倉敷の旅の続き:国立チャイコフスキー弦楽四重奏団演奏会
「大家、久し振りだなあ」「あんたは、実は身分のある侍なのに、誰も気付いていない振りをしている設定の、金さん」「説明が長い」「関東に帰ると、とにかく人物が沢山いるもので……へい」「誰と話しているのだ」「こっちの話で」「さて、1日に倉敷に行ったとか……その続きの演奏会の話じゃな」「そう。ロシアの国立チャイコフスキー弦楽四重奏団。予定ではすでに関東に帰っているつもりだったのじゃが、向こうからぜひ来てくれと招待されたので、予定を変えて行ったのじゃが、まあそれだけの価値がある、素晴らしい演奏を聴かせてくれた」「いちいち説明が長いが……つまり、右上の写真はその会場ということじゃな」「ところがぎっちょん、違うんですねえ」「何じゃ」「右上の写真は倉敷美観地区にある文芸館という、もっとも大きな演奏会場じゃ。昨年ここでオフチニコフさんのピアノを堪能した。奥には将棋の大山名人の記念館もあるぞ」「今回は違うのか……分かった。左下の写真が会場じゃ」「あらまっちゃんということで、これも違うんだなあ」「何じゃこれは」「こちらは美観地区からIVスクエアを越えた向こうにある市民会館じゃ」「それでは、どこが会場なのじゃ」「下にあります写真が倉敷の公民館でして、今回の会場はこちらでございます。さて、演奏会のご報告とまいりましょう……まずハイドンの『皇帝』ではアンサンブルの見事さ。全体が一つの楽器のように鳴りわたった」「ほう」「続くモーツァルトの10番、もちろん弦楽四重奏曲じゃよ。今度は4つの楽器がそれぞれの音色を生かした演奏じゃ。ところが、伴奏は前と同じように他との調和をしている。ピチカートなど、ポツンと切るのと、ポーンと響かせるのを全員が同じで演奏している。これは普段から一緒にやっているから、響きの様子、強弱まで、完璧」「すごいのう」「休憩をはさんでボロディンの2番から夜想曲だけ。この曲では繊細な響きの美しさを聞かせていた。実は楽章が終わるごとに拍手をするお客さんだったのじゃが、この曲が終わると拍手を忘れて酔いしれていたぞ」「それだけ素晴らしかったのだな」「そうじゃ。続くチャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレも同じじゃ。まあみんなのよく知っている曲ばかりだし、あっという間に時間がたって、最後の曲。ショスタコーヴィッチの8番。不安定な音程からソロと伴奏のアンバランス、それぞれの楽器の対立と調和、音の作り方が実に素晴らしい」「実力も疑いないな」「アンコールにロシア民謡から……後で話をしてもらおうと思ったら、疲れているので勘弁してくれ。じゃあサインをと言うと、嫌だとわがままを言う……じゃあ土産をということでもらったのがCDじゃ」「あいかわらずだな」「『アンコール』というCDでもちろん日本では市販されていないが、今回の曲も含め、抜粋したものじゃ。全曲でないのは残念じゃが、まあこれで許そう」「仕方のない奴じゃ」「いただいたCDジャケットは、岡山に帰らないとスキャナがないもので……へ、それまではご勘弁を」