山梨県歴史文学館　山口素堂とともに

錦どる（百韻）　高山糜塒

『武蔵曲（むさしぶり）』天和2年　所収

1　　錦どる都にうらん百(もも)つつじ　　　糜塒

2　　壱花ざくら二番山吹　　　　　　千春

3　　風の愛三(しゃみ)線(せん)の記を和らげて　　　卜尺

4　　雨双六に雷(らい)を忘るゝ　　　　　　暁雲

5　　宵うつり盞(さかずき)の陣を退(まか)りける　　　其角

6　　　せんじ所の茶に月を汲む　　　芭蕉

7　　霧軽く寒や温やの語ヲ尽ス　　　素堂

8　　　梧桐(ごとう)の孺(じゅ)子(し)を抱いて　　　　　似春

９　　孤村遥かに悲風夫(ひふうおつとを)を恨ムかと 　　昨雲

10　　　媒酒籏(なかだちしゅき)に晩咲(えみ)を進ムル　　　 　言水

11　　別るゝに馬手は山崎小銭寺(こぜにてら)　　　　執筆　

12　　　猶ほれ塚々回向して過グ　　　　糜塒

13　　袖桶に忘れぬ草の哀折ル　　　　　千春

14　　　小海老爪白母を慰む　　　　　　ト尺

15　　かじけたる鷺(さぎ)の蔓(かずら)を黒やかに 　　暁雲

16　　　捨抗の精かいどり立り　　　　　素堂　★

17　　脚坊卒塔婆を夢の草枕　　　　　　芭蕉　　　　

18　　　八聲の月に笠を輝(はたたく)　　　　　　其角

19　　味噌樽にもる露深き夜の戸は　　　言水

20　　　泣ておのゝく荻の小女(こおんな)　　　　　昨雲

21　　妻恋る花馴れ駒の見入タル　　　　似春

22　　　柱(しゅ)杖(じょう)に蛇を切ル心春　　　　 　千春　　

23　　陽炎(かげろう)の形をさして神(しん)なしと　　　　糜塒

24　　　帋(し)鳶(えん)に乗りて仙界に飛ぶ　　　　暁雲

25　　秦の代に隣の町と戦ひし　　　　　其角

26　　　ねり物高く五歩に一楼　　　　　芭蕉

27　　露淡く瑠璃(るり)の真(ま)瓜(くわ)に錫寒し　　　　素堂　★

28                     蚊の聲氈に血を含むらん　　　　言水

29　　夜を離れ蟻の漏より旅立て　　　　卜尺

30　　　槐(かい)のかくるゝ迄に帰り見しはや　似春

31　　匂落ツ杏に洒を買うところ　　　　芭蕉

32　　　強盗(がんとう)の雨をひそめく　　　　　　昨雲

33　　嵐更ケ破魔矢(はまや)つまよる音すごく　　千春

34　　　鎧の櫃に餅荷(にな)ひける　　　　　　糜塒

35　　末の五器頭巾(ときん)に帯て夕月(づく)夜　　　　暁雲

36　　　猫口ばしる荻のさはさは　　　　素堂　★

37　　あさがほに斉(いつき)まつりし鼬(いたち)姫　　　言水

38                     蔵守の叟雲を身に着る　　　　　芭蕉　

39　　此所浪華の北の浜なれや　　　　　似春

40　　　紀の舟伊勢の舟尾張船　　　　　糜塒

41　　波は白浪さざ波も叉おかし　　　　素堂　★

42　　　傾城衿着せて見る心　　　　　　暁雲

43　　今宵年忘。恋の栄を尽スらん　　　其角　

44　　　柊が枝に小歌たてまつむける　　昨雲

45　　丹稲荷樅に隠れて仄(ほのか)なる　　　　 卜尺

46　　　いたらぬ役者芸冥加(めいが)あれ　　　　千春

47　　豊さはぎ院に日待をもよほされ　　芭蕉

48　　　霞の外の権田楽をなん召す　　　素堂　★

49　　紫の鰯を花に折しきて　　　　　　言水

