名作落語大全集

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• 落語「し」の１９８―１：蜀山人（しょくさんじん）：その１（近江八景）

  【粗筋】　太田蜀山人が駕籠に乗ろうと値段の交渉、駕籠屋も相手が蜀山人と知り、​「近江八景を歌に詠んだら、駕籠賃ただにしてやりまひょ」　と言う。そこで、　　乗せたから先は会はずかただの駕籠比良石山や走らせてみい　　（ノ・瀬田・唐崎・ハ・粟津・堅田・ノカゴ・比良・石山・矢走・ラセテ・三井）　と見事に詠んだ。駕籠屋が感心して、「ついでのことに膳所（ぜぜ）も詠み込んでくだせえ」「ぜぜ（銭）ができるくらいなら、ただの駕籠に乗りはせんんわ」​【成立】　「蜀山人」という題で演じられるのは、蜀山人の和歌の逸話を集めたものだが、これだけは落ちも付いていて、近江八景や狂歌関連の噺の枕に用いられている。膳所は近江八景に近い名所。​　この後に、何と俳句で近江八景を読み込んだという作を紹介する。　　七景は霞の中に三井の鐘　桂米朝は「近江八景」のマクラで、立川談志は「蜀山人」の中で演じていた。談志は歌だけで落ちを付けずに、京の三条大橋へ行くと穴が開いてつぎはぎだらけ、　　来てみれば流石都は歌所橋の上にも色紙短冊　と詠んだという話が続く。旅をテーマに一まとめに出来そうだが、他にあるのかしら。​【一言】　できすぎた話で、どうもフィクション臭いのだが、「のせたから……」の歌は近江八景を暗記するのには便利だ。（小佐田貞夫）​​【蘊蓄】　太田蜀山人（１７４９～１８２３）、南畝（なんぼ）、本業は儒学者であるが、洒落本・滑稽本も書き、狂歌にその本領を発揮した。狂歌の号は四方赤良（よものから）というのがよく知られている。​

  2023.08.02

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• 落語「し」の１９７：初会（しょかい）

  ​【粗筋】　侍が女郎を見立て、上がることにしたが、「お腰の物をお預かりします」​「武士にとっては刀は命。渡してなるものか」「いえ、廓の掟で、どなた様でもお預かりすることになっております」　そういわれて仕方なく太刀を預け、脇差もと求められて、これも渡した。「さあ、これからは柔（やわら）だ」​【成立】　１７７９（安永８）年『気の薬』の「初会」。吉原では刃傷沙汰を避けるために刀を預かる規則があった。侍としては刀を奪われると落ち着かなくなるもので……後は女郎と組み合うだけなのかも知れぬが、うぶな私には見当もつかない。　１７７８（安永７）年『今歳笑』の「女郎買」は、堅い男が初めて遊郭へ上がるが、最後まできちんと背筋を伸ばして座って「もう寝ましょう」と誘われても「我らはこれが勝手でござる」という、とんでもない堅物の噺があるが……まあ、女郎との柔では初会でなくとも堅くないと役に立たない。​

  2023.08.01

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• 落語「し」の１９６：ジョーズのキャー（じょおずのきゃあ）

  【粗筋】​　最近はテレビでもＶＴＲでもう一度などとやるので、同じシーンを何度でも見ることが出来る。だから映画でも画面のショックより、客席で思わぬ悲鳴が聞こえる方がびっくりする。　鮫が人間を襲うという映画「ジョーズ」が大ヒット。客席で女性が悲鳴を上げたので映画が盛り上がり、あと１週間の公開延長が決まった。映画館ではこの女性を１回５千円で雇う。女性もただで映画が見られて小遣いまでもらえるというので、やる気になって悲鳴を上げたので映画は毎日大入り。　さて５日までは順調にこなしたが、１日５回も同じ映画を見て悲鳴を上げていると、そろそろ疲れが出て来る。声が出なかったり、サンドイッチを食べようとしてパンを飛ばしてしまったり、最後には思わず「５千円」と叫んでしまう。　館長もあきれかえって、「５日目まではお支払いしますが、後はひどいですね。１回５００円にします」　と言うと、女性が、「キャー」　……これで落ちなのに、お客様がわっと拍手を下さいません。もう一度やりますので、最後の締めくくりをお願いします。ＶＴＲでもう一度。キュルルル……「１回５００円にします」　というと、女性は泣き出した。どんな風に泣いたかって……もちろんサメザメと泣きました。　拍手をもらえるとうれしくなるのが芸人の習性で……ＶＴＲでもう一度。キュルルル……「お約束ですからお金は全額出しますよ。ところで、まだお名前を聞いていませんでしたね」「はい、さくらと申します」​【成立】​　桂米丸が演じている。落ちが３つも続くというのはどうかしているのだろうが、そこまで一気に引きつけて行く米丸の力量がすごい。

  2023.07.31

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• 落語「し」の１９５：ジョージ・ワシントン伝（じょおじわしんとんでん）

  ​【粗筋】​　ワシントンは桜の木を切って正直に名乗り出たのをほめられてしまった。「正直に、何でも言えば、パパは褒めてくれまーす」　と、パパの大事にしているものを次々に斧で叩き壊す。「パパの、一番大事にしているものは、ママでーす」　と斧でばっさり。​【成立】　春風亭昇太の自作自演。ネットでは１９９１年に初演とされているが、それ以前に演っていたと思う。​​【蘊蓄】　ワシントンの桜の木は子供の頃に聞いて、その時から疑問だった。だって、悪いことをして名乗り出たら、「正直に名乗り出たから今回は許してやるが、二度とするなよ」って、注意をして許すかも知れないが、ほめはしない。​　大人になってから理由が分かった。ワシントンは政治家なのである。「普通秘書のせいにするのに、彼は自分の責任を認めた。偉い」、「自分がやったと認めて辞任した。その潔い姿に拍手を送りたい」……これらは日本の政治家が実際に言った台詞である。

  2023.07.30

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• 落語「し」の１９４：昭和任侠伝（しょうわにんきょうでん）

  【粗筋】　任侠映画に毒された八百屋の息子、格好も話し方も真似するが、家族にも相手にされず、「風呂に行こう……いや、任侠は風呂へ行くって言わへん、湯ゥ行ってくらあ」ってんで表へ出ると、女に声を掛けられる。​「ちょいと、お兄さん」「イイ女だな……任侠が女に甘くちゃいけねえ……向こうが惚れても突っぱねるんだ……へい、何でござんしょう」「石鹸落としましたよ」「あ、すんまへん」　湯屋へ行くと立派な彫り物の男がいる。これこそ任侠の入り口だと、その人に声を掛けると彫り物師。自分にも彫ってくれと頼み込む。男が承知して仕事場へ連れて行くが、「背中をグッと……うっ……ここが我慢のしどころや……ううう……ぐうっと我慢するのやあ……」「じゃあ、始めるぜ」「まだしてへんのかーい……あ痛……痛い痛い……」「何や、まだ針先で突いた程度やないか」　これはあかん……刺青だけが任侠やない……「そうや、映画では刑務所から出て来るところから始まって、最後にまた刑務所に戻って行く……それや」　大学なら勉強すれば誰でも入れるが、刑務所は難しい。バナナのたたき売りがいたので、金を払わずにその場で１本食ってしまう。「何すんねん」「じたばたしやせん。どうぞ警察に突き出しておくんなせえ」「お前八百屋のボンやないか。売るほどあるのになぜバナナを……ええから帰れ」「あっしの気が済みやせん。どうか警察に」「うるさいなあ……そこまで言うなら連れて行くで」　交番でも面倒臭くなって、「まあ調書だけ作っとくわ。ええと、住まいは……」「ねぐら定めぬ一匹狼で」「角の八百屋の息子やろう……もう帰れ」「そんな……お勤めさせて下せえ」「勤めたいのか、それなら職安や……あ、帰ったらお母さんによろしゅう言うといて。時々野菜や果物を差し入れてくれんのや」「ああ、刑務所にも行けんのか……今の世の中、右も左も真っ暗闇でござんすねえ……ただいま……何や、灯り点けへんのかい……右も左も真っ暗闇じゃあござんせんか」「何を言うとるのや、今停電なのや」​【成立】　桂春蝶の創作落語。​

  2023.07.27

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• 落語「し」の１９３：女郎の文（じょうろのふみ）：その２

  ​​【粗筋】　遊びが過ぎた若旦那を座敷牢に閉じ込めていたら、「深川より」と上書きした文が届く。親父が見ると、吉原の火事で焼け出されたので、紙の節約で細かい字で短くしたためてあり、小指を切って香箱でなく、蛤貝に入れてある。親父感心して息子の所へ行って、「見ろ。世間ではこのように商売に身を入れるわ」​【成立】　１７７２（明和９）年『楽牽頭』の「文」。髪を節約し、箱も貝殻を利用、倹約しながら客の気を引こうとするのに、倹約家の父が感心したということ。相手が遊女だけにおかしい。​

  2023.07.25

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• 落語「し」の１９２：女郎の文（じょうろのふみ）：その１

  ​【粗筋】　毎晩遊女屋へ通っている男がいる。​「どうしてそんなに熱心に出掛けるだ」「毎日手紙が来るからだよ。ほら、見ねえ」「すごい量だな。何が書いてあるのか、見せねえ……あれ、これ日本の字かい……読めねえぜ。お前、読めるのかい」「やぼなことを言うなよ。読めないから毎晩聞きに行くんじゃねえか」​【成立】　１７９８（寛政１０）年、立川談洲楼焉馬の『無事志有意』の「文」。１８０４（享和４）年『富久喜多留』では「女郎の文」という題で収録。​

  2023.07.24

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• 落語「し」の１９１：女郎の嘘（じょうろのうそ）

  ​【粗筋】　居続けの客が一人になって一休み、隣の座敷の声が聞こえる。​「もう堪忍なりんせん。あんまりでありんす。私ゃ死んでしまうぞえ」　ただ事ではないと襖の隙間からのぞいてみると、花魁が一人で、鏡に向かって自分の首を絞めている。驚いて飛び込んで、早まるなと止めると、「すみません。人には決して言うて下さるな」「言いやしねえが、どうして死のうとしたんだい」「いえさ、私ゃ嘘がうまく言えないから、鏡に向かって工夫していました」​【成立】　可愛いじゃないか。江戸小噺にあったと思うが不明。寄席などではずっと聞いていない。​

  2023.07.23

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• 落語「し」の１９０：女郎と質屋（じょうろとしちや）

  【粗筋】　紋日前だが、旦那が商用で遠方に行き、金の工面のつかなくなった花魁が、茶屋に相談すると、​「お前様の小袖を質に置けば、今度の紋日くらいは乗り切れましょう」「あの小袖は、旦那から贈られた物。手放すわけにはまいりません」「いえ、それで金を貸してくれるので、後で金を返せば小袖も戻ります」　この花魁は質屋を知らないというので、育ちのいい女だったのかと驚いているが、それではと小袖を預かった茶屋の者がさっそく出掛けようとすると、後ろから、「絶対に流してはなりんせんよ」​【成立】　安永２（１７７３）『御伽草』の「質」。質屋を知らぬはずが「流れる」という専門用語を知っていたという落ち。２人の花魁で、後の者が真似をするという演出も可能と思う。そのような花魁の噺が幾つかあるので。​​【蘊蓄】　質の制度は古く「大宝令」に見えているが、庫を有した専門業者が出たのは鎌倉時代以後になる。この時代は、貸金の利息が元金の倍になると質流れとなり、異議申し立てはできなかった。江戸に入ると、質屋の営業は株売買制度による許可制で、伊勢出身の者が多く「伊勢屋稲荷に犬の糞」と江戸名物にまでなった。落語で「伊勢屋」といえば当然質屋である。​

