|
|
|
2020年06月14日
カテゴリ：山口素堂資料室
蓑蟲の説 山口素堂 みのむし みのむし 聲のむぼつかなきをあはれぶ ちゝよちゝよとなくは 孝に専なるものか いかに傳へて鬼の子なるらん 清女が筆のさがなしや よし鬼なりとも瞽叟を父として舜あり 汝はむしの舜ならんか
みの蟲 みの蟲 聲のむぼつかなくて かつ無能からをあはれぶ 松蟲は聲の美なるが為に 籠中に花野をなき 桑子は絲を吐くによりからうじて賤の手に死す
みのむし みのむし 無能にして静かなるをあはれぶ 胡蝶は花にいそがしく 蜂は蜜をいとなむにより 往来むだやかたらす 誰が埓にこれをあまくするや。
みのむし みのむし かたちの少（すこしき）なるを憐ふ わづかに一滴を得れば 其身をうるほし 一葉を得れば これがすみかとなれり 龍蛇のいきほひあるも おほくは人の為に身をそこなふ しかじ汝がすこしきなるには
蓑虫 蓑虫 漁父が一糸をたづさへたるに同じ 漁父は魚をわすれす 風波にたへす 幾度かこれをときて 洒にあてむとする 太公すら文王を釣の謗あり 子陵も漢王に一味の閑をさまたげらる
みのむし みのむし 玉蟲ゆへに袖ぬらしけむ 田蓑の島の名にかくれすや いけるもの誰か此まどひなからん 鳥は見て高くあがり 魚は見て深く入 遍照が簑をしぼりしも ふる妻を猶わすれざる也。
蓑蟲 蓑蟲 春は柳につきそめしより、 楼が塵にすがりて 定家の心を起し 秋は荻ふく風に音をそへて 寂蓮に感をすゝむ 木がらしの後は 空蝉に身をならふや 骸（から）も躬（み）も共にすつるや
叉以男文字述古風
蓑蟲蓑蟲 落入総中 一絲欲絶 寸心共空
似寄居状 無蜘蛛工 白露甘口 青苔粧躬
従容侵雨 飄然乗風 栖鴉莫啄 家童禁業
天許作隠 我憐稍翁 脱蓑衣去 誰識共終
草の戸さしこめて もの佗しき折しも 偶々蓑蟲の一句を云 我友素翁、甚憐がりて 詩を題し文をつらぬ 其詩や錦をぬひ物にし 其文や玉をまろばすがごとし つらつら見れば離騒のたくみありに似たり また蘇新 黄奇有 初に虞・舜・曾參の孝をいへるは 人に教へをとれとや 其無能を感する事は ふたゝび南花の心を見よとや 終に玉蟲のたはれは 色をいさめむとならし。 翁にあらずば、誰かこの蟲の心をしらむ 静にみれば物皆自得すと云り この人によりて此句をしる むかしより筆をもてあそぶ人おほくは 花にふけり實をそこなひ 實を好て風流を忘る 此文やはた其花を愛すべし 其實猶くらひつベし 爰に何がし朝湖と云有り この事を傅えきゝてこれを書く まことに丹青あはくして情濃かなり 心をとどむれば蟲うごくがごとく 黄葉落るかとうたがふ 耳をたれて是を聞けば 其蟲聲をなして秋の風そよそよと寒し 猶閑窓に閑を得て 両士の幸に預る事 蓑蟲のめいぼくあるに似たり （信濃、田中萬次郎氏蔵真蹟）
お気に入りの記事を「いいね！」で応援しよう
最終更新日
2020年06月14日 12時02分20秒
コメント(0) | コメントを書く
[山口素堂資料室] カテゴリの最新記事
|
|
三条実美氏の画像について@