山梨県歴史文学館　山口素堂とともに

山口素堂発句集　冬

　　天の原よし原富士の中行時雨かな　　

　　　三猿夕照

　　絹さらす松原ばかりしぐれ哉　　

　　　深山の翁宗祇居士を讃していはずや

　　　友風月家旅泊と

　　　芭蕉の趣に似たり

　　放の旅つゐに宗紙の時雨かな

　　寒くとも三日月見よと落葉哉

　　松陰に落葉を着よと捨子かな　　

　　　竹日の画

　　竹青く日赤し雲に墨の隈　　

　　　比瓦暮雪

　　暮遅し敦賀の津まで比良の雪

　　炭がまや猿も朽葉も松の雲芭

　　芭蕉いづれ根笹に霜の花盛　　

　　　鳥巾を送る

　　唐のよし野の奥の頭巾哉

　　茶の花や利休が目にはよしの山　　

　　　金馬のとし仲の冬中の七日

　　　三四友をかたらひて

　　　心ざしを申侍ゐ。

　　人やしる多至の前のとし忘

　　名をとけて身退しやふくもどき　　

　　　埋火

　　宮殿爐也女御更衣も猫の恋

　　　花桃身しりかれしはいづれの辺りぞや

　　　俤は教えべし

　　　宿に先立てこたへぬ松と聞えしは

　　　誰をとひし心ぞや。

　　　閑人閑かとにまくすれど

　　　きのふはけふをこのみ

　　　けふも又くれぬ。

　　行ずして見五湖煎蠣の昔を聞

　　和布刈遠し王子の狐見に行かん

　　鳴戸成渦まく暦くれはやし

　　此わすれ流るゝ年の淀ならん

　　市に人てしばし心を師走かな