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2019年05月12日
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カテゴリ:山口素堂資料室

武蔵曲 むさしぶり

『武蔵曲』天和二年(1682)板 千春撰 

 

解題 勝峰晋風氏著(一部加筆)

  生年―不詳 没年―宝永七年(1710)までは生存。

 

撰者千春は望月氏以前は大原氏である。通称を彦四郎といい、従弟千之と共に貞徳派の俳人で、その師は重頼とも季吟ともいわれるが、後には談林の新風を喜び、京都高倉の二條上町に蘇鉄林とよぶ庵を構えて居たのである。『武蔵曲』は千春が江戸に来って諸家と風交せる俳諧を撰集としたので、巻頭に芭蕉翁桃青の敬称を以てその登句を掲げたように、主として芭蕉の周囲の人々の作を収めてある。季吟の序に「逍遥遊のおきな」というのは貞徳の事である。芭蕉に逍遥遊と題する文章があるので、此の序文から季吟さへ芭蕉を翁とよんだという説は甚だしい誤解である。外題は江戸に行わるゝ俳諧の風調の意義で、

 

  流石におかし桜折ル下女の武蔵ぶり  千春

 

と、拙者の発句が集中にあるので知れよう。

 春・夏・秋・冬の四季発句及び歌仙・百韻を録し、獨吟歌仙一巻癇を添えてある。芭蕉一門の俳諧が談林調に厭きて、次韻奇警に慊(あきた)らずして純蕉風の句境を拓かうとする第一の歩みは、此の『武蔵曲』から踏み出されたので、同じく天和二年歳の『歳旦発句帳』と対照するならば、其の進展のいちじるしきに驚異せねばならぬ。校本は天和二年三月、京都の書肆寺田重徳に託して上枠したので、千春が帰洛後の開板であろう。文政十年(1827)其成の編集した『芭蕉翁新七郎集』に全文を覆載してあるが、選者の千春は蕉門の作者とは云いがたいので、素成がこれを蕉門の遺著として扱った事には同意されないが、内容から評すれば『虚栗 みなしぐり』時代に延長さる可き蕉風的基礎を据えていると云ひ得る。

 

武蔵曲序

今はむかし、逍遥遊のおきなといふものあり。細河のながれに和歌水をくみながら、老のさゞなみ高波をこえて、滑稽のしまにせうえうして、つゐに其しまもりとなりね。予ちなみにそのしまぶりをとふに、おきなこたへていはく、此しまは世界のまんなかなれば、其ふりもあまりに上手過るをきらへり。上手過れば初心に帰る。あまりに山のおくに入て、又里近きが如しと。予此名言をきき得て、門人にも子孫にもまことに、其のまんなかをとれとのみ下知をなせり。此武蔵ぶりをみるに、其下知を得しものもまじはれり。そのほかもをのづと彼真っ只中をとり得て、句ごとの意味あま渦ず、にが過ず、諸人に用ひて万病なるべし。あだかも蓬莱の不老丸、仏師の阿弥陀薬にもをとらじかし。選者はたれとかする。蘇鉄林の千春先生、江戸の同志の吟友をあひもよほして、此三巻をあつむめりし。予に序を乞へり。予も彼上手すぎるを嫌らへる万病圓を。京中日本國に与へまほしき心ありて、あながちにみ辞せず。天和二年三月、俳諧の花の時、錦帳面のもとに洛下季吟書きぬ。

 

武蔵曲 春

栴栁さぞ若衆哉女かな          芭蕉翁桃青

梅咲けり松は時雨に立ル比           杉風

桜同じ扇の尻に開ル日             三峰

酒のわび芝薗分入かりき哉           似春

芝の蜑の白魚咲ぬ礒ざくら           四友

白魚露命

月と泣夜生雪(イツマデ)魚の朧闇        其角

涅槃像お霊屋(タマヤ)の石も泣にけり       仙風

池上偶成

池はしらす亀甲や汐ヲ于ス心           素堂 *

けふ汐于餌(エバ)切りし舟の刻(キザ)をとふ  千春

目黒眺遠

遠浦(トヲラ)小舟鰹に見たし花涼見        其流

けふ花のかゝしと出ぬちぎれ笠         糜塒(高山伝右衛門)

