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名作落語大全集

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2024.08.10
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カテゴリ:落語

【粗筋】
 八五郎に家主から縁談が持ち込まれた。器量も良し、道具もそろっているが、京の名家の出身で、言葉が女房言葉で丁寧すぎて分からないという。風の強い日に表で会ったら「どふうはげしゅうしてしょうしゃがんにゅうす(土風激しゅうして小砂眼入(がんにゅう)す」と言う。家主の方では分からないので、「すたんぶびょうでございます」と答えた。目に入った道具屋の箪笥と屏風を引っ繰り返したのだ。
 八五郎、自分がイケぞんざいだから足して2で割ればちょうどいい、ともらうことにする。風呂へ行って掃除をして……順番逆がいいのに……(東京では、隣の婆さんに掃除を頼んで風呂へ行く)
 家で落ち着くと、新婚生活を想像する。食事をするのに、女房は小さな茶碗に象牙の箸がぶつかって「チンチロチン」、沢庵をそっと噛むので「ポーリポリ」、夫は丼のような茶碗に丸太のような箸で「ガンガラガン」、沢庵奥歯で「バーリバリ」。これをリズミカルに「ガンガラガンのバーリバリ、チンチロリンのポーリポリ」というのが楽しい。
 隣から苦情が入り、「子供が寝かけている」と言われ、子供が出来るのを想像する。子供を真ん中に三人手をつないで歩く、「お父ちゃん、よいよいよいやって」「そうか、よいよいよーい」「お母ちゃん、チャッチャッチャやって」「はい、チャッチャッチャ」これまたよいよいよーいのチャッチャッチャと大騒ぎ。またしても近所の人に止められる。(上方の噺家さんで、想像するシーンを長く演って、風呂、飯、子供で5分ずつくらい掛かった。それで名前を聞いてこりゃ大変だでおしまいになったことも)
 そこへ家主が女を連れて来る。「あの騒がしいのが八五郎だ。いや、大丈夫、食いついたりはしなから」(隣の人が止めると、この台詞はない)
 大家は女を家に入れて、「じゃあ、高砂や、はいさよなら」ってとっとと帰ってしまうので、名前を聞き忘れてしまう。本人に尋ねると、
「自らことの姓名は、父は元京都の産にして、姓は安藤、名は慶三、字を五光と申せしが、わが母33歳の折、ある夜丹頂を夢見てわらわを孕めるが故に、たらちねの胎内を出でしときは鶴女鶴女と申せしが、それは幼名、成長の後これを改め、千代女と申しはべるなり」
「チーン、お経だね、まるで」
  とびっくり。翌朝になると、食事の支度を始めたが、葱を売りに来た商人を止め、「そもじの携えおる一文字草、価いかほどなるや……我が君様が召すや召さぬや、伺うて参る間、門の関根に控えておじゃれ」「ははあ……何だ、これじゃあ芝居だよ」
 ことある毎に「ああら我が君」と呼ばれてすっかり閉口。朝食の用意が出来てたが、

「ああら我が君、日も東天に出でまさば、嗽手水に身を清め、ご飯召し上がってしかるべし、恐惶謹言」
「冗談いっちゃいけねえ。飯を食うのが『恐惶謹言』……じゃあ、酒を飲んだら『よってくだんのごとし』か」

