カテゴリ:山口素堂資料室
一、俳諧を謂□といふ事。俳諧を誹諧と書事。 一、俳諧式之事、思□等のけやけき物は、千句にも所山なし等の入用なるものは、 詠向之取格口伝 詠 向 所 情 走 此五ツの拠を尋て円かなる時は、乾坤の浮雲にとりて、月を思ひ星を思ふ、光れる時は花鳥の情に両虚実の間に遊ぶなるべし。 五個の附処の事 所 青田に移りて夕立の風 八躰の句作 卯の花や暗き柳の及びごし (はせを 元禄七年) 八躰の附方 匂 稲の葉のひのちからなき風 発句傳記 まず、にほふハ大築うきふ切り、にをふ哉おなじ。 発句治定哉 き里志満は誹諧編にも似たるかな 【き里志満…和歌】 平句哉 松風を花に感じて居たる哉 発句留る句傳 あかもさし出ても曇る霞か 発句手爾葉口傳 鳶鳥も海むいて鳴くあかし灘 仝 新古之口傳 枯枝に烏のとまりける秋の暮 (はせを 天和四年) 仝 不易の口傳 麦飯にやつるゝ恋か猫の妻 (はせを 元禄四年) 仝 流行の口傳 十六夜や海老煮る程の宵の闇 (はせを 元禄四年) 仝 動と云口傳 春の日や芝で見し人隅田川 仝 不動と云口傳 行春を近江の人と惜ミける (はせを 元禄四年) 仝 サヒシオリ口傳 此あたり目に見ゆる物は皆凉し (はせを 元禄元年) 仝 無季之秘訣 あさよさを誰松嶋を片こゝろ (はせを 元禄二年) 仝 真行草之秘訣 真 象潟の雨や西施のねぶの花 仝 大廻し口傳 あなたうと春日のみがく玉津嶋 仝 秘訣云 思ひきや我しきしまの願ならで 仝 発句を廻し口傳 藁にさへ稲の名あるを門の松 仝 舌妙切口口傳 〔舌妙……絶妙〕 仝 切處無体秘訣 から崎の松は花より朧にて (はせを ) 恋句之口傳 内の首尾あれ曙の郭公 仝 附合之口傳 「振賣の鳫あはれ」 仝 一句和合之口傳 物さしに狙う男のたゝかれて 仝 口訣 発句ハ天の徳也。則円也。円る物は哥にして三ツの数なり。されば哥は上句天にして下の句ハ地なり。然に陰陽和合して一句情別人也。発句は其上の句ばかりなれば、一首の哥の如く陰陽を分ん為に、切字を以て上下をわかつもの也。さるからニ□□を元して、一句だけ高々、出立の姿肝要なるべし。 切字口訣 切字は治定と疑との二ツにして、自然と、間差備る處切字とるべし。 賦物之口訣 連歌形式に云、□□以賦物為類式者 百韻五十韻毎句用賦物 近代発句斗有物云々。 上賦 下賦 連歌古格を以て詠にも古代用ひ来る、当流にハ無しとも苦しからず。 第一何 立はるの霜げて千重の初哉 第二片何 照りそハむ山口しるし夕月夜 第八二字返音数 紅葉にも忘れぬ松の絶間かな 三字中略 染めあげてあかねし申や程の花 四字中下略 □間の是で箒けり残る名かな 音通連聲之口傳 ア イ ウ エ ヲ カ キ ク ケ コ 五音止歌 アワヤ唯みダラナ舌ニ、カ牙(ガ)サ歯音。 言葉続の證歌 たち別れ稲葉の山の峯に生る松とし‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 神防楽 夕立や田を見めぐりの神ならば 仝 肥前藩松浦聖廟にて 右神法楽 婚姻 賀 元服 徒移 夢想 祈祷 又裏綿の格 〔裏綿……裏面〕 又句之口傳 ほんのりと二枚屏風に明の空 俳諧の口傳 一 俳諧 芭蕉門は第二、古今和歌集之俳諧体の儀を用ゆべし。