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2021年04月28日
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カテゴリ:日本と戦争

原爆投下を世界の人々はどう見たか

  

『歴史地理教育』1968・№395 3月臨時増刊号

  歴史教育ハンドブック

  教室の常識を問う日本史5050

高嶋伸欣氏著

 

一部加筆 山口素堂資料室

 

  原爆投下に関する記述とそれをめぐる論議

 

小学校六年生用社会科教科書六点とも、歴史的分野と政治的分野で広島・長崎への原爆投下に触れている。もちろん中学校と高校の歴史教科書でも記述している。とくに小学校六年生用の場合は年表で太平洋戦争の開戦と降伏(終戦)の二項目の間に原爆投下の件を記入しただけのものが大半であり、太平洋戦争についての学習では原爆投下を重視しようとしていることが読みとれる。

 それはまた、被爆体験記を引用した読み物ページなどでくり返して原爆に触れていることと相通じている。

 そうした原爆重視の傾向はこれまでにもあったが、1986年度版の小学校用教科書ではそれが一層顕著になっている。そうした変化の背景には、数年来の教科書「偏向」批判の動きのなかで文部省が「原爆の図」を口絵から削除させたことに対する、執筆者・編集者たちの抵抗の姿勢があるように見える。

 その意味で今回の全面改訂によってより詳細になった原爆関係の記述はそれだけでも充分に教材としての高い価値を含んでいる。とくに被爆被害の具体的な描写は、アニメや劇画などで戦争のかっこよさや見せかけのロマンに目を奪われがちな子どもたちに戦争の本質を知る素材となるという点でも、小学校用教科書には必須のものといえる。

 

別技篤彦著『戦争の教え方』の扱い

 

ところで、教科書記述を諸外国のものと比較検討した結果が最近次々と発表されている。そのなかに、戦争記述について詳しく紹介や分析をしたものもある。とくに別校篤彦氏は「ヒロシマ」の書き方の比較をしている。同氏は日本の教科書の記述の例を引用しながら

「原爆の被害の実態など何ひとつ記述しておらず、まるで他人ごとのような書き方に終始している。」

「それはまったくの″骨ぐみ″だけであり、具体的記述によって生徒の感情に訴え、知的関心を刺激する″血と肉″とが欠けている」

し、

「日本の教科書としての自主性はない」と指摘している。

 

しかし、この別氏の著書をよく見ると、

そこで同氏が日本の教科書記述の例として引用してあるのは「高校日本史」二点分にすぎず、小学校用教科書の詳細な記述を見落していると思われる。確かにくり返して原爆被害を具体的に学習する意味はあるが、中学・高校と進むにつれて生徒はそこに至る経過や背景など全体像の把握の方に関心を強める傾向にあることからすれば、必ずしも不当とは言えない。

 一方、別校氏のこの著書は、こうした限界を承知のうえで見ていくと、諸外国の人々が原爆投下をどう受けとめているかを知るのにはよい手掛かりとなる。国により、年代により異なる様子がわかる。

 また、これまで原爆投下を正当化する一つの根拠とされていた本土決戦での米軍兵士100万人の犠牲回避説がまやかしであったことを暴いた研究も明らかにされている。

 

「原爆は天の助け」と見るアジアの人々

 

原爆投下については、もう一つの見方がある。それは、日本の軍事侵略によって支配されていたアジアの人々の場合で、要約すれば「原爆は天の助けだった」というものである。それは、マラッカの虐殺華僑慰霊牌の解説文(一九七二年)やシンガポールの戦争博物館の展示、そして東南アジア各国の歴史教科書など出版物のなかで日本軍の侵略、残虐な行為の説明のつぎに突如として原爆投下を強調していることに示されている。また、各地の戦争体験者の発言のなかにそのものずばりの表現が見出される。

 これは原爆の場合に限らず、東京大空襲をはじめ全国各地の空襲をもっぱら被害者の立場で見てきている一般の日本人全体に欠落している視点であり、これまでの教科書記述でもほとんど指摘されていないものである。

原爆や空襲の被害を受けるまで、そこに住む一般日本人はアジアの植民地や占領地から奪った物資によって餓死をまぬかれ、乳児死亡率を抑制していたとき、それらの地域では多くの人々が日々死に追いやられていた。そこには、一般の日本人が結果的には侵略に加担していた構造があり、原爆の使用を肯定するアジアの人々の目がある。

 こうした厳しい視点に対し、広島・長崎の被爆体験や東京大空襲の体験を、アソネフランクやアウシュビッツの体験と直結させる戦争認識や平和運動は色あせたものとなる。

折しも早乙女勝元氏が、若者が日本の原爆被爆の地域やその月日、投下国など

「被爆国日本のポイントを知らずして、どのような人間性が得られるのか。」

と問題提起した。それに対するある若者の反論。

 

「あなたがたが今為すべきことは、被害者の傷の大きさを語ることよりも、今まで黙してきた加害者としてのもっと大きな傷をさらけ出すことである。(中略)戦無派の無知の原因は、戦中派の厚顔無知なハッピー気分にあることを知るべきである。」(『朝日新聞』一九八五年九月二十五日夕刊)

 若者たちのここまで来ている戦争認識を前にして、原爆投下に至る過程の加害責任の問題を避けては通れない。また、それを明らかにすることが、生徒が求めている十五年戦争の本質の理解にも通じるのではないだろうか。






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最終更新日  2021年04月28日 06時02分14秒
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