落語「せ」の56:千慮の一失(せんりょのいっしつ)
【粗筋】 植木屋の源さん、先生に呼ばれて行ってみると、この間話した未来を見る機械が完成したから見てくれと言う。そんな物出来ないと言っていた源さんに見せたいと思って真っ先に呼んだのだ。先生独身主義者で家族もいないから、源さんしか親しい人がいないのだ。では、一時間後を見ようとスイッチを入れると、腹を突き出して転がった源さんが写る。「どうしたんでしょう……ああ、うな重を食ったんですね。二つ空になっているから、二人前頂いたようで……腹が減っている時に腹いっぱいの自分を見るのは変ですね」 一週間後にすると、木の上で仕事をしているが、お隣をのぞいて木から落ちる。先生とお手伝いの竹さんに抱えられて行く。どうなったか心配で、もう一週間先を見ると、仕事が出来ずに寝込んでいる所へ借金取りが来ている。もう一週間先にすると、自殺をしようとして失敗……「こんなの見せられちゃあいたたまれない、こんな機械壊してしまいましょう」 と言うのを先生に止められたが、画面には穴を掘っているのが写った。壊そうとしてスイッチを一年先に合わせたらしい。何と、庭を掘って小判を掘り出した。これを元にして立派な植木会社の社長になった……「木から落ちる前に小判を掘りましょう」「それはいかん。未来を変えることになる」 じゃあ、先生の未来を見ようと一年後を見ると、赤ん坊を抱いて奥さんに叱られている。「あれ、奥さんと子供が……」「そんな訳はない。わしは独身主義だ」「でも、ほら……あっ、奥さんはお竹さんですよ」「独身主義のわしが、竹さんと結婚するのか……」「ほら、先生が子守をしていますよ……あれ、この赤ん坊、生まれたばかりじゃありませんね。どう見ても3、4ヶ月でしょう……ということは、今竹さんのお腹に赤ん坊がいるってことでしょう。先生、しらばっくれても駄目ですよ」「これはしたり……千慮の一欠だった」【成立】 鈴木みちをの作品を、三遊亭円右(3)が演った。