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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2019年05月24日
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カテゴリ:山口素堂資料室
素堂44才 貞享二年(1685)
 
 『甲子吟行』・『野ざらし紀行』《波静本》
 
 我友へせを老人ふるさとのふるきをたづねむついでに、行脚の心つきて、それの秋、江上の庵を出、またの年のさ月待ころにかえりぬ。見れば先頭陀のふくろをたゝく。たゝけばひとつのたま物を得たり。 そも野ざらしの風ハ、出たつあしもとに千里のおもひをいだくや、きくひとさへぞ、そゞろ寒げ也、 次に不二を見ぬ日ぞ面白きと詠じけるハ、見るに猶風興まされるものをや。富士川の捨子ハ側隠の心を見えける。かゝるはやき瀬を枕としてすて置けん、さすがに流よとハおもハざらまし。身のかふる物ぞなかりき。みどり子はやらむかたなくかなしけれどもと、むかしの人のすて心までおもひよせてあはれならずや。又さよの中山の馬上の吟、茶の姻の朝げしき、禁に夢をおびて、葉の落る時驚きけん詩人の心をうつせるや。 桑名の海辺にて白魚の白きの吟ハ、水を切て梨花となすいさきよきに似たり。天然二寸の魚といひけんも此魚にやあらむ。ゆきゆきて、山田が原の神杉をいだき、また上もなきおもひをのべ、何事のおはしますとハしらぬ身すらすらもなみだ下りぬ。同じく西行谷のほとりに、いも洗ふ女にことよせけるに、江口の君ならねバ、答えもあらぬぞ口をしき。それより古郷に至りて、はらからの守袋より、たらちねの白髪を出して拝ませけるハ、まことにあはれさハ身にせまりて、他にいはゞあさかるべし。しばらくして故園にとゞまりて、大和廻りすとて、わたゆみを琵琶のなぐさみ、竹四五本の嵐かなと隠家によせける。此両句をとりわけ世人もてはやしけるとなり。しかれ共、山路きてのすみれ、道ばたのむ<げこそ、此吟行の秀逸なるべかれ。それよりみよしのゝおくにわけいり、南帝の御廟にしのぶ章の・生たるに、このよの花やかなるを忍び、またとくとくの水にのぞみて、洗にちりもなからましを、こゝろにすゝぎけん。此翁年ごろ山家集をしたひて、をのずから粉骨のさも似たるをもって、とりわけ心とまりぬ。おもふに伯牙の琴の音、こゝろざし高山にあれば、峨々ときこへ、こゝろざし流水にあるときハ流るゝごとしとかや。我に鐘子期がみゝなしといへども、翁のとくとくの句をきけば、眼前岩間を伝ふした・りを見るがごとし。同じく.ふもとの坊にやどりて坊が妻に砧をこのミけん。むかし、濤陽の江のほとりにて楽天をなかしむるハ、あき人の妻のしらべならずや。坊が妻の砧は、いかに打て翁をなぐさめしぞや。ともにきかまほしけれ。それハ江のほとり、これハふもとの坊、地をかふるとも又しからん。いつれの浦にてか笠着てぞうりはきながらの歳暮のととぐさ、これなん皆人うきよの旅なることをしりがほにして、しらざるを調したるにや。洛陽に至り、三井氏秋風子の梅林をたづね、きのふや霧をぬすまれしと、西湖にすむ人の雨鶴を子とし、梅を妻とせしことをおもひよせしこそ、董・むくげの句のしもにたゝんことかたかるべし。美濃や、尾張や、大津のや、から崎の松、ふし見の桃、狂旬こがらしの竹斎、よく鼓うつて人のこゝろをまなバしむ。こと葉皆蘭とかうばしく。やまぶきと清し、静かなるおもひ、ふきハ秋しべの花に似たり。その牡丹ならざるハ、隠士の句なれば也。風のはせを、霜の荷葉、やぶれに近し。しばらくもあとにとゞまるものゝ、形見草にも、よしなし草にも、ならバなるべきのミ、のミにして書ぬ。
 
          かつしかの隠士 素堂
 
『甲子吟行』・『野ざらし紀行』《濁子本》
 
 こがねは人の求めなれど、求むれバ心静ならず。色は人のこのむ物から、、このめば身をあやまつ。たゞ、心の友とかたりなぐさむたのしきハなし。こゝに隠士あり、其名を芭蕉と呼ぶ。ばせをのはおのれをしるの友にして、十暑市中に風月をかたり、三霜江上の幽居を訪ふ。いにし秋のころ、ふるさとのふるきをたづねんと草庵を出ぬ。したしきかぎりハ、これを送り、猶葎をとふ人もありけり。
 
  何もなく芝ふく風も哀なり  杉風
 
 他ハもらしつ、、此旬秋なるや冬なるや。作者もしらず、唯おもふ事のふかきならん。予も又朝がほのあした、タ露のゆふべまたずしもあらず。霜結び雪とくれて、年もうつりぬ。いつか茶の羽織見ん、閑人の市なさん物を、林間の小車久してきたらずと温度公の心をおもひ出し、やゝ五月待ころに帰りぬ。かへれば先吟行のふくろをたゝく。たゝけば一つのたまものを得たり。そも野ざらしの風は一歩百里のおもひをいだくや。富士川の捨子ハ其親にあらじして天をなくや。なく子ハ独りなるを往来いくばく人の仁の端をかみる。猿えお聞人に一等の悲しミをくはへて今猶三声のなミだヅりぬ。次にさよの中山の夢は千歳の杜牧(松枝)とゞまれる哉。西行の命こゝろざし流水にあれば、其曲流るゝごとしと、我に鐘期が耳なしといへども、翁の心、とくとくの水をうつせば、句もまた、とくとくとしたゝる。翁の心きぬたにあれば、うたぬ砧ひゞきを伝ふ。昔自氏をなかせしは茶売が妻のしらべならずや。坊が妻の砧ハ、いかに打てなぐさめしぞや。それは江のほとり、これはふもとの坊、地をかゆともまたしからん。美濃や尾張やいせのや、狂旬木桔らの竹斎、よく鼓うつて人の心を舞しむ。其吟を聞て其さかひに坐するに同じ。詞皆蘭とかうばし。山吹と清し。しかなる趣は秋しべの花に似たり。其牡丹ならざるハ、隠士の旬なれば也。風の芭蕉、我荷葉ともにやぶれ近し、しばらくもとヅまるものゝ形見草にも、そしな草にも、ならばなりぬべきのミにして書ぬ。





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最終更新日  2021年04月17日 13時34分37秒
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