カテゴリ:俳人ノート
河合曽良 『奥の細道』俳諧書留その2
羽黒山本坊におゐて興行
* 元禄二年六月四日
有難や雪をかほらす風の音 翁 住程人のむすふ夏草 露丸 川船のつなに螢を引立て 曽良 鵜の飛跡に見ゆる三日月 釣雪 澄水に天の浮へる秋の風 球妙 北も南も碪打けり 梨水 眠りて□晝のかけりに笠脱て 雪 百里の旅を木曾の牛追 翁 山つくす心に城の記をかゝん 丸 斧持貫芦すくむ神木の森 良‐ 歌よミみあと墓行宿なくて 雪 豆うたぬ夜は何となく鬼 丸 古御所を寺になしたる檜皮葺 翁 糸に立枝にさまざまな萩 水 月見よと引越されて恥しき 良 髪あふかするうすものゝ露 翁 まつはるゝ犬のかさしに花折て 丸 的場のすえに咲る山吹 雪 春を経し七ツの年の力石 翁 汲ていただく醒ケ井の水 丸 足引のこしかた迄も稔蓑 圓入 敵の門に二夜寝にけり 良 かき消る夢は野中の地蔵にて 丸 妻戀するか山犬の聾 蕉 薄雪は橡の枯葉の上寒く 水 湯の香に曇るあさ日淋しき 丸 鼯(むささび)の音を狩宿に矢を矧て 雪 篠かけしほる夜終の法 入 月山の嵐の風ぞ骨にしむ 良 鍛冶か火残す稲つまのかけ 水 散かいの桐に見付し心太 丸 鳴子をとろく片藪の窓 雪 盗人に連添妹か身を泣て 翁 いのりもつきぬ關々の神 良 盃のさかなに流す花の浪 會覚 幕うち揚るつはくらの舞 水
芭蕉七 梨水五 露丸八 圖入二 江州飯道寺 ソラ六 會覚 一木坊釣雲六花洛珠妙一 南部法輪院
元緑二年六月十日 七日羽黒に參寵して
めつらしや山をいで羽の初茄子 翁 蝉に車の音添る井戸 重行 絹機の暮鬧(さわ)しう梭打て 曽良 閏爾生もすゑの三ケ月 露丸 吾顔に散りかゝりたる梨の花 行 銘を胡蝶と付しさかつき 翁 山端のきえかへり行帆かけ舟 丸 蘩舗里は心とまらす 良 粟ひへを日ことの齋に喰飽て 翁 弓のちかをいのる石の戸 行 赤樫を母の記念に植をかれ 良 雀にのこす小田の刈初 丸 此秋も門の板橋崩れけり 行 赦免にもれて独り見る月 翁 衣々は夜なべも同し寺の鐘 丸 宿の女の妬きものの(か)け 良 婿入の花見る馬に打群て 行 舊の廓は畑に焼ける 丸 金銭の春も壹歩に改り 翁 奈良の都に豆腐始 行 此雪に先あたれとや釜揚て 良 寝まきなからのけはひ美し 翁 遙けさは目を泣腫す筑紫船 丸 所々に友をうたせて 良 千日の庵を結小松原 行 蝸牛のからを踏つふす音 丸 身は蟻のあなうと夢や覚すらん 翁 こけて露け気をミなへし花 行 明はつる月を行脚の空に見て 良 温泉かそふる陸奥の秋風 芭蕉 初雁の比よりおもふ氷様 丸 山殺(ソキ)作る宮の葺かへ 良 尼衣男にまさる心にて 行 行かよふへき歌のつき橋 丸 花のとき啼とやらいふ呼子鳥 翁 艶に曇りし春の山ひこ 良
六月十五日寺島彦助亭ニテ
涼しさや海征入たる最上川 翁 月をゆりなす浪のうきみる 寺島詮? 黒かもの飛行庵の窓明て 不玉 麓は雨にならん雲きれ 長崎市左衛門 ?連 かはとちの折敷作りで市を待 ソラ 影に任する舞の油火 かがや藤右衛門 任曉 不機嫌の心に重き戀衣 八幡源右衛門 扇風 末略ヌ
出羽酒田伊東玄順亭ニテ
温海山や吹浦かけて夕涼 翁 みるかる磯にたゝむ帆莚 不玉 月出は關やからん酒持て 曽良 土もの竃のけふる秋風 翁 ゑるしゝて堀にやりたる色柏 玉 あられの玉を振ふ蓑の毛 鳥屋籠る鵜飼の宿に冬の来て 翁 火を焼かけに臼髪たれつゝ 玉 海道は道もなきまで切狭め 良 松かさ送る武隈の土産 翁 草枕おかしき戀も志ならひて 玉 ちまたの神に申かねこと 御供して當なき吾も志のふらん 翁 此世のすゑをみよしのに入 玉 あさ勤妻帯寺のかねの聲 けふも命と島の乞食 翁 憔たる花しちるなと茱(グミ)折て 玉 おほろの鳩の寝所の月 物いへは木魂にひゞく春の風 玉 姿は瀧に消る山姫 翁 剛力かけつまつきたる笹つたひ 棺を納るつかのあら芝 玉 初霜はよしなき岩を粧ふらん 翁 ゑひすの衣を縫々そ泣 明日志めん雁を怯に生置て 玉 月さへすこき陣中の市 翁 御輿は真葛の奥に隠しいれ 小袖袴を送る戒の師 玉 吾顔の母に似たるもゆかしくて 翁 貪にはあらぬ家はうれとも 奈良の京持傳へたる古今集 玉 花に符を切坊の酒蔵 翁 鶯の巣を立初る羽つかひ 蠶(カイコ)種うこきて箒手に取 玉 錦木を作りて古き戀を見ん 翁 ことなる色をこのむ宮達 良
