名作落語大全集

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• １５３－４：寿限無のバリエーション「寿限無の結婚」（じゅげむのけっこん）

  ​【粗筋】　寿限無が結婚した相手は「パブロディコ・ホセ・フランシスコ・ドコール・ジャン・レポルチューノ・クリスバン・クリスティア－ノ・ドラシチス・ドライカレー・トリニザット・ルイス・ア・カルメン」という外国人。​　子供が産まれて役所に名前を届けなければならないのに、まだ決まっていない。二人とも長い名前だから今度は短く「ふ」にしようという案も出るが、父親が長寿を祈った名だから、子供は健康に育つよう、体にいいものを並べるべきだというのが妻の意見。「大根おろしにシラス干し、梅干し納豆卵焼き、わかめのおみおつけ、スパゲッティ・カルボナーラ、ベーコン・ニンニク・オリーブオイル、烏賊の塩から・くさやの干物」　夫は偉い人になってもらうよう、偉人の名を取って、「家康信長秀吉に、聖徳太子、モーツァルトにベートーヴェン、エジソンガリレオ毛沢東、漱石鴎外龍之介」　にするという。喧嘩になるが、間に入った母親が、両方を一緒にして、「大根おろしにシラス干し、梅干し納豆卵焼き、わかめのおみおつけ、スパゲッティ・カルボナーラ、ベーコン・ニンニク・オリーブオイル、烏賊の塩から・くさやの干物、家康信長秀吉に、聖徳太子、モーツァルトにベートーヴェン、春風亭柳昇、エジソン・ガリレオ毛沢東、漱石鴎外龍之介」　という……なぜか春風亭柳昇が加わったが、この名前でやっと合意をみた。よしっと役所に行くともう閉まっていたので、子供の名前は「名無しの権兵衛」​【成立】　春風亭鹿の子が平成１５（２００３）年３月１９日に演じたものの耳コピ。翌年の１２月５日に聞いたら、食べ物と偉人を一つずつ交互に言うという演出になっていた。二度聞いたので、長い名前もほぼ合っていると思う。鹿の子ちゃんに見てもらって確認しようと思ったが、岡山に転勤し、手術で寄席から遠ざかり、戻ったらコロナ……子育てに専念するというので引退された。ちょっと行き違いもあって、今回の名前は本人確認は得ていない。​

  2023.06.07

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• １５３－３：寿限無のバリエーション「寿限たら」（じゅげたら）

  ​【粗筋】　年頃になった「寿限無」、名前が長いので結婚の機会がない。そこへ縁談が持ち込まれたが、なかなかの美女で箪笥長持まで持ってくる……それは何かキズがあるのだろうと言うと、言葉が丁寧なのだという。無事縁談が決まって、彼女の名前を尋ねると「自らことの姓名は、父は元京都の産にして、姓は安藤名は恵三……千代女と申し侍るなり」というやたら長い名前。初夜を迎えるが、​「自らことの姓名は……、起きてるかい」「寿限無寿限無……、起きています」「自らことの姓名は……、そっちへ行ってもいいかい」　とやって、いよいよ抱き合おうとしたら、大家さんに起こされた。「もう朝だよ、大分お楽しみだね。目が真っ赤だよ」「何を言ってるんだい。名前を呼び合っているうちに朝になって、ちっとも寝ていないよ」「まあいいよ、あと２、３回呼び合っているうちに夜になるだろう」​【成立】　三笑亭夢之助が演じていた。もちろん「寿限無」と「たらちね」を一緒にしてしまったもの。「たらちね」は他の人と結婚したはず。離婚したのだろうか、ちょっと気にかかると言ったら、師匠がおっしゃるには、「別に他の落語の人物だというのでなく、同姓同名の別人だと思えばいいじゃないですか」だって。ううん、なるほど。ＮＨＫが好きらしく、テレビで何度も放映された。​

  2023.06.06

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• １５３－２：寿限無のバリエーション「寿限無のその後」（じゅげむのそのご）：その２

  ​【粗筋】　寿限無が成人して、結婚することになるが、国際結婚で、相手の名前が、​「アンナ・ベルザ・セシリア・ダイアナ・エミリー・ファニー・ガートルード・ヒバティア・アイネス・ジェーン・ケイト・ルイズ・モード・ノラ・オフィリア・プルンデンス・クインス・レベッカ・サラ・テレサ・ユリシス・ビーナス・ウィニフレッド・クセノフォン・イェティ・ゼノ・ペッパー」　双方で名前を呼び合い、やがて彼女のお腹が「ポンポコナー」。​【成立】　昭和４４年の本に出ている。頭文字はＡ～Ｚと苗字のＰ。何かもう一つほしいなあ。​

  2023.06.05

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• １５３－１：寿限無のバリエーション「寿限無のその後」（じゅげむのそのご）：その１

  ​【粗筋】​　「寿限無、寿限無……」という長い名前を付けられた子供（この後は単に「寿限無」と省略）、学校で作った名札は虫眼鏡でも読めないし、氏名のゴム印は10センチ以上の大きさ。何とか無事に学校を卒業するが、卒業式で名前を呼ぶのに校長先生が息を切らせる。　社会に出た寿限無は選挙に立候補、演説で名前を連呼したが、「先生、もう選挙は終わりました」​【成立】　「寿限無」は口慣らしで高座には掛けないと昔は言っていた。放送の落語入門としては見ることもあるが、子供向けのテレビ番組で話題になるまではまずほとんど登場しなかった。そんな場合、寄席などで演じる場合はこのような変化を持たせていたものだ。色々な人が色々なやり方を考えて演じている。それをひとまとめにした。選挙に立候補させたのは小金馬時代の三遊亭金翁。​　昔のあるテレビ局では、このネタをやれと演者に命じ、同じネタばかり登場するという時代があった。この時も局からのリクエストというより命令で演ったのではないか、正直熱が入らない調子だったからなあ……高座でなく、立ったまま、回りに他の出演者がいるし……さすがはNanka Hennna Kyokuだなあって思った。落語放送ワースト３がこの局……って、他ではほとんどやってないけどね。

  2023.06.04

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• 落語「し」の１３５「寿限無」の続き（７：まだある寿限無の音楽）

  御してぎょしゃ座：少女☆歌劇　レヴュースタァライト（２０１９年）　星見純那（佐藤日向）、リュウ・メイファン（竹内夢）、田中ゆゆ子（佐伯伊織）、野々宮ララフィン（富田美憂）ら６人の少女が舞台センターを争うってアニメの主題歌。中村彼方：作詞　小高光太郎：作曲「え！　ちょっとなになに？　どういうこと？！」「寿限無　寿限　五劫の擦り切れ　エリクトニウスはこのわたくしが」こんだけ……「へいお客さん一番太鼓聞こえたかい寄席の始まりドンドンドンと来いからそれから今なん刻だい真打の登場ハハイ！　って、「時蕎麦」も登場。 寿限無：初音ミク（？）「かもねぎ」が作詞作曲。ほぼ落語に添って、名前を付けていく過程、子供の喧嘩を歌う。いつから歌っていたのか分からないが、２０２１年にYou Tubeで千回再生されたというニュースで知って入手した。 寿限無：二期会（２０２２）　この年の芸術祭参加作品。川島早智子作詞、加藤由美子作曲。オペラではなく歌曲。 ジュテーム：三遊亭究斗（？）　ミュージカル俳優経験者の、歌う落語。 じゅげむ：山口あい（？）　保育士のための作品。　♪むかしむかし　あるところおとこのあかちゃん　うまれたよ　げんきにながいきできるよう　すてきななまえをかんがえた 　以上が私が録音を持っているコレクション。他にもあるかしら。

  2023.06.04

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• 落語「し」の１３５「寿限無」の続き（６：寿限無の音楽の続き）

   ＪＹＵＧＥＭＵ：ずうとるび（２００８年）笑点の子供大喜利で、座布団１０枚のご褒美に歌手デビュー、たちまちアイドルと勘違いして、紅白にも出ちゃった。今座布団運びの山田君、ドラマで悪役をよくやっている荒井君、江藤君、今村君の４人グループ。みんな俳優になっちゃったね。邪魔だ、じゃない、山田君もスピルバーグ作品に出たのが自慢だし……あ、どうでもいい説明になっちゃった……「ＪＹＵＧＥＭＵ」は３月発売、山田隆夫の作詞作曲。♪ぼくの名前は一度言ってもわからないうそだと思うなら一度きいてごらん　じゅげむじゅげむ……彼女が電話をかけてくれても、名前が言えずに切られちゃう。突然死んだら、弔辞の名前とお経がこんがらがっちゃう……という歌。 寿限無：ＲＡＤＷＩＭＰＳ（２０１１年？）　この年には出ていたと思う。野田洋二郎の作詞作曲。国語の「あり　をり　侍り」「こ　き　く　くる　くれ　こよ」、数学の「サインシータ、コサインシータ、タンジェントシータ」、英語の「I ｍｙ ｍｅ ａｎｄ ｍｉｎｅ」などのラップになりそうなセリフが次々出るが、タイトルの「寿限無」はどこにも出て来ない。 吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」：足立正（２０２１年）この年度の吹奏楽コンクール課題曲。楽しい雰囲気ということで、別に「寿限無寿限無」と言わなくていい。 ニッポン笑顔百景：桃黒亭一門（２０１２年）落語アニメ「じょしらく」のエンディング。ももクロが歌っている。歌の中に「寿限無」が登場。歌は手元に残しているが、アニメの方は残していない。ギャグが一つも笑えなかった。声優さんは可愛くて好きだよ……芸協の「落語天女おゆい」の時、「おじさんと一緒においで。手籠めにしてあげるよ」と言って出入り禁止になったが、もう時効でしょう。 じゅげむの歌：熊代光佑（２０１３年？）この年にはあった。「じゅげむの歌ダンス」でお馴染み、子供たちが踊るための作品。 演芸ロック・ミュージカル「寿限無」（２０１５年？）この年に見た記憶が……詳細不明、タイトルはイカルス渡辺風だけどねえ。 ミュージカル「寿限無」（？）♪あのねっ！僕は生まれたよ！男の子だよ！　お父さんは、おめでたい名前を付けようとして、お寺の和尚さんに色々と教えてもらった縁起の良い言葉を、全部並べちゃったんだ！そしたら、すごく長い名前になっちゃいました！そんな、僕の名前は・・・　１、２、３、はい！　　寿限無　寿限無　（寿限無）　　　五劫の擦り切れ　海砂利水魚の水行末（ＹＥＳ！）　雲来末 風来末（ＹＥＳ！）　食う寝る処に（食う寝る処に）　　住む処～イエ～イ！　　以下略　ミュージカルだからみんなでドラマを展開する。

  2023.06.03

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• 落語「し」の１３５「寿限無」の続き（５：寿限無の音楽）

  寿限無の嘆き：デュークエイセス（１９６０年）　　♪子供が親を思えば親孝行　親が子供を思えば子煩悩……　　長すぎる名前を付けられた悲劇。好きな人が出来て告白すると、名前を聞かれる。名前を言い終わったら、彼女は他の男と結婚して二人の子供を持っていた……Ｂ面は「与太郎の歌」、いつもドジで失敗ばかりの与太郎、みんなに愛されて、商売させようという。魚屋がいいと勧める者がいる。なぜか、金魚をつかむのがうまいから……結局大工になって棚を作るが、物を乗せると落ちてしまった。大家が文句を言いに行くと……お馴染みのネタ。　デュークは「笑点」で落語をやったこともある。昔の「笑点」では歌手や俳優が演芸をやっていたのだ。それも「長屋の花見」だったが、４人がそれぞれの人物を演じ、歌を交えて演じるのが面白かったのを覚えている。初代江戸家猫八の独演会では「梅に鶯」をアカペラで歌って出囃子にしていた。寿限無：山下洋輔（１９８１年）　集大成アルバム２巻が「寿限無～山下洋輔の世界～」と題されていた。演奏会のオープニングに演奏だけで披露していたが、１１月１６日のライブの録音は歌詞付。従って２種類所有している。ＪＵＧＥＭ：大江戸台風族（２００４年）　当時二つ目のメンバーで結成された７人組バンド「大江戸台風族（おおえどたいふーん）」のデビュー作。前年から歌っていたが、この年の１月１日付で発売ということになっている。私のＣＤにはメンバーのうち４人しかサインが入っていない。　同年春には、テレビアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のエンディングに採用され、両津勘吉（ラサール石井）と一緒に歌うバージョンも発売された。カップリングは「ＨＥＲＯ ＣＯＭＥＳ ＴＨＥ ＴＹＨＯＯＮ（大江戸台風族のテーマ）」、「たらちね」「大工調べ」その他、落語の言い立てが次々出て来る。長い名前で出ています（詩は２００３年。曲はその後らしい）　三遊亭円窓師匠が書いた詩に「たくみ」が曲を付けた。他に幾つかの落語作品が発表されている。　　♪昔々、八っあんに　生まれた子供が男の子　　お寺の和尚に頼み込み　付けた名前が長すぎた……　詩は２００３年には私もいただいていたが、曲になったのを知ったのは２００８年。元々名前は台詞として書かれていたが、曲ではラップになっている。ネットではボーカロイドＳａｃｈｉｃｏの歌とカラオケしか出ていない。寿限無でダンス：モリゾー＆キッコロ（２００５年）　２００５年の愛・地球博のキャラクター（高橋良輔監督）の楽曲。二人（おじいちゃんと孫＝声は八奈見乗児と渡辺菜生子）が寿限無を歌う。