  2023.07.22

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• 落語「し」の１８９：女郎と金（じょうろとかね）：その２

  ​【粗筋】　女郎に一分金を包んで渡す。開けてみるが「何なの、これ」と言う。「まあ、役に立つものだから取っておきねえ」と言っていると、使いが来て急用で帰ることになった。店を出て紙入れを忘れたことに気付いて戻ると、女郎が一分金を４枚ずつ分けて並べていた。​​【成立】　１７７３（安永２）年『飛談語』の「小粒」。小粒は一分金。４分で１両になるのだから、４枚ずつ分けるとは、ちゃんと分かっているということ。その１と同じことだが、その１に比べて説明が必要になるのか、あまり演じられることはない。​

  2023.07.21

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• 落語「し」の１８８：女郎と金（じょうろとかね）：その１

  ​【粗筋】　女郎が差しに通った銭を見て、虫がいるよと騒ぎ、あの女郎は銭を知らないというので評判になった。真似をしようとした女郎、自分で銭を出しておいて、​「誰か来ておくれ、そこに虫がいるんだよォ」「えっ、どちらに」「ほら、そこに一貫あるじゃないか」​【成立】　金額を言ったら何にもならない。​　１７０８（宝永５）年『かす市頓作』巻一の「全盛のちじよく」は、三浦屋の高尾太夫で、二階の部屋に入って、「これ、そこに何やら一文ある」と言う。　１７８９（天明９）年『福来すゞめ』の「豆腐」は、下女が出世して飯炊きを使う身分になったが、台所へ行って「そこに白い物が半丁乗せてあるのは何だね」と言う。　女郎を扱う噺のマクラで、今でもよく耳にする。三遊亭円生（６）、金原亭馬生（１０）が印象に残っている……古いね。今の若手も数人いるけど。

  2023.07.20

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• 落語「し」の１８７：浄瑠璃乞食（じょうるりこじき）

  ​【粗筋】　浄瑠璃好きの旦那に頼み事がある男が、義太夫の口調で説明をすると、旦那がすっかり喜んで機嫌よく引き受けてくれた。​　これを見た乞食が真似をして、義太夫の調子でお恵みを催促する。「♪そこをなにとぞゥ……」「デンデン（出ん出ん）」​【成立】　前半の部分をじっくり演じると一席になるが、概ね音曲噺の枕に用いられていると書いてある本がある。実際に聞いたことはない。落ちは太棹の三味線の音をきかしたもの。​

  2023.07.19

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• 落語「し」の１８６：上満床（じょうまんどこ）

  ​【粗筋】　上満床という、よくはやる床屋があり、いつも４、５人が待っている。将棋に夢中になっている者の煙管を雁首同士、吸い口同士ですげ変えたり、駒を打つ前に盤の横で叩く癖のある奴がいると、盤の横にびんつけ油を塗って、叩いた拍子に駒がくっつくようにしたり、色々悪戯をして騒いでいる。​　この向かいに無性床という汚くてはやらない床屋があったが、上満屋がうらやましくてならず、不動様に信心をした。いよいろ満願の日、早朝から客が並んだので大喜び。火鉢を用意すると、その火鉢が１つ増える。金盥を持っていくと、金盥が１つ増える。茶瓶を用意すると、茶瓶が増える。剃刀を研ぐと、剃刀が増える。髭を剃ると、すぐにニョロリと生える。​【成立】　前半は「浮世床」、後半は「ぞろぞろ」。笑福亭松鶴（４）の速記があるのみ、他に演じる人はいだろう。​

  2023.07.18

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• 落語「し」の１８５：正札付き（しょうふだつき）

  ​【粗筋】　江戸の町は何町の何丁目まではあったが何番地というのはなかった。黒船が来て横浜の商館に見分けやすいように番号をうったのが、便利だというので何丁目何番地というのを使おうというようになった。​「お前さん、大変だよ」「何だ」「お巡りさんが来たんだよ」「去年の食い逃げがばれたかな」「そうじゃない、私ゃ何だか分からないんだけど、明日また来るからご主人に話しておけと言うんだ」「じゃあ、ご主人に話ゃいいだろう」「だから話しているじゃないか」「誰に」「お前さんに」「俺がご主人か……いつの間に偉くなったんだ」「偉くなったんだから、玄関にお札を出しておけって言うんよ」「玄関にお札はったら、お前ぇが入れなくなるぜ」「牡丹灯籠じゃないよ。お前さんの札を貼っておくらしいんだ」「俺の……狂犬病の注射打つのか」「犬の鑑札じゃない、正札（しょうさつ）って言っていた」「しょうさつ、それは正札（しょうふだ）じゃねえか。古着屋でこれは幾らって値段が書いてある札だ」「お前さんなんか幾らかねえ。乃木大将が百円なら、お前さんは１銭にもならないよ」「大将と比べるねえ」「じゃあ目方かねえ。古新聞が１貫目１５銭だから……」「俺ぁ１４貫目だから２円１０銭だな」「１０銭くらいまけて、２円ちょうどにしておくれ」「亭主を値切るな。男一疋２円じゃみっともねえ。目方にして秤の目をごまかされるといけねえ。丈にしようじゃねえか。１分１円として、俺ぁ５尺４寸３分だから５４３円だ」「すごいじゃないか。お前さん、見直したよ……奈良の大仏様は５３００円よ。浅草の観音様は１寸８分だから１８円にしかならないけれど、金無垢だからつぶした方が高いかねえ……お前さんもつぶしたら少し高くなるかねえ」「冗談じゃねえ。とにかく５４３円で……ちょいと半端だな。何とか千円にならねえか」「それじゃあ、私の分も言入れておしまいよ」　ってんで千円と書いて表に貼っておくと、翌日巡査が来て、「昨日表札を出すように言っておいたが、まだ出していないようじゃな」「いえ、出してあります。玄関の上の方に」「あれか。あれでは見えんではないか。高すぎるぞ」「え、千円では高すぎますか。じゃあやっぱり５４３円で……」「何を言うておる……千円……何じゃこれは、これがお前の姓（背）かね」「いえ、女房と二人分でございます」​【成立】　開花期を舞台にしたものだが、時代錯誤がかなりある。​​【蘊蓄】　最近の若い人は「せが高い」と言うが、「せいが高い」というのが正しい日本語。背中は「せ」で、身長は「せい」という使い分けが無くなりつつあるようだ。音からではなく、文字から入ってしまうのが原因で、古い言い回しが変わっている例は極めて多い。「せいたかのっぽ」を「せたか」と言ったら分からない。「上背がある」「背比べ」なども「せ」になって行くのだろうか。​

  2023.07.17

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  落語「し」の１８４：菖蒲革（しょうぶがわ）

  ​【粗筋】　菖蒲好きの旦那が家の普請をし、床の間に菖蒲の絵、襖も菖蒲革の模様と、何でも菖蒲尽くし。訪ねて来た友人がこれをほめるうちに、部屋の隅に三角の箱を見付け、​「これは何です」「中におむすびが入っているのだ。これも菖蒲に縁があってな」「へえ、どういう訳で」「二つ食べては三つ食べ」​【成立】　題名の「菖蒲革」とは、菖蒲の花葉の形をデザインした模様。この模様の並び方が、二つ三つの繰り返しであったことを知らないと落ちが分からない。足軽の袴地などに用いられたため、足軽のことを「菖蒲革」と呼んだ。​

  2023.07.16

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• 落語「し」の１８３：菖蒲売り（しょうぶうり）

  ​【粗筋】　「菖蒲、菖蒲、仙檀菖蒲」と売り歩くと、侍が「勝負とあらばお相手いたそう」と飛び出した。これが口達者な菖蒲売りで、少しもあわてず、仙檀菖蒲のいわれを口にまかせて述べたてる。​「女は田の神の奉仕者として田植えの先立つ五月の節句の前の四日夜、定まった家に籠もって物忌みの生活に入ります。そのとき菖蒲を屋根にふくのは、忌籠りの印だったが、菖蒲は邪気を払い、疫病を除き、蛇や虫の毒を避けるのに効果があるというので、どこの家でも菖蒲をふくようになったのです」「ふうむ……なかなかもって下へはおけぬ」「それで屋根へ上げます」​【成立】　１８６１（万延２）年、桂松光のネタ帳『風流昔噺』に「五月しゃうぶ売​  但シいつも屋根に上て御座ります」とある。​【蘊蓄】　端午の節句には菖蒲を用いるが、「勝負」「尚武」に通ずるとして、武士の間で始まった。葉の形も刀を思わせる。江戸時代には厄除け、邪気払いとして一般に広まり、勝負湯に入り、軒菖蒲を飾るようになった。軒には葉勝負とヨモギを束ねて５月４日の夜に置き、５日の昼には取り込む。これは最近見なくなった。そういえば、花菖蒲を室内に飾るのも無くなったのだろうか。​

  2023.07.15

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• 落語「し」の１８１：商売根問（しょうばいねどい）

  ​【粗筋】　どんな商売もうまくいかない男、甚兵衛さん相手にその経緯を話す。​　魚屋ではアジとサバを売りに出、アジは売れたがサバが残り、「アジない（味ない）サバ」と売って歩いたので、その後は誰も買わなかった。　ミツバを売りに出たが名前を忘れ、しおれかかったのを川に捨てた。とたんに水を吸って生き生きとするのを見て「あっ、ミツバや」と思い出し、あわてて飛び込んだが上流に泳いだので一束も拾えなかった。　河童が尻子玉を狙ってくるところを捕まえようと、自分の尻を餌に川へ向けて待つうち、通りがかりの人に馬鹿にされ、怒って立ち上がるとたん、長時間しゃがんでいてしびれが切れていたので川へドブン。上がって来たところを河童と間違えられてひどい目にあわされた。　茶と栗と柿と麩を売りに出て「チャックリカキフッ、チャックリカキフッ」と妙な声を上げると、子供が面白がって「あほかいな」と言いながら付いて来る。ちんどん屋も面白がっ「ドンガラガンのプッ」とはやしたてる。「チャックリカイフッと、あほかいな、ほれドンガラガンのプッ……これがよう合いまんねん」「そんなもん合わしないな」​​【成立】　色々な商売の失敗談を並べただけのもの。演者によって商売が色々変わる。「鷺取り」「虫採り」「天狗刺し」など商売噺の導入に用いることも。一席で聴いたことはない。【蘊蓄】​​　円生（６）の枕で紹介する珍商売に、猫の蚤取りというのがある。文化７（１８１０）年の『燕石雑志』に、　猫の蚤をとらんと呼びあるきて、妻子を養ひしものありけるとぞ。これも遠きことにはあらず。猫の蚤を取らせんといふものあれば、まずその猫に湯をあみせ、濡たるまま毛をひかざる獣の皮へつつみおくに、猫の蚤ことごとくその皮へうつるといへり。工夫はさることなれどかくまでに猫を愛するもの多からねばや、これも長くは行はれず。　とある。　　毛財布で猫の蚤取る代二銭（せとり舟）宝永元年刊。値段が２銭だったということ。　　待つ日は見えぬ猫の蚤取り（俳諧ケイ25）文政４年。書物名は漢字が出ないので。　　京町へ来る猫の蚤取（同27）文政７年　　蚤を捕る工夫に猫を鬼童丸（新編柳樽４）天保の末　最後のは、牛の皮をかぶって源頼光を殺害しようとした賊の名を生かし、猫をきどる（猫のふりをする）ということ。　小松重男の『蚤とり侍』は、主人公が主君の逆鱗に触れて「猫の蚤とりになって無様に暮らせ」と命じられる。こちらは淫売夫のこと。一般には「猫」が遊女であり、その蚤を取るのは身の回りの世話をする若い者。

