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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2019年04月14日
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カテゴリ:山口素堂資料室

 素堂著 『松の奥』 

 

松の奥序
 

長袖よく舞ひ、

多錢よく商ふ、

錢なしの市立とかや。

笑はれんそれもへちまの革財布とかけて、

出たつ市もわがまど志らぬやまと言葉なから、

俳諧の道芝、

分ゆく末の一助にもやと、

寒爐のもとに、

例の拙なきをわすれて申に候。

亦曰松と梅には、

彼御自愛の木陰なるをとなそらへて、

ここに冠きせ侍るならし。

 松の奥  上巻

景行帝の御時に、

日本武尊東夷征伐の御時、

甲斐の國酒折の里にして、

にひばりつくばのことはより、

是を連歌の始と申也。

今酒折の天神とあがめ奉る連歌に、

筑波問答と、

一条禅閤御作筑波集宗祇作意のよし也。
俳諧にも猶是を源とするなり。

其後に及んで、

上の句を云かけぬれば、

下の句を附、

下から上をもて附る事さかりにて、

五句三句は上下とのみにして、

今のごとく百句五十句とくさるは、

遙に中頃よりの事か。

是八雲の趣御抄には、

萬葉に かしたるを、

家持卿の随ひ給ふを、

連歌の根本とのせ給ふ。

亦天暦帝 

小夜ふけて今はねふたく成にけり夢にあふへき人や侍らん

滋野内侍小貳命婦と云是尚古の事なり。

むかしは是をせんとするにありし。

されば不及口傳、

故實近年のこそ繁たるなれば、

付之有故實亦禁制の事、

及末代尤可存知也。

以上は八雲御抄にあり 

されば連歌の姿さだまれる事は、

後鳥羽上皇の御製など多く候。

昔は連俳はいためならず、

建保の頃とかや、

又式目の定れる後、

宇多院健治二年、

鎌倉に於て藤谷為相の作となり。

建保より六十三年後なり。

此時代の古式の連歌をさして、

本式といふ。

去きらひもあらまし事成べし。

今世に冩し置、

瀧本の百韻といふは、

宗祇清水寺にて興業の會、

是本式の龜鑑とす。

其後、應安の頃、

今三百余歳に及へり。

新式なる。

牡丹花の追加有り。

爰に至て舊式かくれた知人希也。

右の如く段々と、

年来久敷なり、

俳諧は其頃連歌の席満て、

五句七句十句も狂して作す。

俳諧歌を續けたるは見えず。

宗鑑 貞徳より、

連歌の式を請て、

犬筑波、御傘、立圃がはなひ、

是より起りぬ。

昔の俳諧を一二を擧。

紅葉の蓼やさながら唐錦       仙吟
   千草の野邊の花のあへませ      宗長
   山の端に白皿ほとの月出て      宗祇

亦紹巴宅にて、連歌満坐の後、

はしばみの菓子出されけるに、
   はむ鳥のはしはみならす茂みかな  玄旨
   朽木のもとにこもる夏虫      紹巴
   灯を立る板戸の節抜て       昌叱  

かくのごとくなれば、

連歌を本として、

心やさしく句興ありていたすべきなり。

俳諧をうつ連歌ありとも、

連歌をやふる俳諧あるまし。

世の俳師、俳諧は外のやうに思ふ不便なり。

又いつか光廣卿の句に、

「宗鑑か姿を見れは杜若」

と宣ひしに、

「飲んとすれは夏の澤水」

と取あへず仕りし。

是其頃の風と言ふ物にして、

笑ひ興し給ひし事になんありしに、

長頭丸此道に枝折して、

華咲の門の遊ぶ好士多く、

都鄙にはやりもて行事にぞ有ける。

猶古へをしたひ、

俳諧に於て、

本式の會興行の事粗見えたり。

今見ゆるに、

西武荻の百韻とてあり、

是亦本式の事とぞ。

尚門生立圃、貞室、季吟、重頼、

各明達の俳人、世の知る所。

其頃難浪(波)の宗因、

一流の人にして、

檀林の風姿京江戸はやりかにして、

遠き境までも至らぬ隅もなし。
爰に獨りの世捨人あり、

江上の柴扉をもて、

静に風月をもて遊ぶ。

 

