欧州生活16年目　- 伊・独・私の三角関係 -

我夫はさすがイタリア人、食べることに命をかける男である。

ドライブの途中で突然Uターンをし、「今通り過ぎた店はおいしいはずだ」
と猛スピードでその店に突入することがある。

新婚旅行中も、私との会話に反応しなくなったと思ったら突然Uターン、
そして「あそこはおいしいはず。絶対おいしいはず…」と繰り返しながら
ある店の駐車場に車を泊めた。

彼が選ぶのは高級レストランではなく「食堂」という感じの場所が多いの
だが、外から見るだけでは私にはよくわからない。
この時の店を選んだ理由は

1)　煙突があり、煙が出ているのは炭火で肉を焼いている証拠
2)　駐車場が大きいのは人がたくさん入り、混雑する証拠
3)　地元の車が多いのはリピーターが多い証拠

だそうだが、90km/hで運転しながらこれだけのことが目に入るのは
よっぽどの｢食｣好きなんだなぁ、と驚くと共に感心した。

そして、車を停めてから

1)　窓が大きいのは自信を持っている証拠
2)　テーブルの間隔を大きく取っているのは客を大事にしている証拠
3)　裏ドア周辺が綺麗なのは清潔な証拠
4)　働いている人が制服など着ていないのでその分食料にお金をかけている
5)　テレビがあるのでF1が見られる♪

と言って、自分の選択に大変満足していた(笑)。

席につくとお店の人がメニューを｢持たずに｣登場。
口から出た言葉は「何を食べたいですか？」

メニューを持ってきてくれなくちゃ何を食べたいかなんてわからない！
と思った私だが、お店の人は「今日届いたのは…」と食材について
話し始める。パスタはあれとこれを作りました。あのパスタならあうソースはこれができます。もし別のパスタなら…。肉なら牛のこの部分と豚のこの部分、野菜は茄子とトマトとズッキーニと…、という具合。
そして夫はその食材をどう料理して欲しいのかをリクエストしているのだ。
それについてお店の人が「わかりました。でもこうした方がおいしいと
思うのでこうしましょうか？それともこうもできますが…」と
リクエストに対して意見を述べ、最終的に両者が納得したところで
オーダー終了。

つまり、このお店はその日届いた食材で、客の好みのものを作る、という
お店だったのだ！これは両者共に食の知識が豊富でないと、
オーダーするのさえ難しい。しかし反対に、豊富であればプロの手を
借りて本当においしいものを食べられる、ということ。
周りの客の会話を盗み聞きしても、老若男女いろんなリクエストを
している。食べている料理も様々で、見ているだけで幸せになる。

ワインは地酒。用意されているのはこの1種類のみで、店の自慢の
ワインなのだそうだ。それを楽しんでいるうちに第一の皿の登場。
パスタ自体もそこで粉から作られているので歯ごたえが違う。
トスカーナ自慢の様々なキノコをふんだんに使ったプリモは
これまで食べたことの無いおいしさだった。
彼も私も無言でひたすら食べる。あまりのおいしさに即効完食し、
目が合って思わず笑い出す。おいしいって幸せだなー。

第二の皿は牛肉。付け合せは茄子のソテー。
どちらも素材のよさを「これでもか！」というくらい生かしたもので
特に茄子は絶品だった。にんにくの量やオリーブオイルの量など、
すべてが完璧で茄子そのももの味がさらに引き立っている。
茄子大好きな私だが、これまで食べた中でおそらく一番おいしい
茄子料理だったと思う。

自分の料理に夢中で夫が何を食べたのか覚えていないが、彼もまた
これ以上ありえない、というほど満足していたので私も嬉しかった。

イタリアの良さはたくさんあるが、こうしておいしいものを
日常生活の中でたくさん体験できるのが何といってもすごい。
舌の肥えた夫(それもイタリア人…)を持つ妻、という立場に不安を
感じながらも、こういう国で食をさらに堪能できる才能をもった夫に大満足。
まさに「食べ尽くし」の新婚旅行を楽しんだ私たちであった。