  2023.07.13

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• 落語「し」の１８０：樟脳玉（しょうのうだま）：その２

  ​【粗筋】​　同じ長屋の八五郎が捻兵衛の家を訪れると、捻兵衛が首をくくっている。その死体に魔がさしたのか、しゃべりだして八五郎を脅し、八五郎は落ちた死骸と抱き合って気絶してしまう。様子を見に来た長屋の連中が起こすと、目を覚ました八五郎が皆を足元から見上げて、「ああ、首くくりが増えた」​【成立】​　鼻の三遊亭円遊（１）の速記が『百花園』にある。「樟脳玉」の続編ということだが、円遊が上方落語の「夢八」を取って無理につけたという感じ。「捻兵衛」「捻兵衛玉」とも。

  2023.07.12

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• 落語「し」の１７９：樟脳玉（しょうのうだま）：その１

  ​【粗筋】​　捻兵衛の女房が死に、いまだに仕事もせずに悲しんでいる。これを見た男、樟脳に火を付けて人魂と思わせ、奥さんの気が残っているものを供養してもらおうとだまして金や品物を頂戴することを思いついた。　これがうまくいって古着を全部受け取ったのだが、肝心の金を出させることを忘れてしまった。仕方なくその晩もう一度やって、金をいただきに行くが、金はないと言う。代わりに何かないかとと思い出させると、捻兵衛はお雛様が残っていたことを思い出す。箱を出して蓋を開けた捻兵衛、「あっ、家内が気を残していたのは間違いなくこのお雛様です」「どうして分かります」「蓋を開けたら魂の匂いがいたしました」​【成立】　『日本昔話集成』４０２の「死んだ女房」。落語の方は文化年間（１８０４～１８）から演じられた記録がある。元は上方噺で、「源兵衛玉」「源兵衛人玉」とも。​　悲嘆にくれる遺族をだますという点で、「片袖」などと同じ趣向。後味が悪いという理由だけで演じられなくなっていく噺と思われる……と落語の本にはあるが、西の桂米朝。東の三遊亭圓生（６）など、大御所が演じた。桂歌丸もよかったが、歌丸から受け継いだのだろう、桂夏丸がいい味を出して演じている。​【一言】　片方が泣きながら……女房のことを思いながら品物を出している。片方は早く品物をこっちへ、ふんだくって逃げようという。聞かない訳にはいかないから、亭主がつまらねえ事を長々と……女房の着物の謂れやなんか、言う処が、あの噺のおかしい処だと思いますがね。こういうものは演出も難しいし、演ってあまり得な噺じゃないから、段々演者もなくなった訳でしょう。今演る者が無いのも、得でないから演らない訳ですよ。（三遊亭圓生（６））​​【蘊蓄】　明和の頃（１７６４～７２）池の端の大槌屋半兵衛が売り出した、原舟月作の古今雛が大流行し、一般家庭でも飾るようになった。これが現在の雛人形と同じ型である。​　　いい細工顔もテラテラ舟の月（川柳）　樟脳は楠から作った防虫剤で、寛永５（１６２８）年の『近世商売尽狂歌合』には「樟脳売三月朔日此より、山の手辺はありし由、今はいかが」とある。雛人形をしまうのをあてこんで、売りに来たものである。子供の頃に火を点けて手にのせて転がしたりしたが、人魂と共に江戸時代からあったようだ。

  2023.07.11

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• 落語「し」の１７８：焼酎はいらんかねぇしょうちゅうはいらんかねぇ）

  ​【粗筋】　デパートの物産展、前の年から交渉に交渉を重ね、ついに参加できることになった。新製品の焼酎を売るために、通販のプロで人気の今井と契約して、１日３千本の売り上げを目指す。ところが、この今井の車が追突されて病院に行ったと連絡が入る。会場に来ていた部長はたった今風邪をひいて喉を傷めたため、部下の武田君が急遽説明役に指名されるが、どうでもいいことは幾らでも話せるのに、肝心の所に来ると緊張して何も言えなくなる。それでは焼酎を一杯やって気持ちを落ち着けろというので一杯が二杯……客が入って来て声を掛けているうちに酔いが回って来た。​「どうですか、お客さん、ほら、今おまけにグラスが付いて来ます。グラスでもいけますよ、きれいでしょう。ゴクゴク……ふう、うまい。口当たりもいいし、喉ごしも最高……もう一杯行きましょう……」　昼になると完全に酔いが回って、「お客さん、朝からこうして売っているのに、３本しか売れません……私が悪いんです……」「あ、泣き出した」「今グラスを買うと焼酎が付いて来る、いやあ面白い」「あ、笑い出した」「おい、そこの……買わへんのか」「あ、怒り出した」「一曲歌います……」　この騒ぎが面白いと人が集まって来て、部長は一人で売らなければならないから、さあ大変……「よくやった武田君……あら、寝てしもとるがな。さあ、焼酎いかがです。今焼酎を買うと、この酔っ払いが付いてきます」​【成立】　桂文枝の創作落語。第５８作目、１９８５年１２月の作品。歳を取ってから焼酎派になったというが、その前に作ったものだそうだ。古典の「蟇の油」を意識したという。​

  2023.07.10

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• 落語「し」の１７７：松竹梅（しょうちくばい）

  ​【粗筋】　松っつぁん、竹さん、梅ちゃんの３人、名前が松竹梅で縁起がいいと、お店の結婚式に呼ばれた。三人が並んで、「なった、なった、じゃになった、当家の婿殿じゃになった」「何じゃになられた」「長者になられた」というご祝儀を大家さんに教わって出掛けたが、梅ちゃんは忘れ物の名人の上、人前であがって「長者」が出てこない。何度やっても駄目なので、上手にやっていた松っつあんまでが、「なった、なった、イヤんなった」　という調子。とうとう、梅ちゃんが、​「亡者になられた」  と言ってしまい、３人そろって逃げ出した。　大家さんに事情を話し、梅ちゃんは一人で家に帰っているという。「大丈夫ですかねェ」「ああ、梅さんなら大丈夫、今頃一人で開いているだろう」​【成立】　松富久亭松竹（１）の作と伝わる。「高砂や」と並ぶ結婚式失敗譚。１８６１（万延２）年、桂松光のネタ帳『風流昔噺』に「嫁入ふれ前ばなし　但シもうじゃ落」とある。　​結婚式の「お開き」と、梅が「開く」という地口落ちで、どうもピンとこないため、結婚式の場面の失敗、「亡者になられた」で終わらせることが多い。式場で盛り上がった場面での落ちとなるので、その方が良いという意見もあるが、「一人で開いているだろう」も捨てがたい。「亡者」で落ちになるのはあまり後味もよくないという意見もあるが、まあ結果は同じ。　最初に並び順を間違えて、「これじゃあちくしょうばいになっちまう」なんてくすぐりもある。そもそも「長者になられた」くらいの台詞が出ない男、仕事はちゃんと出来るのかって心配になるが、そこは落語ってことで……　尚、彼ら３人と並ぶ縁起のいい人物は鶴屋亀吉さんくらい。​【蘊蓄】　「終わる」は縁起が悪いので「お開き」という。忌み詞である。「帰る」「出ていく」「出る」「出掛ける」「欠ける」「戻る」「引く」「割る」「割く」「殺す」「別れる」「離れる」「話す（放す）」「犬（去ぬ）」「猿（去る）」「まかる」「落ちる」「悲しい」など。気にしすぎるのも笑いになる。​

  2023.07.09

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• 落語「し」の１７６：笑説－宮本武蔵（しょうせつ・みやもとむさし）

  ​【粗筋】　巌流島、当時は舟島といった。巌流というのは、佐々木小次郎のことだが、本当の佐々木小次郎は６０歳くらいだった。島での決闘の日、立会人が２人、小者が数人、医師が一人だった。暇な立会人、どっちが勝つか賭けようと話し合う。夜明けと共にという約束なのに、１０時になっても武蔵が来ない。​「あ、来た……記録、記録……筆と紙は……あ、あった……あれ……武蔵が漕ぎ出して帰って行く……あ、小次郎が倒れている」　武蔵は長岡佐渡を訪ねまた旅に出る。細川公は武蔵の武芸を讃え、小次郎の功績を遺すために舟島を巌流島と変えて長くその名を留めたという……笑説－宮本武蔵でございます。​【成立】　桂文枝（６）の創作落語。第１０７作目、１９９８年１月の作品。　武蔵と小次郎が戦ったのであれば、ここにあるように、小次郎ははるかに年上。吉川英治の『宮本武蔵』は嘘を承知で、武蔵と小次郎を若くして青春群像として描いた作品。　戦いも諸説あって、相打ちになったが、先に気付いた武蔵が小次郎の顔を砂に押し付けて殺したとか、武蔵が弟子を引き連れて来ていてなぶり殺しにしたとか、武蔵のやり方があまりきれいでない物が多い。結局一般的なものは、小次郎の長い刀よりも更に長い木剣を作ったが、わざと遅刻したうえ余計な話をして、剣先を海に付けておいて長さを気取られぬようにしたというもの。遅刻や問答で動揺するような剣士はいない。​　小次郎は細川藩のお抱えだったが、その後も縁のある者を召し抱えていたが、藩内のごたごたから離れ、その後釜に座ったのが武蔵というのも面白い。

  2023.07.08

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• 落語「し」の１７５：障子養子（しょうじようし）

  ​【粗筋】　けちでやかましくて、養子が来ても居つかない老夫婦のところへ、進んでやって来た養子がいる。一生懸命つとめたが、さすがに辛いことばかり。ある日、障子を買って来るよう命じられたが、買った障子が大きくて敷居に入らない。養父に叱られながら上下を削ってようやくはめることが出来た。養子は、「鴨居と敷居は養父と養母……自分は障子のように、苦心してその間にはまるようにしなければならない」と悟り、前にもまして老夫婦につかえたので、親子の仲も円満になり、出来た養子だというので近所の娘達に騒がれるようになる。ある人が養子に尋ねて、​「あんなやかましい家でどうしてつとまるんだい」「私は障子になったつもりでいます」「ああ、道理で娘達が張りたがるわけだ」​【成立】　何かの本で見たのをメモしておいたのだが、東日本大震災でデータが消え、詳細不明。思い出して打ち込んでみた。​

  2023.07.07

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• 落語「し」の１７４：正直安兵衛観音経（しょうじきやすべえかんのんぎょう）

  ​【粗筋】　奥州小菅村の正直安兵衛と呼ばれる男が、旗本復興のための５０両を手に江戸へ向かうが、両国の川開きに行き会い、人ごみの中で大切な金を盗まれてしまう。身投げをしようとするところを小鼠吉五郎という盗人に救われ、俺の後生を弔ってくれと５０両を受け取る。国に帰った安兵衛は、観音経の一部を教わって、吉五郎の石塔を立てて、毎日観音経を読んだ。（役者によく似た八百蔵新助の逸話＝八百蔵吉五郎という名で両国百景にも登場する）​　盗賊の新介と吉五郎が捕縛され、罰が言い渡されるが、吉五郎の書類に老中の印が捺されていない。これは吉五郎に何か隠徳があるのだろうと察した奉行は、彼を放免する。吉五郎は剃髪して諸国を回り、奥州小菅村で野宿をしようとすると、村人が、安兵衛さんなら泊めてくれるから行けと言われる。その家を訪ねると、自分の名の石塔があるのに気付き、２人は再会を喜ぶ。​【成立】　１８９１（明治２４）年に麗々舎柳橋（４）の速記本がある。翌々年別の出版社から出たものは全く同じ速記だが、「恩と情」という題名。​