50　　しだの実荒し楪(ゆずりは)の宿　　　　　　其角

51　　去年(こぞ)ウラの月の三十日(みそか)の月くらし　暁雲

52　　　雪ものぐるひ筆を杖つく　　　　卜尺

53　　山鳥の音(ね)に羽ぬけ子や尋ぬらん　　千春

54　　　鶴の箔ク羽衣ありし悌　　　　　似春

55　　夢に入る玉落の瀧雲の洞(ほら)　　　　　暁雲

56　　　日を額にうつ不二の棟上げ　　　芭蕉

57　　松髪の祖父(じい)蔦(つた)上下(かみしも)に出立(いでたち)て　　　　糜塒

58　　　城主に靈の蜜柑献ズル　　　　　嵐蘭

59　　或トに火あての鰹生かへり　　　　峡水

60　　　旅小刀(こがたな)の吼(ほえ)脱(ぬけ)て行く　　　　　　暁雲

61　　世捨木や世捨て松に名を朽て　　　其角

62　　　からすの衣堤にくらし　　　　　素堂　★

63　　橋(きょう)上の番太は鐘を恨みたる　　　 嵐蘭

64　　　西瓜はしらす潮満らん　　　　　千春

65　　露くだるしだれ角(ささ)豆(げ)の散柳　　　　暁雲

66　　　月は築地の古きにやどる　　　　糜塒　　　

67　　遁世のよ所に妻子をのぞき見て　　芭蕉

68　　つぎ歌耳にのこるよしは原　　　　峡水

69　　歩(かち)別レ馬は待らん榎陰　　　　　　其角

70　　　百姓の家(や)に人て腹切ル　　　　　嵐蘭

71　　是此年先祖の榾(ほだ)の火の消ヌ　　　　昨雲

72　　　時ならず米に生(おう)る菌(くさびら)　　　　　千春

73　　雨を聞て放下の村(そん)に閑(しず)かなる　　　素堂　★

74　　　燕尾小勝が墓に落くる　　　　　暁雲

75　　衣装草萌出る翠(みど)リ紅(くれない)に　　　　　糜塒

76　　　雪吹雪茶や花の端つゞき　　　　其角

77　　御池漕小姓の渡守しばし　　　　　峡水

78　　　薫ふるふか水引の蓑　　　　　　昨雲

79　　張雀鳴子々々におどろきて　　　　糜塒

80　　　無常(じょうなからん)人秋の蝉(ぬけがら)　 　　 　　 嵐蘭

81　　月は問ふ山寺どのを離(かれがれ)に　　　　其角

82　　　石風呂のご跡は哀ありける　　　素堂　★

83　　帚木の茂きは鍬に夭(よう)せられ　　　　千春

84　　　今其のとかげ金色の王　　　　　峡水

85　　袖に入(いる)螭(あま)龍(りゅう)夢を契りけん　　 　　芭蕉

86　　　涙の玉あり明ケ暮レにかわかず　糜塒

87　　我聞ケリ鈍士は胸の中黒しと　　　昨雲

88　　　閣思(わぎ)若(くれ)境町(さかいちょう)に溺るゝ　　　　　其角

89　　肩を踏で短尺とりに立躁(たちさわ)グ　　　　暁雲

90　　　奥にての御遊(ぎょいう)隔(へだ)塀(つる)恋　　　　　　芭蕉

91　　篝火を刀に掛て忍ぶ山　　　　　　嵐蘭

92　　　浪は井堰にかくす落人　　　　　千春

93　　物あらふ盥(たらい)をふせて暮(くる)る程に　   峡水

94　　　藍搗く臼のごほごほし声　　　　糜塒

95　　市賤(いちがつ)の生びらを負(おえ)る木陰には　　　暁雲

96　　　日傘さす子と嫗(うば)と男と　　　　　嵐蘭

97　　玄関にて神楽をまうけ給ひけり　　昨雲

98　　　夜と共てらす袋提灯　　　　　　素堂　★

99　　花の奥盗人狩に泊りして　　　　　芭蕉

100 　　八重八重霞飛行小天狗　　　　　其角