パガニーニ伝:その26
26:ルチアーラの話 エルカルタの紹介されたのはあんたかい。ああ、俺も音楽企画をやっている。 パガニーニの話を聞きたいんだってね。とにかくパガニーニが出れば満員、立ち見も出るくらいだから絶対に儲かるしねえ。 そうそう、演奏会で一度だけ失敗があったな。 フェラーラという町で演奏をしたのだが、客の中にひどいのがいてね、口笛を吹くんだ。演奏会での口笛は非難の意味で下品とされているだろう。それで客席がざわついていたが、パガニーニは客が集中しないのでヴァイオリンで色々な音を出して見せた。 コンビニ、新幹線やサーキット……あ、これはマグナム何とかという日本の芸人だね。パガニーニがやったのは鳥の声、鶏の時の声、豚の鳴き声などね。 最後にロバをやった。これは口笛への返礼だ。相手を侮辱するときにロバを真似ると言う奴だな。ところがこれが大変な騒ぎを引き起こした。その頃、フェラーラでは周辺の町とのトラブルがあったんだ。それで他の町の連中が、フェラーラの人が通るとロバの真似をして罵倒した。そういう事情があったので、客が騒ぎ出して舞台に襲い掛かって来た。パガニーニは楽屋へ逃げ、床下に隠れて一晩過ごし、翌日やっと逃げ出し、僧侶に化けて町から脱出に成功した。彼は二度とフェラーラへは行かないよう注意していたよ。 俺が仕掛けたのはドイツだ。ミラノを中心とする活動で、フランスとイタリアでは知らぬ者のない演奏家となっていたが、ドイツでも、ミラノを訪れた旅人からの噂が広まった。それで、ミラノへ行ってパガニーニを聞こうというツアーを企画したんだよ。 いや、これは失敗だった。旅費にパガニーニの演奏会の代金、高すぎてとても払えないというので、結局中止になったんだ。 わしは諦めないよ。逆の発想をすればいいんだ。パガニーニを聞きに行くのが大変なら、パガニーニにドイツへ行ってもらえばいいじゃないか。イタリアの演奏家が来て、客が入らず、出演料で損をしたなんてこともあるが、パガニーニならそんなことはない。四五回やれば元は取れるが、あの人気なら二三回で儲けが出るよ。先のツアーよりはずっとお得じゃないか。 ところが、パガニーニがとんでもないことを言い出した。入場料は普通の倍にしろというのだ。君らの国では歌劇でも二万円くらいだろう。それを四万にするって言うんだ。千人の大ホールで四千万として、半分が会場費、管弦楽メンバー、裏方などのお金、もちろん俺の儲けもあって、出演料は奮発しても一千万だろう。それをパガニーニは一回の演奏で五千万だせと言ってるんだ。ドイツの関係者が驚くのは当然だ。「ドイツでは音楽はみんなのもの。こんな値段では暴動が起きても不思議ではありませんよ。」 って忠告した。そしたら……パガニーニはとんでもないことを言い出した。 ※ ※ ※MS81 愛国的賛歌MS82 主題と変奏MS83 ヴァイオリン独奏のためのソナタ イ長調 以上3作、無伴奏ヴァイオリンのための変奏曲。 ミレンコヴィチの演奏を所有。MS84 ギターのための37のソナタMS85 ギターのための5つのソナチネMS86 アレグレット イ長調MS87 ソナタ ホ長調 以上4作、無伴奏ギターのための小曲。 ツィガンテの演奏を所有。