  2023.07.06

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• 落語「し」の１７３：正直清兵衛（しょうじきせいべえ）

  ​【粗筋】　本所林町の青物商・清兵衛は、正直清兵衛と呼ばれる正直者。商売がうまく行かず、娘が身を売って元手となる金を作ってくれたが、杉酒屋の忠兵衛という居酒屋で一杯やって帰る時に、この金の入った財布を忘れてしまった。忠兵衛夫婦はこれを隠して、清兵衛は仕方なく番所に届けることにして店を後にする。忠兵衛夫婦は、遠州浜松にいた頃、六蔵という者から預かった金を、預かった覚えはないとシラを切って猫ばばし、六蔵が井戸に身を投げたという前歴を持っていた。清兵衛が届け出ると、旧悪まで露見してしまうのではと思った忠兵衛は、清兵衛を追って行って「金があった」と安心させ、すきを見て出刃包丁で殺してしまう。​　店に戻ると女房が産気づき、産み落としたのが清兵衛生き写しという男の子。清兵衛の生まれ変わりと思っても、さすがに自分の子供では殺すこともできず、後にこの子が成人して忠兵衛夫婦を殺すという因縁話になります。「正直清兵衛」でございます。​【成立】　天保年間（１８３０～４４）の怪談だという。１９０７（明治４０）年『文芸倶楽部』に林家正蔵の速記が載っている。筋書きが「もう半分」によく似ているが、こちらが先行作か。​

  2023.07.05

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• 落語「し」の１７２：将軍の屁（しょうぐんのへ）

  ​【粗筋】　元日、御三家、御三卿以下、諸大名が並ぶところへ将軍様がご出座。その時、将軍様がぷうとなさった。傍らの水戸副将軍が、間髪をいれず、​「草木（臭き）もなびく君のご威勢」  と言うのを受けて、尾張様が、「武運（ブーん）長久」  紀州様が、「天下太平（屁ー）」  居並ぶ諸大名が平伏して、「へッ、へへへへへへへえ」​【成立】　１６９１（元禄４）年『軽口露がはなし』巻一の１５「恥をおいはひなをす事」。町人の寄合で、ポンと屁をひったのを、一人が「天下大へー」と言うと、本人が「国土安堵」と続ける。上方では「大久保の屁」とし、大久保彦左衛門が将軍の前で屁をして「天下大へーでござる」、一同が「へへへへー」というもの。「四宿の屁」で紹介した「遊女の屁」と並べることもある。​

  2023.07.04

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• 落語「し」の１７１：将軍の賽（しょうぐんのさい）

  ​【粗筋】　黒船が来て大騒ぎになった頃、水戸の殿様は寺々から釣鐘を出させ、これを並べて大砲に見せ掛け、唐人を驚かした。坊主も釣鐘を取られて寺がつぶれると驚き、​　　仏法を鉄砲にした水戸っぽう四方八方公方貧乏　という落首が立った。　ある大名が退屈なので賽を持ち出し、江戸の城内で他の大名と博奕を始めた。昼間は遠慮してやっていたが、夜になると裃を脱いで向こう鉢巻。この「勝負、勝負」という声が将軍の耳に入り、「治にいて乱を忘れず、かような夜中に勝負を争うとは末頼もしい。ひとつ見届けてつかわそう」　と襖を開けて入ってきたが、そうとは知らぬ大名達、しきりに賽をもてあそんでいる。将軍が賽に目をとめ、ひょいとつまんで、「これは何じゃ」と聞いたから、あわてたのは大名達。井伊掃部頭（いいかもんのかみ）という機転のきく方が、「これは東西南北天地陰陽をかたどりまして、彫り刻みました、わが国の宝物にござりまする」　と答えた。「この一つ目のきざみは何じゃ」「恐れながら、将軍家をかたどりました」「裏の六つは」「日本は六十余州、六尺をもって一間とし、六十間をもって一丁、六六三十六丁をもって一里といたします」「四つは」「徳川四天王の酒井・榊原・井伊・本多」「返して三つは」「清水・田安・一橋の御三卿」「五つは」「御老中にござります」「二つは」「紀伊・尾張の御両家」「これ、御三家と申すに、なぜ水戸を入れぬ」「水戸を入れますと、テラがつぶれます」​【成立】　水戸では寛文６（１６６６）年に寺院整理を行った。『臨済宗曹洞宗開基帳』には、寺院総数２３７６あり、そのうち１０９８ヶ所を処分すると記されている。檀家がない、住職がいない、僧侶が不行跡、新興の非合法宗教など。最終的には１４３３の寺が整理された。これが落ちの意味。「テラ」は博打では胴元、親を指す。​　書籍には、水戸から将軍が出ると幕府は滅びるといわれたことを踏まえた落ちと書かれているものがあるが、水戸光圀公が尊皇派で、そのような学問を広めていたから。歴史では事実そうなったのだが、その説明では「テラがつぶれます」が分からない。　１７７３（安永２）年『今歳花時』の「賽」は、堅物の親父がさいころを分からず、息子に聞くと、「それは半です」と言う。「これが判とは、親をからかうのか」と手の中で転がすと、「はい、丁になりました」

  2023.07.03

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• 落語「し」の１７０：将棋の殿様（しょうぎのとのさま）

  ​​【粗筋】　ある殿様が将棋に興味を持って、家来相手に対局を始める。ところが始めてみると、飛車が成り込むのに他の駒を飛び越える、邪魔だから金銀は取り払え、その手は不都合ゆえ差し控える……という調子のわがまま勝手。そこまでは仕方がないと我慢できるのだが、殿様の方から、「その方達はいつまでたってもヘボなので、これからは鉄扇で負けた者の頭を叩くことにしよう」と言い出した。それでも、お飛び越し、お取り払いがあるので、家来にはどうしようもない。​　そこへ病気静養をしていた家老の三太夫が、久しぶりのお目通り。こぶだらけの家来を見て話を聞き、御前にまかり出ると、殿様相手に将棋を指すことを願い出る。「勝負である以上主従の隔てはございません」  と言い、軍法を守るのが武士たるものと、お飛び越し、お取り払いを許さないので、とうとう殿様が負けてしまう。ここぞとばかり殿様を鉄扇で叩き、「もう一番、やり直しをいたしましょうか」「いや、それには及ばん。一同に申し渡せ、明日より将棋を指す者には、切腹申しつけるぞ」​【成立】　講談の「大久保彦左衛門​  家光公将棋のご意見」から移入したものか。　武藤禎夫は、「サゲの部分で、口惜しさと反省をまじえて将棋禁断を宣言するあたり、後味のよい話でもある」というが、そうだろうか。最後まで殿様の子供っぽい我儘、独断であって、口惜しさはあるだろうが、禁令を出すのに反省の気持ちがあるのだろうか。あるとしても反省の方向が間違っている。子供の我儘のようだから笑えるので、あまり理屈をこねると面白くない……実際にそういう高座を見たこともある……　上方では「大名将棋」と呼び、将棋に懲りた殿様が、今度は落語に凝って家来を前に一席演じるが、「蟹が茄子をはさんだ。茄子（何）しやると言うとカニしてくれ」というレベルのもの、またしても笑わないと鉄扇で頭を叩く。仕方なく、家来同士でくすぐって笑うと、「余の噺がおかしいか。ではもう一つ、鶴と亀がいて、鶴は千年亀は万年、東方朔は九千歳」、家臣一同が、「笑いまひょ、笑いまひょ（払いまひょ）」　万延２（１８６１）年『風流昔噺』に「大名はなし　但シ厄はらい落」とあるのがこの噺であろう。笑い話になっていても、厄払いの台詞になるのはちぐはぐで面白くない。宇井無愁は、歴史上実際にお笑いの好きな殿様もいたのだからという理由で「荒唐無稽ともいえず」厄払いになるのも大坂らしいとほめている。へえ、そうなの。​【一言】　世間知らずで、家来の難渋ぶりに気がつかぬ殿さまの横暴ぶりは、「そばの殿さま」にもみられるが、「将棋の殿さま」ほどの暴君は、ほかの落語にはみられない。それだけに、口演にさいしては、やんちゃで、負けずぎらいの＜大きな坊や＞としての人物描写をしないと、殿さまの非人間的な面ばかりが目立つ後味のわるい噺になってしまう。（興津要）​【蘊蓄】　１６０７（慶長１２）年、徳川幕府は寺社奉行管轄下に「将棋所」を設けた。　野村無名庵の『本庁話人伝』には、三笑亭可楽（１）が１１代将軍・家斉の前で演じたという話が書かれている。残念なことに、どのように受け止められたかなど、反応については何も分からない。​

  2023.07.02

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• 落語「し」の１６９：将棋好き（しょうぎずき）

  ​【粗筋】　湯屋にやって来たのが将棋好き。​「ええ、桂馬が通ります。冷えものでございます」「桂馬はいいが、王れ（俺）の鼻先に金てのは勘弁してくれよ」　という人がいるが、他の客が、「金ならまだいいぜ、歩（ブー）ならまだ臭くていけねえ」​【成立】　バレ噺版の「浮世風呂」といったところか。バレ版の「茶の湯」と共に演じられると書物にあるが、演じられているのだろうか。今の落語では湯に入るところでは、「馬だ馬だ」という決まり文句がある。この本文では桂馬という謙虚さがいい……のかなあ。​

  2023.07.01

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• 落語「し」の１６８：上燗屋（じょうかんや）

  ​【粗筋】　上燗屋で、店の主人をからかいながら飲んでいた男、いざ勘定になったが細かいのがない。夜店の道具屋で両替をするというのを、自分でやってくると道具屋の店をのぞくと、仕込み杖があったので、面白がってこれを買って家に帰る。　刀を持つと使ってみたくなるのが人情。わざと戸を半開きにしておくと泥棒が入り込み、中をのぞきこんだ途端に首を斬ってしまう。　泥棒あわてて逃げ出すが、首の皮一枚残っているだけなので、動くたびに頭がぐらつく。間の悪いことにちょうど火事に出くわし、現場へ急ぐ連中が、提灯を前に出して「火事や、火事や」と走っている。そんな人にぶつかってとうとう首を落とした盗人、首を拾って、グーッと前に突き出すと、​「火事や、火事や」​【成立】　安永３（１７７４）『軽口五色帋』の「盗人の頓智」。東京では盗人ではなくなり、「首提灯」という題になる。明和９（１７７２）年『聞上手』の「すえ切」は、試し斬りで斬られた男が知らずに進み、しばらくして首が落ちる。後ろから「もしもし、首が落ちました」​　延宝８（１６８０）年『囃物語』序は、盗人が斬られた首を懐に入れて逃げてしまう、奉行所に届けると、もし首のない者が道を通ったら捕らえるようにとのお達しが出る。　落ちは東京の「首提灯」と同じであるが、前半の上燗屋の部分の滑稽に重きが置かれ、ここだけを演じる例もある。松鶴が晩年によく演っていた「あとひき酒」などもここからの独立と考えられる。​【一言】　むこう（東京）の『首提灯』では、酔っ払った職人が侍にからんだ挙句首を斬られるのです。職人のタンカの小気味よい緊張感といい、斬られてからのリアルさといい、噺の構成としては東京の方がすっきりしているように思います。その代わり大阪型は、ゴタゴタしたおもしろ味があります。前半の上燗屋での酒呑みのウダウダ言う部分、道具屋とのやりとりのひいたイキのおもしろさ、そしておしまいの首を斬られてからのナンセンスと、いかにも盛りだくさんなコースです。（桂枝雀（２））​

