山梨県歴史文学館　山口素堂とともに

藤原定家朗詠集　　冬十五首

手向してかひこそなけれ神無月

もみぢは幣(ぬさ)と散りまがへども

山めぐりなはしぐるなり秋にだに

争ひかねしまきのしたばを

うらがれし浅茅はくちぬ一年の

すゑ葉の霜のふゆのよなよな

冬はまだあさはの野らにおく霜の

　　　　雪よりふかきしのゝめの道

よしさらば四方の木枯吹きはらへ

人はくもらぬ月をだに見む

おとずれしまさきのかづら散りはてゝ

外山今は霞をぞ開く

山賤(やまがつ)のあさけのこやに焼く柴の

しばしと見れば募るゝ空かな

冬の夜の結ばぬ夢にふしわびて

わたる小川はこほりゐにけり

庭の松はらふあらしにおく霜を

上毛にわぶるをしのひとりね

誰をまた夜ぶかき風にまつしまや

をじまの千鳥聲うらむらん

ながめやる衣手さむく降る雪に

ゆふやみ知らぬ山のはの月

駒とめて袖うちはらふかげもなし

佐野のわたりの雪の夕ぐれ

しろたへにたなびく雲を吹きまぜて

雪にあまぎるみねの松風

庭の面にきえずはあらねど花と見る

雪は春までつぎて降らなむ

いくかへり春をばよそに迎へつゝ

送る年のみ身につもるらむ