【粗筋】
町内の鳶頭が手習いの師匠宅で一杯やり、吉原へ繰り込もうと言っているうちに、二人そろって寝込んでしまった。魂だけが抜け出して吉原へ向かおうとしたが、近くで火事があったので急いで体に戻ったところ、あまりあわてたので互いに反対の体に戻ってしまった。
鳶頭の若い者が呼びに来たが、顔が鳶頭でも中身は師匠だから話がとんちんかん。傍らの師匠の方が良く分かるので、様子が変だと気付き、二人を医者へ連れていく。眠り薬をもらって寝込むと、再び魂が抜け出して、行き損なった吉原行きの相談を始める。そこへ泥棒が入り込み、見世物にでもしようと、不思議な玉を二つ取って逃げ出す。
眠った二人が正気に戻らないので心配した家族が、清元に「田町へ帰る法印さん」と歌われた法印さん(山伏祈祷師)を頼んで魂を戻してもらおうとする。祈り続けて満願の日、泥棒が玉を返しにきて、
「魂返す法印さん」
【成立】
『日本霊異記』中-25に題材を得た作品。「魂違い」とも。
落ちは常磐津「戻り駕」の文句を取ったもの。分からないので、柳家小さん⑤は魂が井戸に落ち、日蓮宗の人が法蓮華経を唱えると、井戸の中で魂が「どんぶく、どんどんぶくぶく」という落ちにしている。これは柳家三語楼が「寿限無」からヒントを得て作ったものだという。
【薀蓄】
魂が別の体に入る話。
『日本霊異記』中-25では、讃岐国鵜垂郡の娘が死ぬが、山田郡の娘の身代わりだった。戻ることになるが遺体を火葬したため、山田郡の娘の体を借りて生き返る。両方の父母が彼女に財産を与え、娘は4人の親を持つことになる。
佐々木喜善の『聴耳草紙』110番「生返った男」では、死後数日で生返った男が、自分はある村のだれそれだと名乗る。調べると、その男も数日前に死んで、死体を火葬したため、同じ頃に死んだ別の体を借りて生返ったのだった。男はある村の方に引き取られるが、2年程で(今度は本当に)死んだ。
『酉陽雑俎』続集3-922では、張弘義は死の翌晩に蘇生、自分を李簡と名乗る。あの世の手違いで死んだため戻ることになったが、死体が傷んでいたので張弘義の体を借りたのである。