  2023.06.30

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• 落語「し」の１６７：正月丁稚（しょうがつでっち）

  ​【粗筋】　縁起かつぎの主人で、正月は言葉から気を付けるよう訓示をたれたが、丁稚の定吉が余計なことを言う。お祝いの途中で雨が降り出し、主人の機嫌が悪くなるところを、番頭が、「降る（鶴）は先年、雨（亀）は万年」　と言うと、手代の者が裏の戸を閉めて、「裏閉め（浦島）太郎は八千歳」　他の者が方々に詮を差して、「方々さす（東方朔）は九千歳」　と、みんなで目出度い言葉を続ける。権助は身震いをして、「身震い権助（三浦の大助）百六つ」　女中の清は帯を広げて、「いかなる悪魔が来るともこの清がひっとらえ、ちくらが沖とは思えども、繻子の帯（西の海）へさらーり」　定吉布団を出して、「夜具（厄）払いましょう、厄落とし」​​【成立】　安永４（１７７５）年『新口花笑顔』の「ぢぐち」は兄弟で、「それ日が暮れる。戸を立てやれ」「戸をさすは九千歳」「裏閉め太郎は八千歳」。東京では「かつぎや」。前半の失敗は似ているが、後半は初夢売りとのやり取りになる。厄払いの台詞は、東京では「浮世風呂」「厄払い」などに出て来る。​

  2023.06.29

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• 落語「し」の１６６：しょい投げ（しょいなげ）

  ​【粗筋】　吉原の女郎で手古鶴というのが、客が来てもみんなしょい投げをくらってしまうと噂していると、聞いていた侍が、「拙者参ればそういうこともあるまい」　と言う。そんなにいい男でもないが、自信があるのだろうと、「じゃあ、おいでなさい」　と勧める。座敷へ上がり、女が部屋に来ると、いきなりつかみかかって投げてしまう。​「どうじゃ、拙者にはかなうまい」​【成立】　女郎が気のある様子を見せるが、部屋を出たまま戻って来ないのを「しょい投げ」という。本当の相撲と勘違いするのがおかしい。三遊亭円生（６）が「五人回し」などのマクラでよく演っていた。１７８０（安永９）年『笑長者』の「すまうとり」は、吉原では客を投げると聞いて、布団に入って待っていると女が来て「寝なんしたか」と肩に手を掛ける。客、立膝で構えて、「その手ではいかんぞ」……　宮尾しげをは「投げる」が分からず、客を腕力で投げ出すことだとしているが、遊女が客を腕力でって、これは明らかに間違い。吉原では「振る」こと。「投げられる」は「振られる」こと。​​【蘊蓄】　草も木も寝るにまだ来ぬ初会の夜　待たせるだけ待たせておいて、とことんふられたのでは吉原へ来た甲斐もないと　投げられもしようかと初会片苦労（十返舎一九『青楼年中行事』）​

  2023.06.27

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• 落語「し」の１６５：純情日記横浜編（じゅんじょうにっきよこはまへん）

  ​【粗筋】　噺家になった同級生に人生相談……そもそも相談する相手が間違っているが……相談内容は、バイト先の女の子に惚れたが、「声を掛けられないだ。シャイだから」「お前、バイトだって言ったじゃねえか」「社員じゃなくて、シャイ」　噺家ならうまく声を掛けるコツなど教えてくれるのではないかと、藁人形に釘を打つつもりで相談に来た。真剣に相談に来たのに噺家の頭脳はふざけることしか入っていない。結局当たって砕けろという結論。「茶碗がお前だ。このコンクリートの壁が彼女だ。ほら、当たったら砕けるだろう……しかし、接着剤でくっつければ、ほら、元に戻るんだ……傷は一生治らないけど……」​「それじゃあしょうがないだろう」　とにかく……受話器を手に番号を押して、「あ、ああ、俺……今度一緒に出掛けない……うん、そう、何時がいい……ああ、じゃあ、その日……ありがとう……うれしいよ……って、こうやればいいんだな」　さあ、本番。「もしもし……ああ、こんな時間に何か用……って、俺が掛けたんだよな……今度会わない……え、明日バイトで……いや、そうじゃなくて、プライベートで……えっいいの……どこ行きたい……横浜……じゃあ」　いよいよ当日……駅からの道筋の言い立て。横浜の町を散策し、中華街に出る頃には二人も随分くたびれた。食事を終えて山下公園に行く。調子に乗って紹興酒飲み過ぎた。「渡辺君、悩みがあるんでしょう」「当たり……なんで」「女の子のことでしょう」「当たり……」「だから私を誘ったんでしょう」「当たり」「相手の女の子にどうアタックするかアドバイスしてほしいんでしょう」「あれ……」　思い切って告白。「だから、君が好きなんだ。もし嫌ならここではっきり……いや、はっきり言われるのは嫌だから、目をつぶって１０数えるから、一人で帰ってくれ……１、２、３……８，９、８，７、６……やり直して……８，９，１０」目を開けると、彼女はそこにいる。大喜びで一緒に駅に向かう。「でさあ……喫茶店でもう少し話をしない」「ごめん、これから彼氏と会う約束があるの」「……え……だって、さっき目をつぶって、目を開けた時、そこにいたじゃん」「だって、私駅までの道が分からないもの」　​【成立】　柳家喬太郎の創作落語。２０００年３月５日、真打昇進披露興行で演った。部屋で一人「黄金餅」の練習をしているところから始まるから、まさかキョンキョンが古典落語……と驚かす導入。途中の道筋も、「黄金餅」のパロディ。​

  2023.06.25

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• 落語「し」の１６４：純情日記渋谷編（じゅんじょうにっきしぶやへん）

  ​【粗筋】　渋谷でデート。二人とも就職が決まったが、男の就職先は神戸に本社があり、１年間はそちらで研修を受けるのだという。「別れようと思って」「なぜ」「だって、お前を残して神戸だぜ……生きて帰れるかどう分からねんだぜ」​　歩きながら、無駄に大きくて演芸番組が減っているＮＨＫ、狭い視野の煙草と塩の博物館、外国感が何一つないスペイン坂。パルコ……何も買ったことはないが、トイレは借りた……マクドナルド……家で食べようと思ったから、「お持ち帰りで」「はい、テイクアウトですね」「いや、お持ち帰りで」「ですからテイクアウト」「ざけんなよ、持ち帰りって言ってるだろう」　そこで彼女に背中をつつかれて気付いたようで、「なんでもいいからおみやにしてくれ」　……思い出が頭の中に渦巻いて……「ああ……駅前に着いてしまったあ……」「ハチ公の前で泣かないで」「やっぱり別れるのは嫌だ……一年後、生きて帰って来たら、また会おう」　一年後のこの時間、ここで再会すると約束をした　男は東京支社に配属が決まって帰って来た。約束の日、時間にハチ公の前に来たが、彼女の姿はない。「いなーい。いない。あ、交番で聞いてみよう……すみません」「はい……先輩、変なのが来ました」「どうした……ああ、この人、去年もここで号泣していたね……何、彼女が来ない……それなら今日が駄目なら明日来なさい。明日が駄目なら明後日来なさい。彼女が来るのを待ち続けるんだ。君がハチ公になればいい」「分かりました。僕はハチ公になります」　彼女の方は……「今日、何かあったような気がするんだけど」「何考えこんでんだ何か用事でもあるのか」「いいの。思い出せないくらいだから、大した用じゃない」​【成立】　柳家喬太郎の創作落語。真打昇進の頃「横浜編」も聞いたが、昇進披露で聴いたのがどちらだったか、よく覚えていない。打ち込んだらすぐに連絡を頂いた。私が行ったのは次回の「横浜編」でした。​​【蘊蓄】　渋谷の町はすっかり変わった。私の学生時代はお年寄りの町だったが、ハロウィンなどでは無法者の町と化している。中学、高校時代「宿（じく）行って来る」といえば新宿だとみんな分かった。原宿は「原宿（はらじゅく）」と言わなければならなかった。「塾」は「じゅく」である。​　駅前の再開発で更に変わって何だか分からなくなった。　渋谷にあった煙草と塩の博物館は、東京スカイツリーの近く、大横川沿いに移転している。　私が毎年散歩したのは、代々木上原から東大、神泉（松濤）からオーチャードホールへ。コンサートなどあればここから鉄道で帰る。そうでなければ駅を抜けて國學院大學へ出て、山種美術館へ出て恵比寿でビール飲んで帰るのがパターンだった。コロナで散歩をやめているから、駅周辺の工事でぐるっと回っていたのが直通出来るようになった……のかしら。

  2023.06.24

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• 落語「し」の１６３：純情詩集（じゅんじょうししゅう）

  ​【粗筋】　「我が生い立ちの記」​我父の体内より母の胎内に潜入しさらに母の体内よりこの地球上に原形を現しし時は太平洋の水いまだ少なき頃にして打ち寄する波間には鯉やメダカや小鮒が群れ遊び二とせ以前我らが食前をにぎわせしスケトウダラや連子焼き、冷凍イカなどの未だ遊泳せざる頃なりああそも何人の言いそめしかは知らねど古よりの言の葉に、山紫水明の地、必ず偉人を生じるとかや我二十歳を過ぎしこと三とせされどいまだ英雄偉人の部類に属することかなわずされど我をはぐくみし故郷（ふるさと）は都を離れること三十五里南奥多摩絶景の地なり春は桜の花秋は紅葉の錦を映して蕩々と流れる利根川の寄せては返す波の音　（中略）我たらちねの胎内を出でしころは長谷川一夫も遠く及ばざる眉目秀麗の男の子（おのこ）なりしかども世の移り変わりとともに我が容貌も一変し今や往年のスクリーンのフランケンシュタイン第二世の再現を思わせる如く豹変せり（以下略）※ＢＧＭ入りの録音がある。この後、女性と関係してペニシリン無き事を嘆くというストーリー。 「豚の夫婦」豚の夫婦がのんびりと畑で昼寝をしてたとさ夫の豚が目を覚まし今見た夢は恐い夢トンカツとやらにあげられてみんなに食われた夢を見た女房の豚が目を覚まし辺りの様子を見るならば今まで寝ていたその場所はキャベツ畑であったとさ※後世に残され、今でも高座で噺家が落語の歴史として口にすることがある。『圓朝全集』には、豚の夫婦が同じ夢を見たあと、見回すと一面ゴボウ畑だったという小噺がある。また牛が車を引く仕事に疲れて、豆腐・白滝・葱と一緒に鍋に入れられて食われ、皮まで売り飛ばされるという夢を見る。目を覚ますと肉屋と靴屋と鞄屋と、お店が三軒並んでいた……という「牛の夢」という詩もある。 「銀座スケッチ」銀座ちゃらちゃら人通り赤青みどりとりとりの着物が風に揺れているきれいなきれいな奥さんがダイヤかガラスか知らねども指輪をキラキラさせながらツーンとすまして歩いてるバスや電車の警笛にあわてて呼び子を吹きながら交通整理の警官が銀座通りの真ん中で踊るはタンゴがブルースかルンバかおけさか八木節か遠い国からやって来た踊る神様再来を思わすように浮かれ出た銀座ちゃらちゃら人通り ​【成立】​　三遊亭歌笑（３）の創作。昭和１５（１９３５）年に二ツ目昇進と共に歌笑を名乗り、そこで何か売り物をと考えて始めた。柳家金語楼が二ツ目時代に「金三詩集」としてやっていたのを真似て始めたもの。　終戦後、昭和２２年秋に真打昇進と共に、この詩集で大人気となるが、昭和２５年５月３０日、米軍ジープにはねられて死ぬ。銀座七丁目の都電通りを横切ろうとして、一時停止もせずに都電の陰から飛び出したジープにはねられたが、当時米軍の占領下にあり、歌笑の一方的な不注意として処理された。享年３２．　翌日にＮＨＫラジオに出演予定があったが、代理に出た柳亭痴楽（４）がそっくりに純情詩集を演じる。これで人気になった痴楽は「綴り方狂室」を生み出す。私は小学生時代は痴楽の「綴り方」が落語入門の一つだった。歌笑は全くというほど知らなかったが、詩集を読むと痴楽よりはるかに詩的で、文才に優れていることが分かる。　三ノ輪の浄閑寺（俗にいう投込寺）に歌笑塚がある。「古よりの言の葉に、山紫水明の地、必ず偉人を生じるとかや。アアされどわれ未だ偉人の部類に属することかなわず。若き落語家歌笑をほはぐくみし故郷は南多摩絶景の地なり。」と、「我が生い立ちの記」の一部が武者小路実篤の書で書かれている。「南多摩」とあるが、実際の出身地は西多摩郡五日市町の出身。因みに、利根川は流れていない。

