カテゴリ:著名人紹介
平安朝に流行した絵巻物は鎌倉時代に入って全盛を極めた。或は合戦物、或は高僧伝、或は御社佛閣の縁起を画いたものが数多く出た。此傾向は尚足利時代にまで及んだが、此頃に於いて舊画派は凋落し、新しい宗元の水墨画が流行することゝなり、家屋の建築も異り、床の間に掛物を掛けるようになりて、絵物巻は漸く其影を潜めんとするに至った。 然し御伽草紙の類を絵巻物に取扱ったものもあった。『福富草子』の如きはそれである。又絵巻物は其形を替えて、冊子体となったものがあった。即ち奈良絵本である。 『大江山絵詞』 『伊吹山絵詞』 『日高川絵詞』 『西行法師絵詞』 『十二類絵詞』 『付表御絵詞』 『鏡破翁絵詞』 『佛鬼軍』 の如き、僅かに絵巻物の残喘を保ったものもあったが、物語草子と称するものは、多く奈良絵本の形となって広く行われた。絵詞の類又は御伽草紙が其の主なもので、横本もあれば絵本もあった。紐紙に金砂子、或は金泥の雲霞、若しくは草花の類を図案化した表紙で、處々に絵を挿んでいる。足利末葉の土佐派餘流の筆に成った仕入れ本のこととて、精妙のものではないが、朱、緑青、胡粉、金銀泥等の彩色を用いて、美しく描かれている。 今此に載せるものは、『大職冠』の挿絵である。『大職冠』は即ち舞の本で、幸若舞三十六番の一である。御伽草紙、絵紙以外に舞の本なども往々奈良絵本中に見えるので、これは其の一例である。
これをば知らで、 まんと順風に帆を揚げ、 心に任せ吹かせ行くに、 日頃ありとも覚えぬ所に島一つ浮かべり。 見れば旗おし飜えし、 黒金の楯の間よりも創や敦の稲光り、 たうぢやうの影どもが雲霞の如く見えければ云々
とある段を描いたものである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年04月10日 17時46分08秒
コメント(0) | コメントを書く
[著名人紹介] カテゴリの最新記事
|
|