象潟六月十七日朝雨降 十六日着 十八日ニ立
象潟の雨今西施かねむの花 翁 夕ニ雨止て船ニて潟を廻る 夕晴や櫻に涼む浪の花 翁 腰長汐 腰たけや鶴脛ぬれて海涼し 翁 象潟や苫の土産も明やすし 曽良 象溶々蜑の戸を敷礒涼 美濃岐阜 彌三郎低耳 象潟や汐焼跡は蚊のけふり 不玉 羽黒ゟ被贈 忘るなよ虹に蝉鳴山の雪 會覚 杉の茂りをかへり三ケ月 芭蕉 磯傳ひ手束の弓を提て 不玉 汐に絶たる馬の足跡 曽良
海川や藍風わか袖の浦 曽良 直江津ニて 文月や六日も常の夜には似す はせを 露をのせたる桐の一葉 石塚喜右衛門 左栗 朝霧に食焼烟立分て 曽良 蜑(アマ)の小舟をはせ上る磯 聴心寺 眠鷗 鳥啼むかふに山を見さりけり 石塚善四郎 此竹 松の木間より績く供やり 石塚源助 布嚢 夕嵐庭吹掃ふ石の塵 佐藤元仙 右雪 たらい取巻賤か行水 筆 思ひかけぬ筧をつたふ鳥一ツ 左栗 きねきねの場に起もなをらす 曽良 数々の恨の品の指つきて 義年 鏡に移す我わらひかほ 翁 あけはなれあさ気は月の色薄く 左栗 鹿引て来る犬のにくさよ 右雪 きぬたうつすへさへ知らぬ墨衣 眠鷗 たった二入りの山本の庵 左栗 華の吟其まゝで暮て星かそふ 義年 蝶の羽おしむ蝋燭の影 右雪 春雨は髪剃皃の泪にて 芭蕉 春は色々に人々の文 曽良 同所 星今霄師に駒ひいてとゝめたし 右雪 色香はしき初苅の米 曽良 瀑水躍に急く布つきて 翁 餞別 行月をとゝめかねたる□哉 此竹 七夕や又も往還の水方深く 左栗 細川春庵亭ニテ 藥欄にいつれの花をくさ枕 翁 荻のすたれをあけかける月 棟雪 爐けふりの夕を秋のいふせくて 鈴木輿兵衛 更也 馬乗ぬけし高藪の下 曽良 七夕 荒海や佐渡に横たふ天河 翁 西濱 小鯛さす柳涼し舟海士かつま 翁 かゝ(加賀)入 早稲の香やわけ入右は有磯海 翁 盆 同所 熊坂か其名やいつの玉祭 翁 一笑追善 塚もうこ(ご)け我泣聲は秋の風 翁 玉よそふ墓のかさしや竹露 曽良 七月廿五日 小松山王會 志ほらしき名や小松吹萩薄 翁 廿六日 同歓水冷會 雨中也
叙れて行や人もおかしき雨の萩 翁 心せよ下駄の響きも萩露 ソラ かまきりや引こけし穴石荻露 北枝
山中ノ湯
山中や菊は手折らし湯の薫 翁 秋の哀入かは石湯や世の気色 ソラ
雲霧は峯の梢をつたへ来て やかて時雨るゝ秋の山里 朽し身もいでゆの山にめくり 来てよはひをの□る道にこそ入れ 志る志らぬ往来ひまなきゆの山に うき世のさまを見する成けり 抱あけらるゝ藤の花ふさ 行春を扇に酒を扱□ひて 皮たびの裏新敷踏す□ 手を引すりて上座定る 名残とも取置ひなの貌を見て 又泣入し癆咳のせき もえかねる水風呂の下焼付で ひらき月あをつろじの紬あい 右左り膳をすえてもさひしくて 何にもかにもうきは□房 廃寺の緑にうすべり打しきて 斗で渡す薬代の大豆 古寺や花より明るきんの聲 縁のさうりのふめる春雨 石ふしに細き少鮎をより分で
花も烏有とかやよし野に深く□□入て 大峯やよし野の烏の花果 春の夜は誰か初潮の堂籠り」 むつか七き拍子も見へす里抑揚 浦風に巴を崩す村千鳥 前書 いつくにか穴ふれ伏共荻の原 前書 なつかしやならの隣の時雨哉 全昌寺ニテ 終夜秋風聞や裏の山 サカ 破垣やわさと鹿子の通路 ケソ住アン 涼し芯や此庵さへ住捨し 千那本福寺ニ宿シテ 足音もはるけき廊の下涼 六月十一日石山ご一宿 あやにくにすがれて勢田の蛍哉
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最終更新日
2021年04月02日 15時31分51秒
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