カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
生保業界の縁の下の力持ちで、離職率がきわめて高く、
「この仕事が続けられれば、どんな仕事にも耐えられる」とまで言われている保険外交員、今でいう生保レディ(って言い方も古いのかな?)‥‥ モイラは大学生の時にこの映画を見て、昭和30年代には男性の外交員もいたことを、 初めて知りました。 日本、いや世界の映画界でおそらく最高齢の現役監督・新藤兼人氏の「狼」です。 金銭的に困窮している男女22人が、大手生保会社の外交員として雇われるが、 半年で合計保障額500万円(今に換算するといくら?)の契約をとれという、苛酷なノルマを課せられ、 日夜飛び込みセールスに励むも、契約はほとんどとれず、 次々とやめていき、残ったのは戦争未亡人で障害のある息子を抱える秋子(乙羽信子)、 同じく未亡人で3人の子を抱え、電気代の支払いすらままならぬ富枝(高杉早苗)、 元シナリオライターで、失業した婿とその家族まで抱えている吉川(菅井一郎)、 元自動車修理工で、家に帰れば金のことで妻にヤイヤイ言われている三川(殿山泰司)、 元銀行員で、逼迫した生活の仲、妻との仲がすっかりこじれてしまった原島(浜村純)の5人。 彼らもほとんど契約がとれず、このままだと解雇は必然。 崖っぷちに追い詰められた彼らが、苦渋の末に選択したのは、 現金輸送車を襲撃することだった‥‥! 新藤兼人氏は、家に飛び込みセールスに来た保険外交員が、 汚れてツギハギだらけの服を着ていたことから、 この映画を構想したそうです。 5人の男女が味わう苦痛は、それはもうハンパじゃありません。 飛び込み先では大概門前払い。ひどい時には、 「保険だって?そんなに保険がいいものなら、お前さんが入りゃいいじゃないか! こっちはその日の食いものにもピイピイしてるのに、保険会社はでっかいビルをおっ建てやがって!」と、 長屋のおかみさんから、めちゃくちゃ理不尽な罵声を浴びせられます。 おまけに、家に帰れば今度は生活苦や妻とのいさかい‥‥ 高杉早苗などは、アパートの大家に「明日から電気を止めるからね!」と怒鳴られる始末。 ほんとに新藤監督は、「生活苦」「いじめ」というモチーフが大好きですね。 ご自身が子どもの頃、お金持だったお父上が人の保証人になってしまったばかりに 家屋敷を借金のカタにとられ、中学も退学せざるを得なかった体験から 経済的困窮にあえぐ弱い人々への熱いまでの共感、 そうした善良な人々を利用するだけ利用して、無惨に使い捨てる強者への猛烈な怒りが 少々くどいくらいに表現されています。 現金輸送車襲撃に成功した5人が、強奪したお金で、家族で遊園地に行くとか、 すき焼きを食べるとか、およそ強盗犯らしからぬささやかな贅沢をするシーンが泣けました。 乙羽信子にいたっては、お金はすべて息子の手術費用にあてるのですから、 哀しさを通り過ぎて、なんだか腹が立ってきました。 「狼はこの人たちじゃない。外交員を働かせるだけ働かせて、契約をしぼりとり、挙句に使い捨てにする保険会社のほうじゃないの‥‥?!」と。 現役の生保レディの方々は、この映画、観たくないでしょうね。 ちなみに、生保レディという、営業経費のほぼ全額が自分持ち(!)の職業は、 日本と韓国にしか存在しないそうです。 聞きかじりの情報だから、事実じゃないかもしれませんが‥‥ にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jun 7, 2022 09:55:28 PM
コメント(0) | コメントを書く
[独断と偏見に満ちた映画評] カテゴリの最新記事
|
|