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2021年05月02日
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カテゴリ:飯田蛇笏の部屋

蛇笏の文学と風土 「鶏乳む」の句について 

対談 飯田龍太&上田三四二

 



『俳句』四月号 角川書店 昭和五五年

 

一部加筆 山梨県 山口素堂資料室

 

 上田 ちよっと話が飛んじやいますが、ぼくが最初に蛇笏を知ったのはどんな句かというと、面白いことに誰も取り上げない句で、

「日に顫(ふる)ふしばしの影や鶏乳む」

っていうんですよ。

 

 飯田 そういう句があったなアという程度だな、ぼくの知識は。

 

 上田 ぼくは蛇笏を最初に知ったのはそれなんですよ。そのときに蛇笏って、変った名前だなアと思いました。これはどういうあれなんですか、恥ずかしいような質問なんですが……。

 

 飯田 いや、最後まで明かさなかったですね。ただ、わたしの、これはあくまで推測で……。

 

 上田 いろんな露骨なことお訊きしちやうけど……

 

 飯田 当人に、そんな質問一度もしたことないし。当人もそういうことを喋ることを余り好まなかったけどね。

 箱根の方へ学生時代いったりしましてね、いろいろそこには、なんか若干の艶っぽい話もないとはいえないところがあったと思うんですよ。それからあそこには蛇骨川というのがありますね、箱根には。もう一つのあれは、その箱根の芦の湖でね、自分の一番身近で一番親しかった、年下だけれどもいとこがおったり。というのはわたしのじいさんは、蛇笏のおやじは、すぐこの隣村から婿養子に来たの。そこの跡取り息子がね、蛇笏よりちよっと年が下なんだけれども非常に蛇笏を慕っておった。それでまた蛇笏も非常にこれを信頼しておった。萍生と号して俳句もっくったんです。ところが、二高から東大の医学部卒業する前に、芦の湖で死んで……。

 

 上田 ああ、そうでしたねえ。

 

 飯田 

「荼毘の月提灯かけし松に則す」、

「葬入歯あらはに泣くや曼珠沙華」

というような作品、これは、遂に具体的にはわからないことだけれども、まア自殺という可能性が非常に強い。その事件についてはかなり衝撃受けましたね。だけど行ってその周辺の親族と一緒にいろいろ事後処理して……。むろんそれは蛇笏と号してからのことになりますがね。しかし、ずっと初期には蛇骨と、骨と書いたのもあります。

 

 上田 そうでした。

 

 飯田 むかし詩をつくっていたころ、白蛇玄骨なんていうペンネームで「新声」なんかに出しておった。だからそれを詰めれば蛇骨になる。(笑)どっちともいえないけれども、また、なにもそこまで詮索していろいろ話に色をつけることはないけれども、結局骨というのが少しいやな感じで笏という字に変えたんじやないかということですね。

 

 上田 そうですか。いや、蛇笏というのは非常に変わった名前だなと思ったことを覚えています。それ、いつ頃かといいますと、終戦後すぐなんです。そのころわたしは医学部の学生で、俳句はもちろん短歌もまだやってなかった昨代です。それで京拡は古田神社参道というのがありまして、参道をはさんで北側が京大で声が三高なんですが、その三高の東隣の参道に面してナカニシヤという、これは大学関係とか、そういう人がよく使った本屋があるんですが、その頃、戦後すぐのころは本が、新刊書がない。棚が空いちゃうんですよ。それで古本屋のようなことをやった。古本屋はできないんですね、新本屋と古本屋との商道徳かおりますから。それで委託販売というのをやりました。売りたいAがそこへ置いて、本屋はただ棚を貨しているだけだという形ですね、戦後しばらく、流行りました。売れるとその一割程度を本屋に払うという仕組です。ナカニシヤという本屋のそういう棚から、どういうわけか歳時記を買ったんです。一冊本の、名前も覚えていますけど、今井柏浦という人の編んだもので……。

 飯田 横型のやつね。

 上田 そうそう。古い古い一冊本。それを、ふッと買ったんです。その本は見返しに、墨で、「香取夫にて洋行する春ちゃんへ、母より」と書いてあったんですよ。昭和六年の目付がありました。

わたしは下宿をしておりましたし、なんか孤独でさみしいわけで、そういう詞書が、一種温かいものがあってね、そういうこともあったのかもしれませんけど、それを買ったんですよ。

 飯田 それいい話ですね、

 上田 それパラパラッとめくっていますとね、学生のころといえば、つるむなんていうのはちよっと惹かれるじゃありませんか。(笑)「鶏乳か」というのが出て来た。冬の句で、そこに「目に顔

ふしはしの影や鶏乳か」。わたしは田舎の出でしよう、そういう情景は親しいんです。庭に放し飼いにしてありました。きようこの出廬にも、以前は庭に鶏小屋があったということをお聞きしましたが、わたしのうちなんぞも中庭に鶏が放してあって、おんどりがいつも数羽のめんどりを率いているわけです。見ているとおんどりがつつッと寄っていって、羽がいてめんどりの上に乗る。それをしよっちゅうやっているわけですね、それが田舎家の風景なんです。それを「目に顫ふしばしの影や……」、すばらしいなアと。

それで、蛇笏という名を覚えたんです。ぼくは蛇笏というとそれを思い出すんで、取り上げてもらえないかと期待するんですけれど、蛇笏の句としてはほとんど取り上げてありませんね。

 

 飯田 そうですね。 

 

 上田 これはぼくの出会いのかげんで余計そうかと思いますけど、とても好きな句なんです。それに、ここにもやっぱり蛇笏のなんか一種の、暗いというわけじやないんだけど、一つの情熱の向きがあって……。

 

 飯田 情念みたいなのがありますね。






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最終更新日  2021年05月02日 10時58分48秒
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