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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2020年09月17日
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カテゴリ:著名人紹介

遊行山猿(ゆうぎょうやまざる)市川團十郎

  

   加部琴堂 大江舎貫乎 著

 一部加筆 山梨歴史文学館

 

【解説】

 

 天保十二年(一八四一)、

江戸の歌舞伎役者市川団十郎(七代目)

飯田市川路来遊記。

 

❖七代目市川団十郎は、五代目団十郎の孫で、歌舞伎十八番の制定、「勧進帳」初公演などこの世界でも特に大きな業績を残した役者として知られる。

❖本業のほかに山猿と号し、俳諧、狂歌、書画をよくし、粋人の聞こえが高かった。

❖十歳で団十郎を襲名、江戸歌舞伎の全盛時代を築いたが、天保の改革に触れて江戸十里四方追放に処せられている。

❖嘉永二年特赦を得たが晩年は不遇であったようで、安政六年三月二十三日、六十九歳で死去している。

 

 『遊行やまざる』は、

 

七十一人の役者、関係者を引連れて信濃川路村に十日間の歌舞伎を公演した折の旅行記である。

ふつう江戸以外の公演は禁じられていたが、天保十年、川路の豪家関島記一が出府の折、十日間三百両の約束で契約、十二年に実現した。

 

六月中旬、江戸を出発した団十郎一行は、甲府から諏訪、高遠、大草を経て七月二十四日川路に到着した。途中、甲府あたりでも旅公演をしているようである。

 

川路村には二十日余り滞在、八月二日から十九日まで晴天十日間公演している。この間団十郎は、大足由良之介、若狭之助、定九郎、寺岡平右衛門、松王丸、蓮生坊、助六などの役を演じた。

木戸銭は、ふつう席百文、平坪一分から二朱、高座は二分ときめられ、遠方からも客が押しよせ、満員に近い有様であったが、飯田藩などは見物禁止の触れを出し、事実野田屋卯八、山村屋八蔵ら数人が発覚して処罰されている。

そんなこともあり、最後に十露盤をはじいてみたところ二百三十三両もの赤字が出てしまった。これらは勧進元の八人が各々負担している。

  

団十郎来演の逸話はいろいろ残っているようであるが、村沢武夫氏の『伊那の芸能』より桜井秀道の逸話を一つ紹介しておこう。

 

香道は下清内路の狂歌師で、仲間の木賊坊如柳(立石村の人)、梨の本の五郎左衛門ら五人と土産に松茸を持って団十郎を訪れた。

その時の香道の狂歌、

   

お江戸では市川二かは知らねど顔ばかりで見どころはない

   部隊いっぱいににらんだ目玉はひずみなき役者の鏡天下市川

 

 これに対する団十郎の返歌は、

   

見物の見て下さるる眼の鏡ありか鯛とは海老でつる気は

   

香道を虎の皮の敷物に招じて厚くもてなしたという。高慢な田舎漢を如才なく扱う団十郎の姿が髣髴とする話だ。

 いまでも川勝周辺には団十郎の遺墨は多いようであるが、自筆額として次の三面がこの時残された。

関島記一家の氏神、村社八幡社、琴原神社。

 

 終わりに団十郎来演の主催者、記一について簡単に紹介しておこう。

本名を関浩光広といい、新右衛門の長男に生まれた。妹のきくは飯田市上飯田の豪家林弥七(久次郎)に嫁している。弥七の弟奥三郎は文政十二年(1829)江戸金座の後藤家に養子に入り、水野忠邦の天保の改革に参画した後藤三右衛門光亭である。

記一が天保五年(1834)三代目尾上菊五郎一座や団十郎を招待できたのも、皆この義弟三右衛門の仲介によるのである。三右衛門はのち天保の改革の責任をとらされ、弘化二年(1845)十月三日死罪に処せられている。

【註】記一は、明治八年(1875)二月四目九十一歳の高齢で没した。法名、鶴仙院抱寿記一居士。

 

【本文】

夫より友梅御隠居の食客となりて日夜を遊ぶ。牡丹亭、松亭のミつぎ浅からず。日毎の書画会出放題してはや盆の月を拝す。

  

能成寺歌の文句は何に何にぞ盆のぼたもち食つぶしあん

 

とし、久しく約せし信州川路より迎え来り、二十日に出立と定め遊ばせ給わる友の梅の枝を飛出て八ツケ嶽通り、武田公古城拝して、両亭のぬしに名残をしみて壱里の余も行程に、団子村といへる所ニて跡より数十人追かけ来り、甲州人足古めかしきねだり事をいふ。

「粉なくもすけども、仲間大勢いを引きつれて問屋風を吹かしたあとを搗いてきたな。ひとつ丸めて喰って仕無ぞ」

といってもやっぱり酒手をとられ立別れる。

 

  ほら吹くや甲斐がねたいことりまかれ何ンと信濃へ気はいそけども

 