  2023.06.02

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• 落語「し」の１３５「寿限無」の続き（第４章：長い名前の小説と音楽）

  小説・音楽　小説の題名では、井伏鱒二の作品に「槌ツァと九郎治ツァンは喧嘩をして私は用語について煩悶すること」というのがある、大岡信の詩に「心中で生き残った青年と帰らない旅に出た娘について三面記事が語らなかったいくつかのうた」という題名がある。　北杜夫の『さびしい王様』（新潮社１９６９）の主人公の名前は「シャハジ・ポンポン・ババサヒブ・アリストクラシー・アルアシッド・ジョージ・ストンコロリーン二十八世」である。　これら、もっとあるかも知れないが、わざわざ調べるような暇人ではないから……たまたま読んだ物をメモしただけ。　モーツァルトは冗談音楽で有名だが、フルート四重奏曲イ長調（Ｋ２９８）という曲がある。主題には当時流行した流行歌を用い、フィナーレには「ロンディーノ（Rondeieaouxとそもそも綴りが間違っている）・アレグレット・グラジオーソ、しかしあまりプレストすぎず、かといってあまりアダージョすぎず、そうそう、そんな風に……思い切り気取って、表情豊かに」という速度記号がついている。　因みにモーツァルトは「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」と署名しているが、これはイタリア人風に発音したもの。当時のヨーロッパはイタリアでなければだめで、例のサリエリが地位を脅かされたという話が出来たが、サリエリはイタリア人で、どう間違ってもモーツァルトが上に来ることはない。モーツァルトがイタリア語の歌劇を書くとまがいものとされ、ドイツ語で書くと完全な偽物とされた。ウィーンではそこそこ人気が出たが、音楽界では認められなかったのだ。ウィーンが音楽の町と呼ばれるようになるには、ベートーヴェンが大変な人気を得てからのこと。もちろんウィーンで活動するのだから、彼もサリエリの教えを受けている。　忘れるところだった。モーツァルトの本名は、ヨハンネス・クリュソストムス・ウォルフガングス・テオフィルス・モザルト。そこそこ長い。　まあ、日本でも、姓、氏、名、号を並べるから案外長い。　織田信長は、「平朝臣織田上総介三郎信長」、「平」が氏、「朝臣」は姓（かばね）で位、「織田」が苗字、「上総介」は官職、「三郎」は字（あさな）で家族や親しい者が呼ぶ名、「信長」が諱（いみな＝本名）、昔は元服にあたって付けた。家来が「信長様」、ほかの者が「信長公」などと呼ぶことはなかったので、家族親類は「三郎」、他の者は「上総介」、「織田殿」と呼ぶようだ。誰が一番長いか調べてみてはいかが。私は暇人ではないので絶対にやらないが。

  2023.05.31

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• 落語「し」の１３５「寿限無」の続き（第3部：長い人名）

  　名前が長い話。　全国に長い名前の民話があるが省略。　１７０３（元禄１６）年『軽口御前男』巻二の「欲から沈む淵」は、長男をないがしろにして、連れ子の次男を可愛がる親が、長老に名前に差をつけるよう頼む。兄は「如是我聞」と、弟は「阿耨多羅三藐三菩提（あのくたらさんみゃくさんぼだい）」と名付ける。二人が川でおぼれると、兄は「如是が流れる」とすぐ救われたが、弟は流されてしまう。母親が「三藐が無ければ助かったものを」と言う。　無住法師の『沙石集』（１２７９年起筆、８３年完成、その後も加筆）巻八の７「仏の鼻薫ぶる事」は、尼になろうとする女が、法名を自分でつける話、阿弥陀・釈迦・妙法・観音・地蔵・白山・熊野・羽黒・日吉・御嶽の頭の文字を並べて「阿釈妙観地白熊羽日御」という名前にする。実在の人物　日本で実在する長い姓は漢字で五文字の「勘解由小路」（京都）、「左衛門三郎」（埼玉）などがある。　画家のピカソ(1881-1973)のフルネームは、Pablo Diego Jose Francisco de Paula Juan Nepomuceno Maria de los Remedios Chrispin Chrispiniano de la Santisima Trinidad Ruiz e Picasso（パブロ・ディエゴ・ホセ・フランセスカ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピニアーノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダッド・ルイス・イ・ピカソ）　と、有名人の中ではおそらく世界一の長い名前。　昔、ギネスブックに載っていた世界一長い名前の人はドイツ生まれのアメリカ人で、フィラデルフィアに住む人物。Adolph Blaine Charles……と、Ｚまでの頭文字のつく２６個のクリスチャンネームから始まり、その後５９２字の姓が続く。これではあまりに長すぎるとうので、Hubert Blaine+586．Seniorを通称にしているという。　アメリカ人で、親父がプロサッカーファンだったため、マンチェスターユナイテッドの選手名全部を、子供の名前に付けた人がいるらしい。成長した頃には選手も替わっているだろうに……どうするのだろう……ヨーロッパでは、交響楽団のメンバー全員の名前をつけたという変わり種もいるという。私のような素人でも、「今日の交響楽団の奏者、誰それがよかったね」なんて、ファンはメンバーを知っているのが常識だったから、こういうのもあるだろうが、やはりメンバーが替わって行くだろうなあ……改名するのだろうか。　ニュースでやっていたが、インドには、声に出すのに５分かかる名前の人がいて、名前の文字数は２００８文字もあるそうだ。ジャーマーカタガマ カタワリ……とかいう女性（いっぺんで覚えられなかった）。これも結局、ジャーマー１９９３チョドリと略した名前に替えた（詰めた？）らしい。前後の綴りを除いた中身が１９９３文字ということか。　いずれも昭和の頃の記録で、記録更新されたかもしれないが、調べるような暇人ではないので生涯調べ直すことはないと断言しておく。　明日は小説や音楽の長い名前。

  2023.05.30

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• 落語「し」の１３５「寿限無」の続き

  ​【蘊蓄】　落語の名前は次のような意味がある。​○　寿限無：寿が限りない、すなわち永遠に死なないという長寿を祈る言葉。　「観無量寿経」の「無量寿」から取ったものだが、「無量寿」は阿弥陀様で、永遠の命の仏をいう。「寿限無」という言葉は出ない。「无量寿是安楽浄土如来別号」（『教行信証』１２２４）　「阿弥陀のいのちへ帰せよとをしふるをききて、帰命无量寿覚しつれば、わがいのちすなはち無量寿なりと信じるなり」（『安心決定抄』14世紀以前）は、仏を信じれば、本人に永遠の命が授けられるということで、もちろん仏の世界でのこと。○　五劫のすり切れ：３年に１度天女が降りて、ダイヤモンドの１００万倍の硬度を持った方４０里ある大岩を羽衣の袖でなでる。この岩がすり減って無くなるまでが「１劫」という時間。約１０の３６乗年という。落語ではこの「石劫」説を説明するが、もう一説は「芥子劫（けしこう）」といい、鳳凰が３年に１度、４０里四方の城の中に敷き詰められた芥子１粒をくわえて行き、全てなくなるまでを「１劫」となる。「五光」と書いた場合は、太陽の光の無限性をいう。本来は「すりきれず」で、永遠性をいうべきだとされているが、その場合でも「ず」は聞こえないように言う（？）とされている。○　海砂利水魚：海の砂利、水の魚の数は数えきれない。それを数え終えるまで長生きをするということ。アルキメデスは、宇宙を太陽までの球状であると考えていたが、その中に砂利は１０の６１乗粒しか入らないと計算している。英語で「グーゴル」という数字があるが、ちょうど百桁の数字。元素を１とすると、地球が１グーゴル、地球を１とすると宇宙が１グーゴルになるという。世界一大きな数字というが、日本の数字は今は４桁ごとに新しい言葉になる使い方になっているが、「億万長者」とか「万々両」という使い方があり、「無量大数」（ゼロが６４個）の二乗まで使える。つまりゼロが１２８個。○　水行末、雲行末、風来末：それぞれの行く末が分からない、果てしないことから長寿への祈りとする。「水来末、雲来末、風来末」また「水行末、雲行末、風行末」とも。○　食う寝る所に住む所：人間に無くてはならないもの。○　やぶら小路ぶら小路：正しくは「柑子」で正月の飾りに使う「藪柑子」。正月に年をとる時代で、新年を迎えて齢を重ねる祝いをこめる。間に「の」を入れる演者も。○　パイポパイポ……：唐のアンキリアにあるパイポという国の王様、シューリンガンとお妃、グーリンダイの間に生まれた二人の王子、ポンポコナーとポンポコピーがそろって長寿だったという。（経典にあるというが不明）○　長久命：読んで字の如く、「長く久しい命」。○　長介：長く助けるというので「長助」とも。　本文の「寿限無」は仮名で書くと１４３字（演じ手によって１３２字から１４５字まで、多少誤差がある）、ローマ字書きでは２２０字を越える。上方では経文の陀羅尼品から名を付けるが、井戸に落ちてみんなで名を呼ぶ。名付け親の坊さんが駆け付けて、お経のような節をつけて呼ぶと、子供が「だだぶ、だぶだぶ」と沈んでしまう落ち。全く演じられることは無くなっている……のだろうか。

