「永遠に」 4
昭和二十八年、ふたりはめでたく結婚した。 四季折々の盆地の自然と触れあいながら、山間をまったり走る飯田線。 ふたりは沿線でも比較的栄えた伊那町で暮らしはじめた。 やがて養蚕が盛んなこの町で、茂夫は製糸会社を立ち上げた。 茂夫の従兄弟にあたる良幸は、番頭と共に茂夫の片腕となって会社の発展に努め、努力と大胆な行動が常だった茂夫の気質は、会社を時代の波に素早く乗せた。 茂夫の愛情を浴びて暮らす令子も、なかなかの働き者だった。里が若葉色に染まり、辺りにやわらかな陽が遊ぶ田植えの季節を迎えると、令子はさっそく林家に向かった。 そんな令子を林家では「よい嫁がきた」と顔をほころばせた。 令子は長男公男の妻、志津を立てながら、慣れぬ手つきで田植えに精を出した。 土にぬかった令子の足は繭のように白い。 日除けの麦藁帽子の後ろには、令子が付けた桃色の布がひらひらと風に舞っている。 ある時、仕事を終え土間に戻った令子に、公男が声をかけた。「令ちゃ、こっちへおいな・・・」 暫くすると大きなお腹の志津が、木箱からヨードチンキを出してきた。 「荒治療だに。これを塗っときゃあ直に治るで」 「すみません・・・」 令子はその時、自分の足にできた豆にはじめて気づいた。