大笑して行にこの海道は至て不自由にて、甲斐ある贔屓の三君より書面付きにて、若神子(北杜市須玉町)といへるむらのかみ大兵衛ぬしに一宿を頼みて仮寝する。

数の扇子、唐紙にはからず夜明して立出る。此家に女子を願い居られたるが成就して玉の如き女子を得たる。七夜の振無に行合せて其よしを聞き、宝井尊師(俳諧師 其角)の玉吟を思ひ出して、

  

ふミ月やその若御子の御出生

 

 

 明早く道をいそぎ、野山の形清水に口そゝぎ、其夜は神宮寺に一宿。翌朝御本社へ拝して

  

上下の中へ諏訪ふの一ノ宮御柱建烏帽子召されて

 

いそぐ程に高遠に着して、翌日川東の山道案内乞うて行くに、昼めしの用意握り飯を沢山に持ち出て宿りも格別に頼み入ねば承知無きよし。実に深山の奥のその奥のずっと奥の抜け道なれば難所限り無く、すでに大草(伊奈郡中川村)といえる村にて夜に入る。あなたこなたと楽しみに中々聞きいれず。野宿せんと覚悟を極めしに、天の援けやようように得心して松屋といえる小間物店に一夜を明す。まず第一の風流。

 風呂の上タ顔棚。しかしいろいろの虫湯の中に落ちる。

 当所桧笠細工、爰にて蓬生の笠を求める。其夜は相かわらず唐紙、扇子のせめ道具から夜中も過る。

  

頃は秋この大草にたより来て月毛まツやの廿四日哉

 

翌出立の山中にて女中達の人々狂歌、発句を鼻紙に書きて籠へいれるその返し、

  

山中に風がとり持近付はしらぬ御かたへしらざる(白猿)がうた

 

同道して風光寺村といえる所本善光寺のよし。

珍風有りし臼もあるよし。今の善光寺へうつり給ふとなん。

よしミつ、よしすけの孫今にあり。御本堂に詣で御開帳を願い、

  

本を聞きて善こそ光る月の秋

 

 村長何某に自然薯の約して数千の扇書付て立出る。其夜川路当着、関島記一主と食客と成りぬ。「山中暦日無」とは嘘の川路、二畳向切より天竜川の眺め、山々田畑の(やわ)み、滝の音なりたや(成田屋)の居候。鯉鰻の風味、鮎の生々しき松茸の匂い香ばしく、御自分味噌も塩辛く無く、ねじきり茶のふんだん、達磨の京家、別伝の菓子も新製して何にひとつといわれざる自在。野暮なことは聞かざる、不風流或る事は見ざるうれしさ。

 

  三略の真木から米も汁の実もわが庭に有る記逸法眼

  (註 関島起一と鬼一法眼をかける)

 

庭上の御社有り。信心の御神を相殿にして珍庭まします。額面奉納。御天気うるわしく奉願上候。例之通り三升(六世市川団十郎)の額縁、コンゼラ文字彫上、金箔八分、板二尺五寸、立壱尺七八寸。

 

八月のついたち上る御天気に三番そふそふ鈴なりの人

いつの頃言かわぢたるいろごとの水の泡にはならぬ市川

  

件の如き形ニ漆書の求めに

鶴に似たこのつる言のなりひさごいづれせんざいもので有ふぞ

   ほめことば二言送られて返しを求めるに

ありがたき身に金銀のほめことば二言を一首で返す徳用

 

月けいぬしより鶴と初雁に例えし玉句来る、返し。

   

鶴とハ恐れ、初雁とハはづかし。

秋日和二句やうれしや月の出る

 

鎮守八幡宮奉納額面。

願主代田芳兵衛 八月第上大吉日

 

両君の御頼みにて額面ハ欅八分板、横三尺、縦壱尺五寸、三升額縁。

 

八まん歳氏子繁昌悪魔には弓矢をつがふよき祭りかな

 

 おなじくちんば山の神御社にも今額一面に狂歌せよとの求に、此御社の古事を聞に、故有る事也。爰にもらす。何によらずちんば或るヲ願なば願成就なるよし。

  

水の流神有り人の行衛にもあしをよしとぞちかいてや居る

 

子供の扇子へ何ぞ書付くれよとの好に、

  

手習ひと役者は坂に押す車エンヤラ運とはぢをかゝねば

 

 約せし座光寺ょりわざわざ莫大なる自然薯を贈らるへ

  

浅からず御やくそくの贈りもの自然薯有る御品負々

 

三味線を好む人家出して行衛しれず。祖母、親、兄共にかなしみ三都に噂あらばをしへよとの頼み、この返事に届だけ尋ね参らせんとしたゝめしふみに、

  

三味線のその糸道は知れずとも天神地神守り御べば 

 

又おのれも母の恩をうけて今懐かしさのまゝに、

  

親指の思ふ心の動きより自然とあたる天の(ばち)かは

     

大雪の絵に

  冬罷狂歌狂句も出で尽きぬ温まらんとて味噌ひともじを

 