  2023.06.23

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• 落語「し」の１６２：純情お婆さん（じゅんじょうおばあさん）

  ​【粗筋】　老人ホームの婆さん、８０歳のお婆ちゃんが掃除を手伝うと言うのを、「若い者にお任せなさい」　と７０過ぎの二人で掃除を始める。男の方は長谷川さんという、最近入所した人。奥さんが全部やったので、掃除も満足にできず、清水婆さんが厳しく指導する。部屋に戻って話をするが、岡田婆さんはつい亡くなった「うちの人」が出てしまう。一方清水婆さん、７３まで結婚していないと言う。耳の通り８０のお婆ちゃん、面白そうなものは聞きつける。初恋の話になるが、１７、８の頃は蕎麦屋の看板娘で、そこによく来る上州屋という呉服屋の昇さんという若旦那に思いを寄せていたと言う。​「向こうはどうだったんです」「私の方を向いて泣いていました」「まあ、脈があったのね」「いえ、薬味を入れ過ぎて」　その店は経営難で引っ越し、昇さんは養子に出されたと聞いた。最後に店に来た時に煙草入れをもらったのを、今でも持っている。その人を思って結婚しなかった……というのは全くないが、たまに夢に出て来る。食事の用意に岡田婆さんが行くと、ちょうど長谷川さんとばったり。「すみませんね。清水さん、あの年で独身なもので、ちょっとヒステリーになっていまして」　と言う。おしゃべりだから、初恋の相手から煙草入れをもらったと話すと、「下谷黒門町の蕎麦屋で、もしや清水コトさんですか」　何と長谷川さんの名前が昇さん。すぐに連れて行ってご対面。びっくりした清水婆さん、倒れてしまう。「大丈夫ですか、しっかりして下さい」「大丈夫です。お蕎麦屋さんの娘だから、のびただけでございます」​【成立】　昭和３９年、鈴木みちをの作品を古今亭今輔が演じた。​　大晦日の夜、今輔がわざわざ鎌倉にある鈴木の家を訪ねて来た。どうしたのかと思ったら、原稿料を持って来たという。鈴木の懐具合を思いやって金を届けてくれたのだという。こういう人情には厚い人だったと、宇野信夫が書き残している。

  2023.06.22

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• 落語「し」の１６１：俊寛（しゅんかん）

  ​【粗筋】　芝居が好きでたまらず、親父に小言をくらって、二階に幽閉されてしまった若旦那。気を紛らわせるために二階で芝居を始めるが、当時評判だったのがおもだか屋（猿之助、後の猿翁）で、「俊寛」が大変な人気を呼んだ​「いかに月天子、汝の照らす下界を我は呪うぞよ」　と絶叫。夢中になって二階から転がり落ちてしまう。親父がびっくりして、「それみろ、あんまり声色をやるからだ」「そんなにやりません。ちょっと俊寛（瞬間）」​【成立】　昭和６，７年頃、倉田百三の作品『俊寛』が評判になった。桂小山三は歌舞伎の物真似が受けて、高座に出ると「おもだか屋」と声が掛かるほどだった。噺ではなく物真似が人気なのが本人も不満だったのか、しばらくすると「私におもだか屋をやれってんですか、終わりッ」と言ったことがある。宇野信夫によれば、この台詞が猿之助そっくりだったという。その後、落語として演じたのがこれ。おそらく自作自演だろうが、「二階ぞめき」「干物箱」あたりから思い付いたものだろう。​　宇野信夫の作品が舞台に掛けられると、噺家を引き連れて来てくれた。「総見だよ」と言っていたが、一幕だけの立ち見席……噺家にはこれが精一杯だったのだろう。この頃には桂米丸を襲名していた。　戦後になると、鈴木通夫（みちを）が書いた「お婆さん」落語で人気になり、宇野の「霜夜狸」も高座に掛けた。この頃は名も古今亭今輔に変えていて、「今輔のお婆さん」で通る人気者になっていた。​【蘊蓄】　俊寛は『平家物語』の前半の主要人物。平家討伐を相談するも、行動力はなく、三人で鬼界が島（硫黄島）に流される。二人は熊野信仰で島の中に似た場所を探し、卒塔婆を流して救いを求めたのが厳島に流れ着き、二人に恩赦が出る。芝居では、赦免船が来るのを俊寛が見つけて踊り狂って喜ぶが、本人だけが残されることになっての絶望に代わるのが見事。それまでは心を寄せる者が食物を届けていたが、一人になると何も届かなくなるのもドラマチック。都にいた時分に世話をした二人の子供が俊寛を案じ、一人は心労の余り死んでしまい、もう一人は島へ渡って世話をしようとする。俊寛はこれで死を決意して断食に入る。粗筋でいえば、『平家物語』の前半は半分がこれ、半分は平家がおごり高ぶる様。平家のおごりは冒頭の「祇園精舎」で示され、清盛の死で呼応される。これがテーマなのだと分かる。後半は源平の合戦で、明らかに思想も変わっている。​

  2023.06.21

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• 落語「し」の１６０：寿命（じゅみょう）：その２

  ​【粗筋】　大坂で水売りをしている源さん。お得意さんで立ち話。糸はんが病いで、家族も諦めかけている。別の店では大旦那が病で、医者が皆匙を投げた。水売りが考える。「貧しくて女房も持てない自分が風邪一つひかず、金持ちのお嬢さんや旦那が病。寿命を売ったら、人を助けられるがなあ……」　水屋を辞めて、寿命を探し回る。​　友達と行き会って、寿命を探していると言うと、「あほか、そんなん、寒くなったらひとりでに出るやないか。わしの友達も困っとる」　というので連れて行ってもらうと、「寿命のことをお教え下さい」「わしでよかったら、教えるわい」「どんな形でっしゃろ」「色々違う。鏡で見ろ」「触るとどんな感じでしょう」「痛い」「大事な物と思いますが……」「別に大事でもない」「どこで採れるのでしょう」「下の方や」「下……九州の方で」「いや、急所でなくけつですな」「けつと申しますと」「おいどでんがな」「おいどと申しますと」「お尻です」「え……寿命やなしに、痔病ですか」「お前さん、人の家に上がってその軽蔑した顔は何や。どうしても会ってくれと頼まれたから会うてやったんや」　源さん、自力で探し求めると、信州で見かけたという噂を聞き付けて、家財道具を売り払って信州へ……三年にわたって神社仏閣を探し求めるが、どうも見付からない。路銀も全て失って、ふらふらと墓場へ迷い込んだ。ふらついてお地蔵さんにぶつかった。　このお地蔵様に経緯を話して祈る。「死ぬ前に寿命がこの世にあるものか、ないものか、教えてくんなはれ。欲得づくで探して来たが、それが見られたら本望で、今後欲を持つことはありません」　そのままお地蔵さんを抱いて眠ってしまう。ふと目を覚ますと、お地蔵様の前に餅が供えられている。これを頂こうと手を出すが、餅はすっと逃げる。「俺の目が間違うとるのかな……これは餅が間違うとんのやろ」　とじっと見ると、これこそ寿命だと気が付いて、追い回して袋に入れる。「これで一儲けや……何、痛い……堪忍しておくんなはれ……大阪弁かいな……なんやけったいな寿命。お前、寿命やろ」「わしゃ、あんたの寿命や。このところ食う物も食わん。だからあんたに見切りを付けて逃げようと思うたら、捕まってしもた」「わしが間抜けなら、寿命も間抜けやな……逃げんでもいいやろ、なぜ逃げるのや」「あんたといると寿命が縮む」​【成立】　桂福団治が演ったのを聞いた。​

  2023.06.20

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• 落語「し」の１５９：寿命（じゅみょう）：その１

  ​【粗筋】　健康に気をつけても、病気になる人もあり、事故で死ぬこともある。全て寿命だという。それなら薬を作るより寿命を作るのがいい……というので、屋台で寿命を売るようになった。​「二日分おくれ」「二日くらいどうするんで。皆さん二年、三年と買うて行きまっせ」「いつ死んでもいいと思うとるが、二日考えて、もう少し生きる気になったら、また買いに来るさかい」「さよか……どうぞ」「こんな大きな物、どうやって飲むんや」「家で部屋に放っておくと、逃げようとしますねん。いよいよ出口というところで、大声で待てェと叫びます」「それで飲めるのかいな」「はい、びっくりして寿命が縮みますから」​【成立】　桂福団治が次の「寿命」２のマクラで演っていた。​

  2023.06.19

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• 落語「し」の１５８：主夫の友（しゅふのとも）

  ​【粗筋】　「どうして……どうして俺がリストラになるんや。おい坂本、お前どう思う」​「どう思うと言われましても……」「思うてること、はっきり言うたらどうや」「先輩が会社にはいらない人間やということでしょう」「はっきり言うな」　看護師をしていた恋人に、結婚を機に仕事辞めて主婦に専念してほしいと言ったのに、まさか自分がクビになるとは思っていなかった。女房の方は夫がリストラ候補に挙がっているという情報をつかんでいて、自分が働くから専業主夫になって家事をしてほしいと言う。　ネットで専業主夫をやっている人が近所にいることが分かり、手ほどきをしてもらいに行く。「大事なのは家事のサシスセソですね」「サシスセソ……ああ、砂糖、塩、酢、醤油をせうゆと言って、あとはソース……」「それは料理、私が言うのは家事のサシスセソです」「それ、ナニヌネノ……あ、ちょっと待って下さい、ちょっとノートにカキクケコ」　家事の中でも絶対手を抜いてはならないのがサシスセソだと言う。サは裁縫。繕いはもちろん、ミシンや編み物までマスターしなければならない。シは仕付け、子育てが大事なことは誰でも理解できる。スは炊事。「うちでは近所に総菜屋さんが出来たんで、毎日違うものを買うようにしています」「それでは愛情がありません。奥さんの外食が増えて、飲み屋に通って男作りまっせ」　セの洗濯は干し方、たたみ方まで身に付けることが必要、ソの掃除は面倒だが、運動不足解消を兼ねてやる……誘われて主夫の集いにも参加し、色々勉強した。　３年経つとすっかり慣れて、坂本に報告。赤ん坊を連れて来て、久し振りに外食、ステーキ食べてデザート食べて……突然赤ん坊が泣き出す。「あ、しもた……すぐ帰るつもりでおむつ持って来るのん忘れたわ……悪い、わし急いで帰るわ、さいなら」「あっ……あの人、自分から誘っておいて食うだけ食うて払わんと帰ってしもた……はあ、立派に主夫の知恵、身に付けはったがな」​【成立】　桂文枝（６）の創作落語。第１３３作目、２００１年１２月の作品。​​​【一言】​　えらい世の中になった。リストラの嵐が吹きまくり、失業率は高くなり、それでもみんなじっと我慢している。政治家の行き当たりばったりの政策や金の管理のずさんさに目をつむっている。暴動も起こさず、いつか景気が良くなると信じている。（桂文枝）​