秘訣 切字之秘訣 切ツハ寄也、切ツハ節也、切ツハ盡也。 発句天にして格也。故に発句より生れ出る如くにすべし。四季の三月のことにも、其の一月々々づつにして、発句そひかぬ心なるべし。一句と是も一首の歌の如くなれば、一句の詮たつべき為に字留にして、其の詮をとるべし。 手爾を葉留口傳 提灯の威は其楮也けり 其角 第三の口決 第三は三才の内にては人也。故に天地をはなれて、一慣の場なるが故に、発句格に変化すべし。又留を四ツ〔てもなし・にらん〕の仮名に定たるハ、此四ツかなハ〔治定題廻手爾葉〕に並ぶ故に用ひたる也。口傳ごと 亦字留秘訣 春の木天下に名ある郭公 季吟 亦仮名留口傳 雲雀啼小田に古持頃なれや 〔はせを 元禄三年〕 亦口傳一秘 風ゆらん水鶏でもなし草の戸に夜友なふて淋し 立空 口訣 我里の芋植桜咲にけり 徒々留口傳 嵐の度に柿は落つゝ 附合皮肉骨之秘訣 皮 旭霊の玉をふるふ蓑の毛 第三にて留の口傳 発句の治定の式は、第三うきにて留るべし。 治定にて 冬むきの里は朝帰ん柚味噌にて 浮にて 辻風にきれ行凧のはるかにて 留りの事 平句哉 凩によにもはづるゝ此戸哉 下句哉 あつたら松を枯す事哉下句に 見ゆのおさへ字 う く す つ ぬ ふ む 由 流、にておさへ字 押字なくらん留り秘訣 夕暮の衣にて猶におしからん フラウ テラウ アラウ 重手爾葉 糸落起る間もなき露の玉 恋の句 恋の出情 さまざまに恋はまて貝うつせ貝 三ツに別る口傳 どたりと塀の伝ふ秋風 といふに 桜に花附合 いつでも若しさくらに俳之詠(泳か) 花に桜 仝 法の花牛盗人といはれたし 花に吉野 仝 神鳴を昇下りして見する花閑 附応傳 附句は想名にして迯る場所あり。かくる物あり。此二ツの物は前句の濃落けり出てにも、自由のはじめに立物也。さればと、時の俳者理屈古ミをおそれて、すらすらとたに云下せば、是芭蕉門の変風なりと、彼(我)もなく虚気を高ぶりたる迄にて、我も心に落さま、句のみ多々有に、はせを翁の教に皮肉骨の姿より、不易流行の変かをあらハし、付句の出情を演たるあり。是風雅の走りにして、此場をしらざる俳者新古の姿わかちがたし。口訣。惟然が云付句は附ざるもの也といへり。是ハ前句に轉ぜられて古ミに落、高輪回に是ふみ入たる俳者のねばりをうち払べき仮のおしへ、又正風一毫も心改にて(ぞ)免ずといへるなるべし。 五体格秘訣 二字一連 同字 名所 頃 手爾葉 第三十体留 字留 余り手爾葉 に て けらし かな けり 仝 五法秘訣 杉形 去山 回転 角切 死活 右山口素堂の書たり、もっとも当流重大の秘記。其許、年来執心によって、いま当写し与ふるものなり。猥に他見をゆるすべからず。穴賢々々 素隠士七世葛飾正統 其日庵列山 此俳諧口傳一巻忘素翁の真蹟のよしにて曇華斎に来りしを、其格見定めとして残しけるを、其儘にうつし置かしむるもの也。但此より後きれて見へず。 (馬場錦江)列山…関根甚右衛門。五世其日庵関根三右衛門の二男。文政元年に其日庵を継ぐ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年06月19日 08時18分43秒
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