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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2019年06月02日
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カテゴリ:山梨の歴史資料室

松亭身延紀行(身延詣で)その四 身延山

 

   『甲斐資料集成』作者 不詳

昭和八年十一月 広瀬廣一・赤岡重樹 校訂 一部加筆

 

身延山

「開分関」といふ額を架たり、これより身延山内なり、左右樹立ある道を過て町家ある所に出る、これを身延町といふ、旅店及び酒食の家種々の商もの、また珠数を売る家多し、凡十二町ありとぞ、二王門に到る、友右密尺金剛神を安す、天井は龍の画、狩野永徳立信門人永林信賢とあり、向ひて右の方は金剛一の像正面に立、友の方は左向きに立たまふ、この像前に大勢集い、太鼓・拍子木を嗚し題目す、羞さまざまの障碍あるものこゝに通夜するときは、極めて利益ありとなん、額は「身延山」と記し、桧皮葺なり金剛勇の天井は菊桐の紋なり、この日同山竹の坊に宿す、これ日朗上人の舊阯なり

 

松亭身延紀行 七日

竹の坊を出て本堂に參詣す、二天門の前に石階あり、高きこといふべからす、七ケ所の休ありて梢に登る、初めの一段は七十二階、二番は二十階、三番は三十階、四番は三十九階、五番は三十三階、六番は三十四階、七番は三十九階、これを登りて二天門なり、それを入れは本堂、正面左右に堂あり、その前都てうち開きたり、本堂は二十一間四面、正面は高祖の御厨子、金銀七寶を鏤(ちりば)めて、善美を盡す、左大曼陀羅、右には中曼陀羅、寶蓋およそ三間四方もやあらん、金色の瑠璃鈴等をさけて美麗なり、二天門内左に鼓楼、また波木井影堂あり、本堂の左三寶殿、また本堂廻廊に太鼓あり、経凡四尺計り龍を画く、開帳の時これを討ちて遠近に知らす、その数五箇を限るとそ、胴に浅草新町丸山三右衛門某奉納為先祖代々菩提永代張替と彫たり、本堂都て丸柱凡三尺廻り位、石の如く見ゆれと、布を着せて塗りたるものなるべし、夫より真骨堂に詣る、土蔵にして前に拝殿あり、左右に聯を架く。

  

當山開闢 文永十一甲戌六月十七日

  宗祖入滅 弘永五壬午十月十三日

 

裡に人て寶塔に安す、蓋硝子を以てこれを覆ひ、真骨を拝す、廻りに諸佛菩薩を安置、天蓋は近来崎陽より寄附する所とや、金銀朱玉を以て飾り、唐木を以依合せ造るさて開帳し奉る所、本堂 高祖御像、真骨堂日朝上人、山門上羅漢古佛堂等也、これを半開帳といふ、貫主出て高坐にあり経巻を捧ぐ、昆布二片梅干を以て酒を賜ふ、畢て叉所々終日参詣、竹の坊に帰り宿す、

 

四月八日

雨降る、竹の坊立出て本堂へ參る、正面に東屋を補り、巳の刻過に至りて、金銅の釈迦佛を安し、白銅の盤に茶を盛せ供ふ、貫主出座左右寺僧圍繞し、読経造花をふらし、三匝(めぐり)す、また音楽の僧十二人奏し畢て、貫首釈迦佛の像へ茶を浴せ供養し退く、參詣の人競ひてこの茶を紙に浸しまた頭に塗る、甚混雅にして老者は寄かたし、後あづまやを彿ひ、高座を設け院家の僧たち出て説法す、高座の体、猩に緋に金絲の縫いあり綺麗なり、暫くありて説法畢る、一同退散、営下木更津の五人に逢ふ、一昨日同行して登山したるに、彼人には直に七面山に參詣せんといふ、我々行歩協はさるにより、別れてこゝに残る、人々きのふ七面山を拝し、今日この所へ来れりとぞ、因て竹林坊を辞し、右五人の舎りたる覚林坊に至る、

 

四月九日

木更津の人々は直に立出て大野山の方へ赴んといふ、己れくは七面山に詣んと、またこゝにて別れ、赤澤といふを目指して出るに、此日朝は曇りたるか、巳の刻頃より雨降出し、追々強雨となる、赤澤まで三里、夫より河原を行くこと半里、七面山一の鳥居に至る、正面石階のうへ、「七面天明神」を安す、この山上り五十丁、一丁毎に石の燈篭を建て、何丁目と鐫む、則五十丁登りて本社に至る、然るに雨は益々降しきり、風さへ荒ふきて、頂上は雨下より上に降る、桐油蓑さらに詮なく渾身しきりに濡る、この山甚高くして、近国を見はらし気色いはん方なしと聞と、天雲四方にたち覆ひて、ただ綿を布きたる如く、遠方は海上を望むる如くして、目に遮るものなし、それより奥の院へ詣す、行程八丁とな、小社あり傍に影