  2023.06.18

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• 落語「し」の１５７：手動販売機（しゅどうはんばいき）

  ​【粗筋】　自動販売機の中には人間が入っている。特に節電が求められるようになってからは、そちらの方が一般化している。新任が指導を受けて初仕事が自販機の中。１億売り上げが出たら人間扱いしてくれるという。早速客に対応。十円玉ばかりいれると、一枚戻す……「なぜそうするんです」「機械ではよくあるだろう。機械の気持ちになれ」​　先輩が「飲み物でも買って来よう」と出て行く。その隙に客がやって来てボタンを二つ押す。「機械の気持ちになれ。いや、ここは客の心をつかめ。本当は緑茶を買いたいが、マテ茶が新しくて飲んだことがない……これで緑茶が出たらどうなる。飲みなれているのを飲んで終わる。マテ茶を出したら、これはこれでうまい……いや、二つとも出るかも知れないと思って二つ押したのだ……これで二つとも出たら、会社へ戻って、あの自販機二つ出たぞって話題になる……みんな買いに来る……うん、ここは二つ出しだ」　先輩が戻って来た。「お前にも買って来たぞ。緑茶とマテ茶、どっちがいい」「あれ、さっきの客は先輩だったんですか」「そうだ、お前の考えは全部分かっている。二つ出した理由も評価できる。ただ、考えを全部口に出すな。自販機がずっと喋っているのは気持ち悪い。とにかく合格だ。明日からは別の場所へ行ってもらう」「え、本社勤務ですか」「いや、当たり付きの自販機に入ってもらう」​【成立】　立川吉笑の創作落語。​

  2023.06.17

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• 落語「し」の１５５：儒者（じゅしゃ）

  ​​【粗筋】　自分のように美しい心の者が世俗の愚者と交わってはいられないと、経書を携えて山の中に庵を結んで住むことにした。この山に狼がいて、儒者を一飲みにしてしまう。狼仲間が訪ねて来て、​「どうしたひどい苦しみようだな」「ああ、腐ったものを食った」​​​【成立】　１７７５（安政４）年『一のもり』の「儒者」。自分だけが清らかな心と思っていることへの皮肉が効いている。「論語読みの論語知らず」なんて言葉もある。​【蘊蓄】　経書は儒学などの教科書。日本で使われたのが四書五経といい、『論語』『孟子』『大学』『中庸』が四書。前の二冊が孔子と孟子の教えで、儒教の教科書にあたる。後の二冊は五経から教育的な内容を抜粋したもの。『大学』は優れた教育をして人を育てること、『中庸』は偏りのないのが素晴らしいということ。音楽でModeratoを「中庸に」と訳すから、言葉だけは中学時代に習った。　五経は『詩経』『書経』『易経』『礼記』『春秋』。順に詩の本、書道の本、易学の本、礼儀作法の本、歴史の本。『春秋』は孔子が編纂したという、彼の国・魯の歴史。これで戦国春秋時代と呼ばれる。更に音楽について書かれた『楽経』を入れて六経といわれることもある。四書が教科書であるなら、これらは副教材・参考書というところ。　儒教の教えの基本となるもので、朱熹という人がまとめたので「朱子学」と呼ばれた。　四聖と呼ばれるのは、孔子、孟子に加えて老子、荘子の四人。前の二人が儒教で、後の二人は道教。老子は落語でもお馴染みだが、怪しいのは若い頃に孟子（紀元前３００年頃）と同じ時代の人と議論しているのに、年をとると若き孔子（紀元前５００年頃）が教えを受けに来た……どうも謎の人物で、創作された架空の人物とも言われている。荘子も、人物名は「そうし」で、教えをまとめた書物は「そうじ」……国語の先生が混乱させるために決めたとしか思えない。教師って思いやりのない冷たい人間ばかりだという証拠の一つとして挙げておく。　老子と荘子の考えは道教で、老荘思想とも呼ばれる。孔子らの儒教が、国をよくするために人間を育てることが大事だとするのに対して、こちらは社会があるから矛盾も生まれるので、世を捨て社会から離れようとする。日本ではそのまま隠居状態になり世捨て人になってしまうイメージが強いが、要するにあまり他と関わらぬようにしようということ。　『三国志』は三つの国（魏・呉・蜀）の歴史をそれぞれまとめたもので、魏を漢の正規の後継者としている。「魏志」の中の「倭人伝」で邪馬台国の卑弥呼について書かれているので有名。最近また話題になっているが、これが正しければ、日本は洞窟に住む原始人のような生活だったのが、半世紀で国家が生まれ、女王が君臨していることになる……それはともかく、『三国志』を思想でいえば蜀が儒教で、呉が道教ということになる。後の世で、儒教が流行すると、蜀を主役にして書き直されたのが『三国志演義』で、我々が読んでいるのはほとんどがこちら。思想を背景において読むとなるほどと思う場面が多く、なかなか面白い。魏が勢力を広げようとするが、呉は道教の思想で関りを持たぬようにする。これを蜀が儒教で説得して同盟を結ぶというのもお馴染み。​

  2023.06.15

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• １５４：受験家族（じゅけんかぞく）

  ​【粗筋】　今日は一浪をしている息子の一郎の合格発表。開成ではない、曇り高校を受験している。両親が心配しているのは、息子は遺伝の影響で出来が悪いのだ。父親も模擬試験の問題を聞いても全然分からないので、母親がバカにする。父親も反撃、お隣の奥さんと張り合って服を買ってもスタイルが全然違うから似合わない……お隣と同じ狐の襟巻を買って、銀座で待ち合わせをしたらびっくりした。体はブタで、顔が狸で、方から狐……まるで動物園だ。​「何を言ってるの、途中で生け捕りにされなかったんだから、他の人にはまともに見えているのよ」　そういう父親も、頭がはげているくせに鼻毛が１０センチ以上伸びて、顔は福田で頭は中曽根、群馬２区と呼ばれている。　そもそも結婚前、月給を聞いたら百万と言った。月給を１年まとめると百万だった。新婚旅行で、どこかの島へ行きたいと言ったら、連れて行くと言った。ハワイかバリかタヒチか、そう思っていたら、予算がないから江ノ島になって……親類や友達がハワイへ行くと思って見送りに来るというから、成田に空のスーツケース持って行って、トイレに隠れたが、みんな空港を見学して全然帰らない……結局帽子とサングラスとマスクで顔を隠して江ノ島へ。帰って来たら写真を見せてと友達が来る。見せると、「江ノ島に似ているわね」と言われて、「ハワイは絵に描いたような島があって……」と説明……本当に大変だった。「うるせえな。翌年本当のハワイに連れて行っただろう」「行ったわよ……上野から常磐線に乗って……」「お前、一郎の中学の入学式に何着て行った」「セーラー服。入学式にぴったりでしょ」　喧嘩をしている所へ一郎が帰って来た。「何もめてるの」「お前の入学式に何を着ていくかだよ」「あ、それは心配ないよ」「どうして」「落ちたから」​【成立】　昔々亭桃太郎（２）の創作落語。この通り、ほとんど夫婦がののしり合うだけ。ひどいね……何でこんなに面白いのだろう。​

  2023.06.14

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• １５３－１０：寿限無のバリエーション「Ｊｕｇｅｍｕ」（じゅげむ）

  ​【粗筋】​　The monk named the child：（坊さんが子供にこんな名前をつけた）　Jugemu-Jugemu-Jabuliani-Skylar-Wealth-Health-Bounty-Boadicea-Fortune-FavorFelicia,No,Felicity-Tegwen-Luck-Lakshmi-Eustace-Omar-Zahir,Wait,Stacy-Serendipity-Joy-Hope-Chaunce-Ilario-Live-Long-and-Prosper.(薀蓄を参照）　He grew up young boy.（彼は子供に成長した）　One day, he and his friend quarreled.（ある日、友達と喧嘩になった）　……（以下略：子供の喧嘩まで筋は同じ）​【成立】​　ジャパンタイムズ「週間ＳＴ」編『英語で読む古典落語』に収録され、見事な口調のＣＤがおまけについている。英語落語って、英語の先生が直訳したような詰まらないものしかないと思っていたが、この本は他の噺も鑑賞に堪える。​【蘊蓄】​Jugemu-Jugemu＝「寿限無」日本語。Jabuliani＝バンツー語（アフリカ南部の広くで使われている）の人名。「幸せな」。Skylar＝アメリカの人名。「永遠の愛・力」Wealth＝「富」Health＝「健康」Bounty＝「賜物」Boadicea＝英国の人名。「勝利」Fortune＝「幸福・運・幸運」Favor＝「好意」Felicia＝ラテン語の人名。「幸福」No＝和尚さんが、「いや」と言った独り言。そのまま残しちゃった。Felicity＝「Felicia」の別称。Tegwen＝英国ウェールズ語の名前。「美しく祝福された」Luck＝「運・幸運」Lakshmi＝ヒンズー語の人名。「吉兆」Eustace＝ギリシャ語の人名。「たわわな」Omar＝アラビア・ヘブライ語の人名。「雄弁・繁栄・長寿」Zahir＝アラビア語の人名。「繁栄」Wait＝（和尚の独り言。「待てよ」くらいの意味）Stacy＝前に出た「Eustace」の省略形。今頃思い出すな……って、リズム感がいいように並んでいるのに注意。Serendipity＝「思わぬ発見をする才能」Joy＝「喜び・楽しみ」Hope＝「幸せ」Chaunce＝「幸運」……この辺りは辞書なしでも分かる人名としても用いられている。Ilario＝イタリア語の人名。「喜びにあふれた」Live Long and Prosper＝「長生きをして栄えよ」 　長々やって参りましたが、「寿限無」関係、今回をもって無事読み終わりと致します。

  2023.06.13

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• １５３－９：寿限無のバリエーション「野球寿限無」（やきゅうじゅげむ）

  ​【粗筋】「ナイツです。よろしくお願いします」「塙でーす。野球が大好きです」​「野球好きなのは知っているけれど、お客さんが好きかどうかわからないよ」「じゃあ、今日は野球について話をさせて下さい。　野球で最も印象的だったのが、１９９６年巨人のメイクドラマ。１０ゲーム差がひっくり返った。この時注目されたのが後藤選手。振り逃げだけで一躍脚光を浴びる。川崎に二軍のジャイアンツ球場があり、毎週末一軍に呼ばれる選手が発表される。なかなか呼ばれなくても、オーライ、オーライとフライを取り続け、努力の末にやっと一軍に呼ばれることになった。　角盈男という投手がピンチの時に必ず押さえる。実は角さんは、漫才の球児好児の好児師匠、右に立っている方の人と仲がいい。この時ライバルだった中日の大豊がチューンガムを噛んでいたのは似合わない。ガムといえば阪神のグリーンウェルは３億円で契約したが、打つのが下手で自打球が当たって神様が野球をやめろと言っているんだとアメリカに帰っちゃった。守備の方もポンコツで肩も弱いが、ここだけの話、チン〇コだけはすごく大きかった」「いい加減にしろ。好きなことばかり言って、少しも受けないし、最後は下ネタかい。落語のように落ちが付けばまだいいんだけれどね」「落語は勉強していますよ。この間も寿限無を覚えました」「覚えたの。じゃあやってみようよ……寿限無寿限無」「十ゲーム十ゲーム」「五劫のすり切れ」「後藤の振り逃げ」「海砂利水魚の水来末、雲来末、風来末」「ジャイアンツ球場の週末、オーライ待つ、フーライ待つ」「食う寝る所に住む所」「ピンチのところに角盈男」「やぶら小路のぶら小路」「球児好児の右好児」「パイポパイポパイポのシューリンガン」「大豊大豊大豊のチューインガム」「シューリンガンのグーリンダイ」「チューインガムはグリーンウェル」「グーリンダイのポンポコピー……長久命の長介」「グリーンウェルはポンコツだけど、チン〇コだけは超でかい」「いい加減にしろ」​【成立】　お馴染みナイツの野球ネタ。落語じゃなくってゴメン。２０１０年の初めての独演会でやった……と思う。多分……その時の記憶で打ち込んだもの。ネットでも聞けるらしいが、聞いたら異同がないかチェックしなきゃいけないと思うから聞かないようにしている。​

