カテゴリ:甲斐駒ケ岳資料室
甲斐駒ケ岳 秋の遠方 秋谷豊
『日本の名山 16 甲斐駒ケ岳』 串田孫一氏・今井通子氏・今福竜太氏 編 博品社 1997刊 一部加筆 山梨歴史文学館
遠くの町からぼくはやって来たのだ 原生林の落葉のさかりのなかヘ 一夏よく知っている七丈小屋の方へ
さむい小駅の仮睡の中から ゆっくりとぼくは目をさまして キスリングザックを肩に 濃い霧のなかへ出かけていった 陽が一日を閉じるように 一つの昼のなかでぼくは静かに 登攀を夢みるのだ
その午前 屏風岩のあたりで 見しらぬ一人の友と出遭う 彼は昨日仙丈岳をこえてきたと言う ――山の色は一面燃えているようです それにしても彼のどっしりと重い微笑は 何という高山草に似ているだろう
ああ 十月の甲斐駒 霧に捲かれ 黒い岩の凹みからぼくは岩頭を狙うのだが かつての夏の日 空をひき裂く電光が映し出した ぼくの記憶の襞(ひだ)には 白く崩れ落らでいく山頂があり
褐色の雷鳥の冷いねむりがある 遠くの町からぼくはやって来たのだ やがて新雪のおとずれる山稜へ 偃松と偃松が重なり合っている暗い方へ
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最終更新日
2020年10月28日 21時36分15秒
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