【成立】
 言葉の丁寧さから起こる滑稽は、寛永5(1628)年『醒睡笑』の「文字知り顔」は、客が来た時に、「西宮(さいぐう)に人を遣(つかわ)す。大風(たいふう)頻(しき)りに吹いて新魚(しんぎょ)無なり。塩魚買来不及力(えんぎょばいらいふきゅうりき)」と言う。「西宮に人をやったが、風の影響で魚が取れなかった。そのため力及ばず、海の魚を買えなかった」と言えばいいのに、という話。同じ『醒睡笑』巻之三「文字知り顔」、井原西鶴の『万の文反古』巻2にも類話がある。
 上方ではタイトルがこの女性の名「延陽伯(えんようはく)」になっている。「縁よう掃く」夫婦の縁がうまくいくという意味だと言うが、『醒睡笑』巻之六「推はちがうた」34に、足利義政が使う3人、明陶子、淵用白、干陽朱という。中国の優れた人物から取ったものかと噂されたが、聞くと、三人共取柄はないが、一人目は奥さんが怖いので「妻いと憂し(めいとうし)」、二人目は縁側の掃除が上手で「縁よう掃く(えんようはく)」、最後は酒の燗をつけるのが上手なので「燗ようしゅ」だという。延陽伯の幼名が古くは「じょうだんす(冗談す)」だったという。
 古い速記では、七輪に火を起こしながら新婚生活を夢想するのと、ねぎを買うという件が入っているのは円喬、円生の二人だけ。
 上方では武家の娘という設定で漢語だけを使う。東京のものは、漢語・御所言葉・不可解な日本語と支離滅裂だが、それがおかしい。「千代女」は母の名で本人は「清女」など、演じ手によって異動がある。前半で家主が箪笥と屏風で答えたというのに対し、八五郎が「あっしならこう答えるね」と言う。昭和40年頃までは八五郎案も別の家具をひっくり返すという全く同じ発想だったが、八五郎が親父の戒名で答えるという改作をし、同じネタの繰り返しを避けている。これは寺の息子である三遊亭円楽(5)の工夫だと思われるが、幕末の土佐高岡郡の才右衛門の話として、出会った宗匠が、「セイフウゲキジン、ショウセキガンニュウ、バフンコウベニトドマルノウ(勢風激甚、小石眼入、馬糞頭にとどまるのう:私の当て字)」と言うと、「ショウコショウイに存じます」と親父の戒名で答えるという話が『笑話と奇談』に紹介さえている。
 小島貞二が、「たらちね」は男親で、ここは女親だから「たらちめ」と言わなければならないと書き、噺家にもそうするように教えた。しかし、「お乳を十分に与えてくれる」という意味から、「たらちねの」が「母」に掛かる枕詞であり、『万葉集』から使われている。「たらちね」も「たらちめ」も同じものである。「たらちを」というのが父に掛かるというが、実例は江戸時代にあるのみ。古い枕詞では父に対しては「ちちのみの」があり、母には「ははそはの」もある。小島氏がどこから思い付いたのかは分からないが、全く根拠のないもので、全く正しくない。ただ、寄席では敬意を払って、今でも「たらちめ」と表記している場合もある。小島氏は、「たらちね」を「垂乳根」と書くからそういう矛盾が生じる、古典では「垂父根」と書いてあるというが、これは万葉仮名で音を取ったもので、意味を現した者ではないし、用例も極めて少ない。
 林家三平(1)は大家とのやり取りから一人での想像までとにかく笑わせようというもので、お湯に行くのに名前を呼ぶ場面までで「お湯ゥがおしまいだよ」で終わらせていた。一方林家彦六(正蔵(8))は、結局言葉が原因で離縁してしまう。その後外で会って声を掛けると、「いったん離縁のある上は、すこぶる打擲あるなかれ」と言うので、「ああ、まだ治らねえ」と落としていた。せっかく掛け合わせたものを離縁しなくてもいいのになあ……って感じ。

【一言】
 落語の大通今村信雄さんの実父で落語の名速記者であった今村次郎氏が、明治中期柳家(禽語楞)小さんの『垂乳根』を速記した折、「せんぎくせんだんにいってまなばざればきんたらんとほっす」の意味がわからないので訊きただしたところ、当時の落語家としては武家出で学力もかなりあった小さんが、「センギクは地名で、センダンは学校…センダンへ入って学ばなければいけない…キンタラントホッスというのはキンは芸人の符牒でキンチキン十郎で阿呆のこと、つまり、その学問をしなければ馬鹿になるというわけです。ホッスは寺小屋ですから払子で…」と迷解釈をしたそうである。(飯島友治)

 嫁にきた晩の、いわゆる初夜の描写はできませんからね。どうしたって、そこンところは省略して、いきなり「ああらわが君、白米(しらぎ)のありかはいずれなるや」と亭主をゆり起こす翌朝の場面になるわけですよ。同じ「ああらわが君」でも、この時はもう娘ではなくなっているんですから、その微妙なちがいがにじみでてこなきゃいけません。それを考えると、むずかしくて……。(春風亭柳朝)

【蘊蓄】
 榎本健一と宮城まり子の歌う「チンチロリン・サンバ」はこの落語を歌ったもの。私もあるイベントでアイドルグループのための「あーら我が君」を作ったが、女の子たちが千代女の名前を覚えきれないので中止になった。









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Last updated  2024.08.10 05:31:00
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