  2023.05.29

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• 落語「し」の１５３：寿限無（じゅげむ）

  ​【粗筋】　男の子が生まれたのでいい名前をつけようと寺の住職に相談したところ、​「寿限無、寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝る所に住む所、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコナー、ポンポコナーのポンポコピーの、長久命の長介」　という名前に決まった。近所の婆さんがこの子の名前を覚えるのにお経になったりしたが、名前が身に合ったのか、すくすくと成長、学校に行くようになると、長い名前ゆえの騒動がたえない。ある日、喧嘩をして頭に瘤を作られたと、子供がやって来た。そのいきさつを話すのに、子供と母親と父親が名前を繰り返した挙げ句、「どれどれ、見せてごらん……何でえ、瘤なんぞ、ありゃしねえじゃねえか」「あんまり名前が長いから引っ込んじゃった」​【成立】　民間等に多くの原型がある。『沙石集』８－７や狂言『昆布柿』にも長い名前の話はあるが、笑い話としては１７０３（元禄１６）年『軽口御前男』の「欲からしづむ淵」が最も古い。川に子供が落ちたが、短い名前の子はすぐに救われ、長い名の子は助けが来るのが間に合わず溺れ死ぬというもの。「長命の倅」とも。​　「寿限無」という落語を寄席で聞くことはほとんどない。口慣らしとして弟子に教えるが、客の前で演じるものではないという演者もいるほど。確かに、名前の言い立てだけで、面白いところがない……と２０００年頃に私は書いた。２００２年からテレビの『日本語であそぼ』で伝統芸能が取り上げられ、歌舞伎や狂言の文句と並んで柳家花緑の「寿限無」が登場すると、子供達が唱え、寄席でも聞くようになった……はずなのに、昭和４４年頃の本には、寄席に行けば必ず聞くほどポピュラーなネタだと書かれているが、私が生で聞いたのは２００３年が初めて。実は人前で演るネタではないと言い切った噺家さんを何人も知っている。　三遊亭円楽（６）が『笑点』で演ったのは、お迎えに来た子供が、「おばちゃん、学校卒業式になっちゃった」​【一言】　子供同士の喧嘩で、寿限無が相手の子供に瘤をこしらえ、それを親が謝りにいって、例のように、「うちの寿限無寿限無が……」とくり返しているうり、そのコブがひっこんでしまうのをサゲにする。それを柳家三語樓（古今亭志ん生）は謝りに夫婦で子供を連れていって、「うちの寿限無寿限無が」をくり返して、「かかあ、水を一杯くれ」。（宇野信夫）​​●　これと『金明竹』『たらちね』は、一つことをくり返すので、前座の口ならし用のはなしです。誰でもやらなくてはいけない一つの課目になっていたんです。それでいて、看板になってもこういうはなしを捨てずにやるところがまた、はなし家のいいところでしょう。私もこのはなしを時たまシャレ半分にやりますし、またホール落語でも、浅いところに出たときはやってみるんです。すると聞くほうも案外めずらしそうに聞いてますよ。これはつまり今は前座のはなしを聞く機会が少なくなったことと、前座も『寿限無』なんかきちんとやらなくなったからですね。（林家彦六）​​●　この噺（はなし）は、入門したての落語家が口慣らしに覚えることが多い。寿限無、寿限無、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利水魚の水行末……。めでたい言葉が並ぶ子どもの長いフルネームを、登場人物たちが会話の中で繰り返す。そこが面白みだが、小学生は笑ってくれても、落語会で大人の観客を笑わせるのは簡単ではない。​　寿限無くんの父、母、友だちの会話に、名前が七回ほど出てくる。それぞれによほど変化をつけなければ、聞いていて面白くない。　演出の一例をあげると、友だちが寿限無くんを誘いに来るところは、たっぷり一分ほどかけて名前を言う。聴いていて、いらいらするくらいの遅いしゃべりにする。　一方、オチの直前に父親があわてて言う名前は、息継ぎをほとんどせず一気にまくし立てる。ここは約十秒。あとの個所は、泣きながらゆっくり、あるいは、最初ゆっくりで徐々に速く、などとすべて言い方を変える。　苦心して言い方を演じ分けても、それだけでは「よく覚えはりましたね」と感心されて終わる。笑いを生むには、苦心してもその跡を観客にわからせない、肩の力が抜けた自然さがいるのだろう。私など、まだまだ演じるのに必死で、そこまでの余裕がない。（桂竹丸）　名前の由来、その他のアレンジについては明日以降ご紹介。

  2023.05.28

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• 落語「し」の１５１：授業中（じゅぎょうちゅう）

  【粗筋】　赴任して来たばかりのズーズー弁の先生、カール・ブッセの「山のあなた」を生徒に読ませる。一人目は普通に読むが、次の生徒が中沢信雄という大変などもり。​「いや……や、や、や、や……やま、やま、やま、やま……」「大丈夫か」「山のあな、あな……あなた、もう寝ましょうよ」「最後だけなぜちゃんと言えるんだ。その後ろ、名前は何という」「十八番、広沢虎蔵」「いい声だね。読んでごらん」「お粗末ながら……」「教科書にお粗末はないぞ」「お時間まで」「時間もいいから読め」「♪山のあなたの空遠く～、幸い住むと人のいう……涙さしぐみ帰りきぬ～、山のあな～ァァァ、男一匹なぜ泣くものか、雁が鳴いてく赤城山」「こら、そりゃ国定忠治じゃ。教書のどこに国定なんて書いてある」「あります。裏に」　って見ると、国定教科書。​【成立】　三遊亭円歌（３）が歌奴時代に作った創作落語。中沢信雄という名は円歌の本名（その後出家して中沢圓法）。吃音を直すために落語家に入門したという。その前は新大久保の駅員をやっていて、吃音で駅名を言えた時には列車が隣の駅に着いたというネタを振り、後には新大久保の駅前にホテル・山の穴があると言ったら、本当に探しに行ったのがいるというネタを使っていた。​　昭和２４（１９４９）年、秋田なまりから意味を取り違えて大笑いをした体験から発想したものだが、翌年から学生の間で話題となり、２７、８年になると歌奴といえば「山のアナ」というくらいの大ヒットとなった。その後騒ぎは落ち着いたが、４０年前後からテレビで取り上げると再び大ヒット、第二のブームとなった。４１年の録音が残っているが、「あなたもう寝ましょうよ」ではなく「あなた会社に遅れるわよ」……録音で子供も聞くから変えたといわれるが、あまり面白くない。　彼の大出世作で、続編といえる「浪曲社長」「月給日」などもヒット。林家三平とともに、真打ではないのにトリを勤め、寄席を満員に出来る演者として一目置かれるようになった。古い人は「落語協会は古典、芸術協会は新作」という分け方を使ったが、戦後の落語ブームで落語協会が人気になったのがこの二人のお陰。協会の違いを説明した言葉は、戦前はそうかも知れないが、戦後は全く納得の行かない説明で、戦後これを書いている人は、寄席に行ったことのない人だと思っていいのだろう……現代でもよく目にする。　落語は人を笑うもので、芸術ではないという偏見があり、この噺も差別という理由で放送では禁演となった。​【一言】　「授業中」ははじめのころは歌謡曲が入っていたんですが、あんまり受けませんでした。ある日、たまたま、そこのところを浪曲調でやったらすごく受けたんです。それでスパッと変えちまいました。昭和２５年ごろです。（三遊亭圓歌（３））​​【蘊蓄】　カール・ブッセの「山のあなた」は上田敏の訳で、１９０５（明治３８）年の詩集『海潮音』にある。​　　山のあなたの　空遠く　　「幸」住むと　人のいふ　　噫われひとと　尋めゆきて　　涙さしぐみ　かへりきぬ　　山のあなたに　なほ遠く　　「幸」住むと　人のいふ　落語では５行目が１行目と同じになっているが、噺家は無学だから間違って覚えているという形をとる。俳句などでも「目には青葉山ほととぎす初鰹」という山口素堂の句を間違えて「は」が抜けているのを使うなど、例は多数ある。　「国定教科書」は、１９０４（明治３７）年から１９４９（昭和２４）年まで使用されたが、その後「検定教科書」となった。尚、国定教科書でカール・ブッセを取り上げたという例はない。　なお、広沢虎蔵（１８９９～１９６４）は本名山田信一、独特の渋い声で大人気となった。得意だった『清水次郎長伝』の「江戸っ子だってねえ」「神田の生まれよ」「寿司食いねえ」という台詞は浪曲の代名詞的に扱われる……台詞なのに……この冒頭が、「駿河路や花橘も茶の香り」という松尾芭蕉の句。真似をする浪曲師が同じ言葉は使えないというので、「旅行けば駿河の国に茶の香り」と変えて演ったが、こちらの方が一般には知られている。

  2023.05.26

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• 落語「し」の１５０：授業参観（じゅぎょうさんかん）

  ​【粗筋】　女房に起こされた亭主、「たまの日曜くらい寝かしてくれよ」​「何言ってるの、義男の参観日だって言ったでしょう」「参観日って、いつもお前が行ってるじゃないか」「だから、いつも母親ばかりだから、父親に来てもらおうっていうんで日曜にやるんです」「日曜って、学校休みだろう」「だから明日が代休になるんです」「ああ、明日会社を休んでいいのか」「義男がです。会社は休みじゃありません」「じゃあ、学校で、授業参観に行ったという証明を……」「出るわけないでしょう」　寝坊をしたから朝食も抜き、女房に文句を言われながら、自分もぶつぶつ文句を言いながら出掛けて行く。新婚時代は可愛かったが、随分変わった……何やかやと独り言を言いつつ、結局は女房に感謝……気が付くと学校を通り過ぎている。「いけねえ、いけねえ……おはようございます……はい、上履き持ってきています。ちゃんと女房が用意してくれて……これ、トレイのスリッパ、しかも赤と青と一個ずつだよ……すいません、教室はどこでしょう」「何年生ですか」「何年だったかなあ……去年は４年でした」「じゃあ５年ですね。何組ですか」「何組だったかなあ……」「凹田（へこた）さんじゃありませんか」「はいそうです。よくお分かりになりましたね」「困った時に頭をかくのが、義男君と全く同じですから」　教室前で清水さんに声を掛けられる。「お嬢さんは成績いいからうらやましいですねえ……うちは駄目で……ああ、前から二番目のしめ縄つけているのがお嬢さんですか」「リボンというんです」「女の子はいいですね。目印が出来て……男の子はみんな同じにしか見えないね……何だ、義男、一番後ろ、目の前にいるよ」　「起立、礼、着席」で椅子がないのに座ろうとしてこけてしまう。一時間目は社会。佐渡島について調べて来る宿題、発表したい人って、みんなが手を挙げるが、義男だけ挙げない。清水さんが指名され、簡単な地理を説明する。　「他にある人」みんなが手を挙げるのが、また手を上げないので、後ろから、「お前みんなが手を挙げているんだから、こういう時は付き合いで挙げるもんだ」　と上げさせる。「はい」「はい、凹田さん」　遅れて挙げるから目立ったのだ。何も調べていないから、後ろから教える。「佐渡へ佐渡へと草木もなびく」「佐渡へ佐渡へと草木もなびく」「佐渡はいよいかすみよいか」「佐渡はいよいかすみよいか」「凹田さん、いよいかすみよいかって、どういう意味です」「佐渡は塩からが特産で、いよ烏賊とすみよ烏賊が原料で、こいつをつまみにキューッと一杯」「お父さん、変なこと教えないで下さい」　授業参観でございます。​【成立】　桂米丸が演った。父親には実感する部分も。​

  2023.05.25

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• 落語「し」の１４９：宗論（しゅうろん）

  ​【粗筋】　父親が真宗に凝り固まり、息子はキリスト教信者。意見をしても息子の方がキリスト教の良さを説くので、喧嘩になりかける。権助があわてて止めに入り、​「宗論はどちらが負けても釈迦の恥」「権助、そういうところを見ると、お前も真宗だね」「いえ、おらァ仙台だから、奥州でがす」​【成立】　もともと仏教同士の争いを益田太郎冠者が改作したもの。一方がキリスト教では「釈迦の恥」にならないのだが、そのまま残っている。​　息子がキリスト教の教えに従って、あまりにさわやかな（うさんくさい）笑顔で応対するのが面白い。神父さんにかぶれて片言の日本語で話すのは聞きづらい人が多い。　最近聞いた落ちは、「番頭さん、お前さんも真宗と言ったから雇ったんだ。どうして息子を止めずに私を止めるんだい」「実は私も代々隠れキリシタンでした」　演者が色々工夫しているようだから、他の落ちも出て来るかも。​【蘊蓄】　真宗は浄土真宗。戦国時代には一向宗として、命を落としても救われると言われた人々が命も惜しまないので大名らは手こずった。その総本山が石山本願寺で、織田信長が大砲を積む巨大な鉄製の軍艦を作って攻撃した。跡地は大坂城になり、豊臣秀吉が京都に本願寺を作って保護した。１５７０年の一向一揆で苦労した徳川家康は、この本願寺が大きな抵抗勢力になるのを恐れ、跡目争いを利用して、東本願寺を作らせた。これで本願寺の勢力が分裂して、愁いが無くなったのである、​　キリスト教徒が、一向一揆を手本に、大名らを洗脳して、日本を占領する時には役立たせようと、同じ教えを利用した。この歴史を逆にして、親鸞聖人がキリスト教を学んだのだとする説が、今でもネットでは残っている。事実は逆で、その証拠に、戦国のキリスト教は、自己犠牲の精神は己が救われるためだとし、大切な他への犠牲や愛を捨ててしまっている。

