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2019年04月29日
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山口素堂 跋文『甲子吟行』・『野ざらし紀行』《波静本》 

 

素堂44才 貞享二年(1685)

 

 我友へせを老人ふるさとのふるきをたづねむついでに、

行脚の心つきて、それの秋、江上の庵を出、

またの年のさ月待ころにかえりぬ。

見れば先頭陀のふくろをたゝく。

たゝけばひとつのたま物を得たり。 

そも野ざらしの風ハ、

出たつあしもとに千里のおもひをいだくや、

きくひとさへぞ、そゞろ寒げ也、 

次に不二を見ぬ日ぞ面白きと詠じけるハ、

見るに猶風興まされるものをや。

富士川の捨子ハ側隠の心を見えける。

かゝるはやき瀬を枕としてすて置けん、

さすがに流よとハおもハざらまし。

身のかふる物ぞなかりき。

みどり子はやらむかたなくかなしけれどもと、

むかしの人のすて心までおもひよせてあはれならずや。

又さよの中山の馬上の吟、

茶の姻の朝げしき、

禁に夢をおびて、

葉の落る時驚きけん詩人の心をうつせるや。 

桑名の海辺にて白魚の白きの吟ハ、

水を切て梨花となすいさきよきに似たり。

天然二寸の魚といひけんも此魚にやあらむ。

ゆきゆきて、山田が原の神杉をいだき、

また上もなきおもひをのべ、

何事のおはしますとハしらぬ身すらすらもなみだ下りぬ。

同じく西行谷のほとりに、

いも洗ふ女にことよせけるに、

江口の君ならねバ、答えもあらぬぞ口をしき。

それより古郷に至りて、

はらからの守袋より、

たらちねの白髪を出して拝ませけるハ、

まことにあはれさハ身にせまりて、

他にいはゞあさかるべし。

しばらくして故園にとゞまりて、

大和廻りすとて、

わたゆみを琵琶のなぐさみ、

竹四五本の嵐かなと隠家によせける。

此両句をとりわけ世人もてはやしけるとなり。

しかれ共、

山路きてのすみれ、

道ばたのむくげこそ、

此吟行の秀逸なるべかれ。

それよりみよしのゝおくにわけいり、

南帝の御廟にしのぶ草の生たるに、

このよの花やかなるを忍び、

またとくとくの水にのぞみて、

洗にちりもなからましを、

こゝろにすゝぎけん。

此翁年ごろ山家集をしたひて、

をのずから粉骨のさも似たるをもって、

とりわけ心とまりぬ。

おもふに伯牙の琴の音、

こゝろざし高山にあれば、

峨々ときこへ、

こゝろざし流水にあるときハ流るゝごとしとかや。

我に鐘子期がみゝなしといへども、

翁のとくとくの句をきけば、

眼前岩間を伝ふしたりを見るがごとし。

同じくふもとの坊にやどりて坊が妻に砧をこのミけん。

むかし、

濤陽の江のほとりにて楽天をなかしむるハ、

あき人の妻のしらべならずや。

坊が妻の砧は、

いかに打て翁をなぐさめしぞや。

ともにきかまほしけれ。

それハ江のほとり、

これハふもとの坊、

地をかふるとも又しからん。

いつれの浦にてか笠着てぞうりはきながらの歳暮のととぐさ、

これなん皆人うきよの旅なることをしりがほにして、

しらざるを調したるにや。

洛陽に至り、

三井氏秋風子の梅林をたづね、

きのふや霧をぬすまれしと、

西湖にすむ人の雨鶴を子とし、

梅を妻とせしことをおもひよせしこそ、

董・むくげの句のしもにたゝんことかたかるべし。

美濃や、

尾張や、

大津のや、

から崎の松、

ふし見の桃、

狂句こがらしの竹斎、

よく鼓うつて人のこゝろをまなバしむ。

こと葉皆蘭とかうばしく。

やまぶきと清し、

静かなるおもひ、

ふきハ秋しべの花に似たり。

その牡丹ならざるハ、

隠士の句なれば也。

風のはせを、

霜の荷葉、

やぶれに近し。

しばらくもあとにとゞまるものゝ、

形見草にも、

よしなし草にも

、ならバなるべきのミ、

のミにして書ぬ。

 

 かつしかの隠士 素堂

 

 

『甲子吟行』・『野ざらし紀行』《濁子本》

 

 こがねは人の求めなれど、求むれバ心静ならず。

色は人のこのむ物から、このめば身をあやまつ。

たゞ、心の友とかたりなぐさむたのしきハなし。

こゝに隠士あり、其名を芭蕉と呼ぶ。

ばせをのはおのれをしるの友にして、

十暑市中に風月をかたり、三霜江上の幽居を訪ふ。

いにし秋のころ、ふるさとのふるきをたづねんと草庵を出ぬ。

したしきかぎりハ、これを送り、猶葎をとふ人もありけり。

 

  何もなく芝ふく風も哀なり  杉風

 

 他ハもらしつ、、此旬秋なるや冬なるや。

作者もしらず、唯おもふ事のふかきならん。

予も又朝がほのあした、タ露のゆふべまたずしもあらず。

霜結び雪とくれて、年もうつりぬ。

いつか茶の羽織見ん、閑人の市なさん物を、

林間の小車久してきたらずと温度公の心をおもひ出し、

やゝ五月待ころに帰りぬ。

かへれば先吟行のふくろをたゝく。

たゝけば一つのたまものを得たり。

そも野ざらしの風は一歩百里のおもひをいだくや。

富士川の捨子ハ其親にあらじして天をなくや。

なく子ハ独りなるを往来いくばく人の仁の端をかみる。

猿を聞人に一等の悲しミをくはへて今猶三声のなミだヅりぬ。

次にさよの中山の夢は千歳の杜牧(松枝)とゞまれる哉。

西行の命こゝろざし流水にあれば、其曲流るゝごとしと、

我に鐘期が耳なしといへども、

翁の心、とくとくの水をうつせば、句もまた、とくとくとしたゝる。

翁の心きぬたにあれば、うたぬ砧ひゞきを伝ふ。

昔自氏をなかせしは茶売が妻のしらべならずや。

坊が妻の砧ハ、いかに打てなぐさめしぞや。

それは江のほとり、これはふもとの坊、地をかゆともまたしからん。

美濃や尾張やいせのや、狂旬木桔らの竹斎、よく鼓うつて人の心を舞しむ。

其吟を聞て其さかひに坐するに同じ。

詞皆蘭とかうばし。山吹と清し。

しかなる趣は秋しべの花に似たり。

其牡丹ならざるハ、隠士の旬なれば也。

風の芭蕉、我荷葉ともにやぶれ近し、

しばらくもとヅまるものゝ形見草にも、そしな草にも、

ならばなりぬべきのミにして書ぬ。







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最終更新日  2021年04月23日 19時08分35秒
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