向石と唱へ、高さ三間ばかり幅もまた同しき石樹り、尤囲みなして人を近づけず、これをも拝して、下山し辛いにして、其の日黄昏に及び、赤沢の江戸屋といふに着き宿す。

身延本堂欄干二十八間四面

 

四月十日

 早朝雨巳刻頃より晴れに属す、赤澤より箯にて東谷を帰る、身延奥の院もこの道にあり、夫より三光天子の堂前に来る、ここに一基の宝塔を建つ、金色または赤銅、右の方に大黒天の堂あり、覚林房の迎ひこの所まて出居て法餉を贈る、夫より二十町下りて坊につく、かくて昼飯を整へ是より「大野山本造寺」、開山口辺上人世に傳ふ、むかしむ萬の方といへる婦人、信心猛にして七面山をふみわけ、女人の登山を肇めしといふ、其婦人は則こゝに葬りその廟あり、石門にして、屏は朱塗立澤潟の紋なり、

 

廟前石燈能を献す、

   承応三甲午三月廿一日

    囚幡伯耆両国大守

     従四位下行左兵衛少将源朝臣 光仲

   また年號月日前の通にして

    祖母養珠院君霊前左右

            長孫  光 貞

 

となん鐫(ほり)たるもあり、む萬の方は法號養珠院殿妙紹日心大姉といふ、本堂天井の板に彼婦人の足跡とて今に遺れり三つ四つ見ゆ、此処を立ち出て南部宿に至らんとするに

その道路定かならす、かゝるに八王子の同者のよし男女五七人に逢ひ、捷径を行く我々も猶あとについてゆくに河原に出、丘に登り道路常ならす或時は砂山にて、歩むことに砂落て稍足を空にせんとす、其下は富士川の流にて深さ数仭、見おろせば眩暈はかりなり、また或時は道もなき小篠原出て下り、上り下して南部宿に出て松田屋といふに宿る、

 

四月十一日

けふは天晴れ渡りて、四方の気色よし、こゝを立出て内毎に至る、この道路もまた難所所々多し、然れともその様同じけれは省く、こゝを「長遠山本成寺」といふ、こゝより富士山正面に見へ、實に眼さむるばかりの心地す、これより箯を雇ひて、「岩本實相寺」に至る、内房より西北に富りて、例の釣橋と唱るあり藤をもて編み左右の岸に杭をうちて繋ぎ、その上をわたるなり、下は富士川にて深さ三丈もやあらん、その橋の長さ凡四五間に過きずといへとも、歩行に隨ひ揺れ出して、更に足を駐むべきにやうなし、土人は物を擔(かつぎ)て行こと平々なり、この藤橋の下には砂利を押入れて、今は一滴の水なし、さる故に傍に瀬つきて船にて渡す、これを「内房の津」と唱ふ、しかるにこの水急流にして、矢よりも捷(はや)し、さ れは船勤もすれは流されんとす、凡そ川上三町も上りて乗船し水主は篙を衡立てゝ流れさるを要すと、漸く向ひの岸に着て人々安堵の思ひをなせり、夫より山路にて幾峠かある中に、「妙蔵峠」と唱るもの殊に甚し、富士は東の方に見へ、山のきれとに伊豆の浦々見へて気色いはん方なし、夫より「岩本」に出、角や利右衛門といへる旅店に宿す、

 

四月十二日

曇 こゝを立出同所「實相寺」へ參詣す。こゝは往時大蔵あり、高祖それに能りて一切経を閲し玉ひし舊跡なり、今猶土砂ありて経を蔵むといへとも、破壊して数も多らさるべし、其土浦の麓に日期米洗ひの水といふあり、高祖此處に詣り給ふ時、日朗上人陪従しこゝにて米を炊し供したり、因て今に至るまた水白しといふ、見るに柑の如し、寺門の外に池あり、その傍に樫の木のごときあり、下に雷祠を斎る、この木の葉を持は雷災を遁るとて、人々少しを手析守護とす、但此寺は岩本山實相寺といふ、山門あり二王を安置す、

   石階四段三十二、十六、十六、十八階なり

   山門の右鐘楼また四蓋の笠松あり、本堂の額「真如院」

  左右に大なる蘇鉄あり、石を積て其上に植る、

夫より海道本市場に出、江戸の方に向ふ、吉原宿を過て河合橋を渡り、長さ二十四間、元吉原に法華勧請の昆沙門堂、下りにて右方石階三重、夫より原宿を過き沼津に至り、元問屋伊右衛門方に宿る、

沼津大手前掲土といふ所に、医人深深雄甫といふあり、金鵞知己のよし、一封の書を託せらるゝに依て、尋ね行の處他行にて書のみ置き帰る、その夜大雨晩に至りて止む。

  

  • 原本には比以下紙数三葉有るも、駿豆二州に係ればこゝには略しぬ

 

昭和八年十一月

広瀬廣一・赤岡重樹 校訂






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最終更新日  2021年04月16日 19時03分17秒
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