芭蕉庵桃青 

俗名松尾甚七郎 都の季吟の門に入、

久しく東武に潜り給ひ、

俳諧の深き心を学び、

正風の俳諧起るの祖なり。

予叟と共に友として、

猶與力すといへども、

九ツは是をたすけられ、

一ツはかれを補ふのみ。

正木の葉のかつら、

長からむ事になん、

風情の變化は、

尚あまたゝび成べし。

是は唯俳諧の始祖とする有増を記す成べし。

字  義
  一に俳諧

二に誹諧

三に俳□

四に滑稽

五に誹□

六に謎字

七に空戯

八に鄙諺、

 

八雲古今集には誹諧、

史記の滑稽は俳諧なり。以上。

 

切字は爰に略す
右いづれも、

是等の文字を用ふべきなり。

愚老書馴ひ候らへば、

俳諧の文字、

心おぼえ候ゆゑ多年之を用ふ。(愚老…素堂)

大工づかひ

はいかいはいかに致そ候ぞと尋ねしに、

餘の習ひ有へからず、

唯心を種として、

思ひよる處をのべ給へ。

けふも明日も言ひ、

或は人と共に、

歌仙にても百韻にても有べし。

席数かさなれば、

ひとりにもほどけ、

いひ能く成なり。

それより次第に、

一句の手練を覚え、

附合を能して、

猶三句のわたりを合点して、

うち置ず修行すべければ、

自ら深き境にも至るべし。

能因法師のやうに、

歌を只好き給へ。

すかされば上手には成がたしと訓へなし給ふ、

俳諧亦同じ。

たとへば大工遣ひする人の家には、

木の切れ多き如し。

少しの事は、

木を求めずして、足なん。

俳諧も日夜かしこにのみ心を置く時は、

趣向も多く、

句作りもとみに、

一句つゞり出さん事安まるべし。

是兼々木の端の有ればなり。

歌人の当意即妙の歌といへども、

平生心がけなくしては、

参らぬ事なるべし。

兎にも角にも好き給へとぞ。
 近来点取り俳諧はやり候も、

所々の月次の會多く、

初心仕習ひて、

早く入る事なり。

尤是を専らとするは、

此道の大なる煩ひなり。

此道中の入口と心得申べし。

端々の茶店、

奇麗にしつらひしも、

本宿に入りぬれば、

よしと見えし茶店はむさくなるなり。

増して江戸のと伊云ふ、

高商の家居より、

殿作りまします甍々の美、

語るに口つくもわざなり。

かゝる美麗の家々を望み、

かつ自然に門に入、

堂にのぼり、

空をうかゝふに至りては、

かのはつれはつれの住家の目もやらんや。

唯しばらくの足やすめとももふべし。

されど点取を、

ひたすらに止めよとにはあらず、

捨つべからず、

泥む事なかれ。
 

発句工案
  

一発句いかにも切字たしかに有が能也。

心を先として、姿を定。

其風雲草木の、

時につきて変わる姿を思ひ、

風姿をもとめ、

俳意強くして、

辭を以てかさる。

一句けだかく、

面白きの一の事とすべし。

情是に次歟、

姿定らざれば、

主なき家の如し。

たとはゞ秋の山に、

霧ふかく立こめたるが、

わずかに谷間に、

紅葉のちらと見られつるごとし。
 奥こそは猶も木々の梢の色も深からん。

さるは鹿の啼しにこそあらめ、

暮行秋の日数少なく、

時雨だにそひて、

慥に其所とは見えぬれども、

をしはかりてかくやあらんと、

いはぬ心に匂ひ深く籠る句なるべし。

云ひ結して、てにをは云ひ残し、

人にさとれといはぬ斗りなり。

情になづむべからず、

情けに深く案じ入れば、

大かた古みへ落るものなり。

さりとて感情は第一とすべき事なれば、

亦暫くも離るべきにあらずして、

情けを深からんとせんと、

工案をめぐらすべからず。

詩歌連俳とも、