  2023.05.24

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• 落語「し」の１４８：十文字（じゅうもんじ）

  ​【粗筋】　息子が腹に十の字を書いて母親のもとへ。​「二百両の金がなければ死ぬしかありません。立派に腹を切って死のうと思います」「まあ、お待ち。百両しかないが、これで何とかしておくれ」「でも、半分の百両ではどうにもなりません」「ともかく縦の線だけでも消しておくれ」​【成立】　安永２（１７７３）年『坐笑産』の「十文字」。道楽息子の噺の枕に。年末に武士が酒屋へ来て、支払いが出来ないので切腹をすると騒ぎ、一本だけ消して、もう一本は米屋の分だというのに似ている。「掛け取り」その５で紹介。これもそちらへ並べた方がよかったかなあ……​

  2023.05.23

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• 落語「し」の１４７：十八檀林（じゅうはちだんりん）

  ​【粗筋】　浄土宗では十八檀林といって、十八のお寺を順に修行して行く。上州館林の善導寺を抜けると、上州新田の大光院に出る。大光院を抜けると、下総生実の大巌寺に出る。大巌寺を抜けると……（次々に寺の名を並べ）……芝の増上寺へ出る。芝の増上寺を抜けると、赤羽へ出る。​​【成立】　寺の名を並べたてて、最後に地名になってしまうだけ。十八壇林は、時代などで多少の異動はあるが、東京では、１：下谷幡随院、２：鴻巣勝願寺、３：川越運馨寺、４：岩槻浄国寺、５：下総小金の東漸寺、６：生実の大巌寺、７：滝山大善寺、８：常陸江戸崎の大念寺、９：上州館林の善導寺、１０：本所霊山寺、１１：結城弘経寺、ここを卒業して紫衣１枚、更に、１２：下総飯沼の弘経寺、これは隠居寺といい、ここで大概体力が尽きて命を終わる。そこを突破すると１３：深川霊巌寺、１４：上州新田の大光院、１５：常陸瓜連の常福寺、ここで紫衣２枚。１６：小石川伝通院、１７：鎌倉光明寺、ついに緋の衣。そして１８：芝増上寺で上がり、緋の衣２枚でめでたく大僧正となる。そのまま「鈴振り」の枕になる。古今亭志ん生（５）の独断場だった。その後聞いた人が演ったのは、「東京タワーへ抜ける」。​

  2023.05.22

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• 落語「し」の１４６：十八禁（じゅうはちきん）

  ​【粗筋】　女の子が、「この本返すわ。何だか分からないけれど、ママから、こんな嫌らしい本を読んじゃいけないって、叱られたの」​「それは誤解だよ。これは嫌らしいものじゃない、芸術なんだ」「そうなの……私、最初から最後まで読んでみたけれど、かなりすごい描写よ」​【成立】　フランスの笑い話集にあったが、噺家さんがそれを詠んだかどうかは不明。うぶな私には理解できないので解説も出来ない。​

  2023.05.21

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• 落語「し」の１４５：十二支役者（じゅうにしやくしゃ）

  ​【粗筋】　下っ端役者がこれまで演じたのが、『忠臣蔵』５段目の猪、『菅原』の配所の牛、『熊谷』の乗る馬……隠居がひやかして、​「あとは『先代萩』の鼠の役でもつけば、いよいよ十二支役者だな」「今度は人間の役で、口を効きます」「どこに出るんだ」「『忠臣蔵』４段目の返し、門外に出ます」「なるほど、諸士になって、大勢でドヤドヤと花道から掛け出してくるのか。大星力弥とのやり取りで台詞は沢山あるな。何と言うんだい」「ほとんどの台詞は兄弟子がやりますが、私の台詞は大星が『返せ戻せ』と言った時に、『でーもう』と言います」​【成立】　明治３２（１８９９）年３月の『落語研究』第２６号に載っている。​　四段目の返しというのは、メインとなる「判官切腹」が終わると、家臣らが今後どうするかを話し合う「評定の場」があり、その後「城明け渡しの段」で、明け渡しを阻止しようとする力弥らが集結した場面。ここで大星由良之助が血気はやった一同を止める。「返せ返せ」と言うのに「でも」と抵抗を示すが。大星が「主君の御憤り晴らさんと思う所存はないか」という台詞で一同引き下がる。この「でも」と言う台詞を任されたということ。この若侍らがみんなで言う台詞、その中の一人だというだけのこと。まあ、人間の役だから、動物役よりは出世したのかな。

  2023.05.20

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• 落語「し」の１４５：姑の臨終（しゅうとのりんじゅう）

  ​【粗筋】　嫁いびりが評判だった姑、いよいよ臨終を迎える。すると、嫁がはらはらと涙を流している。​「普段は仲が悪いと聞いていたのに、そこまで思っていたのですね」　と言うと、「そのことでございます。このまま亡くなると思うとうれしくてたまりませんが、万一生き返ったらと思うと、その辛さで涙が止まりません」​【成立】　『醒酔笑』の寛永５（１６２８）年稿。何かのネタに入れている噺家さんがいたんだが……何だったかなあ。​

  2023.05.19

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• 落語「し」の１４４：姑の屁（しゅうとのへ）

  ​【粗筋】　姑と嫁が客の前で挨拶をしていると、プウという音……​「まあ、お客様の前で、お前ははしたない。わきまえの無い嫁で申し訳ありません」　と言うと、客は、「いえいえ、放屁は健康の印で、長命の人ほどよけいにすると申しますから」「あら、そうですか……それじゃァ今のおならは私んですよ」​【成立】　安永２（１７７３）年『千里の翅』の「姑ばば」。今も時々マクラで聞く。​

  2023.05.18

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• 落語「し」の１４３：十代の抵抗（じゅうだいのていこう）

  【粗筋】　小学６年生の子供達が集まって会議を開く。健ちゃんの抱えている問題は、親戚のおばさんが来ると小遣いを千円くれる。しかし、母親が預かってお礼だけ言わされ、後で「いっぺんに渡すと使っちゃうから」と言って半分しかくれない。ピンハネしているのだ。​　市ちゃんは親の夫婦喧嘩の実態を報告、茂坊は逆に夫婦仲良くし過ぎて困っている。「『ねえ、あなた』くらいなら我慢できるが、食事の時に『はい、あーん』なんてやるんだ。『子供の前でよせよ』って言ってくれりゃあいいが、父ちゃん嬉しそうな顔をして『ああーん』、みっともなくて、みてられねえよ」​【成立】　桂枝太郎（２）が演った。昭和４４年の速記がある。​　健ちゃんの問題だが、子供に、これが貯金箱よって教えて、お小遣いをもらうとそこに入れるように仕付け、集金が来るとそこからお金を出してばれちゃったって家を知っているよ。　市ちゃんの方だが、落語になるような面白い喧嘩なら近所の人に知らせよう。見学料で小遣い稼ぎをしていることもを知っているよ。

  2023.05.17

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• 落語「し」の１４２：就職奇譚（しゅうしょくきたん）

  ​【粗筋】　仕事もせずに親の遺産で生活している男、飲み屋で出会った山田珍太郎という男から、定職につかずにいるのはマイナスでしかないと言われる。子供の就職、結婚の時も親の仕事は問題になるというのだ。一念発起、就職しようと決心するが、普通なら定年退職する年齢、仕事先があるとは思えない。すると、山田さん、会社の社長や政治家も知り合いがいて、仕事を紹介すると言う。山田さんに連れられて大きなビルに入る。ドアの近くで待たせ、自分だけがドアの近くに行くと、恰幅のいい男に声を掛け、ドアを開けて二人で入って行った。通り掛かった社員に聞くと、あの恰幅のいい人がこのビルの社長だと言う。その日はそれだけで、後で連絡すると言われて待つが、それきり連絡がない。かみさんにどうしたのと言われるが、分からない。​「だまされたんじゃないの」「いや、そんなことはない。１００万円だって渡していない」「何、１００万円て」「就職をお願いして相手の会社に出す謝礼だ。正式に採用になった時に会社に出すんだ」「そんなのあるの」「就職活動では常識らしいぞ」「あなた、新聞見て、ほら、山田珍太郎、詐欺で捕まるって」「珍太郎なんて、どこにでもあるありふれた名前だ。同姓同名だろう」「山田は、社長や政治家と知り合いだと言って、愚昧なる暇人をだまし……」「何だ、この書き方は。あの会社に行ってみよう、お前も来なさい」　嫌がるかみさんと一緒に行くと、「この社長室で話して出て来たんだ」「あなた、ドアの上の字をごらんなさい」「え、どれどれ……あっ、洗面所って書いてある……」​【成立】　玉川一郎の作品を、柳家金三（２）が演じた。定年退職の年齢のおっさんが、子供の就職や結婚の心配をしているのだが……今結婚や出産が高齢化しているからいいのかな。​

  2023.05.16

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• 落語「し」の１４１：十七蔵（じゅうしちぐら）

  ​【粗筋】　「寺田さんのところでは蔵付きの家を建てたのに、お前さんはだらしがない。ちゃんと仕事を探しておいで」と、女房に家を追い出された大工、友達から、「蔵ぐらい何だい。お前の家にだって『枕』という『くら』が二つもあるじゃねえか」と励まされた。​　別の友達に会ってその話をすると、「お前の家は五人家族だから蔵が五つじゃねえか。枕が五つだ」　更に、「そんな蔵ならまだある。胸ぐらが五つで、合わせて十だ」　他の友達にこれを言うと、「俺の家は五人家族だが十七あるぞ。枕に胸ぐら、それに股ぐらで合計十五だ」「あとの二つは」「嬶のいらくらに、俺ののらくら」​【成立】　貞享４（１６８７）『正直咄大鑑』の「御家の八蔵」。​  「いらくら」は急ぐ時むやみに急ぐ性分。「のらくら」は捨てておく時はいつまでも捨てておく性分。「いらくら」が分からないので、「俺のあぐらに嬶ののらくら」で演じられる……というが聞いたことはない。いずれ「のらくら」も分からなくなるかも。若い子が「知ってるわよぉ～、マンガの犬でしょう」って言ってたし……​【蘊蓄】　最近はみんな理解してきたが、難しい日本語にされていたのが「おざなり」と「なおざり」。さあ、「のらくら」ってどっちでしょう……どちらも「いい加減にやること」だが、「おざなり」は「御座形」で当座の間に合わせといういい加減さで、一応手は付けているのに対し、「なおざり」は「等閑」と書いて、「何も対応しないこと」という意味。ということで、「のらくら」は「なおざり」ということになる。​　白楽天の「琵琶行」には「秋月春風等閑に度る」とある。「秋の名月、春の風と浮かれているうちに」ということで、生活に目を向けずにいい加減に暮らしているさま。白楽天は日本でも大変な人気で、生存中に宮中でも読まれ、『源氏物語』にも大きな影響を与えている。『源氏物語』には「なほざり」がやたら出て来るが、いずれも女性との関係について言っているもの。光源氏が、関係を持つまでは熱心で、その後はいい加減というのがよく分かる。　一方「おざなり」は平安期には用例が見付からず、江戸時代も後期になって使われるようになったらしい。　　お座なりに芸子調子を合はせてる　『柳多留』５８

  2023.05.15

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  落語「し」の１４０：秋色桜（しゅうしきざくら）

  【粗筋】　７歳で宝井其角の目に留まり、俳諧の弟子になった秋、秋色という号を使う。１３歳の時、上野の花見で、酔っ払いを見て、​　　足元の桜危なし酒の酔（え）い　という句を詠み、札を木に下げて行く。これが輪王寺の宮様の目に留まり、お屋敷に呼ばれたのをきっかけに武家や貴族のお屋敷に呼ばれるようになる。菓子職人だった親父が、滅多にないことだから、そういうお屋敷に行ってみたいと言い出し、お供の格好で付いて行く。娘は駕籠に乗り、父親は付き添いで歩かされると。愚痴を言うのを聞いた秋、帰り道で雨が降り始めると、駕籠屋に腹が痛いので薬を飼って来てくれと言って離れた隙に、父を駕籠に乗せて自分が歩く。家に帰ると親父が下りて来るので駕籠屋がびっくり。秋は口止めをするが、たちまち孝行娘の噂が広まってしまう。​【成立】　講釈でお馴染みのネタ。春風亭鹿の子が落語に仕立てて演じた。​　日本橋小網町一丁目の菓子家の娘で、秋色女、菊后亭秋色という号を使った。元禄３年に其角が編纂した『いつを昔』に句が入っている。現在は三田にある秋色庵大坂屋が彼女の本家で、句から井桁のデザインを使い、秋色最中が販売されている。　栄松斎長喜の絵は雨ではなく雪にしている。​【蘊蓄】　上野清水観音堂の脇にあるのが秋色桜。現在のは１９７８年に植え接がれた若木なので、まだ小さい。９代目だと言われている。写真の真ん中の小さい枝垂桜がそれ。​

