【粗筋】
やぶ医者のところに迎えが来た。医者は見栄を張って、呼びに来た男と下男に駕籠を担がせて出発するが、途中で病人が死んだという知らせが入り、男はもう医者に用がないと帰ってしまう。下男と医者で駕籠を担いで帰ろうとすると、肥汲み屋に出会い、肥汲み屋に担がせて、医者は再び駕籠に乗る。肥汲み屋がもう一軒汲んで行くと言って、老婆のいる家で仕事を始める。老婆が駕籠について尋ねるので、「医者が乗って来た」と答えると、耳が遠いので「萵苣を持って来た」と聞き違え、駕籠の中へ冷たい手を入れる。中の医者が驚いて老婆を蹴飛ばしたので、老婆はウーンと言って倒れてしまう。この声に家から飛び出した老婆の息子が、「何をするんや、年寄りを足にかけるとは」下男がこれを止めて、
「足で良かった。この人の手に掛かったら、命のないところや」
【成立】
上方噺。笑福亭松鶴(6)が得意にしていた。東京では柳家小さん(4)が三遊亭縁馬(3)から教わっている。本文の落ちは東京では小噺で「医者の手」に収録してある。江戸の小噺についてはそちらを参照。
【蘊蓄】
萵苣はレタスやサラダ菜によく似た野菜で、「夏の医者」で重要な役割を果たす。面倒なのでレタスだと説明してある書物が多いが、全く違うもの。京都では肥を買い取ることを許さず、野菜と交換するのが一般であったことをふまえた噺。