  2023.06.12

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• １５３－８：寿限無のバリエーション「バンコク寿限無」（ばんこくじゅげむ）

  ​【粗筋】　国際化が進んで、町内に住むのは外国人ばかり。タイ出身の男が寺を訪ねて来て、「子供が産まれたが、日本では坊さんに名前をつけてもらうと寄席でやっていたから頼みに来た」と言う。坊さんが言うには、​「日本のしきたりも大事だが、母国も大事にしなければならない。タイのバンコクの正式名称は『クルンテープマハナコーンアモーンラッタナコーシン・マヒンタラアユッタヤー・マハーディロッカポップ・ノッパラッタナラーチャタニーブリーロム・ウドンラーチャニウェットマハーサターン・アモーンラピーンアワターンサティット・サッカタットティヤウィサヌカムプラシット』というから、そのまま名前にしなさい」　というので、クルンテープ……という名前にした。大きくなると喧嘩をして、相手の子供が苦情を言いに来る。子供、母親、父親が名前を言って、子供の頭を見ると、瘤なんかない。「何、瘤が引っ込んじゃった……ああ、子供ってものはバンコク（万国）共通だな」​【成立】　２０２３年に桂竹丸が演った。バンコクの名前はよく分からないので、『地球の歩き方：タイ』を参考にした。この通り演っているかどうかは未確認。​​【蘊蓄】　長い地名。​　英国のウェールズ， Anglesey島に入って最初の駅は、「Saint Mary's Church in the hollow of white hazel near a rapid whirlpool and the Church of Saint Tysilio near the red cave」（荒々しい渦潮のそばの白いハシバミの窪地にある聖メアリ教会と，赤い洞窟のそばの聖ティシリオ教会）と５８字。公式の略称は「Llanfairpwllgwyngyll」，それでも長いので村の人たちは「Llanfair P.G.」と呼んでいるらしい。　逆に短いものは，ノルウェーにはÅ，フランスにはΥという１字の村があるそうだ。　日本の地名・駅名では、２０２２年に出た『日本長大地名辞典』によれば、最も長い地名は「長野県南佐久郡佐久穂町大字大日向字日影どうどうめき（ながのけんみなみさくぐんさくほまちおおあざおおひなたあざひかげどうどうめき）」で仮名３７文字。　日本で一番短い駅名は「津」。漢字、カナとも１文字１音だが、ローマ字では「Tsu」と３字になる。なぞなぞでは、日本一短い駅名は「神田」……「Kanda」、「ＫandＡ」、ほら、「ＫとＡ」という２字でしょ！　もっと短くなるのが、私の住む「取手」……「Toride」「Ｔ or ide」なので、「Ｔ」のみでも良いと考えられる。これなら１字。　逆に長いのは、２００７年３月のニュースで話題になったのが、島根県にある「ルイス・Ｃ・ティファニー庭園美術館前」駅。２００１年に美術館を誘致し、「古江」から改名し、仮名書き２３字で日本一になった。ところが、市が提示した誘致条件が一向に実現されないことから、美術館が移転を決めたため、この名前が変わると話題になった。　そうなるとその前に日本一だった茨城の「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」と　熊本の「南阿蘇水の生まれる里白水高原」の仮名２２字が日本一に返り咲くことになる。テレビのいい加減なキャスターは先の美術館前の駅名に「元」を付ければ仮名２５字で日本一を維持出来ると言っていた。　実は２５字でもとてもかなわないそのシーズンだけの臨時駅がある。それはスキー場で有名な場所……「万字」駅……おそまつでした。

  2023.06.11

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• １５３－７：寿限無のバリエーション「スーパー寿限無」（すうぱあじゅげむ）

  ​【粗筋】​　落語家で人間国宝の三遊亭白鳥のところへ、子供の名前をつけてくれという依頼が舞い込んだ。「寿限無……」を勧めると、新作の人が古典を演っても受けないんじゃないかと言われる。そこで、これまでにない、全く新しい名前を作ることにした。　まず人間に必要なのは「愛」、フランス語で「ジュテム、ジュテム」　寄席の下座を勤めるおこうさんは、口三味線で演奏するが、その弾いている振りをする風力で本物の三味線の糸が擦り切れる。「おこうの擦り切れ」　好きな食べ物を並べて、「銀シャリ水餃子の、水餃子待つ、海老フライ待つ、うどん飯待つ」　今売れてるのは所ジョージ。金の匂いに釣られてやって来る「金ある所にすぐ所」　人気がある人の名前をもらって、「綾小路に中本工事」　一番喜びを感じるのはご祝儀で、これでグリーン車に乗れる。そういうと「ヤッホー」と叫ぶ。「ヤッホーヤッホー、ヤッホーの祝儀代、祝儀代のグリーン車代」　芸人夫婦は仲良くなければならない。一番仲良しなのがペーとパー子。「林家ペーの林家パー」　大きな名前を継ぐのはうれしいから、「円朝襲名超すげえ」　こうして付いた名前が「ジュテーム、ジュテーム、おこうの擦り切れ。銀シャリ水餃子の、水餃子待つ海老フライ待つ、金ある所にすぐ所、綾小路の中本工事、ヤッホーヤッホー、ヤッホーの祝儀代、主議代のグリーン車代、林家ペーの林家パーの、円朝襲名の超すげえ」　赤ちゃんにこの名を付けると、すくすく成長して、三遊亭白鳥を襲名、大看板となって遂に円朝を襲名することになる。「襲名を断ろうと思います」「どうして」「子供の頃から長い名前で苦労して、これ以上名前を延長（円朝）するのはいやでございます」​【成立】​　もちりん、三遊亭白鳥が演じた。寄席で聞いた時は、付いた名前を通しで言って、「これから大変なことになります」で切っていた。時間が短かったのだろうなあ。その後こういう風に演っていますと教えていただいた。

  2023.06.10

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• １５３－６：寿限無のバリエーション「新寿限無」（しんじゅげむ）

  ​【粗筋】　子供に名前を付けてもらいたいが、お寺は住職が亡くなり、跡継ぎがひどいから頼む気にならない。近所にすむ理科の先生にめでたい名前を付けてもらう。​「一番めでたいのは酸素。動物は酸素が無ければ生きられない。動物が酸素を吸って二酸化炭素を出し、植物がそれを吸って酸素を出す。循環がどこまで行っても終わらないからおめでたいなあ」と名前を付けて行く。　「クローンの擦り切れ」クローン人間がすり減るほど生きる。　「細胞壁原形質膜細胞分裂減数分裂」何度も何度も分裂して果てしがない……　こうして付いた名前が、「酸素酸素、クローンの擦り切れ、細胞壁原形質細胞分裂減数分裂、食う寝る所は２ＤＫ、窒素リン酸カリ肥料、人間汗とアルデヒド、アミノ酸リポ拡散龍角散、ＤＮＡのＲＮＡのヌクレオチドのヘモグロビンのヘモ助」という名が付く。　すくすく成長したが、近所の子供と喧嘩をして、金ちゃんが泣きながらやって来た。母親が聞いて父親へ。父親、「何、窒素窒素……」「酸素だよ」婆さんが出て来て、「フッ素フッ素」「酸素だよ」「酸素酸素、苦労で擦り切れて、サイボーグ００９の，人参あせもにジンマシン、アミノ酸伊藤さん近藤さん山田さんの、ＩＬＯのユンケル黄帝液太郎……初めて間違えずに名前が言えた……」「おい、金ちゃんいねえじゃねえか、どうしたんだ」「あんまり名前が長いから、金ちゃんの寿命が尽きちゃった」​【成立】　三遊亭円丈が演っていた。​

  2023.06.09

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• １５３－５：寿限無のバリエーション「寿限無の稽古」（じゅげむのけいこ）

  ​【粗筋】　落語の稽古は口移しで、師匠が話すのを聞いて覚えるというのが常識だった。三度聞いて覚えなければならないのだが、今はテープレコーダーを使うことが許される場合もある。師匠がテープレコーダーを出して、録音を始めるのだが、「ええ、ええ、これから稽古をつけます……子供が生まれて名前を付けるてもらおうと……おや、誰か来たね……」​　新聞の勧誘、訪問販売、次々人が来るので、「鍵を掛けて誰が来ても出ないようにしておくれ。これでやっと落ち着いて稽古が出来る」　こうして始めると、玄関でガタガタやって大声を出す者がある。買い物に行っていたかみさんが帰って来たのだ。「鍵を持っているんだから、チェーンを掛けることはなかったんだ……おい、お前、テープレコーダーが動いているぞ。何で止めないんだ。これじゃあ何にもならない」「いえ、師匠、このテープいただいて行きます」「どうするんだい」「このまま新作落語として、明日の寄席に掛けます」​【成立】　入船亭扇好が演っていた。​

  2023.06.08

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• １５３－４：寿限無のバリエーション「寿限無の結婚」（じゅげむのけっこん）

  ​【粗筋】　寿限無が結婚した相手は「パブロディコ・ホセ・フランシスコ・ドコール・ジャン・レポルチューノ・クリスバン・クリスティア－ノ・ドラシチス・ドライカレー・トリニザット・ルイス・ア・カルメン」という外国人。​　子供が産まれて役所に名前を届けなければならないのに、まだ決まっていない。二人とも長い名前だから今度は短く「ふ」にしようという案も出るが、父親が長寿を祈った名だから、子供は健康に育つよう、体にいいものを並べるべきだというのが妻の意見。「大根おろしにシラス干し、梅干し納豆卵焼き、わかめのおみおつけ、スパゲッティ・カルボナーラ、ベーコン・ニンニク・オリーブオイル、烏賊の塩から・くさやの干物」　夫は偉い人になってもらうよう、偉人の名を取って、「家康信長秀吉に、聖徳太子、モーツァルトにベートーヴェン、エジソンガリレオ毛沢東、漱石鴎外龍之介」　にするという。喧嘩になるが、間に入った母親が、両方を一緒にして、「大根おろしにシラス干し、梅干し納豆卵焼き、わかめのおみおつけ、スパゲッティ・カルボナーラ、ベーコン・ニンニク・オリーブオイル、烏賊の塩から・くさやの干物、家康信長秀吉に、聖徳太子、モーツァルトにベートーヴェン、春風亭柳昇、エジソン・ガリレオ毛沢東、漱石鴎外龍之介」　という……なぜか春風亭柳昇が加わったが、この名前でやっと合意をみた。よしっと役所に行くともう閉まっていたので、子供の名前は「名無しの権兵衛」​【成立】　春風亭鹿の子が平成１５（２００３）年３月１９日に演じたものの耳コピ。翌年の１２月５日に聞いたら、食べ物と偉人を一つずつ交互に言うという演出になっていた。二度聞いたので、長い名前もほぼ合っていると思う。鹿の子ちゃんに見てもらって確認しようと思ったが、岡山に転勤し、手術で寄席から遠ざかり、戻ったらコロナ……子育てに専念するというので引退された。ちょっと行き違いもあって、今回の名前は本人確認は得ていない。​

  2023.06.07

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