  2023.05.14

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  落語「し」の１３９：十三間の灯籠（じゅうさんげんのとうろう）

  ​【粗筋】　見物小屋で「十三間の灯籠」と呼び込んでいる。そんな大きな物なら見たいと銭を払って入ってみると、ただ道を歩くだけで出口。​「どうなってるんだ。灯籠なんかありゃァしねえじゃねえか」「今の道は十三間ある。十三間の通ろう、通ろう」​【成立】　出店や祭の噺の枕に。１３間は３９．３９３９……メートル。上野東照宮にある「お化け灯籠」は高さ６．０６メートルだからちょうど二間（写真）。日本三大灯籠というのが、全て佐久間勝之が奉納した物で、京都・南禅寺と名古屋・熱田神宮の、いずれも「佐久間灯籠」と呼ばれる。南禅寺は上野より６センチ低い。熱田神宮のは７．４５メートル。南禅寺は、大坂の陣の使者を弔う目的で作られたもので、同じ目的で藤堂高虎が寄進した三門が有名。熱田のは、海難にあった時に熱田の神に祈って救われたお礼だそうだ。上野は、自邸内に東照宮を創建し、自ら灯籠を建てた。諸大名から贈られた４８基の銅灯籠が国の重要文化財になっている。​

  2023.05.13

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• 落語「し」の１３８：洒落夫婦（しゃれふうふ）

  ​【粗筋】　日曜日なのに出掛けようとする夫、近所に住む係長に呼ばれたと言う。​「まあ、あなた、とうとうクビになるのね」「いい話があると言われたんだ。いい方の靴はどこだい」「あれは穴が開いたから靴屋に修理に出してるわ」「じゃあ、代わりのを出してくれ」「行ってらっしゃい」「ただいま」「あら、早かったわめ。やっぱりクビだったの」「そうじゃない、今度工場の方で人事異動があって、工場長になる気はないかと言われた「まあ、あなたがチョウに……チョウ……♪チョウチョ、チョウチョ」「しかし……」　いつも真面目だから声が掛かったのだが、笑顔を見せたことがない。工場長になったら、笑顔を見せるようにして、洒落の一つも言えるようにしてくれと言われたのだ。「洒落なんか言えるかな」「練習すればいいじゃない。はい、帽子……ぼうしぼし亀よ、亀さんよ」「お前がやってもしょうがないよ」「ボウシ訳ありません」「うまいね」　亭主の方もやってみることにして、繰り返すうちに段々慣れて来た。「飯にしよう。お皿とお椀があって、僕はサラリーワンだ。おかずが菜っ葉とシャケだけではナシャケない」「うまくなったわね」「よし、試しにお隣行って旦那を笑わせてみよう」「お隣は駄目よ、船長さんだから」「どうして駄目なんだい」「船にナンセンス（難船す）は禁物じゃない」​【成立】　昔々亭桃太郎（１）の創作落語。昭和２４年の作品。​​【一言】　しゃれの通じないお客さんが多いときもありましたネ。落語家なんていうのは、なんて下らねエことをいうものかと、ふしぎな顔で高座を見てるのがありました。こういうときに、しゃれ夫婦をよくやった物です。笑いの道を教えるしゃれの初歩教室用ですな。（昔々亭桃太郎（１））​

  2023.05.12

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  落語「し」の１３７：洒落小町（しゃれこまち）

  ​【粗筋】　がちゃ松とあだ名のついたやかましいかみさん、亭主の穴っぱいり、すなわち浮気にたまりかね、隠居に相談に来た。隠居は業平の奥方井筒姫が、​　　風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ　と詠んだ故事をひいて、何か家にいたくなるようなことをするよう勧める。お松っつあん、洒落が得意なので、さっそく亭主が帰ると駄洒落を連発。そのすさまじさに亭主は逃げ出してしまった。お松っつあん、足止めの歌を用いる。「何ってったっけ……そうだ、恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」　結局逃げられたお松っつあん、再び隠居を訪ねて経緯を話すと、「お前さん、そりゃ歌が違う。お前のやったのは狐の歌だ」「ああ、それでまた穴っぱいりに出掛けたんだ」​【成立】　桂文治（１）作の上方落語「口合小町」を東京に移植したもの。三遊亭圓生（６）が得意としていたが、正直あまり面白いと思わなかったのは、洒落のリズムが悪かったから。業平の逸話も理屈っぽくなり、狐も最近の人には分からないかも……面倒だから聞く機会も減って行く危惧も感じる。​​【一言】　猛妻の猛妻たるゆえんを、徹底的に誇張して描いた落語の女房像は、まことにみごとである。聞き手は、いくらなんでもこんな女はいるもんか、この女にくらべりゃうちのヤツはまだましだ、などと無意識のうちに思いめぐらして、莞爾として優越の笑いをうかべる仕組みになっている。果して然りか……。もう一度、おたがいわが女房をよくよく観察してごらん。その言動挙措の、ほら、そこも、ここも、お松っつあんそっくりじゃないか。昼さがりの団地のブランコや砂場のあたりに立って注意していてごらんなさい。いくらでもお松っつあんがいるはずである。だから、『洒落小町』の笑いは優越の笑いにあらずして、すなわち共感の笑いなのである。（江國滋）​​●　この種のものは『掛け取り』の角力づくし同様に新しいものを入れないと受けません。（桂米朝）​​【蘊蓄】　「口合」は地口、言葉の洒落をさす上方語で、「クッチャイ」と発音する。​　業平の歌。『伊勢物語』にある、有名な「筒井筒」の物語。　井戸端で遊んでいた幼馴染みが、年頃になると恥ずかしがって逢わなくなるが、　　筒井筒井筒にかけしまろが丈過ぎにけらしな妹（いも）見ざる間に　（井戸で背比べをした頃よりずっと大きくなりましたよ。あなたを見ないうちに）　　比べ来（こ）し振り分け髪も片付ぎぬ君ならずして誰か上ぐべき　（あなたと比べたおかっぱ頭も肩を越える長さになりました（大人になりました）。　　あなた以外の誰が髪上げをしてくれるでしょうか）　と歌を詠み合って結ばれる。しかし、女の両親が亡くなり、後ろ盾が亡くなると、夫は河内に女を作って出掛けるようになる……この辺り、この男は何だって腹の立つところだが、当時は完全な年功序列制度で、若い者には経済力がなかった。妻の後ろ盾が亡くなったので、河内に女を作って、その支援で夫婦が生活するのである。　妻が黙って送り出すので、妻の方も男を作っているのではないかと疑う。出掛ける振りをして様子を伺うと、妻は化粧して縁に出て来る……読んでる方は、やっぱりと男が、と疑うシーン……ところが、彼女はそこで「風吹けば」の歌を詠む。河内へ行った夫を思う歌なのである。これで夫は河内へ行かなくなった……というところまで、よく教科書に載っている。業平だとはいっていないが、『伊勢物語』だから業平の逸話になってしまったのだ。　この後、河内の女を放っておくわけにも行かず、出掛けて行くが、相手の女が喜んで、自分で飯盛りをした。これは当時高貴な女性は給仕などしない。これで育ちが分かって、男は二度とこの女の所へ行かなくなったという話が付いている。　「恋しくば」の歌は吉野狐。狐の女房の有名な話で、人間の姿で子供も産むが、正体が現れて去って行く。内海桂子の芸は記憶に残っている。恋しくばの歌を最初は普通に、次は下から上に、狐になって口に筆をくわえて、裏へ回って向こうから……これがこちらか見て見事に書き上げると、この障子を破ってこちらへ飛び出し、狐になってしまう。動きまで踊りのようで、最近の書道ガールの祖先のようだった。　尚、残された子供は安倍晴明になる。

  2023.05.11

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• 落語「し」の１３６：洒落言葉（しゃれことば）：その２「紅葉」

  ​【粗筋】　客が来ると、主人が、「茶をもみじに入れて参れ」と命じる。​「もみじとは何でございます」「こうよう（濃う良う＝紅葉）入れろということです」　これは面白いと、さっそく真似をすることにした。客が来ると、「茶をこうように入れて参れ」と命じる。「こうようとは何でございます」「もみじに入れろということです」​【成立】　最初のがなかなか乙な洒落で、物真似失敗というのが落語らしいと思うが、学生時代に聞いたきり。「青菜」との類似を感じるが、季節が違うからマクラに合わないしなあ……​

  2023.05.10

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• 落語「し」の１３５：洒落言葉（しゃれことば）：その１「丸い水」

  ​【粗筋】　「水おのぞみ次第」という看板、客が、「丸い水を所望」というと、きれいな茶碗に水を汲んで来た。​「これが丸い水か」「はい。澄み（隅）切っております」​【成立】　１７７５（安永４）年『花笑顔』の「水御望次第」。同年の『いちのもり』の「三角」は、「三角の水」を注文されて、同じく「すみ切った水」を持って来る。​　いい洒落だと思うが、幾つも並ばないとネタにならないのだろう。

  2023.05.09

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  落語「し」の１３４：しゃらりぶらり

  ​【粗筋】　大阪は天王寺の五重塔の屋根に何かぶら下がっている。風鐸（ふうたく）を知らぬ二人が、​「あれはぶらりとして、しゃらっとしているから、ブラリシャラリだろう」「いや、しゃらっとしたものがぶら下がっているから、シャラリブラリだ」　と言い争いになったが、一人が便所へ行くふりをして茶店に入り、親父に２００文やって「今友達を連れてくるから、シャラリブラリだと言うてくれ」　と頼む。もう一人の友達も同じように親父に２００文をやってブラリシャラリだと言ってくれるよう頼んだ。　さて、二人が連れ立って店に入り、「おやじ、あれはシャラリブラリやな」「はい」「おやじ、ブラリシャラリやろ」「はい」「いったい、どっちや」「こっちに二百、こっちに二百、両方で四百ぶらりです」​【成立】　上方噺。笑福亭福松（文の家かしく）から桂小南（２）に伝わる。写真は京都・興福寺の風鐸。​

  2023.05.08

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• 落語「し」の１３３：三味線鳥（しゃみせんどり）

  ​【粗筋】　三味線の真似がうまいオウムを、家老の口利きで殿様が三百両という値で買い上げたが、七日の間一向に鳴こうとせず、とうとう家老にお下げ渡しになった。家老が、​「その方が鳴かぬため、余は申し訳に腹を切らねばならん。戦場で死ぬならまだしも、たかが小鳥一羽のため……こりゃこれ（次第に芝居掛かり）、みんな其方がため。言おうようなき、おのれはなァ……ァ」　と言うと、鳥が「♪ち、ち、ちん、ちん、ちり、りり、りン」​【成立】　安永２（１７７３）年『飛談語』の「名鳥」。名人といわれた三遊亭圓喬の演じたもの。殿様の前で鳴かず、用人の愁嘆場に伴奏を入れるという落ちは見事、なぜほとんど演じられないのだろうね。文化４（１８０７）年喜久亭寿暁のネタ帳『滑稽集』に「三味せん鳥」とある。三遊亭圓生（６）は圓生百席の「鶉衣」で、枕として５分半で演じている。​​【一言】　こんな噺、と馬鹿にする人もありましょう。読んだ感じでは、すぐにできるように思いますが、こういう噺が一人前にできれば、たいしたものです。（三遊亭圓生（６））​​【蘊蓄】　三味線＝三本の味のある線で演奏するのでこの名がある。​