名盛や作(ダテ)恋五郎花さだめ         其角

桜狩遠山辛夷(コブシ)うかれ来ぬ        嵐蘭

 山は笑む富士。水は玉川の風流を汲んで  

流石におかし桜折ル下女の武蔵ぶり        千春

紫にかへけん蠺婦が籮(フゴ)の忘レ皃      曉雲

武蔵曲 夏

草の雄や螻獨いそぐ郭公            藤匂子

  夜ル国の夢ぬ寝覚や郭公             糜塒

時鳥旦夕(タソガレ)里さび燧(ヒウチ)うつ比    嵐雪

郭公まねくか麦のむら尾花           桃青

草の戸や犬に初音を隠者鳥           其角           

鰹迄はめじかもあるを郭公           而巳

鳥恨り桜の敵杉の妻              千春

夕しそに宮城野立ぬ凰の露           為逍

長明と車相似たり蝸牛             四友

覆盆子(イチゴ)取ル女刺袖引にひかれきや     塔山

皃の白ク夜ルの後架に帋燭(シソク)とりて    芭蕉

  ひるがほの宿冷食の白くなん咲ける       曉雲

  砲碌を蠅とり塚の哀レ哉            峡水

  舟あり川の隅ニ夕涼む少年哥うたふ       素堂 *

武蔵曲 秋

うかれ行月編み笠の窓ヲ家として        角止

 佗テすめ月斎がなら茶哥           芭蕉

盞(サカズキ)ヲ漕ゲ芋を餌にして月ヲ釣ン     曉雲

  浪の時雨のふたりこぐ

  ひとりはぬれね二挺立哉   

闇の夜は吉原ばかり月夜哉           其角

  信濃催馬楽

君こずば寐粉にせん 信濃の真蕎麦初真蕎麦   蘭雪

秋夜話隠林

雨冷に羽織を夜の蓑ならん           其角

茅舎。惑

芭蕉野分して辺に雨を聞夜哉          芭蕉

ひとりねの記泪(アメ)此夕べ寄芭蕉      瓠落

梧桐の秋埋レ井の蓼つれなしや         藤匂子

   詠含恨呑聲意

  砧ヲ呑む涙や卑劣夫の私語(ささめごと)    千春

  螻の吟折節の秋の雨夕べ也           楊水

  鰹の時宿は雨夜の豆腐哉            素堂 *

  酒の聲ナキ月は爐ニ寄テ鳴栗ノ        才丸

  売ルとうる山ノ路か夜の栗折籮(かます)    糜塒

 

武蔵曲 冬

九折ル幾店下の百しぐれ            四女

  蘇鉄鳴て老母卉(たもと)は霜の笑草      卜尺

  茶の齒居炭の黒人を佗名也           其角

  海しらぬ山賤や海鼠やく夕べ          嵐蘭

  人消て胡馬雪を鳴く山路哉           糜塒

  雪の卦や二陰生ズル下駄の跡          鼓角

  雪辱(はずか)し夜かつらぎの鰒(ふぐ)姿   曉雲

雪路ふかく水仙刈つ夜の           言水

 紀行に富士か嬉しむ

姫の嶽ふせごに雪の衣白し           千春

芭蕉の閑をとふ

扉疑(いて)付て水の心かくれ庵        昨雲

深川冬夜の感

櫓の聲波ヲうつて腸氷ル夜やなみだ       芭蕉

   花拙丈人の身しりぞかれしは、い

   づれの江のほとりぞや。俤は教し

   宿に先立て、こたえぬ松と聞えし

   は、誰をとひし心ぞや。閑人閑を

   とはまくすれど、きのふにけふか

   たのみ、けふもまたくれぬ。

行ずして見五湖煎蠣の音を聞          素堂 *

 

 樽うた

  鉢たゝきたゝき  暁がたの一声に

  初音きかれて   初がつほ

  花はしら魚    紅葉のはぜ

  雪にや鰒を    ねざむらん

  おもしろや此   樽たゝき

  寝覚て寝覚て   つねならむ

  世を驚けば    年のくれ

  気のふるう成   ばかり也

  七十古来     まれなりと

  やつこ道心    捨ごろも

  酒にかへてん   樽たゝき

  あらなまぐさの樽扣やな

  凍え死ぬ身の暁や樽たゝき           其角

  大根牛房世ヲすゝぐ也年の淀          千春

   米つかず餅つかぬ宿は、

   みづから清貧にほこる。

  臼寝て閑(ひま)なる年の夕べ哉        似春

 

武蔵曲 三吟歌仙俳諧

  生船や桜雪散ル魚水室             藤匂子

   金涌(かねわき)の郡豊浦の春               千春

  (はつ)芝居(みことのり)してうつしけん            其角

   検非使の族喧嘩預ル             匂

何者か軽口申したる月に            春

   芋ぬす人の夕くれしを            角

  鑓疵の茄子に残る暴風(のわき)哉            匂

   日怒(かがやくひかり)あめからすらむ           

夏犬の身をもゆるげに舌垂れて         角  

此娘うかうかとやつるゝ           匂

夜と夜関もる伯父を恨みけり          春

東路や。智恵習にやる            角

武蔵野も(しはの)やならん(きたな)草           匂

   命ひとつを千々の白露            春

お手かけと扈従(こじゅう)秋の月いづれ         角

恋すから酒宴躍終日(ひねもす)             匂

散盡スあらし。花清の根太落て         春

(みど)()(たくみ)国を(のこ)ギル            

富士山を買てとられし片霞           匂           

 江海酉に数寄殿ヲ(まつ)ク            春

上代の傾城玉を真砂にして           角

   親仁のいへらく恋忘レ松           匂

朝起を塒の鳥のうき程に            春

曇る日の嵐鰹見て参れ            角

(ひま)役者つれづれ独り(つれづれ)て          匂

舊友やつこ零落ス半バ            春

滴も否と禁酒窟(のまぬいわや)に袖ぬらしけり        角

袈裟に切さく賤の捨綱           匂

尺八の名に水馴竿月ヲ吹ク          春

舞ハ芭蕉まひ薄舞             角

 山路分。菊に羽織を打着セて         匂

首とって偖霜を悲しむ           角

常御臺心から身を凩也            春

地獄現在鐘し覚ずは            匂

花鉾ヲ振て甲を盞に諷ふ           角

齒朶矢にすゝむ羽子板の楯         春

 

 






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最終更新日  2021年04月18日 14時42分31秒
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