ベルリオーズ:7「幻想交響曲のテキストの謎」
「さあ、いよいよ幻想の謎に迫って行こう」ベルリオーズ:7「幻想交響曲のテキストの謎」 『幻想交響曲』はその主題の展開がすぐには理解されないものだということは楽譜を見れば分かる。ではどうすればいいのか……いい前例があるのだ。ベートーヴェンの『合唱』である。第一楽章はいくつかの要素が合わさって出来た第一主題を様々に展開する。『幻想』も似ているのである。訳が分からない音楽はテキストを付けることによって理解される。日本でもタイトル付の曲が人気であることはいうまでもない。そのタイトルによって何となく分かったようになっている人が多いのも事実だ。指 揮者のアブネックは『合唱』を研究して、素晴らしい曲なので演奏したいと思っている。しかし、まだ聴衆の方がこの曲を理解できるほど進化していないのだ。ベルリオーズの新しい交響曲も同じ運命に陥る可能性がある。それならテキストを付ければいいと、アブネックのアドバイスがあったのではないか。 そこでドラマチックな描写と、ところどころに聞かれる描写的な部分で理解されていくのである。 もう一つは、「固定観念」とテキストにある恋人の主題である。この主題はその場その場にふさわしく変奏されるものの、耳にした瞬間にそれと分かるものである。聴衆は、あっ彼女が現れたと分かる。 ベートーヴェンのような複雑なつながりではなく、こういう単純明快な部分を用いることによって、聴衆の理解をうながしたのである。 この試みは大成功を収めた。聴衆は理解したかどうかはともかく、喝采を送ったのである。訳の分からない展開、耳障りで不快な音の連続……そういう音楽が評価されたのである。 それではその訳の分からない音楽を見て行こう。第1楽章「夢と情熱」「彼は、まず恋人とめぐりあう前に抱いた、あのやるせない気持や、漠とした情熱、あの、時ならぬよろこびや憂うつを感じる。ついで、恋人と会った瞬間に点火された熱い感情、ほとんど狂気に近い苦悩、しかし、前のように静まり、最後に宗教的な慰めとなる。」 感情だけを抜き出せば、この曲がめちゃくちゃだということが分かる。「やるせなさ」「漠とした感情(って何だ)」、「よろこびや憂うつ」、「熱い感情(恋心)」、「狂気に近い苦悩」そして「宗教的慰め」が音楽によって描写されていくのである。統一感もなく、展開も気まぐれ……ひどい音楽である。ところが、テキストが頭にあって聞くと、序奏部の「やるせなさ、漠とした感情、よろこびや憂うつ」が何となく分かる。そして主要部に入ると「恋人と会った」ことが分かり、その「熱い感情」や「狂気に近い苦悩」を感じることが出来る。そして結尾部の「宗教的な慰め」まで、ああ、今このシーンなのだなって分かるのである。