山梨県歴史文学館　山口素堂とともに

朝鮮の「独立」

著者　池田敬正氏・佐々木隆爾氏

　　　　『教養人の日本史（４）』社会思想社　昭和42年刊　一部加筆

日清戦争が開始される二日前の一八九四（明治二七）年七月二三日、朝鮮では「大院君（テウォングン）」が政権についた。日本軍が仕掛けたクーデターの結果であった。

その直後、日本車は朝鮮兵の武器を没収し、警察権にも干渉した。しかし、完全な傀儡政権ができたのではなかった。朝鮮をねらう列強の対立が厳しかったので、日本政府だけでこれを動かすことは出来なかったのである。

大院君は、この対立をすすんで利用した。彼はロシア公使と会い、ロシア軍が日前両軍に干渉するよう頼んだ。また国王は前順に援助を求め、日本車の内情についての情報を送ったり、アメリカその他の公使と会って、日清両軍を撤退させる斡旋を願ったりした。日本軍も、清国との戦争のために、これらの列強を敵にまわして朝鮮を支配するだけの力はなかった。

この時、甲申事変（朝鮮のソウルで、日本の援助を得て開化派が起こしたクーデター。清国軍の介入で失敗した。）で敗れた開化派が、大院君の信頼をえて、再び内政改革を企てた。今度は、日本車や政府軍が束学党員や農民を殺しているのだから、緊急に事を運ばないと、民衆全体の恨みを買う恐れがあった。

七月二七日、早速「軍国機務処」が設けられた。これは立法と行政を行なう最高機関で、国王や各行政長官が独断で政治を行なうのを防ぐためのものであった。会議員の会議によって法律や命令が出されるだけでなく、平民でも意見書を出せば、会議にかけなければならないことになっていた。議長の金仏集は、いま、　　

「人民をして信頼させ服させることより急ぐものはない」

と考えていた。軍事機務処は、甲申事変で開化派政府が発表した新政綱のおもなものを実施し、すすんで賎民制の廃止も宣言するなど、広く改革をおし進めた。

日本政府は、大院君政権を公然と日本に縛り付けるため、八月に「日韓暫定合同条款」と「大日本大朝鮮盟約」の二条約を結ばせた。日本車が通行や食料の徴発を勝手に行なう権利と、京釜・京仁二鉄道の敷設権を日本に与えることか決めたもので、そこには「朝鮮国の独立自主鞏固（きょうこ）にし、日朝両国の利益を増進するためとうたわれていた。　　　　

下関条約で、日本政府はこの条約を清国に認めさせた。しかし、列強の力はそれ以上に強かった。九五年七月六日、ロシア公使ウエ－バ－の援助を得て、開始派がク－デターを起こし、大院君や開化派・親日派を一掃し、日本人に訓練された軍隊も解散させた。日本公使三浦梧楼はもう一度大院君を政権につけようとはかり、一〇月七日、彼の指標で日本の守備隊が宮廷に乱入し、閔妃を惨殺し、死体をはずかしめた。これ以来、国王も民衆も日本政府に従うことを拒否するようになった。朝鮮はロシアの勢力下におかれるようになったのである。