カテゴリ:井上靖の部屋
愛 情 『井上靖全詩集』
五歳の子供の片言(かたこと)の相手をしながら、 突然つき上げてくる抵抗し難い血の愛情を感じた。 自分はおそらく、この子供への烈しい愛情を 死ぬまで背負いつづけることだろう。 こう考えながら、 いつか深い寂寥の谷の中に佇んでいる自分を発見した。 その日一日、 背はたえず白い風に洗われていた。 盛り場の人混みにもまれても、 親しい友の豪華な書庫で、 ヒマラヤ学術踏査隊撮す珍奇な写真集をめくっても、 所詮、 私のこころは医すべくもなかった。 夕方、風寒い河口のきり岸にひとり立って、 無数の波頭が自分をめがけて 押しよせるのを見入るまで、 その日一日、 私は何ものかに烈しく復讐されつづけた。
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最終更新日
2021年02月14日 15時17分34秒
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