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2020年09月10日
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カテゴリ:柳田国男の部屋

日本の昔話 弘法和尚と海亀 柳田国男

 

 『柳田国男全集』25 

   

一部加筆 山梨白州ふるさと文庫

 

むかし備後国に、

三谷寺という大きなお寺がありました。

始めてこの寺を建てる時に、

仏の像や御堂に塗る黄金がないので、

弘済和尚という憎が土地の人に頼まれて、

数多の産物を船に積んで京都に登り、

それを黄金と交易しました。

その用も済んで難波津、今の大阪の港に来まして、

帰りの船に乗ろうとしていますと、

大きな海亀を四つ、浜の漁師たちが捕って来て、

殺そうとしているのを見かけました。

弘済は深く憐みの心を起して、

海人の者に金をやってその亀を買い取り、

四つとも海へ放してやりました。

 

それからいよいよ出帆をしまして、

備前の(こつ)(じま)という島の沖まで還って来ますと、

日の暮れ方になって海賊の船が現れました。

最初にこちらの船へ飛び込んで、

まず二人の家来を捉えて海の中へ投げ込みました。

次に弘済和尚に向ってお前も海へ入れ。

入らぬならば投げ込むぞと言いました。

いろいろと静かに話をしてみても、

悪者どもが承知をしてくれないので、

仕方なしに自分で海に入りますと、

海賊は金を積んである船を漕いで、

どこかへ行ってしまいました。

 

弘済和尚は海に入ってみましたが、

浅い所に岩のような物があって、

足がその上に立って体が沈みませんでした。

一晩中こうして立っていて、

夜が明けてからよく見ますと、

岩かと思ったのは大きな海亀の甲らであって、

いつの間にか備前備中の灘も過ぎ、

故郷の備後国の浜近くまで来ていましたそうです。

村に戻って、

この不思議な命拾いの話をしましたところが、

一人として亀の恩返しの深き心ざしを

感心せぬ者はありませんでした。

 それからしばらくして後に、

この村で大きなお寺が建つことを聞いて、

黄金を持って売りに来た者がありました。

弘済和尚は早速出てみますと、

その黄金商人の群れの中に、

先日の海賊が六人までまじっておりました。

海賊は和尚の顔を見まして、

非常に驚きまた畏れて、

黙って下を向いて青くなってふるえています。

弘済もそれをよく知っていましたけれども、

一言もその事は言わずに、

ただ黄金の価を出して交換してやりました。

悪者どもはその代物を受け取って、

なんともかともいわれぬような顔をして、

黙って還って言ったそうであります。

  (おしまい)






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最終更新日  2020年09月10日 17時48分19秒
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