市川の流より出る岩井の水の尽ぬ和泉屋、高麗屋、大和屋、是を兄弟家と云う。

今われ七代にあたって祖の何れを知らず。ただ祖父達の意を朝夕に門弟どもに示す。

此度岩井粂二郎が求に、家の勝手を教えるのみ。

 

見切られぬ瓜となすびの下手畠種から種を運ぶ天地

 

生酢たる門弟木猿が來り、くだくだしきものがたりにあぐみて、

    

酒は百薬の長たり。過して身を破る。程よきこそたのし。

むだぐちはよしに信濃の八月や唇さむしと仰有るのに

  

   茶の湯道具の賛

谷川の水にあふたる井戸茶碗

世は秋よ無事な茶飲楽道具かな

  茶の渋は(ちち)(かか)が譲りもの

     野晒の賛

  世の中はしやれて暮らせよ玉の春

  桜鯛あらはづかしのうしをかな

  地水火凪喰ふが元手や稲の出未

  能く白く晒してのり心うつくしくたのむ高野でかたづけて置   

   五架橋の下に大信国師(鎌倉時代臨済宗の高僧 大徳寺の開山)

非人と成りて二十年の御修行の図に哭せよと求に

  かけ碗に乞食の春や後生箸     

富士山の画に

  見てひくし感じて高し不二の山

  毛のたらぬ猿にさとりの名もあれば愚智にも無智をあてゝ見よかし

  草も木もそめてや赤し猿のつら

     素人狂言至て功者に極上手になさるかたへおくる

  ものゝ真似をするその真似をなさるとはさるとは縁に猿ンのつきざる

     うかうかと空をながめて

名所の信濃に遊べけふの月

 

 いとま申て帰る。山又山の思い思いきくに染たるさま、草々ぐを野辺に露添うて名残り惜しくも立ち別れ、川田村(下伊那郡阿南町)といへる所より名におふ天竜の大河原所々数多あるよし。

北川辺に泊り宿のなければ榎の僧正ならで榎のもとの書面持て鶯巣といへる村(天竜村)、松下何某に元のみ入りて一宿をねだる。

  

をしかけて是非と鶯巣を仮り枕ほとゝぎすでも来て来にやならぬ

 

厚く御恩宿に或りて、翌朝雨中もいとはず乗舟して其様を見るに、左右仙丈の岸壁、大滝、小滝、岩清水、大江山の海道ともいはんや。また、てつがいがみね(鉄枴山)、ひよどり越えに水有る如し。始はながめ面白く、後にはおそろしくきもをとばせ、雨風もはげしく、打込波は七、八尺或る、そのさま舟弁慶の如し。

 

 大雨風をいとい無事に着舟。ナカベといへる所に泊る。老人の出て舟人を厳しく叱り、又乗舟の客にむかいても「以来ハ御無用、御無用」といはく。

恐をなす大難所、左右の川辺桜見事或るよし、春ハひとしおと、舟人の物語を聞て、

 

 人間を曲水にして遊ぶかな

 

夜中より晴わたり、一天雲も無く、廿一日の月満々と照らす。

 暁より仕度して山路を越、秋葉の御山に御龍ヲ願い、十とせの以前登山して大願誓い、後ち格別の利益を蒙り、御礼の参詣もせずして年々の心掛り今年こそと思い込し願い、はや成就して常夜燈一対を献ず。

  

秋最中葉に名月や寺すゝき

 

子孫繁昌、行末を願い目出たく下山。

  

永代火の用心出たら目長兵衛せかふ

 

駿・遠・三の御屋敷へ多く出入のもしが商売、

遊所半ぶん秋の月、葉越に拝む御山路へ、

一万燈のふれ頭とおこがましくものりが来て、

常夜とうとう大願も首尾能成就の下向道。

のがれぬ中の中泉、

見附られたる中よしの縁はいなもの遠州に、

さるとはうれしい智恵袋、

その袋井の御招きを冥加至極と秋葉山、

かごありかごで乗込もいそぎ三升捧ばなに若い御方の御手の内、

あまり見事と感心いたし、また飛込んだ海老蔵雑魚のとくまじり、

地引の綱の袋井利、

よきもうひとつつかい升、

問れて何の某と名のるやうな旅人でもござりません。

しかし生れは東路に身は住みなれた隅田川、

流れ遊びのきさんじは江戸は元より不二が根の、

清水みなとの大綱に贔負ひかるゝ雑魚蝦もありか鯛迄つり上る、

そこがうわさの花川戸、

幡随員兵衛といふごろつき上りのけちな野郎さ。

  

清らかな水の湊とかけて何に御贔負きっすい人の入船

 

ゆるりと江戸で遊びやせうと、

目出たく海上道中無事に帰国して、

 

家内安全子供並べて

まづ抱きて頬ずりせふ持ち子目の団子も揃う我升の中

 

 














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最終更新日  2020年09月17日 10時40分09秒
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