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2020年08月07日
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カテゴリ:柳田国男の部屋

柳田先生の想いで 二度の出会い 壷井栄

 

定本柳田國男集

  一部加筆 白州ふるさと文庫

 

 今出ているのではない、前の「文芸」という雑誌で、「私の会いたい人」という企画があったとき、私は真っ先に柳田國男先生の名をあげた。

ところが編集部の意見では、柳田先生は気むずかしい方だから駄目だろうということで、あたってもみずに別の人をという。そこで私は柳田先生と同じぐらい会いたかった牧野富太郎先生をあげた。ところが牧野先生は御承諾を得たけれどお亡くなりになる少し前頃だったので、御気分のよい時をみて知らせるというお話である。そのうち締切がせまり、牧野先生の方もあきらめなければならなくなったところへ、文楽の東京公演で文五郎さんが上京され、やっとそれで私の会いたい三人目の人にめぐり合ったのであった。

 この話を大阪の親しい友人である鄙人形つくりの布士富美子さんに話したところ、柳田先生とは人形を御縁に上京すれば親しくお訪ねすることもお有りの布士さんが、さっそく先生に世間話としてお伝えになった。ところが先生は私のことを知っていて下さって、自分も逢いたいとおっしゃったとかで、私は布士さんに誘われ、やれそれとお訪ねした。四五年前のことになる。

 

その日先生は岡山の種神様をお蔵(?)から出して応接間に飾り、私たちを待っていて下さった。大変ごきげんで、さまざまな話の末、小豆島に川野正男という男がいるのを知っていますかと問われた。これには私もおどろいた。川野正男と私とは従姉弟であり、私は小さいころの正男の子守りをしたこともあったからだ。こんなことからも話がはずみ、予定の一時間を三倍も過しておいとました。

それからしばらくたったある日、先生は写真入りのはがきで、あの日私が手土産に持参した琉球紅型の壁かけが、その方にくわしい友人にみせたところ本物であるといわれたと、大変お喜びのお言葉だった。私もうれしくなった。秋だったように思う。

二度目にお目にかかったのは、その翌年あたりだったろうか。明けて足かけ三年目の早春であったかども思う。秋ならば最初のときが早春であった筈だ。とにかくそのどちらかの時の帰りに、世田谷の中野重治さん宅へお寄りしたら、二月生れの卯女ちゃんの誕生日に出会ったからだ。

そしてその二度目には先生は少しお疲れの御様子で、時々椅子に横たわって話された。このとき私は、高松のデコを土産にした。小指の先ほどの小さな泥人形のいろいろで、お嫁さんが婚礼の時にもってゆき、コアコ、いた(いただきたい。下さいの意)」とよってくる近所の子供に配ったものだという。  

この話を先生は、奥さまの通訳(?)で大そうおもしろげに聞いておられたのが印象深かった。そしていろんな話の合間に、[今度中野君らと一緒に集って録音をとりましょう」などと、何度も繰り返された。私などのことをこんなふうにいって下さるうれしさよりも、何か急皇皿てられるような切なさで、片肘ついて椅子に横たわったり、起き上ったりなさる先生を思い深く眺めたのであった。そして、その事について布士さんや中野さんとも話しあったりしたのだが、そのあと私自身が病気つづきで、おいしいブドージュースをお見舞いにいただいたりしながら、お礼も申上げ得ないでお別れしてしまったことは、残念とも申し訳ないともいいがたい思いである。

 しかし、平凡な私の半生で、先生に二度もお会いできたことは大変にうれしい。そして私はよく思うのである。柳田先生の仝集があることでヽ私の老後は退屈がなく充たされると。(作家)






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最終更新日  2020年08月07日 09時33分04秒
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