カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
謎解きが主流だった日本の推理小説に、リアリティと人間臭さを加え、
「清張以前」「清張以後」という言葉まで生みだした作家・松本清張。 短編の名手だった彼の傑作中の傑作短編を、野村芳太郎&橋本忍の名コンビが見事に映像化したのが、 '58年の「張込み」(松竹)です。 都内で凶悪な強盗殺人事件が発生。 警視庁のベテラン刑事(宮口精二)と若い刑事(大木実)が、犯人を追うべく、 犯人のかつての女(高峰秀子)が住む福岡の田舎町へと列車で向かった。 くる日もくる日も、息をつめて、女が後妻として嫁いだ家の裏に建つ旅館の窓から、 彼女の動向を張り込む二人の刑事。 果たして、ホシは女と接触するのか‥‥?! 出だしが非常に印象的でした。 刑事たちが東京駅から、今はイベント列車としてしか使われていない蒸気機関車に乗るのです。 黒煙を吐き、汽笛を鳴らしながら走る汽車に揺られる刑事二人。九州までは長旅です。 一昼夜明け、やっと目的地に到着。そして宿の二階の部屋にあがり、どっかりと座り込み、 宮口さんが、「さあ、張込みだ!」とつぶやくところで、やっとメイン・タイトルが出ます。 過去を隠して、ケチの見本のような男(清水将夫)の後妻となり、 なさぬ仲の子を育て、黙々と、そして淡々と主婦業をこなす高峰秀子。 たまに外出することがあっても、それはかつての男との密会とはおよそ程遠い、日常の買い物や葬式。 「もしやホシと‥‥?!」と尾行する刑事たちを落胆させるのですが‥‥ 刑事たちの張込みと尾行の様子は、とても地道というか、ただひたすら地味なのですが、 それがなおいっそう、ハラハラドキドキのサスペンスを際立たせています。 原作では殆ど描かれていなかった二人の刑事の私生活も、リアリティ満点でしたね。 中年の宮口刑事には、彼に長年黙ってついてきたといった感じの奥さんと、 多忙な父親をどこか醒めた眼で見ている男の子がいて、 宮口さんが息子に、「今度の休みに鎌倉につれてってやるぞ」と言っても 「父ちゃんの約束はあてにならないよ」と、つぶやく。 もうそのやりとりだけで、どんな家族かがよくわかります。 一方若い大木刑事には、恋人(高千穂ひづる)がいるけど、 職業柄、どこか結婚に踏み切れない自分がいるのです。 この映画で一番印象に残った人物は、ヒロイン高峰秀子ではない。 犯人の田村高広でもない。なんといっても宮口精二でしたね。 「靴をすり減らしてこそ刑事だ」と言わんばかりの刑事魂と ヒロインに見せる人間的な優しさを持ち合わせた中年刑事を 等身大で演じていました。 地味だけど、実に味わい深いサスペンス映画です。 松本清張17タイトル期間限定キャンペーン::影の車 [DVDソフト] 砂の器 デジタルリマスター 2005 <日本アカデミー賞セレクション>[DVDソフト] 八つ墓村 (1977年度製作版)(期間限定生産) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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