち振る舞いの沙織の魅力は、竜也のような男にはたまらないらしい。　芯は強いよ！と裕子が言ったが、竜也にはそういう存在が必要なのかもと裕子は思うのだった。　恋のフェロモンを露に出さないよう、裕子は経験を通し竜也に言い聞かせるように話した。静かなベテラン、街路樹の小林太郎が　「あいつにはガミガミ言う人がいないから．．香川さんの存在はウザクはないですよ」　と気にする裕子に言ったことがあった。　 　お台場では竜也は偉そうに裕子を観光案内のように引き連れて歩いた。「いい？！　ここがお台場だよ、ほら、いいっしょ！」　「うん、でもアベックばっかり」「いちおうデートスポットでもあるからね。　俺は夜景がすきなんだ」「そこに沙織ちゃんがいたら、もう最高だね！」「問題は、いつ告るかなんだー」　大きな溜息をついた竜也に裕子は足を止めた。「どうして、恋になるとそうやって臆病になるかねー？」「ちょっと苦い思いもしたからなー俺。　だからまた、ああなるって不安になるしー」二人は、マザコン息子かよほど仲の良い親子か、周りの視線を気にする事もなく、昼のお台場を楽しんだ。　竜也は熱心に自分の話に耳を傾けてくれる裕子を慕っていた。　街路樹では戦力になっているとは思えない裕子も、竜也にとっては今は大事な存在だった。　「竜也、とにかく女の子が喜びそうなポイントを押さえて、メインは夜景だと思うんだ。　だから先にお昼食べようよ、ね？」二人は中華料理の店に入った。　回転寿司の形態でやってくる数々の中華料理の小皿。「へえ！　いいね、こういうの．．」「目が回りそうだったら言ってね。　年だからね！」　　「グサ！」 　二人は回ってくる料理をたらふく食べ、小皿は高く積まれた。　「でさー！　俺、何て言って告白すればいい？」　　相当、沙織に熱が入っているらしい。「そんなの自分で考えな！　男でしょ！　なんでそうかねー、イライラして来るよ！」「しかたないよ、だってー。　たぶん、俺のＤＮＡがそうさせてるー」「はっ．．．！？」　　Ｄ　Ｎ　Ａ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く         

  2006/04/08

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  「天使の梯子」　　偏見　　ばれた素性

  　シーズン　２７　　偏見　　　ばれた素性　矢沢慎也は翌朝、厨房でファンのファンの音で裕子の存在がわかった。 安心していつものスタンバイに取り掛かった。その日も店は混み、裕子の顔を見る余裕はなかった。　夜、裕子にメールを送った。　　　　　　　　　　　　　　　「頑張ったね」　矢沢の言葉は短い。それでも裕子には嬉しい一言だった。 　夜のダンスレッスンで秋の市民ホールでの発表会の話がでた。否が応でも昼のメンバーと顔をあわせる事になる。　　そして迎えたリハーサル、その後早々に引き上げ走る裕子は案の定高倉に呼び止められた。　「香川さん！　お元気そうねー」　「．．はい。　高倉さんも」　裕子は高倉の周りに集まったメンバーに緊張した。　　「やっぱり、香川さんは夜のメンバーに混じってた方が心地よさそうね」と言われると「私、ダンスが好きでやってますから」ときっぱり言った。　一度大胆に引退宣言してしまうと気持ちの切り替えは早い。　「明日の本番の後、上の会議室で反省会やるのよ。ぜひいらしてねー」　「いいえ、ちょっと・・」　「３０００円のお弁当が出るのよ。ねえ、いいじゃない」　夫秀明との別居後、一時は裕子の空白の時間を埋めてくれた事を思い返していた。　そして・・・　「はい、じゃあ」　と思わぬ返答をしていた。　熱くなっても優しい言葉に弱い。それでまた同じ目に合う。 　本番で選曲された一曲は、インストラクターが遊び心で加えたワルツだった。短い練習だったが、裕子はその振り付けのとりこになった。ハイテンポのダンスと違って誤魔化しの効かないしなやかな舞は心を表現できた。初めてのダンスは新鮮で、裕子は程よい緊張感と満足を得た。 　　「お待ちしてたわ！香川さん、ここにかけて！」高倉がコの字型に並べた長テーブルの一つ空いた椅子を指差して言った。　他のグループのメンバーもいるらしい。　高倉の人脈か．．視線が集まる。　「さあ、いただきましょう！今日はご苦労様」弁当が開けられ、ジュースたお茶を口にし始める中で、話は始まった。振り付けがどうの、衣装が地味、ライトが眩しすぎた、フラダンスは衣装負けしていた、若いグループにはメリハリがあって敵わない、等裕子が予想していた会話をはるかに上回るワード数に、あのファミレスでの光景を懐かしく思い出していた。 　夫の浮気調査の後、酔って裕子に電話をして来た高倉里子は、まるで何事も無かったかのように皆の中心となって席を盛り上げていた。　やがて喋り疲れたのか、会話が途切れていった。そしてついにやって来た。　「香川さん、西口の街路樹で働いているのねえ」　「！　は、はい。そうなんです今年から」　　「息子の同級生の宮原洋介君が同じキッチンにいるのよ」　　「そうですかー偶然です。彼、よく働く子です」　「ちょっと元気良すぎるけれどねえ」　元気と言う言葉は多いに皮肉が込められていた。「不良って事ね？」　　「そうは言わないけど、まあ普通の子とはちょっとカラーが違うかしら。ねえ香川さん？」違うカラーでどこが悪い．．夜に移動した裕子に興味が注がれる予感は当たった。去った者、いない者は時に話題の中心になる。今更ここにいる自分を悔いてもしかたない。裕子は残りの弁当を食べ始めた。　　「うちの隣の娘さんが顔黒卒業して、今はキャバクラよ。あそこは母子家庭で教育が行き届かないようでね。まあ、気の毒って言えば気の毒な話よ。経済も大変そうよ」　　「そう、でも偉いじゃない。家の息子は相変わらず金食い虫、大学位は出てないとって、主人と無理無理行かせたんだけど、今は楽しんでいるみたい」　　「裕子さんのインストラクターの金久保さんは御主人がリストラに合って、一人息子さんが大学行けなくなって働きだしたって知ってる？」　　「いいえ」　裕子は次第にむらむら来るあの感情を抑えた。　「子供の話題はやめましょう」　高倉がそう言うと皆はつまらなそうに弁当を食べ始めた。それは裕子に子供がいない事への配慮か意地悪か、言葉はいったん口から出てしまえば、二度と口には戻せない。 　「あのう、　ご馳走様でした。帰りますね、ちょっと用事があるから」　　「あら！もったいない。まだ残っているわよ、お弁当」　裕子は割り箸を折った。立ち上がった裕子は背筋が伸び、ぐるりと周りを見渡して言った。「一言いいたいんですが・・・不良とかキャバクラとか、リストラとか、ここの話題は嫌いです！暇つぶしに人の事、弁当のおかずにするのはどうかと思うよ！　だいたいこういう社会を作ったのはここにいるこの世代の皆じゃん！　偏見と差別が言葉に出てるんだよ！あんた等の方がよっぽど変なんだよ！、醜いんだよ！　教育が必要なのはあんたらだよ！」　 　　消えた敬語、一言が熱弁、感染した若者言葉、そして．．ばれた素性。                         続く                                           　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　  

  2006/04/07

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