  2023.05.07

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• 落語「し」の１３２：三味線栗毛（しゃみせんくりげ）

  ​【粗筋】　父親に遠ざけられた酒井雅楽頭（うたのかみ）の末子・角三郎、肩が凝ったので呼んだ錦木という按摩、療治もうまいが話も上手でお気に入りになった。錦木が角三郎の骨組みは大名になる骨組みだと言うので、もしそうなったら錦木を検校にしてやると約束をした。​　この錦木が病気で伏せている間に雅楽頭が急死、病身の兄に代わって角三郎が雅楽頭を継いだ。病の癒えた錦木は角三郎の出世を聞いて屋敷を訪ね、約束通り検校の位を受ける。　さて出世した錦木は折を見て雅楽頭を訪ねていたが、ある日行くと雅楽頭が栗毛の馬を手に入れ、三味線と名付けたという。「馬は駒である。乗らない時は引（弾）く。止めるときはどう（胴）どうだ」「しかし、名馬に三味線というのはいかがなものかと」「分からぬか。わし、雅楽頭、うた（歌）が乗るから三味線だ」「おそれいりました。で、我々が乗りましたら」「その方らが乗ると、バチが当たる」​【成立】　講釈ネタか。「錦木」とも。書物には最後の落ちしか出ていないのだが、その前に三味線尽くしがあったはずだと思っていた。２００４年１１月３日、古今亭菊之丞独演会の後、確認させていただいた。​​【一言】　按摩さんの名前といえば、杢の市とかテクの市とかをつねとするが、この人だけは小僧時分からその例外である。しかも貧弱な裏店住居のもみ療治だというのに、錦木とはまた恐ろしく立派な名をつけたものだが、この盲人、生まれながら大名の位にも出世すべき体相を持っていたとある。果して同じ体相仲間の酒井角三郎さんに愛せられ、この若殿が雅楽頭となるやその引き立てにより、一躍検校に昇進、「三味線栗毛」の御意見を申しあげる程の身分となる。（野村無名庵）​​●　大名の不遇な子息が幸運にも跡目を継ぐことになり、贔屓だった按摩も検校に出世するのですが、先代のは盲人のひがみを強調する演出なんです。そこをぼくはがらりと変えて、不運にもめげない殿様の息子のほうに重点を置いたんです。（三遊亭円歌：昔聞いたのがそのひがみを訴えるものだったようで、聞いていて暗い雰囲気になってしまったのが記憶に残っている。​　菊之丞の演出では、病気回復をした錦木が角三郎出世を聞いてお屋敷を訪ねる。「約束通り検校の位をもらいに来たか」「そのつもりでしたが、殿とお会いしたらどうでもよくなりました」「正直な奴……これ、千両を用意して京都へ使わせ」​【蘊蓄】　盲人が按摩、琴、三味線、琵琶などの商売をするには、総録から官位を受けなければならなかった。身分は下級から衆分、座頭、勾当、検校とあり、それぞれの中でもいくつかの階層があった。検校は、金千両を総録から公家の久我家を経て朝廷に収めれば、誰でも取得できたが、この金はほとんどが、総録・京の総検校、久我家の所得となった。​

  2023.05.06

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• 落語「し」の番外：シャボン玉（しゃぼんだま）

  ​【成立】​　古今亭寿輔が演った。「♪シャボン玉とんだ」と歌っては次へ行くという小噺集。「一分線香」などと同じだが、寿輔らしい雰囲気が生まれている。それ以上説明できないので、実際に寄席で聞いてね。​【蘊蓄】　シャボン玉は野口雨情作詞、中山晋平作曲。雨情の幼い子供が亡くなった時、シャボン玉が好きだったと、「生まれてすぐに壊れて消えた」の歌詞が浮かんできたという。寿輔の高座を聞くと、この逸話が浮かんできて、何となくしんみりしてしまう。​

  2023.05.05

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• 落語「し」の１３１：社長夫人面接（しゃちょうふじんめんせつ）

  ​【粗筋】　電話受付係の面接があると聞いた社長夫人、大変な焼き餅焼きで面接に同席すると言い出した。「あなたは若い女性なら何でもいいんですから」「そんなことは……少なくとも今回は社長としてその点ははっきりと……」「その点も海老天もありません。私が審査に参ります」「はい、お供します」​　会社に行くと、人事部長の白崎が、「社長、お望みの女優そっくりの人、来てますよ」「シーッ……一人ずつ呼んでくれたまえ」　一人目は田舎出の女の子。「お名前は」「おたふくです」「え……ああ、小田福さん。学歴は」「ツーガクを出ますた」「中学ね……一般常識は大丈夫かな。電話の取次ぎをするが、電話を発明したのは誰か知っていますか」「ああ、クイズかね。ええと、カーク・ダグラス」「違いますよ、ベルです」「ああ、そうだ、ジングルベルだ」「グラハム・ベルだ……まあ、ここはただベルでいい」「ああ、そうだった、タダベルさんだあね。分かっとるよ」「江戸幕府を開いた人は」「江戸川乱歩……違うかね、あんた、知っとるかね」「徳川家康だ」「そう、正解……じゃあ、次の問題出すぞ……」　これは電話応対に向かないようだ。次の女性は。「彼氏と遊びに行ってもうるさい親で、真面目に働けって言うの。だから形だけも働いている振りしようと思って……電話係でしょう。うちはいまだに呼び出し電話なのよ。電話係なら、彼氏にかけ放題でしょう……え、駄目……じゃあ、ここは不合格」　最後がお目当ての女優そっくりさん。「趣味は何ですか」「スポーツです。野球、サッカー、ラグビー、やり投げ、幅跳び、海外への高飛び、義経の八艘跳びも出来ます」「外国語はどうでしょう」「英語、フランス語、ドイツ語、中国語、将棋に囲碁、バナナにリンゴ、落語も大丈夫です」「すばらしい……しかし、電話係ではもったいないな」　それ以上に奥さんの意向が大事だから、「おい、どうだろう、秘書に採用というのは」「秘書ですか……あなたがいいというなら、それでいいでしょう」　と採用が決まる。「ああいう秘書がいれば、わしも仕事に身が入るな」「でも、婚約者がいるから言い寄っても断られますよ」「え……どうしてそんなことが分かる」「私の妹の息子の許嫁ですから」「えっ、そうなのか」「あなたは仕事でよく脱線するから、見張っておくようにお願いしたんです」　慌てて、人事部長の白崎に、「やられたよ。あれはスパイ、間諜だ。そうとは知らずくだらないことをしてしまった」「ああ、くだらないからカンチョウを寄越したんですね……それなら秘書をクビにすればいいじゃないですか」「そんなことが出来るか。そんなことをしたら、今度はわしが女房からクビにされる」​【成立】　昔々亭桃太郎（１）の作品。昭和２８年の作。​

  2023.05.04

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• 落語「し」の１３０：社長の別荘（しゃちょうのべっそう）

  ​【粗筋】　屋台のおでん屋、一度でいいからホテルのような立派な宿屋に泊まりたいと言ったら、常連客の社長さんが、それならうちの別荘を貸してあげようと言い出した。夫婦と中学生の息子でやって来て、もともと外国人が住んでいたという西洋風の建物に戸惑いながら、夜を迎えるが、そこへ外国人の幽霊が出て来た。親は全く言葉が分からないので、息子を起こして通訳させると、「アイアムゴースト、バックライス」「俺は幽霊だ、うらめしい、と言っている」​　英会話の本を出して来て、「ヒヤ、ヒヤ」と本を指差してようやく話が通じる。親善のために出て来たとお酒の瓶を出す。「こりゃあいいや。びっくりしどおしだ……おい、すぐ燗をしてくれ」「何言ってるの、ウィスキーを燗する人がいるもんか」「ああ、それでさっきからヒヤヒヤと言ってたんだ」​【成立】　名和青朗の作品を、春風亭柳昇が演じた。西洋風の建物が分からず、英語が分からない。風呂場でバスとトイレが分からず、バスと聞いて車が付いていないと言う……そういうちょっと古いネタが続く。因みに燗をするのかどうか知らないが、ホットウィスキーはある。​　桂米丸が、昭和４０年代に海外旅行をネタに、「飛行機で行くと聞いていたのに、バスに乗せやがって」と怒る。「飛行機までバスで行くんです」と説明されて、恥ずかしく「もう下りるんですか、もう少し乗っていてもいいです」ホテルに着くと「バスへどうぞ」と言われてまた移動かと思ったら風呂のことだった……というのを演っていた。

  2023.05.03

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• 落語「し」の１２９：社長の電話（しゃちょうのでんわ）

  ​【粗筋】　社長の物真似がうまい男、社長が一晩家に帰らないですむよう、会社で自宅からの電話を受けるアリバイ工作を頼まれた。１万円の小遣いと聞いてやる気になったが、社長の奥さんが何度も電話を掛けて来る。結婚後初めて家を空けた社長、心苦しく思ったのか早く家に帰って来るが、奥さんはちょうど偽物とお話し中。​「まあ、あなたどこにいらっしゃるの」「どこにって、今お前と話をしているじゃないか」「でも、今家にお着きになりました」「えっ……それじゃあ、そちらのわしに伝言をしてくれ」「何といえばいいんですか」「１万円じゃ安い、２万円もらいたい」​【成立】　鈴木みちを作。三遊亭円歌が演じた。昭和２０年代半ばには演っていたようだ。その時の小遣いは３千円。その後、三笑亭笑三が演じたのを元に構成した。​

  2023.05.02

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• 落語「し」の１２８：車中の毒針（しゃちゅうのどくばり）

  ​​【粗筋】　深夜の乗合馬車、眠っていると見えた若い婦人は死んでいた。乗り合わせた画家・加納元吉は、車中で真鍮の針を拾う。友人の伊東次郎吉は、針に毒が仕込まれていると見抜き、探偵気取りで調査を始める。殺されたお勝は私生児であるが、資産家の遺言があって莫大な遺産が入るはずだったことが分かる。更に驚くべきことが分かった。加納の絵のモデルをしているお延がお勝の妹で、お勝がいなくなれば彼女が財産を相続することになるのだ。加納らが彼女のもとへ駆け付けると、一足違いで、お延は何者かに連れ去られていた。​【成立】　快楽亭ブラック（１）の創作落語。本格推理小説。​

  2023.05.01

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• 落語「し」の１２７：ジャズ息子（じゃずむすこ）

  ​【粗筋】　ジャズ三昧の息子に義太夫好きの父親が意見するが、考え方の違いで全くかみ合わない。息子を２階へ追いやって、父親は気分転換に義太夫の稽古を始めた。​　息子の方はその隙に友達を窓から上げて、ジャズ演奏を始める。次第に義太夫がジャズに引っ張られるので、親父の方も気が付いて２階に上がってくる。「いったい何だこの騒ぎは」「これはジャム・セッションだよ」「何、ジャム……ああ、それで親を甘くなめたんだ」​【成立】　「浄瑠璃息子」を改作したもの。義太夫とジャズの両方を表現しなければならない音曲噺（？）。川柳川柳が演じる。もちろん本人の改作。​　最近の噺家はテンポの良い語り口がない。高座で考え考え話されるともう心はどこかへ行ってしまう。真打でさえそうで、噺に入ると口馴れたものを感じるが、ほとんどの演者は枕がたどたどしい。最近のように、楽屋話や小噺だけで一席を演じる場合などは聞くに堪えないことが多い。たまたま川柳師匠の前後にそんな人がいて、ふと感じたことをメモしていた。​【蘊蓄】　ジャズの流行は昭和の初期。国産では西條八十作詞、中山晋平作曲で佐藤千夜子の「東京行進曲」が歌謡曲大ヒットの第１号となった。「君恋し」もジャズで、千夜子が歌ってヒットしている。「君恋し」は戦後ブルースにリズムを変え、水原弘の歌で再ヒット、第１回レコード大賞を受賞した。受賞の知らせを聞いた水原弘の言葉。​「レコード大賞？……何だいそりゃァ」　戦時中はジャズは禁止されたことになっているが、現実には黙認であったという。

