カテゴリ:俳人ノート
河合曽良 『奥の細道』俳諧書留
*室八嶋
絲遊に結つきたる煙哉 翁 入かゝる日も程々に春のくれ
三佛開山佛光國師佛國ゝ佛應ゝ 雲岩寺十景 五橋 三井
*四月五日、奈須雲岩寺ニ詣で 茂りたる山の入口より清冷たる川ニ遊ひて、 三町斗歩て山門ニ至ル。鉢盂峯、龍雲洞、千丈、 玲瓏ノ岩、五橋、三井、総而かんのうこかさゝる所なし。 秋鴉主人の佳景に対す
浄坊寺図書何がしは、 那須の郡黒羽のみたちをものし預り侍りて、 其私の住ける方もつきづきしういやしからず。 地は山の頂にさゝへて、亭は東南のむかひて立り。 奇峯乱山かたちをあらそひ、 一髪寸碧絵にかきたるやうになん。 水の音鳥の声、松杉のみどりもこまやかに、美景たくみを尽す。 造化の功のおほひなる事、またたのしからすや。 * 東山雲岩寺満藏山 夢想國師開記 みそ山 ひたち・下野・みちのくのさかい しら川の關やいづことおもふにも、先、秋風の心にうごきて、 苗みどりにむぎあからみて、 粒々にからきめをする賤がしわざもめにちかく、 すべて春秋のあはれ・月雪のながめより、 この時はやゝ卯月のはじめになん侍れば、 百景一ツをだに見ことあたはず。 たゞ声をのみて、黙して筆を捨るのみなりけらし。 田や麦や中にも夏時鳥 黒羽光明寺行者堂 はせをに鶴絵がけるに みちのく一見の桑門、同行二人、 なすの篠原を尋て、猶、殺生石みんと急侍るほどに、 あめ降り出ければ、先、此処にとゞまり候。 元禄二年孟夏
蠶する姿に残る古代哉 曽良
奥州岩瀬郡之内須か川相楽伊左衛門ニテ
風流の初やおくの田植歌 翁 覆盆子を祈て我まうけ草 等躬 水せきて晝寝の石やなをすらん 曽良 雛に鮇の聲生かす也 翁 (かじか・鰍) 一葉して月に盆なき川柳 等 雇うやねふく村そ秋なる 曽良 賤の女か上総念佛に茶を汲て 翁 世をたのしやとすゞむ萱もの 等 有時は蝉にも夢の入ぬらん 曽良 楠の小枝に戀をへたてゝ 翁 恨ては嫁か畑の名尽にくし 等 霜峰山や白髪おもかけ 曽良 酒盛は軍を逍ゐ闘に来て 翁 秋をしル身とものよみし僧 等 更ル夜の壁突破る鹿の角 曽良 鳥のお伽の泣ふせる月 翁 色々の祈りを花にこもりゐて 等 かなしき骨をつなく糸遊 曽良 山鳥の尾にをくとしやむすぶらん 翁 芹堀はかり清水つめたき 等 薪引雪車一筋の跡有て 曽良 をのをの武士の冬寵る宿 翁 筆とらぬ物ゆへ戀の世にあはす 等 宮にめされしうき名はつかし 曽良 手枕にほそき肱をさし入て 翁 何やも事のたらぬ七夕 等 住かへる宿の柱の月を見て(よ) 曽良 薄あからか六條の髪 翁 切樒(しきみ)枝うるさゝに撰残し 等 太山つくこの聲そ時雨るゝ 曽良 さびしさや湯守も寒くなるまゝに 翁 殺生石の下はしる水 等 花遠き馬に遊行を導て 曽良 酒のまよひのさむる春風 翁 六十の後へそ人の正月なれ 等 蠶飼する屋に小袖かさなる 曽良
天 元緑二年卯月廿三日
みちのくの名所々々、こゝろにおもひをこめて 先せき屋の跡なつかしきまゝにふる道にかゝり いまの白河もこへぬ 早苗にも我色黒き日数哉 翁 岩瀬の郡すか川の駅に至れは乍単齋等躬子を尋ねて かの陽關を出で故人に逢なるへし 上 発句前ニ有
同所
桑門可伸のぬしは栗の木の下に庵をむすべり。 傳聞、行基菩薩の墓の古西に縁ある木成と、 杖にも柱にも用させ給ふとかや。 隱栖も心有さまに覺て、弥陀の誓もいとたのもし。 隱家やめにたゝぬ花を軒の栗 翁 切くつす山の并の并は有ふれて 等躬 畔つたひする石の棚はし 曾良
歌仙終略ス。 連衆(等雲・深竿・素蘭以上七人)
須か川の駅ゟ東二里はかりに、 石河の瀧といふあるよし、 行きて見ん事をおもひ催し侍れは、 此の比の雨にみ(水)かさ増りて 川を越すかなはすといゝて止けれは さみたれは瀧降りうつむみかさ哉 翁 (さみたれ=五月雨)