秀逸は自然にして、

餘情甚しきなり。

池塘生春草水落視石、

おのづから文法なり。

宗長三井寺にて、
   夕月夜海すこしある木の間かな
 只目前に有まゝの姿なり。

又貞室が、

是は是はとばかり、

たゞ見ゆる所を云ひて、

餘情深し。

亦道の邊に清水流るゝ歌は、

そゝき上たるが如し。

至極きょうなる所と、

持明院殿は仰せられしなり。 

一ツの凉の字を詠じ出されたる所、

情の沙汰に不及して、

言外の風情限りなし。

全て発句平句共に、

案じ方の大事といふは、

心をいかにも向上の一路ぬゆかしめ、

俳言をかしく結ひ、

至て低き所の俗塵の境に居て遊ぶべし。

されば浅深までの往来自由自在にして、

一句を作るべし。

亦一字か二字に、

苦しみて能事あり。

邪魔ひらけ申べし。

今何程に申ても、

此上は合点ゆきかねる事なり。
 志かりとて、

秘事と申に非ずして、

行て知るべし。

亦曰、

思ひ寄せたる趣を言盡し、

籠るにて葉もなく、

味ふべき處もなく、

委き趣を一札にのべ、

判形したるやうなる句感情なし。

 脇の心得

 発句君位、

脇は臣下なり、

主客親子も、

大旨此心得なるべし。

詩に云ふ起請句なり。

志かれば脇句の心得さまざまなり。
  打添  

違ひ  

くらべ  

對  

名所附

(発句名所ならば脇も寄所ある名所にて附へし夫とも必と言ふにはあらす)

此外  

須留 てには留 
  疊字(平句にも有へし)、

すべて脇の姿は、

臣位と亭主と子なれば、

かしづく姿よし。

心聊も不附處有は不便事也。

右の内、

てには留秘し申事あり。

閑話に申べし。

兎角に韻字留尤也。

当世白き、黒き、浅き、深きの類を、

韻字と心得たる俗俳師あり。

下の動くは手には留の類なり。

脇をてにをはにて留る事、

大方五句七句の言ひ捨の時の事なり。

百韵歌仙など、

一巻としたるにはまづ無き事なり。

折にふればなどかなかるべき。
   明ぼのや千入の外の花さかり 

月に鶯聲なをしみそ
 

是宗因独吟の百韻なり。

近き盲俳師、

おこがましく脇のてにをは留、

第三韻字のとて、

したり顔なるかたはらいたき事なり。

疊字といふは、

発句下の五文字、

たゝちに脇の上七文字の内に請て云ふなり。

たとへば何々として山桜とあれば、

山さくら何々ととして請るなり。

 

平句にも同じ。詩にも歌にも、数多有る格なり。
  幾度凭欄約夜深 

夜深情緒不如今(全篇)
  如今強倚欄千立 

月満空階霜満林
 又曰、
  只隔中間一片雲 

一片雲間不相識(上下略)
 

和歌に、
  しら雲と見ゆる志るしにみよし野の

 よし野山の花さかりかも
 又壮子に、

吾生也有涯而知也、

無涯以有涯、

随無涯殆己而為知者殆而矣。

めずらしき文法なり。

俳諧には少々なき事なり。

人のしたりとて咎むべからず、

知りておれば不審とも不思してよきなり。
 

第三用意
 第三は、

て留の外稀々なり。

離て附るよし。

然りとて脇に縁もなく、

不附を云ふにはあらず。

詩に云、轉句の處なり、

姿けだかく、

俳意ありて詞をかしく、

優美に脇を能のきて、

心通ひたるこそめでたくおぼゆれ。






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最終更新日  2021年04月25日 13時49分23秒
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