  2023.04.30

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• 落語「し」の１２６：ジャズ長屋（じゃずながや）

  ​【粗筋】　家に帰ると女房から苦情が出る。近所がうるさくてしょうがないと言うのだ。承知で越して来たんだからとなだめていると、始まった始まった……この長屋では日常生活を歌でやるのだ。ジャズに乗せて家賃が払えないことを夫婦で話し合う声が聞こえる。豆腐屋が佐渡おけさで売り声を上げると、長屋の者が草津節で「ちょうだいちょうだい」と購入。隣の夫婦は無声映画の説明口調で食事をしている。讃美歌で南無阿弥陀仏と歌っている変な家がある。やって来た八百屋までが八木節で物を売り、格子を叩いて調子を取る。​「おい、そうどんどん叩くなよ」「仕方ないです、今やったのがヤケ節ですから」​【成立】　昔々亭桃太郎（１）の創作落語。音曲入りの録音が残っているが、歌などあまりうまいとは思えない。まあ、目新しさが受けたのだろう。ジャズがタイトルなのに、ジャズは最初だけだし……​

  2023.04.29

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• 落語「し」の１２５：Just Looking（じゃすと・るっきんぐ）

  ​【粗筋】　売れない洋装店、ブティックに代えようと甥が提案。前掛けや割烹着で売ってるのをお洒落な服で売るように代える。玄関はガラスの引き戸をドア、あるいは開けっ放しにする。フィッティング・ルーム、即ち試着室を作る。「布袋屋」という名前も、横文字に代える。「サロン・ド・ホテイ」では今一、店の主人の名前を付けるのがあるというので、半助とかつ子、「ハンスケ・アンド・カツコ」では漫才じゃないか……「ハッシー・アンド・キャッシー」。だんだん舶来品を置くようにして、「ニューヨーク直輸入」とかキャッチフレーズを出して、海外経験が多いというふりをして、「おこしやす」を「ハーイ」、「何さしてもらいましょ」を「メイ・アイ・ヘルプ・ユー」に代える。「海外生活がながいもので、つい英語が出ちゃう」とでもいえばいい。​　さっそく実践するが、日本人と滅茶苦茶な英語で応対、そこへ本当に外人がやって来た。「May I help you?」　と言うと、「Just Looking」　と答える。それでしつこく「May I helo you？」を連発して怒らせてしまう。旅行英語の本で調べると、「ジャスト」は「～だけ」、「Looking」は「見ること」、つまり「見てるだけ～」という冷やかしのことだと分かる。次の客は太ったおばはん。「サンキュー、あ、すみません、私海外生活が長いんで……」　と先手を取られる。「セーター見せてもらえるかしら。Ｍのちょっと大きめ」　というが、どう見ても１５号以上。一番大きいのを出すと、試着すると言う。「どうですか」　と声を掛けると、「そうねえ、小さいかと思ったら、案外大きいのでジャスト・フィットやわ」「あんた、ジャスト・フィットて何」「ジャストは何々だけやろ。フィットは何や」「ほら、試着室がフィッティング・ルームやないの。試しに着ることよ」「試しに着ているだけ……ああ、また冷やかしや」​【成立】　桂九雀が演った。この程度の英語なら、みんな知ってるのに……あ、だから笑えるのね。落語で英語のレベルが低すぎると思うことがあるが、やっと納得。​​【蘊蓄】　女性服の１５号って聞いたら、Ａ社では９号がＭ、１１号はちょっと大きめで、１３号からＬだって。Ｂ社に聞いたら１１号はＬで、１３号はＬＬ、１５号だと３Ｌになるそうだ。因みに偶数はないらしい。このお店の一番大きいのは２１号で６​Lに当たるそうだが、実は１０Lまでできますって……どのくらいって聞いたら、バスト１６０、ウエスト１５０、ヒップ１４５……段々小さくなるのね。

  2023.04.28

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• 落語「し」の１２４：写真屋盗人（しゃしんやぬすっと）

  ​【粗筋】　泥棒が入ろうとすると、中で声がする。​「海老蔵さん、歌右衛門さん、吉衛門さん……」「ずいぶん役者がいるな。だが、役者は腕っぷしは弱いから大丈夫だ」「高乃花さん、若乃花さん、小錦さん……」「おい、今度は相撲かい……でも関取は足が遅いから大丈夫だろう」「長島さん、王さん……」「野球の選手かい……いったい何の商売だろう」　とのぞいてみると、写真屋。​【成立】　古くは「絵草紙屋」、新しくは「ブロマイド屋」という題名が見える。いずれにしても題名を先に出すと落ちが見え見えである。​​【蘊蓄】　ブロマイドは写真用語で「プロマイド」が正しいが、芸能界で人気者の写真をのみ「ブロマイド」と称する。​

  2023.04.27

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• 落語「し」の１２３：写真の仇討（しゃしんのあだうち）

  ​【粗筋】　様子のおかしいのに気付いた伯父に問い詰められた信次郎、夫婦約束した新橋の芸者に情夫がいることを知り、相手を殺して自分も死のうと思うと告白。これを聞いた伯父は、中国の予譲が主人の仇である趙襄子の衣を剣で突くと血が流れたという故事を話し、女からもらった物を突くなり切るなりして恨みを晴らせと言う。​「何か女からもらった物はないか」「写真があります」「見せてみろ」「これ１枚しかないんで、大事に扱って下さい」「馬鹿を言うなよ。ちょうどいいや、これを突いて恨みを晴らせ」　といわれて、この写真をナイフで突き刺すと、畳の上へ血がたらたらと落ちた。「一念とは恐ろしいものだ。写真から血が流れたぞ」「なあに伯父さん、指を切った」​【成立】　明治の落語家をよみこんだ大津絵に「五明楼玉輔は写真の仇討」とある、五明楼玉輔（２）の人情噺「開明奇談写真廼仇討」は、アメリカ帰りの青年が父親の仇を討ちたいが、明治政府の仇討ち禁止令で果たせず、写真を刺して孝道を貫くという話。これをヒントに、起請文で演じられていた「一枚起請」を、三遊亭主圓左（１）が写真に改定したとされる。「指切り」「恨みの写真」「写真の指傷」とも。​​【一言】　　かねてからわたしは、玉輔（２）や圓左（１）の『写真の仇討』が本邦写真術の普及にかげの役割りをはたしているにちがいないと思っていた。技術や効用についての歴史を正面から考えるよりも、それが、たとえば落語というようなコミュニケーションのなかでくりかえされることによって、初めて信用する習性が、明治以来、いまでも日本人のなかにながれているからである。このわたしの説を聞いた写真の研究家が、さっそく、落語の『写真の仇討』を読んでくれた。そして気の毒そうな顔をして「あまり写真の歴史に関係なさそうです」といった。しかし、おとし噺としてはたいへんおもしろかったそうである。（永井啓夫）​●　私の若いころ、このはなしをやっていると、「写真を突くときは下へ置け。下へ置かなきゃ指まではこない」と教えてくれた先輩がありました。（林家彦六）​【蘊蓄】　予譲と趙襄子の話は『史記』の「刺客列伝」。ただし、着物を突いて恨みを晴らしたと言って自害するので、着物から血は出ない。その後血が流れたという話になったようで、中国でも血を詰めた袋を隠して突かせ、血が流れたと思わせるという話があるようだ。

  2023.04.26

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• 落語「し」の１２２：尺八（しゃくはち）

  ​【粗筋】　夜中、首尾よく盗人が家に入り込んだが、奥ではまだ夫婦が起きているいる様子。のぞいてみると、夫婦の営み……女房が亭主のを口に……尺八の真っ最中。亭主あわやということろまで来ると、「昼間約束したとおり、今度は私のを」と女房横になる。亭主、足の相手に頭を入れて始めると女房は喜んでいるが、亭主の方は用意していた蒟蒻であすこをいじっている。見ていた泥ちゃん、「大将、ずるいぞ、ずるいぞ」​​【成立】　女性が男性のモノをお口でってのを尺八というそうだ。じゃあ、逆は……うぶな私にはよく分からない。相手のモノを口にするのに、なぜか男は嫌がるらしい。じゃあ女は喜んでやるのか……愛しているのなら男の方がなぜ嫌がるのか……うぶな私には全く分からない。​

  2023.04.25

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  落語「し」の１２１：写経猿（しゃきょうざる）

  ​【粗筋】　越後乙宝寺の行門和尚が法華経を唱えていると、裏山から夫婦の猿が来て聞き、写経をしているとじっと見ている。そのうち木の皮を持って来るので、和尚が写経をしてやると、嬉しそうに山へ持ち帰った。二ヶ月の間に法華経４の巻まで与え、５の巻に掛かる頃に、ぷっつりと猿が姿を見せなくなった。心配した和尚が檀家の茂十じいさんを伴って山へ登ると、木皮の経を握りしっかりと抱き合って死んでいる夫婦猿を見つける。二匹の死骸を抱えて山を下り、供養の後、和尚はこの猿の木像を彫るが、「離れざる」と評判になった。​　それから４０年後、旅の夫婦連れがやって来て写経を始める。ある日小僧の珍念が茶を入れて行くと、写経をしているのは猿ではないか。驚いて和尚に報告すると、和尚は何か思うところがあるらしく、小僧に口止めをする。　さて、法華経４の巻が終わり、５の巻に掛かるところで、突然夫婦は手を止めて抱き合って泣き出した。和尚が尋ねると、自分は藤原子高朝臣といい、越後国司に任命されて来たが、実は40年前の夫婦猿の生まれ変わりであるという。40年前に妻が足を滑らせて大怪我をし、穴まで連れ帰ったがそのまま２匹とも死んでしまったので、生まれ代わって写経をしに来たのだだという。　和尚は、寺で夫婦の世話をしている珍念が茂十じいさんの孫で、縁のある自分と珍念にだけは夫婦の姿が猿に見えたのだと話す。このことで自分も改めて三宝のありがたさを改めて知ったと告げ、法華経５の巻の写経を続けるように言うが、明日は都へ帰らねばならないと言う。「それなら都でお続けなさい」　と送り出した。和尚と珍念が名残を惜しんでいると、コノハズクが、「ブッポウソウ（仏法僧）」と鳴いた。「珍念や、聞いたか。コノハズクが三宝を唱えて鳴いておる」「和尚様、向こうの梅の小枝で、鶯が……」「ホー、ホケキョー（法華経）」​【成立】　『古今著聞集』にある仏教説話。三遊亭円窓が落語化した。​　原作は猿が写経を頼み、お礼に果物などを持ってくるが、姿が見えなくなったので探すと、お礼の山芋を掘ろうとして穴に落ちて死んでいるのを見つける。40年度、この地の守（かみ）となった人がその猿の生まれ変わりだとして三千部の経文を書き上げる。​​【蘊蓄】​　乙宝寺は文学者の間では『奥の細道』の旅で松尾芭蕉が立ち寄ったとして知られる。地元では「乙（きのと）」と呼んでいた。その頃海へ出ると、佐渡島から天の川が生えているように見える。​　　荒海や佐渡に横たふ天の川　はこれから発想したものではないか。私の友人の説。　尚、円窓師匠から、乙宝寺の写経猿ストラップをいただいた。

