ベートーヴェン:8「運命の構成」
「さあ、では運命の構成を見て行こう」 ベートーヴェン:8「運命の構成」第1楽章 Allegro con brio ハ短調 4分の2 ベートーヴェンのソナタ形式は、基本的である一方で、必ず意外な部分が加わっている。それを承知の上で聴くなら、クラシックの形式を学ぶのにもいい資料である。 冒頭「タタタターン」という4つの音が2回鳴る。これがこの楽章だけでなく、曲全体を支配するテーマとなっている。ベートーヴェンの作品では初めての短調の作品である。後にも「合唱」しかない。 曲の要素はまずこの「タタタターン」という「戸を叩く」音型である。もう一つは「ミドレシ」という音程である。リズム・メロディ・ハーモニーを音楽の三要素というが、これほど単純素朴な音楽はない。音楽の本当の面白さはそれをどう展開させるかであって、こんなメロディが出来ましたよというものではないのだ。この曲も、この動機が綿密に構成されていくことに意味が有る。 「タタタターン」という音型はよくあるもので、ハイドンやモーツァルトの交響曲などにも現れるし、ベートーヴェン自身もピアノ・ソナタ第23番ヘ短調「熱情」作品57でも第一楽章でこの音型が繰り返されて緊張を高めるし、交響曲「英雄」の葬送行進曲でも伴奏で執拗に鳴り続けている。ピアノ・ソナタ「熱情」で鳴るのもご存知の通りだ。 この冒頭の8つの音について、ベートーヴェンのお爺さんの書いた楽譜が見付かった。8分の6拍子で、8分音符三つと付点四分音符で、形も「タタタターン」であり、「ミドレシ」という音程まで完全に一致している。「ベートーヴェンが盗作」なんて記事にもなったが、爺さんの書いたものは軽いメヌエットのような調子になる。続きがないのでどう展開するか分からないが、まあ、そういうもの。それに対して「運命」は四つの音符の前に給付がある。「ンタタタターン」という、この「ン」が緊張感を出す。既に全く違う世界が生まれているのである。 二度の音符の最後にフェルマータが付いているが、最初は1小節、二度目は2小節である。これは謎だという指揮者がいる一方、「要するに後の方が長いということだ」と言う指揮者もいる。まあ、後の方が正解なのだろう。緊張感を維持して突き進むために、どちらも余り長くせず、長さの違いを感じさせない演奏が多い。これも一理あるが、後の方が長い演奏も面白い。聞き比べが面白いのは、こういう指揮者がどう解釈しているかを比べるのが面白いのである。 その後、弦の各パートは四つの音符だけを演奏しているのだが、二部のヴァイオリンとヴィオラが上へ上へと積み重ねて行く。幾つかの楽器が全体で一つのメロディを演奏するというのは「英雄」にもあるが、この「運命」のやり方は大胆極まりない。 もう一度フェルマータが入ると、今度は下へ下へと積み重なる。更に四つ目に低弦の合いの手が入る。 最初の四つの音符が主題なのか。一般には動機だと解釈される。では積み重ねが第一主題なのか。では上へ積み重ねるのは主題で、下に積み重ねるのはもう発展しているのか。解釈の別れる部分である。