案内せんといはれし等雲と 云人のかたへかきてやられし藥師也。 この日や田植の日也と、めなれぬことをふれを 有りてまうけせられけるに、
志ら河
誰人とやらん、衣冠をたゝしてこの關をこえ玉フと云事、 清輔が袋草紙に見えたり。
須か川の連衆 旅衣早苗に包食乞ん □たかの鞁あやめ折すな 翁 夏引の手引の青草くりかけて 等躬 やうを又習けりかつミ草 等躬 日面に笠をならぶる涼して 翁
芭蕉翁、ミちのくに下らんとして、我蓬戸を音信て、 猶白河のあなたすか川といふ所にとゞまり侍ると聞て 申つかはしける。 雨晴て栗の花咲跡見哉 桃雪 西か東か先早苗にも風の音 翁 我色黑きと句をかく被直候。 白河、何云へ。 泉や甚兵へニ遣スの發句 □□ 雨ふり、日も暮に及侍れば、わりなく見過しけるに、 笠嶋といふ所にといづるも、五月雨の折にふれければ、 笠嶋やいづこ五月のぬかり道 翁
(册尺二枚、前ノ句。) いまは其わざもなかりければ、 風流のむかしにおとろふる事ほいなくて、 (加衞門加之ニ遣ス。) 五月乙女にしかた望んしのぶ摺 翁
大石田、高野平右衞門亭ニテ 五月雨を集て凉し最上川 翁 爪畠いざよふ空に影待て ソラ うしの子に心慰む夕間暮 一榮 佗笠を枕にたてゝ山颪 川水 永樂の舊き寺領を戴て 翁 たき物の名を曉とかこちたる ソラ 卷揚る簾にちごの這入て 一榮 水かはる井手の月こそ哀なれ 川水 花の後花を織する花莚 一榮 穢多村はうき世の外の春富て 翁 むくら垣人も通らぬ關所 川水 星祭ル髪は白毛のかるゝ迄 ソラ 鹿苗にもらふもおかし塗足駄 一榮 ねむた咲木陰を晝のかけろいに 翁 古里の友かと跡をふりかへし 川水 雪みぞれ師走の市の名殘とて ソラ 無人をふるき懐紙にかぞへられ 一榮 平包明日も越べき峯の花 翁
立石の道みて まゆはきを俤にして紅花 翁
立石寺 山寺や石にしミつく蝉の聲 翁 新庄 御尋ねに我宿せはし破れ蚊や 風流 はしめてかほる風の薫物 芭蕉 菊作り鍬に薄を折添て 孤松 霧立かへす虹のもとすえ ソラ そゝろなる月に二里隔てけり 柳風 馬市くれて駒むかへせん 筆 すゝけたる父か弓矢をとり傳 翁 筆こゝろミて判を定る 流 梅かさす三寸がやさしき唐瓶子 良 簾を揚てとをすつはくら 如柳 三夜サ見る夢に古郷のおもはれし 木端 浪の昔聞島の墓はら 風 雪ふらね松はをのれとふとりけり 柳 荻踏しける猪のつま 翁 行盡し月を燈の小社にて 松 疵洗うはんと露そゝくなり 端 散花の今は衣を着せ給へ 翁 陽炎消る庭前の石 八 楽しミと茶をひかせたる春水 流 果なき蝶に長きさかやき 端 袖香爈煙は糸に立添て 風 牡丹の雫風ほのか也 柳 老僧のいて小盃初んと 翁 武士乱レ入東西の門 良 白鹿も鳴なる奥の原 端 羽織に包む茸狩の月 流 秋更て捨子にかさん菅の笠 柳 うたひすませるミのゝ谷くミ 翁 乗放牛を尋る夕間夕暮れ 風 出城の裾に見ゆるかがり火 端 奉る供御の肴も疎にて 翁 よこれて寒き禰宜の白張 流 ほりほりし石のかろとの崩たり 風 知らさる山に雨のつれづれ 柳 咲きかゝ花を左に袖敷きて 端 鶯かたり胡蝶まふ宿 良
風流亭 水の奥氷室尋ねる柳裁 翁 ひりかほかゝる橋のふせ芝 風流 風渡る的の變矢に鳩鳴て ソラ
盛信亭 風の香を南に逼し最上川 翁 小寒の軒を洗ふ夕立 息 柳風 物もなく麓は露に埋て 木端 翁 雲の峯幾つ崩レて月の山 涼風やほの三ケ月の羽黒山 語られぬ湯殿にぬらす袂哉 月山や鍛冶か跡とふ雪清水 曽良 錢踏て世を忘れけり湯殿道 三日月や雲にしらけし零峰 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年04月03日 18時39分43秒
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