  2023.04.24

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• 落語「し」の１２０：蛇含草（じゃがんそう）

  ​【粗筋】　暑い最中で、どこへ行くのも甚平はん一枚の男、隠居の家がきれいで、庭も手入れが行き届いているのに、軒に汚い草がぶら下がっているのに気付いた。「蛇含草」といって、うわばみが人などを呑み込んだ時にこの草をなめると腹の膨れが治るという。魔除けとして飾ってあるのだ。男は自分の家は愛想がないというので、これをもらって帰ることにしたが、隠居が餅を焼き始めると、勧めもしないのに手を出す。行儀が悪いと怒った隠居が「別に餅が惜しいというのやない、この餅全部食うてもええんや」と言うと、「では全部いただきましょう」と食い始めた。​　最初のうちは曲食いなど見せて調子が良かったが後２つ３つが食えずに降参。家に帰って布団にくるまると、さあくやしい。ふと気が付いたのが「蛇含草」。これで腹を減らして残った餅を食いに戻ってやろうと、この草をなめる。　心配した隠居が様子を見に来たが、声を掛けても返事がない。布団をめくると、餅が甚平はん着てた。​【成立】　寛文１２（１６７２）年『一休関東咄』上巻の「大食ばなしの事」があるが、山伏が草をなめて、餅が山伏の服装で、ほら貝を持ち、金剛杖を持っていたという噺。​　落語の原典と思われるのは享保元（１７１６）年『軽口ちはこの玉』の「牡丹餅が大小」。ただし、タイトルで分かる通り、武士が牡丹餅を食う噺で、牡丹餅が大小を差していたというもの。江戸では蕎麦を食う「蕎麦清」という噺になるのだが、上方落語の本で東京落語を紹介したものには「そば清」という題は見えず、「蕎麦の羽織」という題で演じられ、侍が主人公で「蕎麦が大小を差していた」と落とすと書かれている。これでは「蕎麦の羽織」という題は変。江戸小噺を東京で演じられているものと、評論家が思い込んで書いたのだろうか。昭和の書物はみんなこれを踏襲しているが、東京で「蕎麦の大小」は聞いたことがない。「蕎麦清」は、上方の「蛇含草」を移植したと書かれているが、古くから演じられており、別々に発展したと思われる。これも上方の本では江戸の噺は何でも上方からの移籍になっているので要注意。　元々は中国の『太平広記』４５９にある『聞奇録』。鹿を飲み込んだ大蛇が木の葉を食べて腹の中の鹿を消化する。これを見た男が腹いっぱいになった時に葉をスープにして飲むが、翌日人々が布団をはぐと、男は骸骨だけを残して水になっていた、という話。　本来は考え落ちだったのだろうが、「蛇含草は人間を溶かす草だったので、餅が甚平さん……」という解説を加えるのが当然のことになった。　「餅が甚平はん着て、プーッ……」と、頬を膨らませて、餅がぷくっと膨れる様子を見せた仕種落ちで演じられるのが本来の形。餅の曲食いも含め、「そば清」よりも仕種の多い噺となる。東京では桂三木助（３）が十八番にしていたという。最近も演じる人がいるが、印象に残っているのは滝川鯉昇。​【蘊蓄】　陣羽織を下級武士が真似して着た「甚平羽織」を庶民が夏の着物として引用したのが「甚平さん」。大阪では「じんべはん」ともいう。​

  2023.04.23

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• 落語「し」の１１９：釈迦の遊び（しゃかのあすび）

  【粗筋】　寺の和尚が廓通い。昼間寺にいると、釈迦如来像が妙なる声を出して、「汝、夜ごと夜ごと遊所へのみ行きて、我を見捨てておくこと不届き至極なり」と言い出す。和尚が「誠に申し訳ございません。これからは寺にいて朝夕経文を読みます」​「いや、そうではない、今宵は俺も連れて行け」　しょうがないと、羽織と頭巾を用意して変装させる。「これで仏臭くはねえかなあ」「通人に見えるから大丈夫でしょう」　と連れ立って出かけたが、釈迦如来、何百年ぶりの酒にすっかり酔っ払い、女に抱き着いて来る、女が、「あら、こんなところで駄目ですよ。拝むからよしなんし……拝むから……」「拝む……ううん、まだ仏に見えるか」​【成立】　１７８８（天明８）年『千年艸』の「如来」。昔枕で聞いた記憶があるのだが、はっきり覚えてはいない。私がまとめて一席にしたことがある。みんなが行きたがるので阿弥陀籤で決めて、外れた阿弥陀が「こりゃアミダ」ってんで、釈迦と観音を連れて遊びに行く。釈迦は甘茶でカッポレを踊り出す、観音は女と思ってる輩がいるが、実は男なんだと前を開く、「知らぬが仏」「神も仏もない」「地獄で仏」「仏の顔も三度」「お釈迦になる」「釈迦に説法」などの言葉、幇間に止められて「たいこのくせに文句を言うとバチを当てるぞ」などの言葉を入れた……本当に罰が当たりそう。​

  2023.04.22

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• 落語「し」の１１８：釈迦と阿弥陀（しゃかとあみだ）

  ​【粗筋】　釈迦と阿弥陀が一緒に仏教を広めようということになった。​「じゃあ、釈迦君、一緒に旅に出よう」「阿弥ちゃん、髭が伸びてるぜ。俺が剃ってやろう」「すまないね……おお、痛い。アミダ（涙）が出るよ」「そうだろう。シャカ（逆）剃りだもの」​【成立】　「お血脈」など仏教の噺の枕に用いられる。古今亭志ん生（５）は、二人がチベットへ行こうと言い出し、「静かな所かい」「ああ、人は少ない……チベットしかいない」など、実に馬鹿馬鹿しい洒落を並べて演じていた。志ん生ならではの軽さがとにかくおかしかった。「釈迦君」「阿弥ちゃん」という呼び方も他では聞いた記憶がない。​

  2023.04.21

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  落語「し」の１１７：釈迦が獄（しゃかがたけ）

  ​​【粗筋】　関取が豆腐を買いに行く役をくじで選ぶと、当たったのが釈迦が獄。さっそく出掛けるが、夜が明けているのに店は閉まっている。戸をどんどんと叩くと店の主人が驚いて、​「二階の戸を叩くのは誰だ」​【成立】　安永２（１７７３）年『坐笑産』の「釈迦」。相撲噺の枕でよく聞く。​【蘊蓄】　釈迦が獄は巨漢で有名。身長２２６センチ、体重１７２キロと伝わる。店の戸と思って叩いたのが二階の雨戸だったということ。​

  2023.04.20

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  落語「し」の１１６：霜夜狸（しもよだぬき）

  ​【粗筋】　木枯らしの夜、山番の老人が山小屋に一人でいると、表で戸を叩く音がする。声を掛けると、狸だと言う。古狸だが、寒さがこたえるので、火にあたらせてほしいと言うのだ。追い帰そうとするが、哀れになって入れるが、狸の姿では困る。​「では、あなたの友達で、同じくらいの親父さんに……狸親父と言いますから……」「それじゃあ、亡くなった息子に化けてくれ」「息子さんの顔は知りませんが……」「俺とそっくりで瓜実顔のいい男だ。俺を若くすればいい」「じゃあのぞかせて下さい……瓜実顔と言うより馬面ですねえ」　ともかく人間に化けて入り、一緒に酒を飲み、狸の勧めで義太夫を語ると……「おや、鼾をかいて……もう寝ちまったのか」「狸寝入りでございます」　これから夜ごと訪ねて来たが、春になると暖かくなる。別れを告げて、また冬になるとやって来る。これが三年続いて、また春が来た。「お礼に何か欲しい物はありませんか」「息子が帰って来たようでうれしかったが……本当に狸なんだよなあ」「尻尾を出して見せましょうか」「いらないよ。息子は無理だろうなあ……小判の1枚も欲しいかな」　こうして別れるが、その年の冬になっても狸は現れない。その翌年の冬にもやって来ない……春が来たなと思う頃に現れた。話を聞くと、小判が欲しいといわれて佐渡へ渡り、小判を作ったと言うのだ。「そりゃあ悪い事を言ったなあ。苦労させちまった」「これで私もほっとしました。やはり生まれた土地はよろしゅうございますねえ……あの笛の音は……春になると聞こえますが、昔と同じ人でしょうか」「若い男だったが、いつまでも同じじゃない。年をとったら笛を吹かなくなるかも知れねえなあ」「じゃあ、私はこれで……まだすみかにも帰っておりませんので」「そうか、寂しくなるなあ……また寒くなったら来いよ」「へい……ああ、いい月夜だ……じゃあ、また」「おお、また来いよ……あ、走る走る……転ぶなよ……見えなくなった……また来いよ、待ってるぞ……おや、腹鼓を打ってるな……あんまり打つと破けるぞ……また来いよ」　狸は腹鼓で返事をする……ポン、ポン、ポン……​【成立】　宇野信夫が放送劇として書きおろした。昭和１７（１９４２）年、戦争中の作品で、本人は翌年疎開し、再放送を聞いたそうだ。その後、古今亭今輔（５）が高座に掛け、三遊亭円生（６）も取り上げている。昭和３６年１月の新橋演舞場で芝居になり、山番を市川左團次、狸を尾上松緑が演じた。舞台音楽は團伊玖磨。森繁久彌が声優を勤めたアニメもある。画像は宇野信夫の色紙。​

  2023.04.19

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• 落語「し」の１１５：下総土産佐倉双紙（しもうさみやげさくらぞうし）

  ​【粗筋】　将軍家光の死去で、父親が殉死した堀田家では、若君の上野介が老中に抜擢されて江戸に詰め、佐倉の領国は国家老杉山弾正が仕切っていた。この弾正、私腹を肥やすのが仕事と心得ている男で、何が事業をすることになると、そのために増税、ついでに自分の分の取り分も増やす。増税に次ぐ増税で農民が苦しんでいる。樽屋五平は、賄賂が十分でなかったため、突然苗字帯刀を禁じられ、土地を没収されてしまう。賄賂を贈って復職すると、寸法の大きな桶を作り、これで年貢を計るようにしたので弾正のお気に入りに……これに農民が怒り爆発、打ち怖しで樽屋を襲撃、杉山弾正の義父・堀田大和がこれを鎮圧して、弾正に異見する。直後、大和は毒殺され、樽屋だけが全ての罪を背負って磔になる。​　弾正は、名主連を欺いて年貢米の２割増しに印をつかせる。農民が一揆の相談で将門山に集まると、木村宗吾が戒める。宗吾ら７人の名主は、国家老杉山弾正、郡奉行と、順に願書を提出するが、ことごとく却下され、ついに江戸上屋敷に訴え出る。これも退けられると、下城途中の江戸家老・堀田正澄に直訴する。堀田は、一端宿に下がれと言うが、これを怪しんだ宗吾らは、知人の家に避難する。思った通り、役人が踏み込んで関係の農家が一網打尽にされる。名主らは勘定奉行に訴えるが、全く相手にされない。宗吾はもう将軍への直訴しかないと決意する。　宗吾は妻を離縁するため、密かに佐倉へ戻り、甚兵衛という者の協力で夜中に船を出してもらい、印旛沼を渡る。宗吾は妻に話をするが、妻は離縁を拒否し、夫と同罪となる覚悟を見せる。江戸へ戻った宗吾は、上野三枚橋の下に隠れて、将軍が墓参する際に直訴し、松平伊豆守がこれを受け取って裁きとなる。宗吾と樽屋の息子の供述で、杉山弾正ら不正を行った者は残らず死罪になる。宗吾と家族は江戸家老・堀田正澄の預かりとなるが、堀田の差配で夫婦は磔になり、四人いた子供を全員打ち首にしてしまう。　子供の首は孝善という僧侶が供養するが、供養が終わると呪いの言葉を残して印旛沼に入水する。こののち、江戸家老・堀田正澄の子供は次々不自然な死を遂げ、正澄は発狂する。ある夜、江戸屋敷で宗吾の名を呼んで馬に乗ると、そのまま佐倉へ帰ってしまう。これが謀反とみなされ、改易処分となり、佐倉宗吾は神に祀られた。​【成立】　１８９０年に春錦亭柳桜（１）の速記本がある。翌年別の出版社が「佐倉宗五郎実伝」という速記本を出した。速記者が別人と記されているが、誤字まで全く同じ。別のところから持って来た前説が４ページだけ多いのだが、かなり怪しいもの。​​【蘊蓄】　佐倉惣五郎（？～１６５３）：本名は木内、通称が宗吾。架空の人物だという説があったが、同時代の資料が見付かり、弘津村で１，２を争う地主で、承応２年８月に子供４人まで残らず殺され、祟りがあるため、石の祠を建てたと記録されていた。１７１５年、佐倉藩主の命令で編纂された『総葉概録』では「総五」という人物が処刑されたが、冤罪だと罵りながら死んだとされる。何の罪かは書かれていないが、１６６０年に堀田氏が改易されたのはその祟りだとして、「惣五宮」という碑が建てられたと記録する。​　千葉氏再興運動に関わったと言う説もある。承応２（１６５３）年に「弘津村」が分割され、翌年年貢負担が増加されたので、ここで惣五郎が動いたというのが鏑木行廣の説。林基は、この直訴状は後世の贋作としながら、内容は江戸初期の特色を持っているので、「反領主闘争があったことも否定しえない」としている。　ここから講談や芝居に書かれたものだが、要するに間違いない事実は死刑になって祟ったという部分のみ。

  2023.04.18

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